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会報No.10 −無色な孔雀が舞ひ踊ってゐる−目次
- 第10回例会報告
川崎 貴 - イーハトーブの光と風−イーハトーブ便り−(8)
森永 敦子 - 蔵本案内H
杉澤 法広 - タイトル雑録(9)
杉澤 法広 - 編集後記
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第10回例会報告 |
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去る1月18日(土)午後2時より第10回例会がありました。今回は、昨年の神戸セミナ−のビデオを観る関係で、場所は神戸山手女子短期大学文学部講義室をお借りしました。
セミナ−のシンポジウムでの西田良子氏の講義をビデオで観賞した後、話し合いに入りました。参加人数は11名でしたが、昨年のセミナーをきっかけに参加された方が3名あり、その中には京都から来られた方もありました。皆熱心な賢治作品の愛読者で、それぞれの立場から賢治との関わりを語って下さいました。
セミナーでの発表は、当日は係など所用のため落着いて聴くことができなかった人も多かったので、改めてじっくり聴くこととなりました。「宮沢賢治受容史」ということで、例会の席上に貴重な資料、十字屋書店版『宮澤賢治全集』や『宮澤賢治名作撰』(羽田書店)なども持ち寄られました。西田氏のお話は限られた短い時間の中で、賢治の評価のされ方の変化を受容史として示し、それを踏まえて『これからの賢治』ということを考えていく時、生誕百年のうねりの中にある今とそして21世紀に突入していくこれからの時代に、「賢治の軌跡の延長線上に何があるのかを捉え直してゆく」ことが課題だと語り、シンポジウムをまとめて下さいました。
こうやって受容史としてみてきますと、賢治の評価のされ方やその拡がりといったようなものが改めてよく分かります。生前賢治の作品は、全く社会に受け入れられていなかったわけではなく、その受容史は生前に始まっています。一部ではありますが、当時の新しい詩人たちの絶賛の言葉を得ていますし、年譜などを見ましても、あちこちの同人誌から原稿の依頼を受けています。「新しい感覚」としての高い評価はあったようですが、ただ専ら詩に関する評価で、『春と修羅』と前後するように出版した『注文の多い料理店』に対する反響はあまり聞いたことがないように思いますが。
没後宮沢清六さんや熱心な支持者の努力によって、改めて賢治の作品が世に出ていくことになったその功績は非常に大きいものがあります。さらに西田先生がお話の中で、賢治没後2年目に「宮澤賢治研究」という、曖昧な「愛好」ではなく「研究」を目的とした機関誌が発刊されたということは、すでにその魅力が楽しむだけでは済まされない奥の深さ、難解さゆえの必然にあったと指摘されたことは興味深いことでした。
その後受容史で特筆すべきことは戦前戦後の国策に則った『雨ニモマケズ』の作者としての偶像化の拡がりですが、聖人としての賢治像はその後も長く尾を引いて、親達の間では「立派な人の書いた童話だから、子供たちに読ませよう」といった風潮が存在して、童話作家としての地位が確立したのではないか、とも思います。
やがて、いろいろな角度から実証的に検討しようという研究者たちの努力によって、人間宮沢賢治の姿が浮かぴ上がってきて、賢治像の巾が拡がり、異塙を含めた膨大な資料の点検によって、より一層賢治の真の姿に近付けるようになったといえましょう。
今回の例会では、「風の又三郎」の劇団東童による劇化や、島耕二監督の映画化での賢治作品の普及の効果や、朗読や絵本について、その他諸々話し合われました。
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イーハトーブの光と風−イーハトーブ便り−(8) |
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皆さん、寒いですがお元気ですか?
でも、こちらと違ってそんなには寒くないのかしら。今年は去年に比べるとまだまだたいしたことはありません。雪も全体的に少なく、小岩井の雪祭は雪が足りなくて、雪像のサイズが随分と縮小された?みたいです。
この冬は弘前の雪灯籠祭や、秋田角館の火ぶりかまくらなど、県外の雪の祭を見ることができました。どこも雪が少なくて大変だった様です。といっても岩手、盛岡と比較すれば、十分ある!と思うんですが……。
で、雪といえば前回宣言したスキー。今年の目標のパラレルは、いきなり割り当てられたスキー場の撮影で、練習どころではなくなりました。そうです、撮影する側にとってのスキーはスポーツではなく単なる雪の上の移動手段です。
私たちは取材できなかったのですが、雫石ではスノーボードのWorld CuPが開かれました。関西からはどうしても信州方面へのスキーツアーとなってしまうのでしょうが、岩手にはパウダースノーの設備の整った大型スキー場がたくさんあります。ぜひ冬の岩手にもおいでください。
ではここで、ちょっと話題を変えて……。盛岡にある盛岡劇場のタウンホールで、月に一度くらいの割合で盛劇ライブが行なれわます。一応オーディションというのがあるそうで、なかなかレベルの高いバンドが出ています。先日はJJRというバンド、ジャズ系のバンドですがボサノバやラテンもやってくれて大人の音楽を聴かせてくれる、なんかほっとする感じのグループでした。飲み物付きで¥1,000というのはとってもお得!でも何故か客は50人前後。運営予算は、はっきりいって税金です。う−ん、すごく上手いし、もっとたくさんの客に来てもらいたいイベントなのに、やっぱり駐車場がないのが問題かなぁ、などと思いつつ調光ブースからみていた私でした。
さて、先日は春を思わせるドカ雪の降った岩手ですが、次のレポートはダウンジャケットを脱いで、春の訪れをお届けできればいいなと思います。では、今回はこれまで!
