本の虫

◆第1回『ディアナ・ディア・ディアス/新井素子』◆

 私が新井素子さんの本を初めて読んだのは確か中学校の時。表紙の竹宮恵子さんの絵につられて買った『星へ行く船』でした。内容の面白さもさることながら、普通の女の子がしゃべってる文体に驚かされました。『こんなふうに書いていいんだ。これなら私にも書けるかもしれない』などと思ったのですが、もちろん世の中はそんな甘いもんではありません。

 それ以来素子さんの本はほとんど全部買いそろえている私ですが、今回取り上げるこの『ディアナ・ディア・ディアス』は、一風変わっています。その昔、この本が出て間もない頃、同じく素子さんファンだった友人は『最初の「さわさわさわ」でこけた』と言ってけなしましたが、私はこれ、大好きなんです。

 話は、暗いです。素子さん本人があとがきで言ってるように、読んでると疲れます。息苦しくなってくるんです。主人公の母親(ディアナ)が狂っていて、どうして彼女が狂わなければならなかったかという謎解きの心理劇なんですが、感情移入しやすい人はつらいと思います。

 ディアナや主人公カトゥサの境遇は特殊ではあるものの、その狂気の源にある『存在の不安』は、誰にでもあるものじゃないでしょうか? 『普通の人達は、そもそもどうして生きてゆけるのだろう。自分がここにいるということは、これ程までに怖いことであるというのに』というカトゥサのセリフには胸を衝かれます。

 同じように狂気を扱った作品として、『あなたにここにいて欲しい』『おしまいの日』がありますが、私はこの作品が一番気に入ってます。

『ディアナ・ディア・ディアス』新井素子著(徳間書店)
『星へ行く船』新井素子著(集英社コバルト文庫)
『あなたにここにいて欲しい』新井素子著(文化出版局)
『おしまいの日』新井素子著(新潮社)


●次回予告●

次回は『ベルサイユのばら/池田理代子』です。


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