[胎動]…闇烏秘文Ver.2

「舞華学園の悪夢」から、数週間が過ぎた。
「悪夢」の爪痕は学園に深く刻まれた。
多くの人が事件に関わることとなり、その心に深い傷を受けた。
心に一度受けた傷は決して癒えることはない。
忘れること、忘れたふりはできても…。

とあるマンションの一室、明かりも灯っていない。
その、真っ暗な部屋の片隅に「彼」は座り込んでいた。
膝を抱えて。
忘れたくて。
あの「悪夢」を忘れたくて。

「彼」、Crow・Housefield。
「舞華の悪夢」に深く関わった者の一人である。
彼は普通の人には無い不思議な力を有していた。
彼の一族に伝わる「魔導書」を解読することで身につけた力。
しかし…。

「くそっ!」彼は暗闇の中でつぶやいた。
「もっと、僕にもっと力があれば…。」
つぶやきながら左手に意識を集中する。
闇の中、霊力で左手が鈍く光る。

「これじゃダメなんだ、これじゃ…。」しばらくの沈黙の後つぶやいた声。
その声は、暗闇の中に哀しく響く。
「光るだけじゃあ…、ダメなんだよ。」

力が足りない。
もっと力が欲しい。
そのためには、「魔導書」を更に解読しなければならない。
だが、今の彼には「魔導書」の解読に必要な知識も無い。

「力がほしいのか?」
闇の中、どこからか突然現れた「声」
その「声」に向かって、彼は答えていた。
「欲しい」と。

「私なら、君に力を貸すことができる。君が「解読する」ための力を。」
闇の声は、言葉を続けた。
「どうすればいいんだ?」彼は尋ねた。
「簡単なことだ。ただ受け入れればいい、私の力を。」闇の声は答える。

「どうすればいい?」先程の彼の台詞は自分自身に対する問いかけでもあった。
「決断するんだ。もうあんな思いはたくさんなんだろう?」
彼の迷いを見透かしたかのように、闇の声は語りかけてくる。
「…。」
しばらくの沈黙の後、彼は決断した。
「よし、お前の力を僕に貸してくれ。」

目を開けた時には、世界が変わっていた。
正確には、「世界の見え方」が変わっていたというべきか。
今まで気づかなかったもの、何故気づかなかったのかがわからない。
手元の「魔導書」、今まで理解できなかったものが理解できる。
言葉ではなく、「思念」が頭に入り込んでくる。「法則」を感じる。

「僕に力を貸す。お前の目的は何なんだ?」闇の声に尋ねてみる。
「お前が力を得る、そのことが私の目的」
「どういうことだ?」
「今は語れない。だが、近いうちにわかるさ。君にならな。」
「最後に、君の名を聞かせてくれないか?」
「私の名か。我が名は…。」遠ざかっていく声。
かすかに聞こえたその名は…、「Ω」