えーっ、昨年5月に書き始めて以来、『アマ小説家はつらいよ』の方でさんざっぱら話題にしてきた『あなたのぬくもり』長編版、「一体いつになったら読めるの?」というありがたい催促を若干名の方からいただきました。楽しみにしていてくださったんだな、とほんとに嬉しく思っています。
 初稿はもうあと一歩で上がるところまでこぎつけたのですが、何分勢いだけで書いてしまったので直しは必須……。でも「完成稿」をお目にかけようと思ったらまたいつになるかわかったもんじゃないので、初稿の冒頭部分を公開させていただきます。まだ章題すら入っていません(しかも、今久々に見て、「げっ、どうしよう」と早速思ってしまった……。ある意味貴重な幻のオープニングになるかも)。「少々つじつまが合ってなくてもいいから続きが読みたい」という方は日向までご連絡ください。
 
◆あなたのぬくもり◆(長編版) お試し公開 by日向 霄
 
 彼女は今日も通う。冷たい硝子の箱に眠る彼のもとへと。
 彼女は今日も待ち続ける。彼のぬくもりが再び彼女の頬を温めるその日まで。
 私は、いつまでも待っているわ。
 そっと硝子ごしの口づけを贈る彼女の胸元に、銀のペンダントが揺れる。何の装飾も施されていない、ただの四角い金属片が、鈍い光をかえして。
 
 
「なんだ、またあんたかい」
 裏口から顔を見せた女が呆れた声を出した。
「ここは『買う男』が来るとこだよ。あんたみたいな、『売る男』じゃなくてね」
 言われた男がふふん、と鼻で笑う。
「いいじゃないか、まだ営業時間外だろ」
 美しい男だった。明るい茶色の髪に縁取られた端正な顔には、なんともいえない蠱惑的な表情が浮かんでいる。すらりとした長身を際立たせるぴったりした皮のズボンの上に、真っ白なシャツ。はだけた胸から立ちのぼる色香が、彼の素性をうかがわせる。若い、と言っても20代前半ぐらいだろうか。
「物好きだね、まったく」
 ため息をついて、女は奥へ声をかけた。
「ルディ! お客だよ!」
 しばらくして姿を現したのは人間ではなかった。ロボットだ。
「コンニチワ、れいサン。何カ?」
 体高1メートル20センチ、円錐形の体に長方形の頭と二本の腕を生やした少し古いタイプの雑用ロボットが、独特の電子音で言った。
「別に」
 レイと呼ばれた男の碧い瞳には、面白がっているような光。
「おまえの想い人は相変わらずかと思ってな」
 言われて、ロボットは頭の両端についた丸い目をチカチカさせた。正確にはそれは目(視覚センサー)ではなく、ライトとインジケーターを兼ねるランプだったけれども。
 ルディはこの娼館で働いている。もう一体、まったく同じタイプのエディというロボットとともに、館の清掃を主な仕事にしていた。エディとの違いは胴体に描かれた一本の赤い線だけで、どちらがエディでどちらがルディなのか、きちんと区別して用を言いつけるのは先ほどの女主人ぐらいなものだった。
 最初はレイも間違えた。だが今は、たとえ目印の赤い線がなくても見分けられるだろう。まるでいつも小首をかしげているような、少し傾いた頭と、何よりその、奇妙な愛嬌で。
 ただの雑用ロボットにも個性があるということを、レイは初めて知った。
「ししぃサンハ病院デス。デモししぃサンハ私ノ想イ人デハアリマセン」
 やたらに目を明滅させるのが、ルディの癖だ。雑用ロボットに許された唯一と言っていい感情表現。ルディは今、照れている。
「バーカ。矛盾してるんだよ、おまえの言いぐさは」
 壁に背をもたせかけ、腕を組みながらルディを見下ろすレイは嬉しそうだった。さっき女主人に見せていたものとはまるで違う、やわらかい微笑。
 しみついた媚態が、不思議なほど消える。こいつといると――。
 
 
 レイが初めてルディに逢ったのは病院だった。三ヶ月ほど前のことだ。
「だから言ったでしょ、初対面だって」
 脇腹を刺されてレイは入院していた。幸い傷は浅く、まだ麻酔も切れないうちから警察官がずかずかと入り込んできた。
「初対面? あの男はおまえを買ったことがあると言ってたぞ」
「へぇ、そう? いちいち覚えてないからね、俺は」
「だが女の方は覚えてるだろ。キャシーという女だ。最近よく付き合ってたそうじゃないか。あの男は彼女の夫だ。どうも女房の様子がおかしいんで後をつけたらおまえといちゃついてた。よりによっておまえとだ。自分とは1回しか寝なかったくせに、と女房よりおまえに腹が立ったらしい。泣きながら複雑な胸の内を吐露してくれたよ」
 髪に白い物の混じり始めた警察官、ササキは大袈裟にため息をついてみせた。温厚そうな顔には厳しさよりも気遣わしげな表情が浮かんでいる。
