本の虫

◆第30回『BUD BOY/市東亮子』◆

 この『本の虫』、「小説とマンガに関する勝手なうんちく」という触れ込みで始まり、当初は小説とマンガを交互に紹介していたのですが、いつの頃からか小説ONLYになり、今回超久々のマンガ登場となりました。近頃は年齢のせいというよりひとえに本棚との相談で、以前から購入しているシリーズ物以外の新作にはほとんど手を出さなくなっているんです。この『BUD BOY』も買い続けているシリーズ物の一つで、先頃出た7巻を読んだらやっぱり非常に面白くて、紹介の運びとなりました。

蕾のつもり  『BUD BOY』というタイトルからはあまり想像できないのですが、このお話はファンタジィなのですね。それも純和風のファンタジィ。主人公蕾は天界の花の帝「錦花仙帝(きんかせんてい)」と風の帝「玉風大帝(ぎょくふうたいてい)」との間に生まれた皇子で、若くして天界の花園を守る軍士の総大将「御大花将(ぎょだいかしょう)」に任じられるほどの力の持ち主。ところがそのエネルギーを持て余したのか悪戯が過ぎ、人間界へ堕とされてしまいます。清浄な天界と違ってさまざま邪気がうずまく下界で、蕾は花の精を苦しめる怪魔達を退治してまわるのですが……。

 そのあまりの潜在能力の大きさに成長を止められている蕾は、見た目は中学生程度の少年で、とぉっても艶めかしくて可愛くて強くてかっこよくて、魅力的なキャラクターです。口は悪いし、「天界なんて退屈でやってらんねぇぜ」とうそぶいているんだけど、本当は「俺は花の憂いをはらし、つつがなく咲かせる者」と言って闘う素敵な「花将」様。蕾の世話係でもあり、花の香りを司る妙香花仙でもある薫、蕾とは幼なじみの緑仙で春を司る東皇使の東雲(しののめ)、そして普通の人間ながら蕾と意気投合している透の3人をからめて、花にまつわる様々な蕾の闘いが一話完結で語られます。

 蕾の敵は花を苦しめ、人間達をも苦しめる怪魔なのですが、しかしその怪魔が地上で活動するきっかけを与えるのは大抵人間の暗い情動で、このへんの人間の愚かしさというか業みたいなものを描くのはうまいですね、市東さん。繰り広げられるエピソードに思わず涙してしまうこともしばしば。

 それに天界の構造とかそれぞれの聖仙のネーミングには感嘆させられます。たとえば花将の下の「彩八将」と呼ばれる将軍達の名前(紅火将軍、藍影将軍、曙橙将軍など)とか全部意味があって、「あー、表意文字ってすごい」。各話のタイトルも基本的に漢字三文字で統一されていて、それがまたなんとも雰囲気がある。まさに舶来でない漢字文化圏のファンタジィなのです。

『BUD BOY』@〜F

以上 市東亮子(秋田書店プリンセスコミックス)


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