片腕   kataude

    

「僕の片腕を貸すよ。」と結城は言った。

そして右腕をはずすと俺の胸においた。

「ありがとう。」と俺は腕を見た。右腕の暖かさが胸に伝わった。

「そうだ。ただの義手では味気ない。動かせるようにしておかないと。」

そういうと俺の手から自分の右腕を取り、口付けた。

「これで動くよ。」

「この腕、話もしてくれるのか。」

「腕はうでだけのことしかできないよ。でも、話を聞くことくらいはできるかも。」

「そうか。」

「僕はもう行くよ。」と結城は心を移すように、俺が持った右腕に左手の指を触れた。

「しばらく間、風見を守ってくれよ。」

そして俺を見る結城の目は涙が浮かぶのをこらえているようであった。

「この右腕を君の右腕とつけかえてみるようなことを・・・」

「してみてもいいよ。」

「ああ、ありがとう。」

 

 

闇の中、俺はベッドに横たわっていた。

結城の片腕を胸の横に添い寝させた。

腕はやがて5本の指を歩かせて俺の胸の上にのぼって来た。

おのずと肘がまがって俺の腕に抱きすがる格好になった。

 

結城の片腕からは一定の機械のリズムが聞こえる。

その音が俺の作り物の心臓の鼓動と一致する。

どちらがどちらだかわからなくなった時に。

俺は自分の右腕をはずして結城の腕と付け替えていた。

結城の片腕はー 今は俺の片腕なのだがー 彼の脈が伝わってくる。

 

結城は今、どこにいるのかもわからない。

右腕は俺と一つになっているのに、あいつはとても遠い。

 

「それでも、おまえだけは俺の側にいてくれるんだよな。」









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川端康成先生の「片腕」を読んで、「うわ、これ風見と結城そのままリスペクトしてぇー。」と思ったものの
余りに恐れ多くて我慢してたのですが、とうとう書いてしまいました。(土下座)


で、20話読んでの蛇足。

ああ、やっとこの瞬間がきた。結城に片腕を返す時が。

あの日と同じ明るい笑顔のあいつが見えた。

「結城、この腕・・・」

「あ、もういいよ、それ。新しく造ったし。」

・・・そう、こういう奴だったんだ。