第3話  苦労してやっと直したダブルカセットデッキ

(その1)

初めてのボ−ナスで買ったステレオがあった。

「Sansui」の60Wスピ−カ−で
ダブルカセットデッキでタイマ−とイコライザ−付
イコライザ−にはマイク入力ジャックが2本あり
個別にエコ−や音声が変えられるのでカラオケもOK。
メインアンプも自慢の代物で、コンピュ−タ−セレクト
と称して、前面のスイッチでチュ−ナ−/カセット/
レコ−ドプレ−ヤ−を切り換えON/OFF自在だ。

 チュ−ナ−は自動で電波を捜す機構
(オ−トチュ−ナ−:当時は画期的な機構)
アンテナもT型にした。
ダブルカセットはダビングに最適で、1曲目と3曲目だけ
ダビングってのもセットしておけば、勝手にやってくれる。
レコ−ドプレ−ヤ−は盤の上を針が走査し
33回転/45回転の操作は自動。
LP盤で1曲目を聞いてから5曲目4曲目2曲目6曲目
を聞いて終わり、なんてのも簡単にできる。
今は、CDだから簡単だけどレコ−ド盤全盛期当時は
優れものだった。
 それぞれのスイッチもLEDの照明つきのタッチ式で、夜部屋を暗くして
LEDランプのチカチカを眺めては惚れ惚れしていた。まさに
カンペキ〜!だった。

 休みの日の夜、部屋を暗くして、水割り片手にリクライニングチェア−にもたれ
ム−ドミュ−ジックのLPを・・・なんて良くやっていた。
自分では
「カッコえぇぇ・・」なんて思っていたが、人に話すと

「ちょっとアブないで?」だって(^^;)。
ちなみに、Myroomには
ミラ−ボ−ルとスポットライトもある。
確かに
「かなり、アブナイ」(^_^;)かもしれない。
でも、初めてのボ−ナス36万円
(当時のホ−ムステレオはこのくらい高価だった)
を全て投げ出して買った自慢の大切な物だった。

それが、寄る年波に逆らえずおかしくなってしまった。
カセットを久しぶりに聞こうとしたところ
ウンともスンとも言わない。
ごちゃごちゃやっていたが、改善も見られず
「星電社」(まだ健在であった頃の話)サ−ビスコ−ナ−へ
直行し症状を話し

「何とか修理をお願いしたいのですが・・」

「これは・・?(古い)・・大切に使ってらしたんですね・・・
 一応預かりますが部品があるかどうか、何せこれは・・・・」
唸る店員に

「新しいのを買った方が安くつくのは解ってます。お金の問題じゃないんです。
 大切な物なんです・・・」
頼み込んでどうにか修理の方向へ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
待つ事2〜3週間、やっと星電社より連絡が。

「さすが星電社、あんなのでも修理してくれたんだ」
(^O^)
と喜び勇んで駆けつけた・・・・・なのに、なのに、期待は見事に裏切られた。
                               _(._.)_
「すみません、やっぱり部品が生産終了とかで手に入りません。
 やはり新しいのを購入されては、新しいのならこんなのがありまして・・・」
あとは耳に入らなかった。

「考えときます」m(_ _)m といって、愛機を返してもらって早々に引き上げました。
そこへ追い打ちをかけるかのように・・の冷たいお言葉

「直らないんだったら、捨ててよ。ただでさえこのステレオ邪魔なんだから。
 レコ−ド聞きたかったら、今もっと小さくてカセットも聴けるのが
 安くてあるんだから。ここのステレオ捨ててくれたら場所が空くから
 ここに本棚を置いて子供部屋を広くして、広くなった子供部屋に
 ベッドを置いて、それから・・・・・」
後は、聞いてられなかった。

冗談じゃない!人が一番大切にしている物、思い出もいっぱい詰まった私の分身を
簡単に捨てられるか!
おまえよりつき合いは長いんやで!なんて思ってみても、
故障したんでは、あまり強い事も言えないし・・!

「考えとく」と恨みのこもった目で
睨みつけるのが精一杯の抵抗だが、長年連れ添った妻には効き目もない。
あっちのが何枚も上手か。
あぁぁ我が大切な分身の運命や如何に!

