本の虫

◆第45回『「日本が変わってゆく」の論 ああでもなくこうでもなく3』/橋本治◆

 古典シリーズはひと休みして、久しぶりの橋本治である。最初『〔増補〕浮上せよと活字は言う』を読んだらやっぱり面白くって3日で読了してしまい、そのまんまこの本に突入、したらまたとんでもなく面白くて寸暇を惜しんで頁を繰ってしまった。

国旗  丁度この本の『「靖国問題」とはいかなる問題か』という章を読んですぐに小泉首相が3度目の靖国参拝を強行して、そのタイムリーさに呆れてしまったのだけど。北朝鮮問題で大変な時にわざわざ決行する小泉さんのタイムリーさにも呆れてしまった。たぶん、小泉さんは北朝鮮が大変だからこそ、靖国神社に祀られている英霊達に「日本を守ってくださいね」とお願いしに行ったんだろうなぁ。困った時の神頼みっていうか。アメリカ大統領がキリスト教の正義を振りかざしてイラクを攻撃しようってんだから、日本の首相が神社に参って何が悪いかってもんなんだろうけど、そりゃ悪いんだよ、やっぱり。小泉さん、この本読んでみてね。(この原稿を書いたのは1月だった。その後イラク問題に押されて北朝鮮問題は低迷というか下火というか……。もちろん日本が米国を支持せざるを得ないのは北朝鮮問題があるからだとか、北朝鮮がミサイルを発射していたとか、ちゃんとそれは「今そこにある」んだけど。拉致被害者の家族の帰還問題はどうなったんだろうか。靖国参拝のおかげでまた悪化したという日中関係は……)

 「ああでもなくこうでもなく」というのは雑誌『広告批評』に連載されている時評(のようなもの)で、この3冊目には2001年2月号から2002年4月号までの分が収められている。ということはつまり、小泉首相誕生から「9.11テロ」、鈴木宗男に田中眞紀子まで、豪華絢爛てんこもり、面白くないわけがないすごいラインナップなのである。「もう時評なんかやらない」と言っていた橋本さんにこうまで時評をやらせてしまうほど、日本と世界の状況は刺激的だったということだ。

 しかも橋本さん、年齢を重ねて(なんと橋本さんと鈴木宗男は同い年なのだそうだ!)丸くなったのかとっても親切で、「宗教だった時代」「日本の政治、日本の組織」という丁寧な書き下ろしまでついている。アフガニスタン、パレスチナ、そしてイラク。こんなにわかりやすく解説してくれる本はない。もうホントに頼むから読んでくれよ、日本政府、という感じである。日本の政治家で一体あれらの問題をちゃんとわかってる人いるんだろうか。

 しかしそもそも日本に「政治家」はいないというのが「日本の政治、日本の組織」という章で、ここでは「政官癒着」ということに関して実に丁寧に教えてくれる。日本は平安時代からずっと「政官一体」で主権者はいない。自民党は現代の藤原氏なんである。ああ、もう……(頭を抱える)。

『「日本が変わってゆく」の論 ああでもなくこうでもなく3』(マドラ出版)
以上 橋本治


●次回予告●

次回はたぶん『ギリシア悲劇V/エウリピデス(上)』です。


トップページに戻る