向日葵

    種を植えたんだよ
    何処に植えたんだい?
    目立たないところだよ
    日が当たらないんじゃないのかい?
    大丈夫だよ
    それなら安心だね

序章 〜新しい朝〜

気が付くと白い部屋の中に居た
窓は格子が付いていて扉は金属製だ
部屋には落ち着かせるためかミントか何かの臭いがするが
それが逆に俺をいらだたせた・・・
ここは何処だ?
たまに変な声が聞こえてくる
嫌な光景が頭をよぎる
鈍く光る鋼、不自然に白い肌、微かに膨らむ胸元は
彼女がすでに生命体ではないことを示したいいた・・
首筋に鋼が吸い込まれていく・・・
違う!違う!違う!
ふと我に返るとベットは変な形に変形していた。
不意に扉がたたかれ金属音がこだまする
「静まったようですね?入りますよ」
嫌な音がして扉が開くと30過ぎの頭の良さそうな男性が入ってきた
「初めましてかな?城上貞守さん」
妙に神経を逆なでるような声だった
「その通りだが、ここは何処だ?」
今まで疑問に思っていたことを聞いてみた
「病室ですよ精神病患者のね、私はここの医師です」
そう言って胸元の身分証明を見せた
「何故、俺はここに?」
「ここに至った経緯は存じませんが、心が病んでらっしゃる
 そうですね、原因は分かりかねますがいくつかの恐怖症が
 発生するような事件か何かにあったようですね?」
カウンセリングを受けた記憶はない、何故そんな事がわかるのだろうか?
「例えばこれです」
そう言ってナイフをポケットから取り出した
それを見た瞬間、俺の体いや心は瞬間冷凍されたように凍り付いて動けなくなった
額に脂汗がにじむ・・・
「おっとこれは失礼怖がらせてしまいましたね」
そう言ってナイフをしまう
「他にも、ネクロフォビアつまり死体恐怖症、
 他にも何かあるようなんですけどもよくわからないですね」
何の会話も無しに本人さえ自覚のないこともわかるのかこの男?
「あなたは教師らしいですね、もっとも精神疾患が経歴に付きましたので
 もうすぐ免許取消になると思われますがね」
嫌なことをさらさらという奴だ・・・一発殴っとくか?
「まあ、その話はどうでも良いんですけどね、あなたいったいどんな事件に絡んでいたんですか?
 一介の教師が、しかもあなたのような屈強な男がこんな小さなナイフを怖がり更には死体まで、
 確かに死体が好きという人は少ないですが、恐怖症が付くとなるとやっぱり普通ではないでしょう?
 あなたが狂ってナイフで殺人でも犯したのかと思ったのですがそんな事件は起きていない
 さてどういう事なんでしょうね?城上さん」
この男普通ではない
「あんたもエリオンの回し者か?」
それ以外には考えられないのだが
「ふむ、エリオンですか?存じませんなギリシャ系ですな・・毛織物・・・」
どうやら本当に知らないようだ
「組織か何かの名前ですかな?それとも人名?」
「質問は無しだ!」
冷たく言い放った
「手厳しいですな?ところで城上さんここから出たくないですか?」
「取引か?」
いかにも交換条件付きで出してあげましょうといった口調だ
「察しがいい、教師にはもったいないですな」
嫌味な声だ、好きになれそうにない
「嫌な奴だ、もう教師ではないんだろ。で、なんだ交換条件は?」
「簡単なことですよ、ここを出た後のあなたの行動をある程度監視させてもらいます」
「何のためだ?」
そう聞くと石上と名乗る医者は肩をふるわせてクックックとどちらが患者かわからない笑い方をした
「見たいんですよ、狂気の世界をね」
そう言って鋭い目でこちらをにらんできた
「私はこの病院の医院長の息子でしてね、三人兄妹の真ん中に生まれました。
 母は、私が幼い頃に寂しさのあまり薬物に手を出し狂って自殺・・・
 父は仕事一筋の人でしたからね、耐えられなかったんでしょう
 上の兄はあまり頭が良くなかったその為に受験で悩みやはり自殺・・・
 受験のプレッシャーは凄いらしいですからね
 妹は、ここの退院した患者に貞操を奪われこれまた狂って自殺・・・
 貞操観念の強い人でしたから
 母、兄、妹は狂って死んでいった。
 向こうの世界を見たんですよ、向こうをね!
 なのに俺はその心の傷が見えたのになにもできなかったっ!
 人の狂気の世界、心の傷は見えても自分はそこに足を踏み入れていない
 だから覗きたい狂気の世界をあわよくば自分自身のそれもね
 どうですかね?城上さんOKしてもらえれば出して差し上げますよ」
狂っている、自覚症状がないだけで狂っている。
しかし美味しい話ではあるな
「俺の生活に支障はないのか?」
「もちろんありません、一般公開も絶対にいたしません
 ただし、城上さん今は精神状態が不安定ですので
 あなた自身が一般生活ができるかどうかわかりませんよ」
外には出れるがそれ以外は知らないか・・・
「わかった、OKしよう」
「そうですか、なら服を用意いたしましょう。」
嬉しそうに部屋を出ていった・・・
また部屋の中に一人になり、もうあの頃には戻れないという実感がわいてきた
「優子・・・美由綺・・・・俺は・・・」

続く

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