「おまえもいい加減にしないと、いくつ命があっても足りんぞ。これで何度目だ? おまえのせいで殺し合った連中もいたな」
「迷惑な話だ、俺のせいだなんて」
 男とでも女とでも寝る男娼、それがレイだった。恋人や夫婦のどちらとも関係を持ってその仲を壊したのもこれが初めてではない。しかしそれが何故俺のせいだと言うんだ? もともと仲が壊れてるからこそ俺を買うんだろう。大体いちいち客の夫婦関係を確認してから商売する娼婦がどこにいる。金払いさえよければ俺は文句はない。もちろんあんまり暴力的なのはごめんだが。
「そうだ、まったく迷惑な話だ。もしわしが警察署長ならただちにおまえをふんじばって、その綺麗な顔を二目と見られない醜男に整形してやるんだがな」
「そりゃいいや。やってくれよ」
「よく言うよ。歴代の署長を次々たらし込んで取り締まりを免れてるのはどこの誰だ? おまえの顔に傷をつけたらわしの方が捕まる。それ見ろ、あの花は署長からだ」
 窓辺に置かれた大きな百合の花束。病室に飾るには匂いがきつすぎる。なるほどあの女らしい趣味の悪さだ、とレイは署長の顔を思い出した。
「ひょっとしてこの部屋も署長持ち?」
 これぐらいの怪我で個室をあてがわれるのは珍しい。しかもレイは市民権も持たない男娼で、当然保険も下りないのだ。たとえ一刻を争う重傷だったとしても、病院側は個室はおろか手術自体を拒否する権利がある。
「まさか。入院費はジョンソン議員持ちだ。個室なのは病院側の配慮じゃないのか。おまえみたいなのを大部屋に置いといたんじゃ風紀が乱れる」
 以前、足を撃たれた時は大部屋だった。乱すも何も、周りは年寄りばかりだったが、それでもレイが少し動くだけで空気がざわついた。あの時はやたらに看護婦が押しかけてきて辟易したっけ。
「あんな大物を仕留めておいて、なんだって足を洗わないんだ? ジョンソンならおまえに市民権を与えるぐらいわけはない。あいつを足がかりにのしあがっていきゃいいじゃないか。つまらない女に手を出してよけいなトラブルに遭うなんて馬鹿げてる」
 ササキは煙草を吸おうとしてここが病室であることを思い出し、火を付けないまま口にくわえた。
「ジョンソンはそんなお人好しじゃない。あいつは俺を猫程度にしか思ってない。ちょっと可愛がって、飽きたら捨てる。飽きられないようにするには、滅多に顔を見せないことが肝心さ。それに」
 レイは婉然と微笑みかけた。声のトーンが変わる。甘さと毒をたっぷりと含んで。
「今更他の生き方なんてできやしない。俺は生まれた時から娼婦だったんだ」
 誘惑の光にうるんだ蒼い瞳がからみつくような視線を投げる。その綺麗な長い指が、いとおしむようにそっと獲物の頬を撫でて――。
 瞬間、ササキは雷に打たれたように飛び上がり、火も付いていない煙草に咽せて激しく咳き込んだ。
 レイの笑い声が部屋に響いた。笑いすぎて傷口が痛む。
「この馬鹿っ、わしをからかうなとあれほど……!」
 口を利こうとしてササキは更に咳き込み、涙を流しながらレイを睨みつけた。
「その気もないのに、俺の心配なんかすんなよ。早く帰って大事な母ちゃんとよろしくやりな」
 レイはもうササキを見てはいなかった。天井を見上げる眼に、もう先ほどの魔的な光はない。突き放すような冷たい声音は低く、意外なほど男っぽいものだった。
「馬鹿野郎め」
 首を振りながら、ササキは出て行った。まだ息が整わない。
 馬鹿は俺か、とササキは思う。レイの言うとおりだ。放っておけばいい。何も俺が気を揉む必要などないのだ。奴の方が俺より何倍もうまく世の中を渡り歩いてるんだから。あの小綺麗な顔と体を武器にして。
 頬に触れた指の感触がぶり返して、ササキはぞくりと身を震わせた。あの蒼い眼を思い出すだけで下半身に緊張が走る。まったく、我ながらよく今まで持ちこたえてきたもんだ。きっと俺は世界一貞淑な亭主だぞ。
 もう何年になるだろう。初めてとっ捕まえた時、レイはまだ18だった。幼さの残る分、美しさよりも生意気な印象が先に立った。気まぐれな猫のような、人を食った態度。自分と寝る権利を賭けて殴り合っている男達を平然と眺めて。
「俺はただ、強い男が好きって言っただけだ」
 無性に腹が立ったことを覚えている。思わず平手打ちを食わせて説教を始めていた。世間知らずのお坊ちゃんが遊び半分にヤバい連中を引っかけたぐらいに思っていたんだ。化粧の仕方も身につけたアクセサリーも、街娼にしてはセンスが良すぎた。奇妙な品の良さが奴には備わっていた。
 いい若いもんが馬鹿な真似を。自分を粗末にするもんじゃない。
