本の虫

◆第10回『メイプル戦記/川原泉』◆

 川原泉さんの作品はどれも味わい深くて大好きなんですが、たまたまこの間、パソコンが立ち上がるのが待ちきれなくてこの『メイプル戦記』を手に取ったら、既に1回読んで話は全部知ってるにもかかわらず、面白くてついつい最後まで読んでしまったので、今回取り上げる羽目になりました。

 これは、野球マンガです。以前にも川原さんは『甲子園の空に笑え』という高校野球を題材にした作品を書いてらっしゃいますが、今度はプロ野球です。もちろん少女マンガだから主人公は女の子。そう、セ・リーグに女の子ばかりの球団『スイート・メイプルズ』が出きるところから話は始まるのです。

オリックス  その活躍ぶりは読んでのお楽しみですが、オカマの剛速球投手、外国人助っ人、魔球投手、別球団にいる夫と夫婦対決をする妻……、とエピソードは盛りだくさん。少女マンガと侮るなかれ、オープン戦もあればオールスターもあり、マジック点灯の勝敗計算もちゃんとある。おまけにメイプルズ以外の球団は実在の球団や選手をもじっているので、野球好きの方はこれだけでもかなり笑えます。セ・パ両リーグで三冠王を取った「落葉井さん」やら、万年最下位チームの「兎山くん」やら、誰のことだかみんな一目瞭然。絵も似てるんだな、これが。メイプルズの宿敵「東京タイタンズ」の監督は「富士田さん」だしね。果てはパ・リーグの盟主「西部リンクス」のオーナー、「鼓会長」なんて人まで出てきて、「おいおい、怒られないのか?」とこっちが心配してしまうほど。

 プロ野球に詳しくても、もちろん詳しくなくても楽しめる作品なのですが、ほろっとさせてくれる部分もあって、読み終わった後とっても幸せな気分になれます。登場人物たちはみんな人一倍努力するし、根性もあるんだけど、でも決して眉間に皺が寄ったりはしない。最善を尽くしたら、あとはのんきに楽しんでやれば、結果はどうでもいいじゃないという気楽さで、結局は勝ちを呼ぶ―――。「のんき者には福が来る」、というわけで、皆様気楽に行きませう。

 

『メイプル戦記』全3巻
『甲子園の空に笑え!』
 以上 川原泉(白泉社花とゆめコミックス)
 ※ 『甲子園の空に笑え!』は文庫版も出ています。『ゲートボール殺人事件』『銀のロマンティック…わはは』が併録なので、文庫の方がお得です。


●次回予告●

次回は『ルバイヤート/オマル・ハイヤーム』です。


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