本の虫

◆第29回『竜王伝説/ロバート・ジョーダン』◆

 昨年11月に1・2巻が同時発売され、この3月に5巻が出て完結するこの『竜王伝説』、全世界で800万部を突破した90年代を代表する驚異の大河ファンタジィだそうで、こんな宣伝文句を付けられると読まないわけにはいきません。早速買い求めました。いえ、買い求めようとしました。しかし広告発見が発売日より遅れたためか、近所の書店では見つけることができず(小さい本屋さんでのハヤカワ文庫の扱いって、ホントに悲しいものがある)、昨年末大阪まで出向いてようやく手に入れました。

モイレイン  苦労した分期待は高かったのですが、1巻の最初の方はなかなか事件が起こらずちょっと退屈。ところが主人公の青年アル=ソアが妖獣達に襲われ、一旦物語が展開し始めるとあとは急転直下、怒濤の冒険行へ。闇王と呼ばれる悪の権化(?)の配下である妖獣達が狙っているのはアル=ソアと、その友人の若者二人。自分たちのせいで村に危害が及ぶと考えた三人は、たまたま村に来ていた異能者(超能力者みたいなもん)モイレインとその護衛士ランに導かれて旅に出ます。妖獣達に追われながら……。

 読んでいる方にとってはアル=ソア達を救い闇王と闘う正義の味方に見えるモイレインなのですが、物語の中では異能者は怖れられ、嫌われている存在。助けてもらっているはずのアル=ソア達も半信半疑で、本当についていっても大丈夫なんだろうか?と思っている。どうして自分が闇王に狙われるのかもわからない彼らにしてみれば、「こんな悪夢は早く終えて故郷に帰りたい」と思うのも当然なんでしょうが、読んでる方としてはいらいらしてしまうんですよねぇ。そんな弱気なこと言ってないで雄々しく闘えよ!と。だって読者には、3人が何らかの力の持ち主で、おそらくは闇王に対峙する竜王の末裔だろうということは想像がつくので、とっとと自分の宿命に気づきなさいと思ってしまうのです。今現在3巻までしか読み進んでないのですが、まだ気づいてくれてませんねぇ。

 この『竜王伝説』、全5巻とは言っても実はそれで終わりではなく、<時の車輪>と銘打たれたシリーズの第一作が終わるだけのことなんですね。現在本国では第7作まで刊行されており、作者の言によると10作程度で完結するらしいです。一作がいつも5分冊で刊行されるとすると日本語版は全50巻ということになってしまいます(だからこそ大河ファンタジィなんでしょうが)。どこまで付き合えるか、それは本棚との相談……?

 大河小説だけあって物語世界の設定が複雑で凝っていて、異世界ファンタジィの好きな方にはおすすめです。

『竜王伝説』全5巻

以上 ロバート・ジョーダン(ハヤカワ文庫FT)


●次回予告●

次回は『BUD BOY/市東亮子』です。


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