maltreatment
     〜虐待〜


私は自分が嫌いだった
自分には生きる価値もなく
ただ息をする人形そう思っていた
いや・・・
そう思わないと生きていけなかった・・・

中学二年の夏
それは暑い日の夕方だった
その日、私は大切な物を失った
遅すぎる初恋と心
ついでに貞操・・そう、ついでだった。
この日から私は死んでいた
その代わりいくつかの物をもらった
人間不信・男性恐怖症・・・・etc
逆らうのが怖くなった・・
あの夕方、抵抗した私は、ひたすらたたかれた
泣いても、止まらない
抵抗することを拒絶され
私は、自分で自分を殺した
その時知った、心を閉ざせば
どんな現実も消えて無くなることを
貝殻のように心を閉ざし
言われるままにすれば
心も体も痛くなかった
周りの人間が私のことをなんと言ってるのかも知っていた
言われれば何でもするのだ
・・・でもやはり痛くなかった。
時には、快楽におぼれたときもあった
高校にはいる時、なるべく遠くの学校にした
まだ心が死んで無かったのだろう
この世界から逃げたい
そう思っていたのだ
でもふたを開けてみればあまり変わらなかった
毎日のようにかかってくる電話・・・
帰宅途中・・・
何か、何かきっかけがほしかった
この嫌いな自分を殺してしまいたかった
生きてることが辛くて心を殺した自分
その自分を殺してしまいたいほど自分が嫌いだった
そんなことを考えていた時にあの人に出会った
そう、高校1年の夏

暑い日の夕方だった
私は急いでいた、今日の晩ご飯を作らなければならなかったのだが
雑用を押しつけられやはり断れなくて遅くなってしまった
廊下をてけてけ走っていて曲がったときにぶつかったのだ
大きな壁に

・・
・・・壁?
それは、あまりに大きな男の人だった
大きな男性
それだけで、私を行動不能にするには十分だった
その人は、いかにもおっかなそうな感じがしたのだが
「怪我は無いかい?」
優しそうな声だったので驚いた
怖くてうつむいていた顔を上げると
すぐ目の前に先生の顔があった
整った顔・・
確かこの人は物理教師の城上先生
友達がいないので良く知らないが
影で女生徒に人気らしい
彼が、私の目をのぞき込んでこういった
「また押しつけられたのか?そんな風に何でもはいはい言ってると自分がかわいそだぞ。」
驚いた、この学校に入って初めてかけられた優しい言葉
「静桜だったかな?お前、自分が嫌いだろう?」
先生の目に私の目が映る
・・・同じ目だでも何か違う?
「今は壊れたフリをしているみたいだが、いつか本当に壊れるぞ」
私の心はすでにここになかったが先生は話し続けた
「心は、弱いようで強く、強いようで弱いからな」
そういった先生の瞳の奥に何かが見えた気がした
光?
この人は・・・王子様
そう思った、人に言ったらきっと笑われると思う
話す人もいないが・・・
私は、自らの意志で毒のリンゴをかじったお姫様
いつか、王子様が助けてくれると思っていたのっだきっと
そして先生は王子様・・・やっと出会えた
我慢できずにその場に再び倒れ込み泣き崩れたしまった
出会えた喜びと確かな希望に
「どうした静桜、先生変なこと言ったかな?ちょっとキザっぽかったけど」
心配して声をかけてくれる
「さ、さまさまです」
普段からどもる癖があるが今は更に聞き取りにくい声になっていた
「ん?なんだそれは」
「さ、さまさまと呼んで下さい」
変なことを言っている自分でも解っていた
「見た目にぴったりの可愛い愛称だな」
きっと馬鹿なされるか軽くあしらわれるかと思っていたのだが
違った、やはり私にとって王子様なんだこの人は
「せ、先生?」
まだ止まらない涙を拭いながら先生のことを呼んだ
「何だ?静桜?」
違うよ、先生・・
「違いますう、さまさまです」
「そ、そうか・・・さまさま」
なにかそれだけでも幸せな気持ちになれた
「私強くなりたいんです」
私の手を持って起こしてくれながら
「そう思うだけでも良いことだ、先生に出きることなら何でも言ってくれ」
そう言ってくれた。
「せ、先生お願いがあるんです」
何でも言ってみなさいといった表情の先生
「一度でいいんです、せ、先生に」
そこまで言ったが本当に言って良いのだろうか?
「どうした、しず・・さまさま?最後まで言わないとわからないぞ」
勇気を振り絞って言う決心を付けた
「だ、抱いてほしいです」
男性にこんな事を自発的に言ったのはもちろん初めてだった
言わされたことはあるが・・・
これ以上ないと言った感じで心臓が暴れる
先生は困った顔をしている
やはり教師にこんな事言っても拒絶されても仕方がないか
でも、先生に抱かれたら強くなれそうな気がする
「いや・・・ですか?・・やっぱりこんな汚れた私なんか・・・」
複雑そうな顔をしていたがふと笑顔に戻る
「先生の部屋で良いか?」
驚いた顔をしていると
「この場で抱きしめてほしいって事ではないのだろう?」
笑っているが、目は真剣そのものだった
「は、はいっ!」
たぶんそのときできる限りの笑顔をしていたと思う
そしてきっと自分は変われると信じて疑わなかった。
その夜、人目を忍んで先生の部屋へと向かった


城上のマンション10時過ぎ

ここが先生の家・・
震える指でインターフォンを押した
ドアの向こうから微かにチャイムの音が響く
そしてすぐにドアが開いた
「早く入れ、しず・・さまさま」
恥ずかしそうにさまさまと呼んでくれる先生に招かれて
中に入った。
中は、暖房がきいていて暖かい
先生は、ジーンズに上はタンクトップだけだった
大きな背中・・・
鍛えられた筋肉・・
思わず抱きついてしまった
「せんせい・・」
「おう?どおした、さまさま。いきなり抱きついて
 さまさまは甘えん坊だな?」
優しい声が背中を伝わって私の体を伝わる
「大きくて、暖かいですね」
「まあ、暖房のきいた部屋にいたからな」
違うよ先生、そんな意味じゃない
「私変われますか?」
「変われない人間なんかいないよ。後は本人の努力だな」
「先生、頑張る力を下さい」
力一杯先生に抱きついたが簡単にはがされてしまった
こちらに振り向いて先生の顔が私の高さまでおりてきた
「さまさまは、自分のことが嫌いだといってたな?」
「はい、嫌いです・・大嫌いです」
先生は優しく微笑んでこういった
「それは、間違いだよ。
 自分が嫌いというのは裏を返せば自分が好きだと言うことだ
 どうしようもなく、自分が嫌いだということは、
 本当は、どうしようもなく自分が好きだと言うことだ
 だから、駄目だと思う自分が嫌いだと感じるんだよ
 もっと自分を大切にして自分の足でしっかりあるないとな
 自分の意志で」
ショックだった自分嫌いは自分が好き・・・
考えもしなかったそんな事
「せんせい・・・」
そうつぶやいて先生の胸に顔を埋めて泣いた・・・
涙が止まらなかった
私の顔を
優しい先生が好き
でもきっとこんな事は今夜だけそういう約束だから
大好きな先生を困らせたくないから。

続く

戻る