本の虫

◆第11回『ルバイヤート/オマル・ハイヤーム』◆

 オマル・ハイヤームは11世紀ペルシアの詩人で、「ルバイヤート」とは「ルバーイイ(4行詩)」の複数形。要するに「ルバイヤート」とは「4行詩集」のことという、味も素っ気もないタイトルなのですが、その内容は深い味わいに満ち満ちています。

 詩の解説をすることほど陳腐なことはないので、とにかく読んで下さいとしか言いようがないのですが、タイトルと作者しかわからないのではいくら何でも読んでみる気にはならないでしょうから、陳腐を承知で言うなら、この詩集のテーマは「生への懐疑」です。どうせいつかは死んでしまうのに、どうして人は生まれてくるのだろう、という疑問。誰もが一度は感じたことがあり、そうしておそらくは、見なかったことにして毎日を生きていくその疑問を、オマルは繰り返し問い、嘆くのです。

ルバイヤート  初めてこの詩集を手に取ったとき、そもそもどうしてこの詩集を買うに至ったのか、もはや全く覚えていないのですが、あまりにも自分の考えていたこととぴったりで、「これこそ私の求めていたものだ」と運命的なものを感じたほどでした。はるか遠い昔、はるか遠い場所で、同じように「人生の不条理」を嘆いていた人がいる。そう思うと、不思議に心が慰められるようで、時空を超えて彼と友達になれたような、そんな気がしました。

 訳本は何種類か出ているようですが、岩波文庫に収められている小川亮作さん訳のものが口語体で読みやすく、もっとも胸に迫ります。他の方の訳も読んだことがあるのですが、文語体でわかりにくく、まったく別の作品を読んでいるようで、小川さんの訳で受けた感銘を覚えることはできませんでした。詩の翻訳の難しさを思い知ると同時に、「先に読んだのが小川さんの訳でよかった」としみじみ思ってしまいました。もし他のを先に読んでいたら、オマルと友達にはなれなかったかもしれませんものね。

『ルバイヤート』オマル・ハイヤーム(岩波文庫)


●次回予告●

次回は『夢の夢U−君という現象−/市東亮子』です。


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