お正月、森永さんに1年2ケ月ぶりにお会いしました。以前より製作していた東山町のビデオが完成したので、帰省がてら持ってきて下さったのです。帰省したのも1年2ケ月ぶり、ご両親に会うのも1年2ケ月ぶりだったそうです。
岩手の方言のこと、北上市周辺各地に伝わる鬼剣舞について、また盛岡市民あげての盛岡八幡宮のお祭の様子など楽しそうに語ってくれて、すっかり岩手県民になっているなぁという印象でした。
ところで、前述しました森永さんプロデュースによる東山町のPRビデオ『グスコープドリと猊鼻渓』をご覧になりたい方は川崎まで。(川崎)
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蔵本案内H
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長野まゆみ著『カンパネルラ』河出文庫文藝コレクション
今回は少々目先を変えて、作品でも作品論でもない本−を紹介してみたいと思います。
『カンパネルラ』長野まゆみ(河出文庫文藝コレクション)。
この人も (多分)相当な賢治さん中毒なのでしょう。それも、おそらくは賢治さんと同じような視点を持っている人なのだろうと思います。
もとより、カンパネルラとはジョバンニの親友の彼の事です。その彼より受けたイメージを基にして構成されているのがこの小説です。そのせいなのでしょうか、無性に哀しいのです。カンパネルラの哀しみを小説にしたとしたらこうなるのだろう、としか僕には云えません。言葉足らずかも知れませんが、これ以上適切な言葉が見つからないのです。何しろ一回通読した後、もう一度読む為には相当な勇気が要るのです。哀しみを乗り越える勇気が。
残される悲しみもあります。そしてその裏には去りゆかねばならない哀しみもまた、あるのです。いちばんのさいわいに至るためのかなしみとは、どちらなのでしょうか?
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タイトル雑録(9) |
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しつこい様ですが僕は今も又三郎のマントを探しているのです。似た様なものは見つかるのですが、中々本物は見つかりません。
無色な孔雀もその似た様なものの一つで、これは主に都会に多く生息しています。昔は大空をゆらゆらと舞っていた様ですが、最近は都会に順応したどこか合成樹脂めいた品種が幅をきかせています。古来の品種は心象エステルで構成された優しい気性の持主で、人間と上手に共存していたらしいのですが、現在主流の品種は人々の間を舞っては壁をつくり、そして尾羽に付いた無数の冷たい眼で心の温もりを吸い取ってゆくのです。
賢治さんが生きていた時には居なかった品種が生まれ、そして野放しにされている。これは進化の姿なのでしょうか?それとも………。僕には判りません。
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編集後記 |
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- 「神戸セミナーの全記録集」刊行に向けて妹尾良子さんがテープ起こしをして下さっています。他にも協力して下さる方がありましたらよろしくお願いいたします。また、この全記録集の編集もお手伝い下さい。お手伝いしていただける方は川崎までご連絡下さい。
- 神戸セミナーのビデオの頒布(原稿)、貸し出しをします。ご希望の方は川崎まで。
- 今年の賢治祭に一緒に参加しませんか(9月21日)。今年は9月21日が日曜日で、22日をはさんで23日は祭日なので20日の土曜日も利用して22日になんとか休みを取れば4連休となります。ゆかりの場所などもついでに立ち寄る余裕も多少はあるのではないかと考えていますがいかがでしょうか。一度旅行日程を組んでみますので、詳しくはその後に。
- もうご覧になった方もおありでしょうが、信時哲郎さんがインターネットにホームページを開いています。神戸セミナーのページもあり、信時先生の論文まで読めてしまうとてもお得なホームページです。
- 会報に投稿して下さい。硬軟、長短問いません。また、会およぴ会報にご意見ご感想をお寄せ下さい。提案、苦情大歓迎です。
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