
|
長きにわたった公演も、本日をもって大楽を迎えた。これだけ長い公演なのに、今までの 藤原参加公演に比べて、私の観劇数はぐっと少なかった。 理由その1.これだけ重いテーマを扱われると、「つい劇場に通う」というような感覚には さすがになれなかった。理由その2.結局のところ、好きか嫌いかと問われれば、好きな 方の作品ではない。好みというのは実に個人的なものなので、自分の庭であるここにし か書かないことにする。これは『オイル』という芝居のあくまで個人的な感想文なので。
今日の席は前から2列目だがかなりの端だった。藤原クンを見るにはおいしい場所でも あったが、舞台全景がわからず、後ろのセンターあたりで見るのとは芝居全体の感想も 変わるような気がした。 千秋楽だからといって趣向をこらしたりおふざけが過ぎる芝居も時にはあるが、私は出来 るだけいつも通りにやってほしいと常々思っている。特別なのはアンコールだけでいい。 神様役の一人が刀を客席に落としたが、あれは絶対にあってはならないことだ。笑って 済ませることではない。 ところで、野田秀樹は自分の台詞になるとどうしていつもああデフォルメしてしまうのだろ う?自分の書いた芝居を自分で演じる照れのようなものがあるのだろうか?ふにゃふにゃ としたもの言いは台詞をきちんと伝えず、私のような堅物にとっては不快でさえある。
藤原竜也に関しては、いくつかの課題を残した作品でもあった。彼はここまで動き回る芝 居を今までやったことがなく、次から次と噴出してくる汗が自分でもやっかいだったに違い ない。流れる汗が目に入るために顔をしかめ表情が曇る。これはマイナスだ。どんなに汗 をかいても、汗をぬぐうことなく芝居が出来る術というのはあるような気がする。 蜷川作品を中心とする彼の今までの芝居は情念の芝居であり、俗に憑依系と評される演 技は、三島や寺山の世界に非常に自然に同化していた。「エレファントマン」は静かな芝 居ではあったがそれでも精神性の占める部分が多く、私を含めて彼のファンはそういう彼 の叙情的な演技を好む人が多いと思うので、今回は客の側にも戸惑いがあったような気 がする。 もう少し端的に言うと、憑りついた演技というものは印象に残りやすく評価を得やすいが、 もう一段ステップアップするためには苦手なコメディをやるしかない、とファンも薄々思い 始めていた。今回は絶好のチャンスだったと思う。彼の苦手とするテンポのいい笑わせる 芝居。「へらへらした兄ちゃん」を演じることが、彼にとっては意外なくらい難関だったのだ。 劇団新感線の橋本じゅんさんという良き相棒を得て、学んだことは多かったと思う。客を 楽しく笑わせるためには絶妙の間と体の柔軟性と意外性が必要だということを、身をもっ て知ったに違いない。まだまだだと思った方(私も思ったが)、いつか必ず何倍かにして返 しますんで、今日のところは将来に投資したと思って見守ってやって下さい。ええ甘いです。 好きですから。 今回は叫ぶシーンが多く喉を傷めてしまったことも大きな誤算だったと思う。基本的な発 声法を知らずに声を出しているからだという指摘も多い。もともと低くざらついた声なので 決して硬質の強い喉でないことはわかっていたが(そういう声だから好きというのもある) あそこまで掠れると聞きづらい。痛々しいと客に思わせてはプロではない。今日もずいぶん 気をもんだが、野田さんの声の方が悲惨だった。あれでは注意も出来ないだろう(笑)
以上、愛するが故の苦言も呈した。しかし彼のハードルはもともと高いので、決して今回の 芝居がダメだったわけではない。 アンコールで橋本さんに肩車されていた。軽いのでひょいと担がれて可愛かった。いつも 思うが共演者に愛されているというのがよくわかる。これは彼の人徳である。笑うとまだ子 供みたいなところがあって少しほっとした。何と言ってもまだ21歳なのだ。 さあ、次は蜷川「ハムレット」だ。彼にとってシェークスピアは初めてだが、どちらかというと 古典の似合う人なので、私は期待しまくっている。私の大好きなシェークスピアの、その中 でも一番好きな「ハムレット」だからね、下手にやったら許さないよ(笑)
|
|