 警察官になって、嫌というほどそんな若者を見てきた。世の中には、体を売る以外に生きる術を持たない貧しい人間達がいくらでもいて、どれだけ取り締まっても売春はなくならなくて、一方で、ほんの出来心で体を売り、薬に手を出し、身を持ち崩す愚か者も後を絶たない。
 殴られて、ぽかんとした顔で話を聞いていたレイは突然腹を抱えて笑い出した。
「あんたの目は節穴か? この俺がまっとうな人間に見えるなんて」
 ふわりとレイの両腕がササキの首に巻きつき、あっと思った時にはその形のいい唇が怖ろしく近い場所にあった。
「お安くしとくよ、おまわりさん」
 もちろんその時にはササキも悟っていた。お坊ちゃんどころの騒ぎではない。そのへんの商売女など逆立ちしても歯が立たない悪魔的な色香。しかも彼はそれを自在に操ることができるのだ。ほんのわずかな唇の動き、目線の使い方、まるでその髪の一筋一筋までもが媚薬のように。
「俺にこれだけ迫られて墜ちないなんて、おっさんどっか悪いんじゃないの」
 後になって、レイが言ったことがある。そんな時のレイは、ちょっとばかり見栄えのいいだけの普通の男だ。いや、まぁ普通というには語弊があるが、少なくともそれほど危険な印象は与えない。
 だからこそわしもだまされたんだ。
 たぶん、ずっとだまされている。時折見せる、ありきたりの若者の顔。わしをからかって喜ぶ時の、あの楽しそうな。
 もう、何年になるのか。5年、いや、もっとだ。いつの間にか、署でもレイはわしの担当と決まっていた。わしだけがあいつの魔力に負けずにしらふでいることができたからだ。定年間近だった先々代の署長は孫のような年のレイに夢中になって他の署員を近づけさせなかった。次に署長になったのはまだ若いエリートだったが、結局レイのせいで出世街道を外れてしまった。レイに貢ぐために公金に手を出したのだ。
 まったく大した玉だよ、あいつは。目こぼししてもらうだけでも十分な対価なのに、さらに金まで搾り取ってやがった。
「俺は生まれた時から娼婦だったんだ」
 あながち冗談でもないのだろう。10歳になるやならずで客を取らされるのは、――考えただけで反吐が出るが――そう珍しい話でもない。奴の手練手管には相当年季が入っている。
 この街に来る前はどこにいたのか。追われてるから、と奴は話してはくれなかった。
「わかるだろ? しつっこいのがいるんだよ、たまに」
 いくつかの署に問い合わせてみた。サウスケディの署員だけが、ここだけの話だがと断って、「あいつには気をつけろ」と教えてくれた。サウスケディじゃ市長を手なずけていたらしい。それも15で。
 街の有力者や警察関係者が男娼を囲っているなんて、外部に洩らせる話ではない。それできっと、どこの街も口をつぐんでいるのだろう。サウスケディにはほんの1年ほどいただけだったという。
 それでもわしは。
 それでもササキは、レイを更正させようなどという馬鹿な考えを捨てられずにいる。
 あいつがわしをからかって喜んでいるうちは。あいつがわしの前で、娼婦ではない顔を見せてくれるうちは。
 そんな希望でもなきゃ、おまわりなんかやってられるものか。
 さっきからずっと胸ポケットで電話がブルブル震え続けている。きっと署長だろう。レイの様子を聞きたくてうずうずしているのだ。ササキは電話を取り出すと電源を切って車に乗り込んだ。もちろん車の無線を切ることも忘れない。思い切り遠回りをして、ササキは署に戻った。
 一人残された部屋で天井を見上げながら、レイもまた考えていた。
 5年……もう6年目かもしれない。一つの街にこれだけ長くいるのは初めてだ。生まれた街にだって、10年もいなかった。あれからずっと、風のようにあちこち流れて生きてきたのに。
 この街は居心地がいい。首都に次ぐ大都市だ。退屈した金持ちは掃いて捨てるほどいるし、たとえうるさい客につきまとわれても身を潜める場所には困らない。多すぎる人の数が、かえって人の存在を消してくれる。まっとうな市民でさえ、根なし草のような都会。
 かと思えば、あんな不感症の堅物おまわりもいるし。
 咽せて真っ赤になったササキの顔を思い出して、レイは微笑を漏らした。そしてすぐに、そんな自分を嫌悪するような苦い表情になって。
 長くいすぎたな。あまりにも長く。
 ノックの音がした。続いて響く、電子の声。
「オ掃除ニ参リマシタ」
 返事も待たずに雑用ロボットが入ってきた。ぴかぴかの銀のボディにD−8というナンバーが緑で大きく描かれている。ロボットが掃除機を持っているのを見ると、いつもレイはどうして腕とか足とかにその機能をつけたロボットを作らないのかと思う。どうせ掃除以外の雑用なんかしないくせに。
 大体この部屋はまだ掃除の要などないはずだった。レイはついさっき手術を終えて入室したばかりだ。空っぽのままのゴミ箱をのぞき込んでいるロボットに、レイは声をかけた。
