背中と頬
桜舞う季節、私はこの季節が好きなのだ
新しい予感、新しい世界、新しい出会い、新しい生活
そして今、私の新しい世界と生活が始まる
家が近い事と、お父様が学長と知り合いだったこともあり、
私は”私立聖華学園”の英語教師になることができた。
念願の夢が叶ったのだ
そこで一人の男性に出会ったの
見たこともないような大きな人で
その体格だけで圧倒されそうになったの
この人はどんなことを考えているんだろう?
あの力は、生活になれるにしたがって意識しないと出ないようになっていた
自発的に人の心の中を覗こうと思ったのは初めてだった。
・・・何も見えない?
ただ、ぽっかりと胸の真ん中に穴があいているように見える。
この人はいったい?
「どうかしましたか?時林先生」
私はどうも、隣に座っている城上先生のことをじっと見つめていたようだ。
「そんなに珍しいですかね?」
体が大きいのが珍しくて見つめていたと思ったらしい。
「そんなに、珍しそうに見てましたか?」
思わず顔が赤くなるのが自分でもわかった。
「珍しいというか・・まるで心の奥まで観察しようとするような・・・」
その言葉を聞いて驚いたまさか知っているの?
「何にかそんな感じでしたね」
そう言って軽く口元に笑みを浮かべた
「それに・・・」
そう言いかけてやめた・・・き・に・な・る
「何でしょうか?」
どうしても続きを聞きたかった。
「いや、大したことではないんですよ。ただ、美人に見つめられるのは悪くないなと・・」
その言葉を聞いて私は顔をさらに赤らめた。
「気を悪くしたらすみません、でも聞いたのは時林先生ですよ。おや?」
その時予鈴がなった。
授業の用意をして足早に教室へ向かった。
こんな赤い顔では恥ずかしくてまともに話ができないからだ。
あれから何日たっただろうか?
人の気持ちが分からないというのは、これほども楽しいことだったのだろうか?
わからないから警戒し、そして心を見られるようになり、そして人との関わりを減らした。
そんな自分が、相手のことがわからないということを楽しんでいる。
相手の表情、話し方、ちょっとした仕草、それを観察して相手の考えを想定して楽しんでいる。
いつしか私の心の中はあの人で一杯になっている。
そう、城上貞守その人である。
きっとこれは、私の初恋。
遅すぎた初恋。
「20を過ぎるまで恋などしていないと妄想の住人になってしまう!
実践がないためあれやこれやと空想の中で経験するのだ!」
友人に言わせるとそんな人が”私設!愛こそ全て教の教徒”になるそうだ。
わたしは、やばいらしい。
それでもかまわないなんて思うことが最近よくある。
そんな事を友人に話すと、その人に彼女なんかいたらナイフでぶすっとやっちゃうんじゃない?
なんて言われたが、そこまでひどくないと思うたぶん。
それでも、よくわからない表情が一つだけあった。
その表情の時だけ彼の胸の穴が大きくなったように見えた・・・何だろう?
そんな毎日を過ごす中一つの計画を立てていた。
告白するのだ。
今までしたことはないが今ならできるような気がする。
この機会を逃したら二度とこないような気がした・・・焦っているだけだろうか?
そして放課後
「あ、あの城上先生」
妙にトーンの上がった声で話しかけてしまった・・しまった〜
しかし、落ち着いたいつも通りの声で返事が来た。
「何でしょうか?時林先生」
やはり面と向かって話すと落ち着かない。
もじもじしながら話しをつづけた
「こ、今晩お暇でしょうか?」
やはり話し方がおかしい・・・
「私はたいてい暇ですよ。何か用事でも」
「でしたら今晩少し飲みに行きませんか、色々伺いたいことがありますので」
こんな感じで良かったのだろうか?
昨日友達の知美とさんざん練習したのだが頭の中が真っ白になりそうだった。
「それじゃ行きましょうか、良いお店知ってますか?」
私は、友人に勧められたお店の名前を忘れてしまってつい知らないと答えてしまった。
「それでは、私の行きつけの店で良いですかね?そんなに遠くないんですが。」
「それで結構ですよ。私あまりそういう事詳しくないもので」
「後かたづけすまして6時頃に出ましょうか?」
「はい、ではまた後で」
・・・ごめん知美あの店には行けそうもないよ。
ふう、城上先生どんな風に思ったかな?
