シャルル・ザ・ダークネス
第三話 夢幻回廊
・・・夢を・・・見た。
殺戮・・・・淫奔・・・・怠慢・・・・人の本質・・・お前もそうなのだ・・・・シャルル。
・・・・・そう闇だ・・・。
目の前の俺がそう告げる。
俺に。
鏡くらいでしか見たことのない自分が俺の目の前で、俺の意志とは別の行動をとる。
見たこともない少女の服を剥ぎ取る。
止められない。
人の本質は正義なのだと、自分に言い聞かせる。
しかし、目の前の俺は、その手を休めない。
・・・止めてもよいのだよ・・・シャルル・・・お前が望むならな?
止めなくては・・・
「やめろ!」
・・・・・・・・・。
目が覚めていた。
また夢の中の自分を止めることができなかった。
夢の中だから。
自分に言い聞かせる様用に問いかける。
答えがでない。
考えるのは、得意ではない。
しかし、5年前の自分なら間違いなしに止めているであろう。
あの事件が起こるまでは・・・。
床の上で誰かが寝ている。
??なんでアリスがここにいるんだ。
かわいい寝顔にさっきの悪夢が消えていくようだった
宿屋の主人、ロックは、絶対侵入者は居ないって言ってたのにな。
彼女をベットに寝かせ、いくらかのお金と手紙を残し、宿屋を後にした。
自分の顔がゆるんでいることも気づかずに。
私の家は、特に裕福でもなければ貧しくもない。
いわゆる、中流階級というやつだ。
良くもなければ、悪くもない。
特に幸せでもなければ、不幸でもない。
そんな家に生まれ育ってきた。
その中にも、沢山の幸せがあることも知らずに。
退屈な日々を送っていた。
そんな、退屈な日々から救ってくれるのは、一つ上の兄だった。
私の兄弟は、3人で私は一番下。
一番上の兄は、商才があるとかで家を継ぐべく、商いを学んでいた。
一つ上の兄は、剣の腕をいかし冒険者をしていた。
父に言わせれば、ただの社会不適合社らしいが、兄の心配しての言葉のようだ。
そんな兄の武勇伝(ちょっと大げさ)を聞くのが楽しくて仕方がなかった。
月に一度帰ってくる兄の話は、退屈な暮らしの中で唯一の救いだった・・・・あの日までは。
冒険者を目指すが父に堅く禁じられたが、いつか旅立つ日を夢見剣の修行に励んでいた。
そんなある日、兄が帰ってきた。
時に、シャルル16歳。
疲れた顔の、兄に夜中まで冒険の話をせがみ、床についたのはもう夜中だった。
その日は、興奮して眠りが浅かったせいか、小さな悲鳴を聞き逃さなかった。
・・・むしろ聞こえなかった方が幸せだったかもしれない。
俺は、剣を持ち声のしたほうに音を立てないようにかけていった。
村(町?)はずれの茂みでかすかに声がする。
ゆっくり近ずくとその茂みの中に兄がったっていた。
兄さん?・・・。
小さな声で問いかける。
手には、剣を持っていて切っ先は足下の藪に向いていた。
なに食わぬ顔で、兄は言う。
シャルル。お前も悲鳴を聞いたのか?
少し低めの声で。
その次の瞬間茂みから人影が私に飛びついた。
?!アリス(許嫁)。
顔に殴られた後があり、服もほとんど破られていた。
見てしまったのか。
兄の声がする。
次の瞬間!兄の大剣が頬をかすめる。
殺やらなければ殺られるぞ。
声が響く。
どう考えても兄には勝てるはずもない。
しかし夢中で剣を突いた。
最初の一撃がいとも容易く兄の厚い胸板を貫いた。
兄さん!!
