清水響の回想録:環状列石編より
 

手紙は突然ポストに届いた。しかも、エアメール。勿論書いてある文字は日本語じゃなく外国語。残念ながら私の知識では、手紙の内容はおろか、差出人の名前すら解らない。しかも私には外国人の知人は………いた!リリィさん…(な訳ないか。外国に言ったなんて聞いてないし、手紙を出すような人でもないし)気になる手紙だけど読めなければ意味が無い。私の知っている人で、これを読めそうな人。学校の先生か久鬼さん、リリィさんぐらいかな。とりあえず封を開けることにする。「あっ!」
半分破れたのでセロハンテープでつなげる。これで大丈夫。文字をじっくりと見るとアルファベットじゃないみたいだ。学校に行く気にはならないし…。
「今の時間ならリリィさんいるかな?」
呟きながら携帯電話で電話をかける。コールを何回かかけるが出る気配は全くない。(寝てるのかな?)
「暇だから遊びに行ってこようっと。」
リリィさんの家のそばまで来て超能力で跳ぶことにする。果たしてリリィさんはいなかった。乱れたベッドと散乱した服(婦警、看護婦、セーラーetc)溜まった洗い物。
少し前までこの部屋にいた気配がある。溜め息をつきながら、部屋を片付ける。時計の長い針が一周するころにはリリィさんの部屋はキレイになっていた。帰ってくる気配もないので私も帰る事にする。玄関から出ようとして鍵が無い事に気づき苦笑する。もっとも鍵があれば超能力を使って部屋に入ることも無いけど。入って来た時と同じように超能力を使って外に出る。
仕方ないので学校に行ってみるけど、手がかりがあるどころか「学校へちゃんと来い」と説教されてしまった。結局学校では読める人が見つからず最後に思いつくのは頼れるお兄さん「久鬼さん」だった。放課後になったと同時に久鬼さんに電話をする。
「手紙、読んでください。」
「はぁ?」
うまく伝わらなかったようだ。外国語で読めない手紙が届き、知人に思い当たる人がいないことを伝える。久鬼さんも少し気になったようで、6時くらいに小暮さんの働く「来々軒」で待ち合わせをする事になった。店は込んでいる様子だったけど、苦労して一番奥のテーブルを確保する。少し待って久気さんは来た。私が何をしようとしてたか敏感に察知して、喫茶店へ場所を変える事になった。(何って合席で座ったおじさんの料理に念力を使ってゴキブリでも入れようかと思っただけ)
喫茶店に入り飲み物を頼んで問題の手紙を出す。久鬼さんはそれに目を通すと、事も無げに手紙の内容を教えてくれた。文字は古代ケルト語、差出人は涼方士、内容は3日後の飛行機でアイルランドまで来い、と。航空券も入っていた。
「空皇拳(くうこうけん)はこうやって、こう!」
後ろの客はゲームか何かの話で盛り上がっている。
「文に少し変な所がある。それに航空券だけでは飛行機に乗れない。この手紙をそのまま信用するのは少し危ないかもね。」(久鬼さんって頼れる上に親切だ)
航空券を見ながらパスポートを持ってない事に気づく。(能力を使って来いって事かな)
私の心は揺れた。
何時の間にか外は雨が降っていた。時計を見ると8時を少し過ぎていた。何も食べてないとお腹が主張するので、久鬼さんを誘って再び来々軒へ行く。雨のせいか、客はあまりいなかった。
「いらっしゃいまし。」
いつも通り小暮さんが応対してくれる。
「いつものでいいんだろ。」
注文を聞く前に厨房へ入り、料理を始める。いつも通りの小暮さんだった。2つ分の定食を運び終えるとカウンターに座り雑誌を読んでいる小暮さんに席を立った久鬼さんが何かを小声で話をしている。2人はある組織の退魔師らしい。ゲームみたいなお話だけど、私もその現場を見たし、既に足を突っ込んでいる。その時から私も普通の中学生じゃなくなったような気がする。2人は辺りに聞こえないような小声で話していた。仕事の話でもしてるのかな?
 どうやら手紙のことを話していたらしく久鬼さんは私の了承をとって小暮さんに手紙の内容を話した。
「助けに行くのか。」
小暮さんは涼方がまた捕まったと思ったらしい。どう返答すれば良いのか悩む。そこは久鬼さんがたしなめてくれた。久鬼さんは相当手紙を疑っているらしく、色々と調べたいらしいので、手紙を久鬼さんに預ける事になった。しばらくして店は閉店となり雨の振る中久鬼さんと別れ、帰宅する事になった。傘は持ってなかったので濡れながら帰る途中、ふと中学校の事が頭に浮かぶ。そして私の足は自然と学校の方へと向いていた。雨の振る中、シートがあちこちにかけてある校舎はかなり不気味だ。門は閉じて立ち入り禁止の看板が立っていたが、よじ登って乗り越える。
門を越えるとなんとも言えない雰囲気で空気が重い。(こういうのって瘴気って言うのかな)などと考えながら、携帯していたコロッケをほお張りながら校舎へ入る。少し警戒しながら廊下を歩いているといきなり真横から何かが殴りかかってきた。私はそれを軽々とかわす。(私ってスゴイかも)
そんなことを考えながら、殴りかかってきた相手を見る。オーガだった。(逃げれそうに無いかな?)覚悟を決めて戦闘体勢に入る。数十秒後、傷だらけの私と凍って真っ二つになったオーガがいた。
体が興奮しているせいか、傷の痛みを全く感じない。そして戦いで一時的に研ぎ澄まされた神経は、もう一つの人影を捉えていた。
その人影は私に魔法をかけようとしているらしく、手のひらを私に向けている。その手が一瞬光った!私はそれを避け、愛用の銃、レミントンデリンジャーを人影へ向ける。(敵?)