「その花、捨てといて」
「ドノ花デスカ?」
「そこの、でかい百合の花束」
 例の、署長からの見舞い品だ。その花束を認めると、ロボットは言った。
「コレハマダきれいデス」
「でもゴミなの」
 何でもかんでも捨てないように、ゴミとゴミでないものの区別をインプットするのはけっこう難しいことかもしれない。
「いいから捨てといて」
 ロボットはおもむろに花束を取り上げると、ぐしゃっと威勢良く折り曲げてゴミ箱に突っ込み、めでたくゴミの入ったビニール袋を取り出して新しい物と交換した。
「ああ、それから看護婦に言っといて。呼ぶまで来なくていいって」
 レイがそう言ったのは、ちょうどドアの磨りガラスに人影が映ったからだった。
 ロボットがドアを開けると、目の前に看護婦が立っていた。
「呼ブマデ来ナクテイイソウデス」
「へ? 何言ってんの」
「呼ブマデ来ナクテイイソウデス。私ハ伝エマシタ」
 もう一度繰り返すと、ロボットは掃除を続けるべく隣の部屋に向かっていった。もちろん看護婦は彼の言うことなどお構いなしに入ってくる。実に嬉しそうな足取りで。
「担当のチェンです。具合はいかがですか? 何か欲しい物はありません? 用があったらすぐ呼んでくださいね、飛んできますから」
 黒い大きな目を輝かせた若い看護婦は早口にまくしたてた。呼ばれてすぐ飛んでこられるほどこの病院の看護婦は暇らしい。
 どうせなら看護婦もロボットにすりゃいいのに。
 うんざりしながらレイは言った。
「ありがとう。用があれば君を呼ぶよ。君以外は来ないように頼むよ」
 『君』という言葉に力を込めることを忘れない。口元には微笑。それは限りなく冷笑に近いものだったけれども、若い娘を虜にするにはかえって効果的だった。優しい笑みよりもずっと刺激的で、ぞくぞくするスリルに満ちている。
「じゃあ行って」
 レイが目でドアを指し示すと、看護婦は無意味に何度もうなずきながら、ふらふらと部屋を出て行った。詰め所に戻ればさぞ自慢げに宣言することだろう。『あの部屋には絶対近寄らないでね! 私だけが入ってもいいんだから』
 たまたまくじで当たっただけなのだ。看護婦達はレイの素性を知らない。いくらレイがその世界では有名だと言っても、表向き売買春は御法度なのだから、普通の市民がそうそう娼婦の顔を知っているわけはない。もちろん以前に彼が入院した時のことを覚えている人間もいたけれども、あの時も彼が何者なのかはっきり明かされることはなかった。十分にうさんくさい謎の美形。これ以上女達の興味をそそる存在はない。きっと誰かの囲い者なのよ。じゃあ刺されたのは愛情のもつれ? そんなことどうでもいいじゃない、ねぇ、誰が彼の担当になるの?
 署長からの見舞いの花束は毎日届いた。レイは毎日ロボットに『それはゴミだ』と教えた。4日目には、ロボットは自分から『コレモごみデスカ?』と訊くようになった。
 看護婦のチェンはレイの言いつけをよく守り、他の看護婦を決して近づけさせなかった。しかし自分は呼ばれなくてもやってきた。ガーゼを取り替えたり薬を持ってきたりするのは決められた職務なのだから仕方がない。だがいちいち頬を赤らめながらレイのシャツをめくり上げるその様子はどう見ても職務ではなく趣味だった。
 入院生活は静かで退屈だった。食べて寝て、また食べて寝るだけの規則正しい生活。隣に誰の体も感じずに眠る夜。庭の桜の木が次第に満開になっていくのをぼんやりと眺めるだけの昼。健全すぎて病気になりそうだ。
「レイさん、病室は禁煙です!」
 窓枠に腰をかけ、庭を見下ろしているとチェンが入ってきた。
「くわえてるだけだ」
 言いながら、煙草をゴミ箱に投げ捨てる。
「それに危険です! 落ちたらどうするんですか、ここ5階ですよ」
 窓は全開だ。今日は温かい陽差しと春の風が心地よい。桜の花びらがひらひらと舞っている。
 レイは素直に床に下りた。まだ痛みはあるが、立ち歩くのに支障はない。早く退院したいものだ。
 視界の端に見覚えのある人影が映って、レイはもう一度外を見下ろした。
「ねぇ、チェン、あの女誰か知ってる?」
 名前を呼ばれて赤くなったチェンは、レイのすぐ隣に体を寄せて更に耳まで真っ赤になった。
「どの人ですか?」
「あれ、あの黒髪の、モデルみたいな」
 指さされなくてもすぐにわかった。ゆるやかに波打つ黒髪、遠目にもわかる抜群のプロポーションと整った顔立ち。
「ああ、あれは人間じゃありません。セクサロイドです」
 チェンの声にはあからさまな侮蔑の響きがあった。
「セクサロイド?」
 どうりで整いすぎてるはずだ。だけどなんだってそんなものが病院に?
