本の虫

◆第27回『水の都の王女/J・グレゴリイ・キイズ』◆

 またまたハヤカワ文庫に舞い戻ってきてしまいました。久々に本格的異世界ファンタジィを堪能することができたおすすめの作品です。

 物語の舞台は神々が人間の前に容易に姿を現し、神と人との混血なんていうのも珍しくない世界。美しい小川の女神に恋したがために、大河の神を殺す旅に出る北の国の若者ペルカルと、行方不明のいとこを探して王家と自身の血の秘密を探る水の都の王女ヘジとの冒険が交互に語られ、無関係に見えた二つの流れはやがて一本の太い流れに……。この、「交互に語られていく」手法が何ともうまいんですよね。ペルカルの冒険にはらはらしていると、パッと場面がヘジの方の話に変わって、「えーい、ペルカルはどうなったんじゃい!」とどんどん読み進んでしまう。 王女様  舞台設定も緻密で、ヘジの血の秘密といとこの行方が徐々に明らかになっていく過程はミステリーというかサスペンスというか、はらはらドキドキしながらページを繰ってしまいます。ここの謎が一段落した後でペルカルとヘジが出会ってラストを迎えるのですが、途中があまりにも面白かったので、最後の決着のつき方はちょっともの足りなかったですねぇ。特に、ヘジを騙し続けていた殺し屋の青年があっさりペルカルに殺されてしまうのは不満。彼はなかなか面白いキャラクターだったのに。あと、都を脱出した二人をペルカルの友人が助けに来るところは予想通りではあるものの、やっぱりご都合主義っぽいなぁと……。

 もっとも大河の神との闘いはまだまだ続くそうで、春には続編が邦訳されるとのこと。今度はどんなふうにドキドキさせてくれるのか、非常に楽しみです。ヌガンガタ(ペルカルの友人)やツェム(ヘジの従僕)、それにガーン(ヘジの師)といった魅力的なキャラ達が引き続き活躍してくれることを願って、刊行を待ちたいと思います。  それにしても。お話はとっても楽しめたし、お姫様とは思えない行動力で自分の運命に立ち向かっていくヘジには思わず声援を送ってしまうのですが。なぜファンタジィではいつも「閉じこめられている」のはお姫様で、「救いの主」は身分の低い少年なんでしょうか。以前紹介した『力の言葉』も王女と厩番の少年の話だったし、ヒロイン自身の強さで活路を切り開いていく『騒乱の国ヴォナール』でも、最後の勝利の鍵となるのはヒロインの家(貴族です)の使用人だった青年。不幸な王子さまを救いに少女がやってくるっていう話はないですよね。女が強くなったと言われて久しいこの御時世にも。ちょっと1回そういう設定でお話を考えてみようかしら。

『水の都の王女』上・下巻

以上 J・グレゴリイ・キイズ(ハヤカワ文庫FT)

※『力の言葉』については『本の虫』第15回を参照……と言ってももう読めないな。興味のある方は資料請求して下さい。

※『騒乱の国ヴォナール』全3巻 ポーラ・ヴォルスキー著(ハヤカワ文庫FT) フランス革命に魔術を持ち込んだようなちょっと毛色の変わったお話。いずれ詳しくご紹介することもあるかもしれませんが、手に入れるのは至難の業でしょうね、きっと。もう2年前の作品だし。


●次回予告●

次回は『バトルフィールド・アース』です。


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