本の虫

◆第31回『神住む森の勇者/J・グレゴリィ・キィズ』◆

 この本は、『本の虫』第27回で紹介した『水の都の王女』の後編です。タイトルは別だし、シリーズと銘打たれているわけでもありませんが、『神住む森の勇者』だけ読んでも話がわからないので、2つで一つの作品と言っていいと思います。

ハヤカワ文庫の扱い  『水の都の王女』の巻末の解説に「続編があり、近日刊行予定」ということが書かれていたので、書店に行くたび気をつけていたのですが、入手は非常に困難でした。ハヤカワ文庫が町の本屋さんでひどい扱いを受けていることについてはたびたび言及していますが、新刊ですらろくに並んでいない。書棚を漫然と見ているだけでは既刊なのか未刊なのかわからないので、刊行案内をチェック。「つい先日出たばかり」ということが判明し、近所で一番大きな(と言っても知れてるが)書店に向かったのだけど見あたらない。尋ねると、「うちには入ってません」という返事。おいおい、新刊やで、新刊! なんで入れへんねんな! いくらハヤカワ文庫と言ったって自費出版物でもあるまいし、大手は大手やないか。……結局系列店から取り寄せてもらって無事手に入ったものの、ホントに哀しくなりましたね。これでは書店で「本と出逢う」なんてこと、できないじゃない。ああ、まったく、もしお金と土地があればハヤカワ文庫専門の書店を開くところなのになぁ。

 苦労して手に入れた甲斐あって、十二分に楽しませてもらいました(作品が良かったので、一層書店に並んでいないことが腹立たしい!)。前回『水の都の王女』の感想で「殺し屋のゲーがあっさり死んでしまうのがつまらない」と書いたのですが、何のことはない、ゲーは見事に復活します。<魂喰い>の悪霊という魅力的な(?)生き物として生まれ変わった彼は、ヒロイン・ヘジ追跡の主役として活躍します。前作では「水の都の王女」たるヘジと、「神住む森の勇者」であるペルカルの話が交互に語られ、ついに二人が出逢って水の都を脱出するというところで話が終わりましたが、今回は追われるヘジ・ペルカルの話と追うゲーの話が交互に語られ、往々にして「追う」側の話の方が面白くなっています。つまりすっかりゲーが主役になっているんです。

 大河の神から逃れ、自由になりたいと願うヘジ。ヘジを助け、自身の罪滅ぼしのためにも大河の神を殺さなければと考えるペルカル。大河の神によって再生され、ヘジを大河の神のもとへ返そうとするゲー。ヘジとペルカルを利用しようとする<黒き神>カラク。新たにモスという若い呪い師も登場し、ヘジの行く手を阻みます。ヘジを主人公として書かれているので、もちろんゲーやモスは「悪い奴」なのですが、でも読んでいるうちに誰が正しいのか、わからなくなってくるんですよね。モスはモスなりに自分の一族を守ろうとしているだけだし、諸悪の根源(?)である大河の神にしても、ヘジにとってははた迷惑なだけの神様だけど、一方で「唯一神」として崇めている人々もいるわけで、世の中そうそう単純な「正義」なんか存在しないんだって改めて思いました。

 とにかく決して損はしない傑作なので読んでみて下さい―――と言ってもたぶん入手不可能なんだろうなぁ。早川書房に在庫があるうちは取り寄せもできるでしょうが、きっとすぐに「在庫切れ。再版の予定なし」になってしまうんでしょう。ああ! ファンタジィファンをやっていくのも楽じゃない。

『神住む森の勇者』上・下巻
以上 J・グレゴリィ・キィズ(ハヤカワ文庫FT)


●次回予告●

次回は未定です。あしからず。


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