変な娘だお思われてないかな・・・心配だな。
同日カクテルバー「パナケイア」
「ここなんですがね、結構良い雰囲気でしょ?」
「ええ、何か落ち着きますね、お店の名前の意味はご存じなんですか?」
やっと自然な会話ができた、しかも知美の言っていたお店だわ。
「ああ、あれね。あれは、ギリシア語で万能薬と言う意味ですよ。マスターの受け入りなんですがね」
ふーんとうなずいてあたりを見渡した。
お酒を飲まない私にとってこういう場所は非常に珍しかった。
「奥の席に座りましょう」
城上先生に連れられて、お店の奥の席に向かった。
もしかしたら知美いるのかな?
あたりを見渡すと、その予感は的中していた。
城上先生に気づかれないように手なんかふっている。
席に着くとすぐにマスターらしい中年の男性が注文を聞きに来た。
「おや、城上さん珍しく女性同伴ですか?紹介して下さいよ。」
嫌味のない良く通る声で聞いてきた。
「同じ学校の英語の教師をしてらっしゃる時林優子先生です」
「初めまして、時林ともうします」
と、礼儀正しくおじぎをした。
「これはどうも、ご丁寧にマスターの谷幸志郎ともうします。ご注文のをうかがいたしましょう?」
城上先生はいつものとたのんでいる・・・格好いいな
「あの、私は・・・」
残念ながら、何が何なのかよくわからないどうしよう?
「あまりアルコールに強くないのでしょう?では、彼女にはこれを」
そう言ってマスターに頼んでくれた。
カルーアミルクらしいそれなら私でも知っていた。
注文を聞いたマスターはカウンターに戻っていった
「さて、何でも聞いて下さい明日は休日ですからね」
「せ、先生はどうして教師になろうと思ったんですか?」
とりあえず当たり障りのない様な質問から聞いてみた。
城上先生は少し笑って返事をしてきた
「建て前ですかそれとも本心ですか?」
思わず驚いた、まさか本人の口から”建前ですか?”なんて出てくるとは思わなかった。
「両方聞かせた下さい。欲張り・・ですかね?」
「そんな事無いですよ、そう聞いてくれるように言ってのですから」
うっやられた、そう思ったとき話し始めた。
「建前なんですが、人にそう質問されたときは物を教えるのが好きだと言ってます。」
なるほど当たり障りのない答えだな
「では、本心は何ですか?」
少し咳払いをしてから話してくれた
「寂しいからですよ」
「さみしいからですかー」
目線を遠くして語るように話し始める
「昔、俺は・・しつれい。私は父と二人で暮らしていたんです。
その時私は父を恨んでいた、今考えるとお門違いなんですがね。
その父が交通事故で死んでしまった・・・あまりにあっけなかった。
そして、恨んでいたはずの父の存在がどれ歩と自分にとって大きかったか知った。
生まれて初めて、孤独というのを感じましたよ、初めて。
しかし、学校に行けば人が沢山いる。沢山いるだけでも気が紛れた。
多くの友人に出会い、多くの女生徒つき合いました。もちろん、肉体関係もありましたよ。
それも、ひとときの安らぎに過ぎず、本当に孤独感を癒してくれることはなかった。
そして今、こうして沢山の生徒に囲まれて孤独感を紛らわせている。」
そこまで言って私に目線を会わせた。
「時林先生はどうして教師に?」
その問いに関しては、答えを用意していたがあえてこう答えることにした
「本音と建て前があるんですがどうしますか」
その言葉を聞くと、やられたなと言った表情で
「両方お聞きしたいのですが、欲張りですかね?」
と聞き返してきた
「かまいませんよ、聞いてほしいからそう言ったのですからね」
二人で、静かなバーの端で静かに笑った
「では私は本音からいきますね」
真剣な眼差しで城上先生が瞳を見つめてきた
「夢だったからです、教師になるのが。今時はやりませんかね?」
目線をそらさず真剣な眼差しのまま
「そんな事無いですよ、素敵ですよ。夢が叶ったと言うことですかね?」
「いえ、まだ半分です」
「半分ですか?まだ他にも」
「素敵な先生になるのが夢ですから、まだまだですね」
やっぱりここまで言うんじゃなかった、顔から火がでそう
「恥ずかしがることはないですよ、むしろ胸を張っても良いくらいですよ」
笑われるかと思ったらほめてもらえたうれしい。
思わず頬を赤く染めてしまった・・・
そう言い終わったくらいにマスターが飲み物を持ってきてくれので、
とりあえず恥ずかしさを、紛らわすためグラスに口をつけた。
それからしばらくは、当たり障りのないお話をしていたのだが、
あることに気が付いた、意識がハッキリしなくなってきた・・・ま〜ず〜い〜
まだ肝心なことを言ってない。
しかし、気が付いたときには遅すぎたようだ・・・
「城上さん落とすつもりじゃなかったんですか?」
「同じ学校の教師ですよ、酔わせたやっちゃたらまずいでしょう?」
「あんなに、胸も大きくて私なんかかなり好みなんですがね」
「そんな問題じゃない!だいたい女性同伴でここに来たことはないでしょう?」
「すみません、以後気をつけます」
何か、城上先生がマスターと話しているが良く聞こえない・・・
・・・・
・・・
・・?
