本の虫

◆第18回『獣王星/樹なつみ』◆

 『OZ』に引き続き2度目の登場となりました樹なつみさんの作品です。『OZ』も素晴らしかったけど、この『獣王星』も面白いっ!  時は西暦2436年。太陽系から150光年の彼方にあるバルカン星系。その首都であるスペースコロニーで、政府要人の子供として何不自由ない暮らしを送っていた双子の少年トールとラーイ。しかし不幸は突然に彼らを襲い、政敵オーディンの手によって両親は惨殺、彼ら自身も島流しならぬ「星流し」に会う。そこは『獣王星』と呼ばれる修羅の世界。過酷な自然環境と弱肉強食の争いを生き抜き、母星へ戻れる者はほとんどいない。ただ一人、獣王を除いては―――。

 サバイバルとはおよそ無縁のお坊ちゃんであるはずのトールが次々と降りかかる災難を切り抜けていくストーリーはもうハラハラどきどきの冒険絵巻で、文句なく楽しめるのですが、何よりサードがカッコいい!

似てないけどサード  といきなり言っても何のこっちゃ、ですが。えーと、獣王星はその肌の色によって4つのテリトリー(「輪(リング)」と呼ばれる)に分かれていて、それぞれのリングにトップと呼ばれるお頭がいて、以下セカンド、サードという補佐役がいます。でもってトールの迷い込んだ「茶・輪(オークル・リング)」の「サード(3番手)」がサードです。本名が出てこないので、サードとしか言いようがないんですが、とにかくカッコいいんだよぉ! 頭も切れるし、腕もたつ。下っ端からも「あんたの方がトップにふさわしい」と言われる実力の持ち主なんだけど、何を企んでいるのかすすんで3番手の地位に留まっている。たびたびトールを助けてくれるんだけど、それも本当にトールのためを思ってのことかどうかわからない……。もうホントに樹さんってばなんて人物造形がうまいの!と言いたくなるいい男なんですよぉ。

 11歳にして地獄の死刑星に落とされながら生き延びていくトールも魅力的な少年だし、同じく少年ながらとっととリングを一つ手に入れてしまうザギも今後の活躍が楽しみ。それにそれに、途中で死んでしまったラーイの方も、ひょっとして実は死んでないんじゃないかとも思うし、バルカン星系の人間はせいぜい50歳までしか生きられないという謎や、地球とバルカンとの奇妙な関係、オーディンへの復讐……と、読者を引きつけるネタが盛りだくさん。設定プロデューサーや科学考証担当のスタッフもいるそうで、本格SFファンにも納得の一品!?

 今後の展開が楽しみで楽しみで、早く続きが読みたくて仕方がないんだけど、続きってどうなってるんだろう? A巻が出たのが95年の夏で、それからずっと新刊案内には気をつけているんだけど、ひょっとして、私の知らない間に、私に何の断りもなく、B巻とかC巻とか、出てるんでしょうか? そもそもは『LaLa』に不定期連載されていたようなのですが、その後の『獣王星』についてご存じの方いらっしゃいましたら、どうかみずかみふぁみりぃまでご一報下さいませ。

『獣王星』@〜A

以上 樹なつみ(白泉社ジェッツコミックス)


●次回予告●

次回は『黎明の王 白昼の女王/イアン・マクドナルド』です。

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