 セクサロイドは、男達を楽しませるために造られたロボットだ。人類は人型ロボット――アンドロイド――を造る技術を持ち、人格まで与えることに成功したが、その使い道を思いつけなかった。人間のやりたがらない危険な仕事や単純労働をさせるのに高度な知能はむしろ邪魔なだけだし、人型をしている要もない。第一コストがかかりすぎる。既に街にはお掃除ロボットの類があふれ、貧困層の仕事を奪っている。一体人間そっくりのロボットを造って何をさせようというのか?
 もちろん、考え得る最もすばらしい用途は兵器だった。状況を判断し、自分で行動する頭を持ち、人間よりもはるかに頑丈な体を持ったアンドロイド軍団。しかも彼らは死を恐れない。
 だがロボットを軍事目的で利用することは国際条約で禁じられていた。無人戦車やリモート爆弾は限りなく『戦闘用ロボット』に近づいているというのに、それでも人々は『鋼鉄の人間』に襲われることの方を忌避した。
 では人間の知恵の結晶、科学の粋を集めたアンドロイドは博物館に飾られるだけなのか? ありあまる金を持てあます大富豪なら自分の影武者に使うかもしれない。死んだ恋人や子どもとそっくりなアンドロイドを造ることも不可能ではない。そう、金さえあれば。もう二度と死ぬこともなく、年老いることもない永遠の恋人が手に入る。
 誰かが思いついた。馬鹿馬鹿しくも画期的な思いつき。
 アンドロイドの娼婦。
 どんなに取り締まっても売春はなくならない。売る人間もいなくならなければ、買う人間も絶えることがない。それなら。
 どんな美しい顔も、どんな魅力的なスタイルも思いのままだ。病気を移される心配もなければ避妊の必要もない。性格さえもお好みのままに。母性あふれる慈愛の女神がお望みですか? それとも男心をもてあそぶ小悪魔? どんな希望もプログラミング次第。
 おとぎ話の世界ではさして珍しくもない発想だったろう。アンドロイドの恋人。だがそれを実行に移すのはやはり画期的で、気違い沙汰と言ってもいい大事件だった。
 世論は紛糾した。そんなものを認めてもいいのか? 特に女性の反発は激しかった。男達はまだ、女を商品としてしか見ていないのか? 性を売るロボットなんてとんでもない!
 では男性型アンドロイドも造ればいいじゃないか。理想の男を造ればいい。いつでも買えるセクサロイドがいることで、むしろ性犯罪が減る可能性があるのだ。いや、きっと減る。人間の女を『商品』にしないために、『最初から商品である女』を造るのだ。
 もっともらしい理屈を、サンプルとして造られた美少女型アンドロイドが後押しした。ニュース映像で見る実験用アンドロイドの素っ気なさが嘘のようだった。生身のアイドルなどもういらない、と思わせる愛くるしさ。科学はこんなにも進んでいたのだ!