男は、思い出を大切にし過去(の栄光)に生きる。
女は、将来を夢見て(過去を捨て)未来に生きる。
聞いてはいけない、男の未来と女の過去!
なんて考えるのは偏見か?
わが家内なんぞ、思い出の品物や写真なんぞ惜しげもなくポイポイと捨てる。
こんなのを見ると、当たっていると思うのだが・・・・?

「そんなのいつまで置いてるの?持っててもしようがないじゃない。
 あたしなんか、全部捨てたわよ!」

「いや!これは大事な物なんだ。思い出も一杯詰まっているし。
 これを捨てるという事は、自分の今までの人生が無くなってしまうみたいで
 とても・・・」なんぞというのはくだらない感傷か?

ああ!我が愛機の運命やいかに・・!


(その2)

子供の中学への入学も迫ったある日、孤軍奮闘していた「父ちゃん軍」は
「女性軍」の「冷ややかな目」攻撃に耐えかね、ついに部分降伏してしまった。

「場所を占有しているステレオの家具調収納ラックは捨てる。
 中身はビデオテ−プを置いている縦型ラックへ移して組み直す。
 大切な200本を超えるビデオテ−プ(大人用じゃないで)は
 収納BOXに入れて、押入へ。これで書棚をここにおけるだろ。
 それで勘弁してくれ」
その、リフォ−ムに貴重な休みの1日を費やした。全部一人でやったが。
何とか、心の友は残したがカセットデッキは壊れたまま沈黙している。
チュ−ナ−/プレ−ヤ−は念入りにチエックしOKを確認した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 諦めきれなかった。壊れても良い、ダメで元々で自分で分解修理にかかった。
プラスのドライバ−で外装カバ−を外す。
症状は解っていた。テ−プが回らない!という事はモ−タ−辺りに原因がある。
果たして・・・電源を入れてモ−タ−の動きを見ると、モ−タ−は動いているが
ベルトが・・・・原因は簡単だった。

モ−タ−駆動でベルトによりプ−リ−を回転させるがそのベルトが
弾力を失って(劣化して)駆動力を伝えきれないで空回りしている。
このベルトを交換すれば直る。と確信した。モ−タ−や他の部品は異常は無い様だ。
(星電社め!なんでこんなのが直せないのか?)
幅6〜8mmと2mmで全長250mmのベルトを各1本
ダブルカセットだから2セットか。

「なあんだ、簡単じゃないか。このベルトを交換すれば修理完了だ・・・・
 で・・・ベ・・ル・・ト・・・・?こんなベルト何処に売ってるんや??」
ベルトと言うより黒いゴムバンドだ。そのものズバリと言うわけにはいかないが
代替品ではどうか?たとえばゴムバンドとか??で早速ホ−ムセンタ−へ。
家庭用品関係を中心に探し回ったが見つからなかった。
あったのは輪ゴムの標準品それも箱入りのやつ。
2時間ぐらい探し回って、とうとう諦めて帰宅。

「くそ〜!昔は、靴下がずれる落ちるからって、幅5mmくらいで
 直径100mmくらいのゴムバンドをしたものなのに・・^^;
 それが欲しいのに無いとは・・」
それから方々聞き回ったり、家の片隅、台所、会社での消耗品と捜していた。
それでも、何としても見つからずに諦めていた。・・・
でそのまま1年以上が経過していた・・・・・・・

でそれがつい最近になって・・・・

いつものホ−ムセンタ−でさがし物をしていた。
金魚の水槽でエア−ポンプの音がうるさいからって、クッションの付いた
目張りみたいなのがないか?と探していた時だった・・
引っ越し用品のコ−ナ−にそれはあった。
幅6〜8mm程度で二つ折りにして伸ばした長さ120mmと160mm。
2〜3倍に延ばして使うのが良いって注意書き。
引っ越し用のゴムバンドであった。
見つけた瞬間、忘れられずいつも気になっていた
愛機の事が浮かんだ