「僕の…僕のディが……。」
「貴方…誰ですか?」
銃口は以前として人影へ向けたまま。その人は黒づくめの服を着た若い男の人だった。
「僕の名前は鴉、闇鴉と呼んでくれ。」
銃口を向けられているのに全然気にせず話し掛けてくる。これが私と闇鴉さんとの怪しい出会いだった。
「怪我をしているみたいだな。」
<ディ>と呼ばれる回復魔法を私にかけてくれる。
闇鴉さんが言うには妖精が私の危機を教えてくれたらしい。妖精はフィリーと名乗った。フィリーと会話している内、士の事を思いだし、その事を聞いてみるが知らないと言った。
そして、そして偶然にも闇鴉さんもアイルランドへ行くらしい。
 ほとんど強引に話を進められ、、納得する間に闇鴉さんは去っていった。去り際に
「体育館には行かない方が良い。又、あんなのと出会う事になる。」
と氷づけのオーガを指差して言った闇鴉さんの言葉に不承不承従い門を出て、朝会えなかったリリィさんに電話する。手紙のことを話すとリリィさんは嬉しそうに手紙が見たいと言った。…久鬼さんごめんなさい。
 ハッキリ言ってリリィさんは久鬼さんに会いに来ただけだったらしい。私が会話に入る余地が無いくらい久鬼さんにホレてるみたい
「アイルランドに行きたいなら…。」
リリィさんは懐から私のパスポートを取り出す。久鬼さんに確かめてもらうと本物だと言われた。ここまで来て私も決心した。(旅行気分で行ってみよう)リリィさんからパスポートを受け取り家へ帰る。久鬼さんの部屋にリリィさんを残して…。
 翌日の朝、2日後の出発だけど、暇だしフェイントをかけて今日出発することにする。そして私はアイルランドへ飛んだ。
 アイルランドの空港に着くと見知った人物が2人いた。士と…闇鴉さん。士は最後に会った時より逞しく、別人の様になっていた。士は私を遺跡に案内すると言った。遺跡と言っても観光用の遺跡ではなく強くなれる場所。たどり着いた所はストーンサークルだった。この中に色々出るらしい。
 中央に立つと空間が歪んだような感覚の後私は洞窟の中にいた。後ろには陽炎のように揺らぐ空間がある。(本物のダンジョンだ。RPGと同じだ)感動している所に闇鴉さんが入ってきた。
 こうして2人の探索は始まった。途中、私の能力が暴走したり妙な楽団が凍った回復の泉で演奏してたり、日が沈まないと開かない扉に鷲の羽と蝙蝠の羽を描いた店。要石(かなめいし)と呼ばれる石が置いてある部屋。色々な所を探索していると2つの人影を発見する。その人影は久鬼さんと小暮さんだった。お互い驚きの再会だった。何故こんな所にいるのか話をする暇も無く闇の中から純白の翼を持つ者が現れる。
「来たか…」
「やれやれ…」
そんな表所を久鬼さん、小暮さんそして私も浮かべる。《アークエンジェル》そう呼ばれる者が3人、その後ろにいつかの《プリンシパリティ》が苦笑いをして近づいて来る。
 何回か言葉を交わしたこともあるが、その度に結果は同じだった。私の言葉は相手に届かず天使の言葉は理解できず、邪悪な者と見られ戦いになる。そして今回も…例外ではなかった。
 久鬼さんは仲魔を召喚し指示を出し自らもアークエンジェルに斬りかかる。小暮さんはブフと呼ばれる氷結系の魔法を相手に放つ。私も得意の能力を使い、闇鴉さんは…良く解らない。
 力、そして能力の差は歴然のはずだった。けど全然怖くない。むしろ笑みさえ浮かぶ。1分後アークエンジェルは全て滅びていた。久鬼さんも小暮さんも闇鴉さんも実力の半分くらいしか出してない様子だった。そんな私達にプリンシパリティは声をかけてきた。戦う気はないらしい。
「私は天使の中では異端なのかもな」
彼はそう言った。一度誰かに首を切られた事によって少し考え方が変わったと語った。私は始めて話の通じる天使を見て少し好意を憶え、別れ際にチャクラドロップを彼に渡した。彼は戸惑った様子だったが、変わりとにブーツを私にくれた。〈祝福の具足〉それがブーツの名前だった。光の洗礼を受けないと装備することが出来ないと小暮さんが教えてくれた。今のままでは装備することも出来ず、しばらく持っていることにする。
「それはそうと久鬼さん達、何故こんな所にいるんですか?私を追ってアイルランドに来たとか。」
「アイルランド?俺達は和歌山からここへ来たんだが。」
どうやらこの空間には色々な場所、土地へつながっているみたい。私は士に連れられここに来た事を言い。九鬼さん達は仕事の依頼で来たと教えてくれた。探索がてらに協力することにする。闇鴉さんも手伝うって言ってくれた。

再び私は闇の中へと歩き出す。何が出るのか楽しみにしながら。