 人々は認めてしまった。それが他の職業なら、『取って代わられる』ことは怖ろしい。けれど娼婦なら。強硬に反対するような業界団体などありはしない。それに娼婦なら。どんなに出来が良かったとしても、人間の上に立つことはない。
 セクサロイドの娼館が登場した。評判は悪くなかった。一体の製作コストが高いために、彼女たちを買えるのは富裕層に限られていた。退屈な彼らは興味本位に娼館に通い、そして権力者でもある彼らは政府を動かした。セクサロイドに補助金が下り、少し背伸びをすれば一般の市民にも手が届く値段にまで彼女たちは安くなった。
 10年後には首都だけでなく、大都市と呼ばれる街には大抵セクサロイドが存在するようになっていた。逆にセクサロイドがいなければそこは大都市の名に値しない、と言われるほどに。
 むろん、彼女たちの登場で人間の娼婦がいなくなることはなかった。性犯罪が減ったのかどうか、きちんとした統計が発表されることもないまま、彼女たちは既成事実になった。さらに性能の良い2世代目が登場する頃には、他国への輸出さえ始まっていた。
 しかし男性型セクサロイドは根付かず、今は製造されていない。造る側に女性の研究者が少なかったせいもあるし、何より客が少なく商売として成り立たなかった。そのことからもっともらしく男女の性行動の差を論じる者もいたが、そんなことは何もセクサロイドの登場を待つまでもなく、大昔から買春は圧倒的に男性のものだったのだ。
 レイとチェンが見下ろしていたセクサロイドは、庭から病院に入り見えなくなった。
「恋人の見舞いに来るんです、毎日。有名ですよ、『健気なロボット』って」
 そう言うチェンは、彼女を健気だとはまったく思っていないふうだった。
「恋人って、人間のか?」
「冷凍睡眠中なんです。不治の病だって。何でもあのロボット、3年も通い続けてるらしいですよ」
 確かに彼女は毎日姿を現した。ほぼ同じ時間に。それでレイは気になっていたのだ。ここ数日外を眺めていて、他にも覚えてしまった顔はある。しかし彼女の整いすぎた美しさと、どこかしら憂いを帯びた雰囲気は特に目を引いた。一体あの女は何者なのだろう。なぜあの女はこんなにも引っかかるのか。
 レイは当然セクサロイドの存在を知っているし、実物を見たこともある。娼館ではなく個人所有のセクサロイドという極めて稀な代物にお目にかかったことも。だが彼女がセクサロイドかもしれないとは考えもしなかった。当たり前だ、ロボットが医者にかかるわけはないし、見舞いだの看病だのに来るわけもない。ロボットに見舞うべき家族や恋人がいるはずもないからだ。
「なんか気味が悪いですよね、ロボットのくせに」
「そうだな」
 レイは歩き出していた。ドアに向かって。
「あっ、どこへ行くんですか」
「ちょっと見てくる。冷凍睡眠の部屋ってどこ?」
 首だけ振り向いて問いかけるレイの視線にうっとりとなりながら――この角度も素敵、流し目って色っぽい!――、チェンも後を追った。
「ご案内します!」
 冷凍睡眠の病室は地下にあった。人間そっくりのアンドロイドが製造できるこの時代、失った腕や足に機械のそれを取り付けることはごく当たり前に行われていた。もちろん見た目に違和感はまるでなく、そうと言われなければ義肢だとは気付かない。手足だけでなく、一部の臓器は生物工学的に作り出した部品と取り替えることができた。かつては致命的と言われた病気や怪我からも人々は容易に生還するようになり、しかし難病がなくなることはなかった。医療の進歩を嘲笑うように、一つの病が根絶されればまた新たに原因不明の病、治療法の確立できない病が登場したからだ。
 死を待つ以外に打つ手のなくなった患者に残された唯一の希望、それが冷凍睡眠だった。仮死状態のまま治療法が見つかる時を待つのだ。何年、何十年先になるかわからない、どれだけ待っても無駄かもしれない時を。
 当然そんな手段を選べるのはごく限られた一部の人間だけだった。冷凍睡眠に保険は適用されない。一ヶ月や二ヶ月ならそう無茶な値段でもないが、それが何年も続くのだ。冷凍睡眠装置の稼働率は決して高くはなかった。
「金持ちなんだろうな」
 エレベータの中で、レイが言った。
「え?」
 二人きりでエレベータに乗っていることにぽーっとなっていたチェンが聞き返す。
「眠ってる奴。爺さん?」
 下降が止まり、ドアが開いた。地下2階。冷凍睡眠室以外には機械室や警備室があるだけで、一般の患者はもちろん、医師や看護婦でさえほとんど降りることのないフロアだ。人気のない廊下に、チェンの甲高い声が響いた。
「いえ、まだ若いんですって。私は見たことないんですけど、婦長が可愛い子よって言ってました。なんでもどこかの会社の御曹司だとかって」
 お坊ちゃんとセクサロイドか。なるほどね。
 すぐに、目指す扉が見えた。部屋の用途を示す素っ気ない表札がかかっているだけで、入院患者の名前は出ていない。
「入れるの?」
 扉の脇にテンキー付きのキースロットがあるのを見て、レイが訊く。
