本の虫

◆第26回『大出産 傾向と対策/清水ちなみ』◆

 えー、ただいま私は妊娠5ヶ月でして、ついついこんな本を取り上げてしまいました。本当のところ、あんまり情報に振り回されるのは嫌なので、巷にあふれるマタニティ雑誌には見向きもせず、近所の人がどさっと貸してくれた妊娠・出産関係の本もまだ1冊しか読んでいません。「まだ」と書いたけど、たぶんきっと、これからも読まないでしょう(すいません、せっかく貸してもらったのに)。なんかぱらぱらっとめくっただけで、その説教調というか「母親はかくあるべき」みたいな思想が見えて、やだったんです。書いてるのってみんな男のお医者さんだし、「産んだこともねぇ奴に偉そうな口きかれたくねぇや」って。

妊婦  ひるがえってこの『大出産』は、約280人の妊娠経験者にアンケートをとって、そのうち面白そうな(?)回答をピックアップしたもの。生の声です。赤裸々です。「かくあるべき」なんかなくて、「私はこうだった」の何でもあり。予定日の1ヶ月前にテニスした人とか、予定日でも陣痛がなかったのでセックスした人とか、おいおい大丈夫か?と言いたくなる話もいっぱい。なーんだ、そんなテキトーでもちゃんと生まれるのか、と勇気づけられます。

 「妊娠にいたるまで」から「子育て」「仕事」まで、妊娠・出産にまつわる一連の出来事を網羅した内容なのですが、まず驚いたのは、みんなけっこう計画的に妊娠してるんだなぁということ。「そろそろ子供欲しいね」ということになると、ちゃんと排卵日とか考えて、妊娠しやすいポーズをとって、それで「よし、ばっちり!」っていう人が、43%もいる。私みたいに「何も考えてなかった、びっくりした」という人も同じく43%いるんだけど、そういう場合中絶することも多いので、結果的に、生まれてくる子供の半分は「親の狙い通り」に作られた子供だってことになる。私は子供は「できる」もんだと思ってたので、「作る」もんだと知って驚きました。(そりゃまぁ避妊をやめた結果ひょっこりできたっていうのも「消極的製造」ではあるんだけどさ。)

 その他「我が子を殺したいと思ったことありますか?」とか「育児休暇後、まっとうな職場復帰は可能だと思いますか?」とか、色々興味深い質問があり、「ホントかよ、がはは」とひとしきり笑った後、「でも、そうか」と考えさせられることも多いです。姑との格闘のみならず、実の母、夫、近所のおばさん、そして医者……、周囲の人の不用意な発言がいかに重荷になるか。帯に「だんなと姑と上司に読んでほしい!」とありますが、まったく「孫はまだか」とせっつく前に、いっぺん読んでみなさい、そこのおじさん。(孫といえば、「息子がダメならわしの種を使ってくれ」と言った舅の話が載ってます。ホラーです)

 別に妊婦や新米ママだけが大変なわけじゃないけど、自分以外の生き物を10ヶ月間寄生させて、あげくに出てきたくしゃくしゃのエイリアンみたいのを人間にするのは、「母性本能」とか「女なら当たり前」とかいう一言では片づけられないんじゃないかと思います。―――お母さん、ありがとう。

『大出産 傾向と対策』

以上 清水ちなみ(扶桑社)

※同じく清水ちなみさん監修で『大出産。』という本も出ています。似て非なるものなので、お間違いなく。


●次回予告●

次回は『水の都の王女/J・グレゴリイ・キイズ』です。


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