本の虫

◆第3回『狼のレクイエム第3部/平井和正』◆

 狼男・犬神明の活躍するウルフガイシリーズにはアダルト犬神明と少年犬神明の2シリーズがありますが、これは少年の方の作品です。アダルトの方のシリーズは未完ですが、少年の方は先頃完結してしまいました。枚数的にも時間的にもかなり長い作品だったので、最後まで読み終えた時は『ああ、もうこの世界には来れないんだ』と寂しくなってしまいました。

 さて、この『狼のレクイエム第3部』なんですが、何だってわざわざ『第3部』と限定してるのかと言うと、この第3部には犬神明が出てこないからに他なりません。主役のはずの犬神明君、名前は言及されるんだけど、本人はちっとも出てこなくって、『まだかな、まだかな』と思ってるうちに第3部は終わってしまうんです。ユニークと言うか何と言うか……。

 でも、主役が出てこないこの第3部、むしろシリーズ中で一番面白いと思います。アメリカの田舎町を舞台に、一人の男の孤高の闘いが繰り広げられるのですが、その中で黒人差別や白人同士の差別など、様々な葛藤が描かれます。KKK(クー・クラックス・クラン)の何たるかを知ったのもこの作品でだったと思います。善良な黒人警官が、妹を奪われることによって狂気へと堕ちていく様は息が詰まり、読み進むのがつらくなるほどです。

 人種差別と言われてもピンと来ないし、マンガかファンタジーしか読まない高校生の私には、とにかくショックの大きい作品でした。狼男とか虎人間とか、道具立ては荒唐無稽ですが、語られるのは現実に我々人類が直面している問題です。所詮娯楽小説と高をくくっている人にこそ、読んでいただきたいですね。  

『狼のレクイエム第3部』全4巻 平井和正(徳間書店)
『狼の紋章』 平井和正(徳間書店)
『狼の怨歌』 平井和正(徳間書店)
『狼のレクイエム第1部』 平井和正(徳間書店)
『狼のレクイエム第2部』 平井和正(徳間書店)
『犬神明』全10巻 平井和正(徳間ノベルズ)


※『狼のレクイエム』等もノベルズ版が刊行されています。


●次回予告●

次回は『OZ/樹なつみ』です。


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