「これさえあれば・・・・直るぞ!」
すかさず1パックづつ購入。よくぞ見つけた
(*^_^*)エライ
金魚のエア−ポンプの騒音対策なんぞほったらかして

すぐに
家に帰って再びダブルカセットの修理にチャレンジ。

20年以上前の機械ってのは丈夫で、中身は単純で良い。
ダイオ−ドや基盤、モ−タ−はしっかりしていてハンダ付けも
きちんとされている。
モ−タ−からの駆動力を伝えるベルトさえ交換できれば・・・・
 買ってきたゴムバンドは120mmのが良さそうだ・・・が
そのベルトを掛けるのが困難を極めた。
モ−タ−を止めている板金やプ−リ−の間にギヤなんかの小部品コ−ドが
ごちゃごちゃあって、まともにはいかない。
小さなバネが板金に止められていて、全部分解していたらそれこそ
組み立てるのが大変だ。極力分解は少なくしてベルトをはめなければ。
それにベルトには、ある程度張力が必要。たるんでいたら駆動力は伝わらない。
延ばしたままにしてどうやってはめるかが問題。

 また指の入らない部分にどうやってベルトを掛けるか?
まず、針金の先端を曲げてゴム輪を引っ張り、プ−リ−に掛ける。
更に、小さなバネの間を縫う様に針金を入れてゴム輪をひっかける。
両側から引っ張らないと掛からない。大きなプ−リ−は板金との隙間がほとんど無く
ゴム輪をかなり延ばさないと通らない。苦闘の連続だった。
強引にやると中のバネに引っかかるかゴム輪が切れるかだ。

慎重に慎重に優しく・・・途中で何度も針金からゴムが外れた。
ある時は、せっかく通したプ−リ−の間からゴムが反動で飛び出す事もあった。
そのたびに、もう一度、もう一度と心につぶやき、決してイライラしない様に。
 何回目かの深呼吸と、ビ−ルブレイクのあとにやっと、
やっと通った。(^O^)
ウッシ!とのガッツポ−ズが途中で止まった。

 これはダブルカセット!m(_ _)m・・・・
もう1つ隣で修理を待っているプ−リ−がいた。
再び深呼吸のあと、2つ目の”ゴム通し”にかかった。
さっきのゴム通しの苦戦でだいたいコツは解っている・・・・・つもりだった。
だがこっちは、録音機構つきだからモ−タ−周りの構造が複雑になっていた。
再び苦戦苦闘が始まった。

 僅かに緩めたネジでかすかに開けた隙間に針金を通し、
やっと出てきた針金の先端を曲げてから例の輪ゴムをひっかけて反対に引っ張る。
途中で中の配線に何度も引っかかり輪ゴムが外れる。
何度目かのチャレンジのあと、やっと通した輪ゴムをプ−リ−にかける。
当然、片っぽのハジっこは引っ張ったままだ。
精密ドライバ−でやっとひっかけたプ−リ−を少しづつ回したり・・・と
まるで外科医の手術みたいな事をやって、やっとこさ完成した。
午後の1時半頃から始めたのに今は4時を少し回ったとこ。

そのままカバ−をしないで電源を入れてからスイッチオン、緊張の瞬間だ!
モ−タ−が回り、駆動力が苦労してはめたゴムベルトを介してプ−リ−を
回転させている。4カ所のプ−リ−は問題なく回転している様だ。
第一段階 クリア!

次は実際にカセットを入れて回してみる。
負荷がかかった状態で回すと空回り・・なんて事になると修理できた事に
ならない。
カセットをセットしていよいよスイッチオン・・・・・・
緊張したが
まわった(^O^)(^_^)v。第二段階クリア!

ダブルカセットの両側ともまわってる。やった!と叫びたかった。
でも実際に音を聞かないと・・・・

ココでやっと、外装カバ−をし、ラックの定位置に
愛機のダブルカセットを戻した。
入力端子/出力端子にケ−ブルをつないだ。
ステレオのメンイ電源オン、「TAPE」スイッチオン、
「PLAY」スイッチオン・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
忘れていた感動が甦りました。久しぶりの「阿川泰子」は最高でした。
       (アガワヤスコって読む、アガワタイコでは無い)
「おにゃんこクラブ」も聞きましたし「高田みずえ」なんてのも・・
今は、若嶋津婦人ですが・・?  えっ・・・若嶋津はとっくに引退して
松ヶ根親方になってるって?
そうですか、どうやら作者もステレオ購入時の20年くらい前に戻った様で。

                             完


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