着信

「何と言われようが、協力なんかできるか!君も君だ。
よくデストロンの一員だった奴なんかと一緒に居られるな!」



「ごめんなさい、結城。」
「君が謝る必要なんかないよ。彼にしてみれば当然の事だ。」
ここは香港。怪しい組織の動きを追ってきたのだが、元デストロンハンターの
一人に協力を求めたところ、さっきの会話になったわけだ。

「でも、あなたはもう何年も組織と闘い続けているのに。」
「何年経とうが、家族や仲間の仇を許せるわけは無いさ。
君だって、そうだろう?」
「え?」

 ちょっと待って。そりゃ確かに「何度死のうが絶対に許さない。」って言ったわよ。
でもそんな感情は、勝てる筈もない怪物に生身で立ち向かっていった結城の姿を
見たときに、吹っ飛んでしまっていた。
それどころか今は彼に好意以上の気持ちを感じているというのに。
それが通じていないのは解っていたけど、こういうレベルだったとは。
改めて彼の鈍さを思い知った。そりゃデストロンに騙されもするわ。

「どうした、気分でも・・・?」
文字通り頭を抱えてしまった私を心配そうに見ている彼を見て決心した。
はっきり言わなきゃ百年たってもこのままだわ。あ、でもその前に。
「ちょっと携帯貸して。」
「?」
彼と私の携帯の電源を切る。以前にも告白しようかと思ったときに呼び出しが
かかったことがあったから。

「まずね、私はあなたの事ずっと前からもう恨んだりしてないから。
大事な仲間だと思ってる。」
彼は驚いたような顔で私を見て、それからすごくうれしそうに笑った。
「ありがとう、アンリ。」
「それから・・・ それから、私はその・・・」
「あ、ちょっと待って。風見から通信だ。」

結城が通信機のスイッチを入れる。そうだった、彼は脳波で会話はできないけど
着信くらいは受け取れるんだった。
「・・・どうした、今エジプトだろう? ・・・怪我したのか?
・・・黒いピラミッド?  ・・・わかった、なるべく急いで行くよ。」
「何かあったの?」
「そうらしい、エジプトへ行ってくるよ。4,5日で戻れると思うから。」
「こっちの仕事の続きはそれからね。気を付けて行ってきて。」


告白の続きもそれからね。でも脳波通信を切る方法ってないのかしら?