◆第22回『ゴースト・トラップ/ナンシー・A・コリンズ』◆
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第20回で紹介した『ミッドナイト・ブルー』の続編です。正直前作はそんなに面白いと思わなかったので、まぁお義理で読み始めた本作だったのですが、これが予想を裏切って面白かったんです。ええ、かなり。『ミッドナイト・ブルー』は別に読まなくてもいいけど、『ゴースト・トラップ』は読んでみてよ、という感じですね。単独で読んでも楽しめると思いますし。
シリーズ第1作である都合上、ヒロイン・ソーニャが吸血鬼になった経緯を回想として間に延々挟むことになった前作と違って、今回は宿敵モーガンとの対決にテーマが絞られているので、非常に読みやすいし、ぐいぐい流れに引き込まれていきます。冴えない探偵パーマーの悪夢に始まり、謎めいた依頼主からのソーニャ探しの仕事……。十分読者に期待させた後、満を持して登場するソーニャ。このへんの持って行き方はうまいですし、モーガンが潜む異常な館(わざと空間が歪むように設計されている)「ゴースト・トラップ」の舞台装置も面白い。
でもその舞台設定以上に魅力的なのが、モーガンによって人工的に生み出された人間と吸血鬼のハーフとも言える存在、アニスとフェル。吸血鬼に襲われた人間は普通一度死んでから復活するんですが、一度死んで脳やら神経やらに損傷を受けているために、大抵の場合知性に乏しく、力も弱い。ところが奇跡的に「死」を経ずに吸血鬼になってしまったソーニャは、人間としての知性はそのまま、日光の下でも活動することができ、何百年と生き続けてきた大吸血鬼に負けない強大なパワーを持っている。モーガンはソーニャの存在を知らなかったんですが、突然変異ではなく作為的にそのような存在を作ろうと画策するのです。
ほとんど『吸血鬼ハンター”D”』なんですけどね。”D”の世界ではダンピール(人間と吸血鬼のハーフ)は普通に生まれるみたいですが、ソーニャの世界ではそうはいかなくて、アニスとフェルは貴重な成功例。そしてアニスのお腹の中にはフェルとの子供、恐るべき新生物が宿っていて……。モーガンの洗脳から醒めたアニスが、自分はもう人間ではないことを知りながら努めて冷静に前向きに運命に立ち向かっていこうとする姿は感動的です。本作の主人公はアニスだ!と思えるぐらい。知らぬ間に怪物にされ、知らぬ間に怪物を孕ませられ、それでも「私の子供よ。責任は私にあるわ」と言える強さ。文中に引用されている「いかなる女性も、はっきりした自覚をもって母になるかならないかを選べる身になるまでは、自分を自由と呼ぶことはできない」という言葉は、本作がただの怪奇物でないことを象徴しています。
それにしてもこのソーニャ・ブルーの物語を読むにつけて、『吸血鬼ハンター”D”』って翻訳出版したら海外でも受けるだろうなと思ってしまうんですけどね……。
『ゴースト・トラップ』
以上 ナンシー・A・コリンズ(ハヤカワ文庫FT)
●次回予告●
- 次回は『炎の天使/ナンシー・スプリンガー』です。
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