なにか、頬をなでる風が冷たくて気持ちがいい
それに、微かな振動と大きな壁が暖かくて心地よい
・・・壁?
だんだん意識が戻ってきたようだ・・・壁?
ふと我に返ってみると、どうやら城上先生に背負われているようだ。
居心地がよいのでしばらくこのままでいよう。
そう思って、頬を城上先生の背中に当てたとき
「気が付きましたか?」
そう言う声が聞こえてきた。
「はい、少しだけ」
少し意味不明な返事をしてしまった。
「お酒かなり弱いんですね、もっと気を付けるべきでしたね」
優しい声をかけてくれる
「そんな事無いですよ。お酒に弱いのは私のせいですしそれに・・・」
そこまでいったとき気が付いた、先生の上着を私が羽織っていた
「それにどうしましたか?」
「寒くないですか?」
「背中が暖かいですよ。それより、はぐらかしましたね?」
顔は見えないが笑っているのがわかった。
「それより、建て前の方言ってませんでしたね。」
私を背負っているのに先生の足取りは軽い。
「そういえばまだ聞いてませんでしたね?是非聞かせて下さい」
「笑いませんか?」
少し悩んで笑わないと答えてくれた。
「城上先生に言うなら、貴方にに会うためです」
「ん〜微妙な言い回しですね」
「そうなんですよ、どう思いますか?」
「やめた方がいいですよ、私は悪い男ですからね」
「そうなんですか?」
「ええ、沢山女性を泣かしてきましたからね」
「それなら私も泣かして下さい・・・好きなんです城上先生のことが」
嫌味でない感じで笑った
「後悔しますよ、公にはつき合えませんしね。それでも良いんですか?」
「それは、了解していただけたと思って差し支えないんですね」
「そうですね。今は、フリーですから、でも後悔しても知りませんよ」
「後悔しませんよ、きっと。自分で選んだ人ですから。私こう見えても人を見る目あるんですよ」
そこまで言って周りを見渡すと家の近くの公園を通っているところだった。
「歩けそうですから下ろしていただけますか?」
城上先生は、私をゆっくりと地面に下ろしてくれた。
彼の顔を見つめるといつになく真剣な表情だった。
お酒の勢いであんなこと言ったと思われたのかな?
「もう一度だけ言いますよ。俺は、悪い男だ」
私は精一杯微笑んでこう言い返した
「それじゃ私は、愚かな女ですね?」
それを聞いた彼は抱きしめてくれた。
一言”馬鹿だな”といって・・・
初めて抱かれた男性の胸は厚くて広かった。
そして生まれてはじめ手キスをした。
軽いキスを・・・まだまだ子供扱いのようだった。
それから、一年近くたつが彼とはさして進展はない
知美に相談してみた・・・
「何ぃぃぃ〜〜!二十歳越えた男女が一年近くつき合って
一度もSEXしてないなんて異常だぁぁ〜!
何処か、おかしな所でもあるんじゃないのあの大男?
私だったら、こんな牛乳娘なら会って10分でホテル行きよ」
なんて、参考にもならないことを言いながら胸を触ってきた。
今度聞いてみよう、恥ずかしいけれどもも
続く