「あ、すいません、私はダメです。誰か呼んできましょうか?」
「いや、いいよ」
 誰か呼んできたところで入れてくれるわけがないじゃないか。無関係な人間を。
 看護婦でさえ勝手には入れない特別な部屋。でもあのセクサロイドは入れるんだ、肉親でもないのに。
 そう、彼女はいた。扉の向こう、愛しい恋人の眠る場所に。
 部屋の中には、銀色の棺のような冷凍睡眠装置が並んでいた。8つの装置の内、使用されているのは3つだけだ。壁面を埋める制御用コンピュータも、にぎやかにインジケータが光っているのは片側だけで、もう片方は電源も入っていないように見えた。病室というイメージからはほど遠い、命の気配のまるでない無機質な部屋。それはあるいは、彼女のようなロボットにこそふさわしい空間なのかもしれない。
 おはよう。
 奧から2つ目の装置に顔を寄せて、彼女はそっとささやいた。申し訳程度に開かれた硝子の覗き窓から、彼の顔が見える。昨日と変わることのない、青白い寝顔。
 おはよう、あなた。
 もう一度心の中で呟きながら、彼女は硝子越しにおはようのキスをする。本当は、もう朝ではない。けれど彼女にとってはそれは彼の目醒めを促すおはようのキスなのだ。眠り姫をこの世に引き戻した王子のキスのような。
 唇に触れるのは冷たい硝子の感触。あなたの唇はいつも、あんなにも温かかったのに。
 彼女のまがいものの唇は彼のぬくもりを覚えている。彼女のまがいものの瞳は彼の優しい笑顔を覚え、まがいものの耳は彼の甘いささやきを覚えている。そして彼女のまがいものの心は、彼の愛を。
 いつになれば、あなたはまた再びその瞳で私を見つめてくれるのかしら。いつになれば、その温かい体で私を抱きしめてくれるの。
 いつでもいい。
 いつになろうと、私は待っている。私なら、待ち続けられる。
 隣の装置に、もう誰も眠ってはいない。ほんの2週間ほど前までは、一人の老女が横たわっていた。治療法が見つかって起こされたのではない。家族が、彼女を見捨てたのだ。金のために。
 他の二人のところにも、見舞いに来る人間はほとんどいない。以前はよく出会った小さな男の子の両親でさえ、近頃は数ヶ月に一度しか出会わない。それも母親だけで、父親はさっぱり姿を見せなくなった。
 薄情だと責めるのは簡単だ。けれど見舞いに来たところで、相手はただずっと眠っているだけ。その体は装置の中に隔離され、手を握ってやることすら叶わない。花だのぬいぐるみだのを飾ることも許されず、本当にただ顔を見るだけなのだ。来れば来るほど虚しさが募る。死んでしまったのとどう違うのだろう。どのみち自分の生きている間には目醒めないのかもしれないのに。
 生身の人間に、未来は遠い。十年とはっきりわかっているなら耐えられもしよう、けれどそれはいつとも知れぬ茫漠とした未来。そんな不確かなものをあてにしてこの現在を無駄にするには、人の命はあまりに短すぎる。
 でも私は。
 私に、時間の砂は降り積もらない。あなたの時間が止まっているように、私もまた年を取ることはない。いつか目醒めるあなたが見るのは、変わらないこの私。私だけが、あなたを待っている。
「それにしても」
 扉の外では、レイが喋っていた。
「よく許してるな、男の家族」
 金持ちという種族は、何よりも体面を重んじる。会社の跡を継ぐべき息子が娼婦と恋仲だなんて。それもロボットのだ。戸籍上の妻以外に女を囲っている親父はいくらでもいるが、彼女たちを表舞台に出すことはない。その女が資産家の未亡人だったり、才能溢れる芸術家だったりしない限りは。
 セクサロイドにせっせと見舞われるなんて、男の家族にしてみれば恥さらし以外の何物でもない。
「それがね、うまいことなってるんですよ。その、御曹司って実は次男なんです。次男なんだけど、父親に溺愛されてて父親の方は跡継ぎにしたがってたんですって。当然長男はいい気はしないでしょ、そんなの。そこへ次男が難病にかかった。長男は万々歳、父親はがっくり。父親は最愛の息子を冷凍睡眠させてすぐに自分も持病が悪化して死んじゃうんです。でね、死ぬ間際に遺書を残したの。息子の、次男の面倒を見る権利をセクサロイドに与えるって」
 もちろん実際にはその権利は弁護士が握っている。法律上ロボットは犬猫と同じで、遺産や権利の付与対象とはならないからだ。
「つまり、もう他に次男の味方をしてくれる人間はいなかったってことか」
 跡継ぎと目されていた頃はさぞかし取り巻きが多かったことだろうに。まったく、薄情なもんだ。
 扉の開くシュッという音とともに、彼女が姿を見せた。
 彼女は廊下に突っ立っている二人を見て一瞬怪訝な表情になり、すぐに軽く会釈をした。
 間近で見る彼女は、予想以上に美しかった。ゆるく波打つ髪と同じ漆黒の瞳。少し垂れ下がり気味の目尻が優しく、儚げに見える。モデル顔負けの理想的な体型を包むのはシンプルなシャツとパンツで、膝下まであるブーツが長い脚をより長く見せている。気を呑まれてぽかんとしているチェンの横で、レイもまた驚いていた。
 これが本当にロボットか?
