第6章 2月 こりゃ寒い!チヌも凍える竿の雪



−序章−


2月。それは「落とし込み釣り師」にとっては厳しい季節です。

防寒着を着て、使い捨てカイロを貼っていても脚元から寒さが

ジンジン伝わってきて、指もかじかんでカニもつかめなくなり

カニのハサミにバシバシ突つかれます。

よほど気を張っていないと、寒さに負かされ腹具合まで悪くなり

ピ−ゴロロ・・なんて事もあり得ます。

その時は我慢しないでテトラの中に潜り込みます。
(冬の釣りには、ポケットティッシュは欠かせません)

このシ−ズンの餌はカニが良く、それも出来るだけ小さい

赤ちゃんクラスのカニが良いと作者は思っています。

テトラの穴の中へカニを沈めてやると4m迄であたりが出ます。

この時期は餌が少ないせいかあたりがはっきり出る事が

多いようです。

たまには、大型チヌでも餌をひったくって行くやつも居ます。

それはある2月の事。釣友と2人でテトラのチヌを狙った

時の事でした。

今にも雪が降り出しそうなどんよりとした雲が覆い被さった

日でした。

風はそんなに強くは無かったのですが、ジンジン脚元から

寒さが伝わってきます。

テトラをひょいひょい移りながら探っていた時、目の前を

白い物がちらつき始めました。

「ひょえ〜!雪や。こりゃ寒いはずや」すかさず襟元の

ジッパ−を上の方まで上げて僅かな抵抗を試みます。

最初はちらほらでしたが、その内にボタン雪に替わり

視界も3〜5m程度になってきて竿先もハッキリとは

見えなくなってきました。

竿先どころか竿の上にも雪が積ってきて、釣りどころ

では無くなりそうな気配です。

「こりゃダメや!この調子やったら相当積るし、

迎えの船も来てくれるんかいな。釣友にTELして、

早めに帰ろうかなぁ〜」とも考えていた時の事です。

お待たせを!!ここから寒さが気にならないような

事の始まりです。


−チヌよ何処へ−

雪にかすむ竿先の揺れが、波でも雪の重みでもなく

「しなり」ます。

「ほれっ!きた!!」と強あわせで「しゃくる」と

ラインが「びゅんびゅん」うなって竿もいっぱい曲がります。

この時期のファイトは凄く気持ちが良いのですが、

テトラに深く潜り込まれるとラインがテトラに擦れて

アウトです。チヌとのやりとりをしながら出来るだけ

早くテトラから引き出す事が大事です。

「よしよし!出てこい。出てこい」とチヌの機嫌を

取りながら(?)ラインが擦れないように竿を倒し

ながら穴からの引き出しにかかります。

やっと引き出してタモを用意しかけた頃、浮き上がって

くるはずのチヌの姿が見えません。

「ありゃりゃ!何処へ行きおった?」とテトラ付近を

見回しても見あたりません。

雪も小降りになり視界は良くなってきたのですが・・・・

「お〜ぃチヌよ何処行った?」


−逃亡は許さんで−

竿には未だ、チヌの締め込みがビンビン伝わってきます。

竿先からラインを追っかけるとラインが沖へ。

「この野郎!沖へ逃亡を謀ったな」このチヌさんは

テトラの溝になっている部分をすり抜け、水面経由

ではなく水中経由で沖へ逃亡を謀っていました。

「この野郎、逃がすか!脱獄は重罪やで」とわけの

分からぬ事を考えながら、もう一度ファイトのやり直しです。

この状況では「テトラに擦れてライン切れ」は無く

なりましたが、空気を吸わせてませんので敵さんまだまだ

元気です。竿が伸されそうになった時、足場を前に移動

するためテトラを飛び移りました。

後で驚きましたが「雪の積った滑りやすいテトラの上を

よく飛び移ったなぁ」と感心しました。

必死だったのと、夢中だったのと、タモはテトラ

という事で2.7mだった事もあったのでしょう。

水面すれすれまで近づいて伸されそうになった竿に

集中し「絶対ラインは切れない、フロロカ−ボンの

2号を信じて」と念じながら、それでも無理をせず

徐々に引き寄せます。やっと水面に顔を出させ空気を

吸わせて、ばしゃばしゃやっているところを無事

タモいれに成功しました(38cmでした)。


−何時の間に−


この時になって足元の藻の滑り易さに気がつき怖くなりました。

テトラを慎重に上り、獲物をストリンガ−にかけて

釣友に携帯TELを入れます。

「TELして『あたりを見逃した』ってどやされるかな!」と

気にしながら

「どぅ、調子は?釣れた?」

「あったりまえや!今2枚あげたところや。

おまえの前の方にストリンガ−あるやろ」

「うっ何!すげえな。俺今やっと1枚上げたとこやで。

おっし、この雪でも頑張るぞ!お〜!」

「お〜っ!」ってご返事。

それにしても何時の間に2枚も。本当に凄いお方で、

この釣友のファイトにはいつも元気づけられます。


さっきまでの「こりゃダメや!・・・・・・

早めに帰ろうかなぁ〜」なんて気分は一度に吹き飛びました。

2匹目を狙ってまだ降り積もる雪の中を釣行の再開です。

釣友のお言葉通り少し前の方に40cmはあろうかと言う

”戦利品”が2匹ストリンガ−にかけられゆらゆらと。

「こりゃ負けてはおられんわい」


−3匹目は?−

テトラの上の雪が気になって場所の移動に難渋しながら、

それでもすぐあたりがありました。

雪は完全に止んでいましたので竿先もはっきり

見えていました。竿先を押さえ込む”締め”です。

すかさず強あわせで、又々ファィトへ。この敵は穴から

引き出してやると水面をばしゃばしゃしていますので

楽にタモ入れ。
(1匹目の経験で強めにファィトしたのかなぁ!36cmでした)

しかし、ここでちょっと困ってしまった。

この時ストリンガ−は1つしか持っておらず、

自分のトリンガ−の所に戻るには少し遠く

悩んだ末、釣友のストリンガ−を思いだしTELで

「もしもし、どない?」

「なんや!ちょいちょいTELすんなよ、気が散るなぁ。」

「わりいけど、ストリンガ−使わせて。2枚目のチヌ

入れても良い?」

「勝手に使えや!」

「あんがとさん」

と言うことで、釣友のストリンガ−を借りて2匹目をKeep。

再び釣行の再開です。

今度はなかなかあたり無くそろそろ寒さが身に浸みて

きた頃、竿に変なあたりが。

「ごつ!ごつ!ごつ!」って。

「大胆やな!」であわせると、今度は締め込み無く

「すっ〜」と上がってきた途中ちょっと抵抗したものの

上がってきたのは「ポンには届かぬアブラメ(28cm)」

でした。

これも、釣友のストリンガ−にかけました。

何故かって。だって、あたりが途絶え緊張が少し途切れて

いた時に「アブラメ」の釣果。

外道とはいえ、美味しそうな晩飯のおかずです。大事にね。

今度は釣友からTEL

「3匹目か?」

「あっ!見てた。違うよアブラメだよ!」

「タモ入れしてるから3匹目かと思ったよ。おどかしやがって」

この後あたり、釣果無く、釣友と2匹づつの引き分け。

(但し、アブラメ分だけこっちの勝ちと独り合点)

12時ころには、お日様も顔を出し、積った雪も溶け

仲良く(?)釣果をぶらさげて帰路につきました。         

                       以 上


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