本の虫

◆第12回『夢の夢U−君という現象−/市東亮子』◆

 『やじきた学園道中記』でおなじみの市東亮子さん。『やじきた』も大好きだけど、今回はあえて地味で暗いこの作品を取りあげます。

 このマンガを初めて読んだとき、私大泣きしたんですよねぇ。まぁ本やマンガ読んで泣くのはもう趣味と化しているので、私の『泣き』はあんまりあてにならないんだけど、ホントにぼろぼろに泣いちゃったんですよ。丁度風邪で熱出してて、布団の中で読んでたんですけどね。

星空  なんて言うか、『青い作品』なんです。思春期の青さ、脆さ、危うさだけでできてる作品というか。詩を書くことで孤独を癒やしている屈折した”彼”と、その少年に魅せられてしまった”ぼく”、そして”彼”の心の支えとなる温厚な”先生”。”彼”の詩を織り交ぜながら、つづられる青春という名の切ない夢。でもその切なさは、何も思春期に限らなくて、いずこからかこの世に生を受け、やがて必ずまたいずこかへと去っていかなければならない人間の、根元的な切なさ。浜辺で星を見上げながら、”彼”がつぶやく。

先生…俺、信じられません
あそこに見えるあの星の光がもう
本当にはあの位置にはないなんて

 コミックスに併録の『夢の夢』は、”彼”の詩とメソポタミアの神話をモチーフにしたお話で、こちらはこちらで素敵です。ただ、かなりわかりにくいというか、エッセンスだけ、という感じなので、ギルガメシュ神話に興味を持たれた方は、『夢の夢−月光水晶−』へと進みましょう。命の抱える切なさは、はるか遠い昔から、繰り返し繰り返し……。

 では最後に”彼”の詩を―――。

それならばこの砂の一粒一粒は
悠久の時間(とき)の流れの中で
いつか
誰かが見るであろう夢の結晶にちがいないのだ

『夢の夢U−君という現象−』
『夢の夢−月光水晶−』
『夢の夢−少年たちの組曲−』
以上 市東亮子(秋田書店キャンドル・コミックス)


●次回予告●

次回は『窯変源氏物語/橋本治』です。


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