筏釣り 第三章 堂の裏(その2)

釣りは殆どがそうであるように、時期というものがあります。
その日は9月頃に大物が釣れると聞いて釣行した日の事です。
竿は2本用意しています。
一本は、テトラのガシラ狙い用の竿で、中通しの5号重りを通して、
シラサエビを餌にし置き竿にしました。
メインのチヌ竿はちゃんと竿受けにセットしています。
置き竿は、合間・合間に見れば「びくびく」しているのが分かるでしょう。
それからでも遅くはありません。・・えっ、何を狙っているのかって?
それは、舞鶴でサナギを餌にした置き竿で、チヌが釣れたことを思い出したから。
ダンゴの練り方は慎重にしました。最初は硬めに。
最初から柔らかくしてしまったら、もうどうしようも有りません。
硬い分には後から水分を追加すればOKですから。(ちゃんと、学習したでしょう!)
それに市販のサナギも購入していましたので、それも混ぜ合わせています。

「今日こそ絶対爆釣だ」と期待して神経を集中しています。
なかなか釣れませんでしたが、そのうちに置き竿が、ずっずっとずれました。
ハッとして竿を押さえます。
竿を引っ張って行くような奴は、ものすごい大物に違いありません。

「おっ!歳無し(50cm以上のチヌのこと)か」
「いや、なんかおかしいで。全然引かへん。これ魚かな?
ラインは出て行くけど、全然手応えないわ!なんかに絡んだか、
それともサメかな、頑張ったらラインが切れそうや・・・
もうええわ、ライン切ったる!!

「おい!よせよせ、目の下二〜三尺の真鯛やったらどうすんねん。
この辺にはそんなんおるでぇ」

「えっほんまかいな!」
これは慎重にならざるを得ませんが、何としても上がりません。
ラインは出て行くばっかりで、切れそうになるまで頑張って
押さえてもびくともしません。
そのうちに、20m程前でなにやら、水面から「ジャンプ」しました。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
皆さん何だと思います?
またまた、このおかげで、あとでちょっとした話題の主になってしまいました。
分かりますか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

実は「エイ」でした。
今までは下向きに延びていたラインが、そのジャンプした
「エイ」のあとを追いかけるように、角度が変わり延びてゆきます。
さっきまで「大鯛や!」と周りで騒いでいた釣友の目が冷たく変わります。

「なんや!あれか?」の言葉を最後に釣友達は、自分の釣りに戻ってゆきました。
50m巻きのラインが出尽くしてしまうところでしたので、もう迷わずに
ラインを切らせていただく事にしました。

「あ〜ぁ!大鯛やと思ったのに!」

「そんなん、滅多に釣れないよ?」
おいおい、急に冷たくなったな?・・

幸いにも、ラインの方ではなく、ハリスの方から切れていました。
それからは、あまり釣果無く引き上げてきたような記憶があります。
今でも、エイと格闘した記録と記憶ははっきりと残りました。


*これは余録ですが・・・
ある時、団体さんと一緒になりました。この団体さんは毎年ここで大会をしているそうで
した。
しかし、あまりマナ−の良い人たちではなく、渡し船に乗ろうとしても場所を譲る
どころか迷惑そうに睨みます。
「すみませんが」と断ってもちっとも動こうとしませんでした。
船長さんのお声掛かりで、何とか載せていただきましたが・・・・。
そして、団体を先に筏に降ろして、自分たちが最後になったときやっと
「ほっ!」とできました。
筏に道具を上げてさあ準備にかかろうとした時です。
釣友の一人が突然

「あれっ道具の入ったク−ラ−が無い」と言い出しました。
どこかに紛れ込んでいないかと、みんなの道具を確認しますが、見あたりません。

「さっきの団体が自分のと間違えて持っていったのか?」
でもここは海の上、取りに行こうにも泳いで行くしかないし、渡しの船は12時前に
お弁当を持ってきてくれるまでこないし、どうしようもありません。
ビ−ルくらいなら皆のを分ければいいのですが、道具ではどうしようもありません。
せっかくの楽しみの「筏釣り」も暗澹たる気分に浸るかに見えたとき、
良いことに気がつきました。
今でこそ、簡単なことの様に見えますが、その時は「よくぞ持っていた」と皆に
感心されました。何だと思います?
「携帯TEL」なんです。今でこそ殆どの人が持っていますが、当時の普及率は
低く、贅沢品と思われていました。
基本料金が「\4,000〜\3,000」では仕方がありませんでした。

でもこの作者は、出張から帰るその次の日の午前2時集合で釣行する事に
なっていました。出張先は新潟でしたから、出張先の都合で帰ってこれるかどうか
不安がありました。
「せっかくの筏釣り。何としてでも行きたい」の思いが強く、
「間に合わなかったら、放ってゆくぞ」の釣友の不安を和らげる必要がありました。
もしも間に合いそうなら「絶対行くから待ってて」と、途中(新幹線の中)から
TELするために、家内に呆れられながら強引に入会し
「NTTのドニ−チョですが」持っていました。

(出張の帰りに、最終に近い新幹線で一人の時は、携帯TELが無いと
  とてもではないけれどTELなんてできっこありませんよね)

「海上」で通じるか?と心配しましたが、通じました。
渡船屋さんにTELして事情を話し、船をよこして頂き探して回ることになりました。

その時の話です。
今思い出しても腹が立ちます。
普通と言うか、常識人と言うか人のク−ラ−を間違えて持ってきたら
「済みませんでした」か「ごめんなさい」くらい言いますよね。
それを知らん顔して・・・、たまりかねた釣友が軽く
「済みませんぐらい言っても良いんじゃないの」って言って、
船で離れようとしたとき「自分の持ち物ぐらい自分で管理しとけ、
この*****!
って怒鳴ってたそうです。(詳しくはかけません。汚い言葉ですから)
戻ってきた時にこの話を聞いて、みんな憤慨しました。
さすがに船長さんも気の毒がって
「まぁ、いろんな人が来るから。忘れて楽しんで」とか何とかなぐさめてくれたのを
覚えています。

今更ごちゃごちゃ書きません。でも少なくともこんな釣り師にはならないでおこう。
と思っています。
「お互い様」の心を常に持って。

「情けは 人の為ならず 巡り巡って 自分のために」ですものね!


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