本の虫

◆第6回『南京路(ナンキン・ロード)に花吹雪/森川久美』◆

 太平洋戦争前夜、舞台は魔都・上海。日本人新聞記者・本郷義明と、日中混血の美少年・黄子満(ワン・ツーマン)は否応なく歴史の大波に呑まれていく―――。

 私の持っているこの作品のコミックスは、友人に貸しまくったためにかなりくたびれています。でも、私自身は長いこと読み返していません。最初の2巻ぐらいはいいのですが、後半、読めなくなるんです。つらくて。ひいきのキャラ、黄の追いつめられていく姿を見るのがつらい! 日中が戦争への道を突っ走る中、日本人からは中国人と蔑まれ、中国人からは日本人と憎まれる。本郷さんへの友情からか日本の特務機関で働く黄の心は、中国と日本という二つの祖国の間で揺れ、やがて自ら悲劇の淵へ飛び込んでゆく………。あ〜、可哀想すぎる〜。だから、どっちかって言うと、この作品の前編である『蘇州夜曲』の方が好きなんです。黄がまだ幸せだから。

イメージ  そういうわけで、この作品はとっても暗くて、重いです。なんたって時代が時代、出てくるのは軍人さんとかスパイばっかりで、ロマンスなんかほとんどない。黄が美少年でなければ、とても少女マンガとは思えないところです。でも、違和感なく読めるんですよねぇ。黄の運命にはらはらしながら、戦争前夜の駆け引きにもはらはらしてしまう。やがて太平洋戦争が起こってしまうことはわかっているのに。

 黄や本郷さんはフィクションだけど、あの時代に似たような人生を送った人は大勢いたのだろうなと思います。祖国のためという名目で友人を裏切り、また、二つの祖国に引き裂かれ、どうしようもない時代の流れに翻弄されながら、精一杯生きた人たち。もちろん、あの時代だけでなく、今、この時にも。

 まあ読んでる最中にそんな説教めいたことをくどくど考える必要はなくって、素直に「黄、カッコいい!」と言ってればいいんですけどね。でも歴史の教科書なんかよりずっと「歴史」を教えてくれるのは確かです。傑作だよ!

『蘇州夜曲』
『南京路に花吹雪』全4巻
 以上 森川久美(白泉社花とゆめコミックス または 角川書店森川久美全集@〜C)
『Shang−High1945』全2巻(本郷さんのその後です。黄が出てこないので今いち楽しくないです。暗いです)
 以上 森川久美(角川書店森川久美全集DE)


●次回予告●

次回は『雨の温州蜜柑(おみかん)姫/橋本治』です。


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