 これが機械だっていうなら、人間はなんて物を造り出したんだ。
 ただ外見が美しいだけではない。彼女には内側から輝く何かがあった。もちろんセクサロイドには疑似人格があるから、ある程度『雰囲気』を持ち合わせてはいる。しかしそれは外見との組み合わせでかなりパターン化されたもので、例えば「高飛車な女王様風」だったり逆に「慈愛に満ちた聖母風」だったり、わかりやすい極端なものがほとんどだ。
 なのに今目の前にいる彼女は、一言では言い表せなかった。タイプとしては「聖母風」になるのだろうか、優しそうで、穏やかで、それでいて匂うような色香があり、どこか寂しげで――。
「そんなに、好きだったのか」
 レイは思わず問いかけていた。
 彼女の顔に、戸惑いの色が浮かぶ。
 レイはもう一度言った。まっすぐに彼女の目を見つめて。
「そんなに、好きだったのか」
 そうとしか考えられなかった。男への想いが、彼女を輝かせている。人を愛することの喜びと哀しみが、彼女を複雑にしている。
「あの……、彼のことを、おっしゃっているんですか?」
 わずかに後ろを振り返りながら、彼女が答える。
 心地よい声だった。落ち着いた、やわらかい声。雑用ロボットのような電子的なところは少しも感じられない。
 見ず知らずの男にいきなり話しかけられて、彼女は当惑していた。この人は誰だろう? どうしてこんなことを尋ねるのだろう?
 うなずくだけで、レイは言葉を発さない。ただじっと彼女を見ている。怒ったような、冷たい目で。
 なぜそんなことを訊かれなければならないのかわからない。でも、答えを返さないわけにはいかない。その碧い瞳には、それだけの力があった。
「あの人のことなら、もちろんです。今も、これからも、ずっと、愛しています」
 ゆっくりと、かみしめるように彼女は言った。幸せそうな、微笑みとともに。
「馬鹿だな」
 言われて、彼女もうなずく。
「そうですね」
「大馬鹿だ」
 言い捨てて、レイはきびすを返した。エレベーターの方へ歩いていく。
 何が何だかわからずぽかんとレイと彼女とを見比べていたチェンは、一人取り残された。いや、一人ではない。彼女と二人、取り残されてしまった。
 エレベーターが降りてくるのを待つ時間が、ひどく長い。
「あの人、どなたなんですか?」
 遠慮がちに、彼女が口を開いた。チェンよりも頭一つ背が高い。自分がひどくずんぐりむっくりに思えてチェンはいらだった。生身の美女と並ぶのだって遠慮したいのに、よりによってセクサロイドと一緒にエレベータに乗ることになるなんて。なんだって男はこんな物が好きなのかしら。所詮は機械じゃないの。
「さぁ、知らないわ」
 嘘は言っていない。レイがどこの誰なのか、知らされてはいないのだ。
 エレベータが降りてきた。彼女はチェンを先に通し、自分は後から乗り込むと「何階ですか?」と訊いた。チェンのとげとげしい態度を気にするふうもない、自然で優しい声音。チェンは思わず恥ずかしくなった。何よ、これじゃまるであたしの方がガキじゃない。機械以下だなんて。
「彼、レイっていうの」
 ぶっきらぼうに、チェンは言った。
「入院患者よ。窓からあなたを見て、興味を持ったみたい」
「そうですか」
 すぐにエレベータは1階に着いた。ありがとう、と軽くお辞儀をして彼女が降りる。仕方なく、チェンも会釈を返した。
 彼女は、チェンが渋々でもちゃんと答えてくれたことが嬉しかったのだ。セクサロイドの自分とまともな会話を交わしてくれる人間は少ない。ただそこに存在しているというだけで浴びせられる好奇と侮蔑のまなざし。もう慣れっこだ。
 だから、レイのあの奇妙な質問も、戸惑いこそすれ、不快ではなかった。彼の声にも表情にも、茶化すようなところは少しもなかったからだ。
 それどころか、あの人はとても真剣に見えたわ。『馬鹿だな』と言った時のあの人は、まるで私を哀れんでくれているようだった。一体どうしてあの人は、私にあんなことを訊いたのかしら。
 それは、レイ自身にもわからないことだった。
 俺は一体何を確かめるつもりだったんだ? セクサロイドが人間を愛する。そりゃ世にも珍しいことだ。だが俺には何の関係もない。
 まるで本物の女だった。客に本気になってしまった娼婦。ロボットでなければ、そんな話はいくらでも転がっている。いつかは捨てられるとわかっていて、それでもそのひとときの夢に溺れずにはいられない愚か者。ロボットならなおさら、決して結ばれることのない、決してかなえられることのない愛なのに。
 なぜか気にかかる。
 なぜか、心を逆撫でする。
 眠りについている男が、そんなにもおまえを愛していたわけがないじゃないか。
 人間なんて、そんなにいいもんじゃない――。
 
 それが、レイと彼女―シシィ―との出逢いで、そして二日後、ルディがやってくる。ただの雑用ロボットでしかないはずの、ルディが。