思わず叫んでいた。
口から血を流しながら兄が俺を制した。
「今は黙って聞いてくれ。」
あまりに優しそうな声と、幸せそうな顔に俺は恐怖に似たものを覚えた。
「最後にした冒険のことを話していなかったな。
俺たちは、6人で冒険していたその中には、結婚を約束した女も居た・・・。
この仕事が終わったら、一緒にこの村(町?)で結婚式を挙げようとおもっていた。」
遠い目で話し続けた
「大規模な、山賊狩りだった。ふたを開けてみれば立場は逆だった。
依頼主が山賊だった。・・・・・くくく」
顔つきが一変して卑屈な笑みを浮かべていた。
「町を出て3日ほどした夜に振る舞われた酒に・・・眠り薬が入っていたんだよ」
「たらふく酒を食らった俺はなかなか目を覚まさなかった・・・・。」
「目を覚ますと、そこは地獄のようだった・・・そのときアイリは
男たちに慰め者にされていた・・・・」
「幸いにも、俺はまだ命があって縄を抜けることもできた・・・」
「こっそり抜け出して、武器を取り片っ端から切ったよ。
体は、焼けるように熱く、頭の中が真っ白になっていた。」
「くっくっくっ。その時によ、山賊の頭首がよアイリを人質に取ったんだ。
この娘の命が惜しいければってな。」
兄さん!無意識に叫んでいた。
「俺は目の前が真っ暗になるような感覚におそわれた。
おれは..おれは...闇を見た人の奥底に眠る...
本質を..闇を見たんだ。」
恐怖!兄の心を体を魂をその感情が支配していた。
おそれる物などなにもないそういっていた兄を恐怖が支配していた。
「視覚が戻ったとき、ためらわずに剣を振り下ろした。
正義のためにこの身を尽くそう、悪と戦おうそう誓っていた。
「何者にも屈しない、そう思っていたのに、闇に屈した。
愛する者にさえためらわず剣を振り下ろしたのだよ。」
「その後はひどいものだ。そこにいる者すべてをこの手にかけ
残りの財宝をいただき・・・なに食わぬ顔でここに戻る。」
兄さん・・・。
再び声に出した。
「シャルル、負けるなよ。真の正義などどこにもない。
そして誰の心の中にも闇がある。
しかし自分を信じ続けろ、自分の進む道を・・・
それもすべてきれい事だがな。」
その後、血を吐きながら狂ったように笑いながら死んでいった。
そんな兄の傍らには見たこともない黒い大剣が落ちていた。
・・・・・・闇、兄はなにを見たのだろう。
すべてを父に告げ、次の日は兄の葬儀が行われた。
手元に残ったのは、兄の大剣だけだった。
この剣で兄は狂ったのだろうか?
魔術師に見せもしたが、呪いはかかってないらしい。
手がかりはなにもなく、表面上平穏な日々が戻ってきた。
シャルル18歳誕生日前月。
俺は、家を出る準備をしていた。
兄の見てきたもの、感じてきた者を知りたかった。
そして兄の言った・・・・闇さえも。
今月家を出ようと思ったのは、ワドロー家には18歳までに結婚できなかった者は親の決めた許嫁と結婚しなければならないというしきたりがあるからだ。
あの事件以来、鍵屋のアリスは俺にべったりだ。
別に嫌いではない、むしろ好意を抱いている。
見た目(人によるが)もさることながら、料理も抜群、鍵屋としても有能(これはどうでも良いが)。
ただ、親に決められて結婚というのと、冒険者になっていつ死ぬかわからない暮らしを
望んでいる俺にはすぎた子だと思ったのだ。
夜が明ける前に、町を出た、兄の形見、黒き大剣を携えて。
短い手紙を残し。
かわいい追跡者がいたとは夢にも思わずに。
時にアリス15歳の春だった。
そして現在未だになにもつかめていない。
もしかしたら、あれは兄の狂言だったのだろうか?
まだ先は長そうだ、しかしいかなる時も自分を強く持とう
誰も証明できなくとも自分の正義を貫こう。
それが兄に近ずく唯一の方法だから・・・俺は考えるのが苦手だから。