Aオタヌ峠からモーヴワザン 1泊  (Col de Otanes to Mauvoisin)


フランスのシャモニー(Chamonix)からスイスのツェルマット(Zermatt)へ、または、逆方向に山岳路を延々と歩くコースをオート・ルート(La Hauto Route)と言いますが、ここを歩かれた方の紀行文をウェブサイトで読むと、必ずと言っていいほどその中に遠望したグラン・コンバン(Grand Combin 4314m)の美しい山の写真が載っています。私もこの山を見てみたい、と思うと同時に、もっと近くから見ることはできないのだろうか、と調べてみました。調べてみると、パノシエール小屋(Panossiere Cabin 2641m)とオタヌ峠(Col des Otanes 2880m)を通るコースがこの思いにぴったりと合うことが分かりました。
バスの本数が多くないので、運行時間を予め調べて計画を立てる必要があります。歩いた年のバス時刻表ですと、フィオネ村(Fionay) の帰りの最終バスは17:35なので健脚なら周回コースをとれば日帰りが可能だと思います。無理をしない、ということなら小屋往復が良いと思います。ダム下のモーヴワザン(Mauvoisin 1840m)に抜けると最終バスは15:10しかないので日帰りはちょっと難しくなります。パノシエール小屋に泊まってゆっくりと歩きを楽しむ日程が取れれば最高だと思います。
今回は、モーヴワザンに抜けるコースでホテルに一泊しました。
コースに危険な所はありません。ただ、小屋までの標高差が1150m、峠までの標高差は1400m程もあるので、時間に余裕を持ったプランが必要だと思います。
山深いので人は少ないかと思いましたが、登り・下りとも、結構幾つかのパーティーに出会いました。
参考地図:1346 Chanrion 1/25000
 
下の左赤印はオタヌ峠、右赤印パノシエール小屋  
山は中央がグラン・コンバン、右端がプチコンバン、両山の間がコンバン・ド・コルバシエール
オタヌ峠から見るグラン・コンバンとコルバシエール氷河 レ・ルイネットから見る登山道(黄色)



 歩いた日;2010年7月19日
 コース;Fionnayー(1h)1818mポイント(5min休み)ー(35min)Mon Repos(10min休み)ー(35min)La Maye分岐(5min休み)ー(50min)モレーンの上(25min昼食)ー(20min)Cab Panossiereー(50min)Zig Zag 終了ポイント(10min 休み)ー(10min)Col des Otenes(20min休み)−(1h05min)Fionay分岐・2297mポイント(5min休み)−(1h15min)Mauvoisin
合計時間:6h40min (総合計時間:8h00min)  標高差: 登り1,400m 下り1,040m  最高標高:,2,880m 

フィオネ村の貯水池を見下す
谷の奥の山はロザブランシュ(3336m)だと思う

マルティニ(Martigny)発7:31発の電車に乗り、ル・シャブル(Le Chable)でバスに乗り換え、バニュの谷(Val de Bagnes)をさかのぼり、登山口のフィオネ村(Fionnay 1480m)に8:35に着いた。
バスを下りた右に標識がありパノシエール小屋(Panossiere Cabin)3時間45分とある。橋を渡ってアスファルトの細い道を暫く進み左に入ったが、牧草地で踏み跡が沢山あり、ウロウロしながら登った。道路をもう少し進めば左に入るちゃんとした登山道が有ったのかも知れない。

牧草地を過ぎると潅木のような樹林帯の中に入り、ジグザグの急坂を登る。後ろを振り返るとフィオネ村の貯水池が見え、その後ろには険しい谷があり、その奥に見える山は恐らく2日後に麓を歩く予定のロザブランシュ(Rosablamche 3336m)だと思う。




モン・ルポの休憩ポイントから見る
グラン・コンバン(左)とコンバン・ド・コルバシエール(右)
右上の氷河はフォラ氷河

コース全体でどの程度時間がかかるのか、また、オタヌ峠(Col des Otanes 2880m)の前後は悪路なのかどうかなど詳しい情報があまり無かったので、どうしても先が心配で急いで歩いてしまう。
あえぎながら急な坂を登っていくと、突然左に曲がる所(地図上の1818m)があるが、ちゃんと岩にペンキでパノシエール小屋と行き先が書かれている。
ここを過ぎた辺りから少し穏やかな登りになりほっとする。

暫く登ると潅木も次第に少なくなり草地に変わりル・プラプロー村(Le Plamproz)の分岐(地図上の1959m)に出る。
この辺りからコンバン・ド・コルバシエール(Combin de Corbassiere 3716m)の黒い頭が見え出し、ようやく景色に変化が出てくる。
黒い山を正面に見て登ると、今度は白い山が現れた。ついにグラン・コンバン(Grand Combin 4314m)の氷河の山が顔を出した。

グラン・コンバンが見え出して間もなく、表示板に「モン・ルポ(Mon Repos 2150m)」と書かれピクニックテーブルのある高台に着く。「私の安らぎ」とでもいう意味だろうか、絶好の休憩地になっている。

しばし眺めを楽しんでから出発。





モレーンの上から見る
グラン・コンバン(左)とコンバン・ド・コルバシエール(右)
流れる氷河はコルバシエール氷河、右上はフォラ氷河

黒と白の好対照の2つの山を正面に見て草地の穏やかな上りを進む。ブルネ小屋(Cab Brunet 2103m)やラ・マイ(La Maye)から来る道の合流点(2250m)を過ぎるとモレーンが現れその下を歩く。少しの間ほぼフラットな道が続いた後にモレーンに向かっての登りになる。砂地の急な登りで疲れる。

モレーンの上に来ると一気に前が開けた。「ワー」と思わず歓声が出た。ゴルバシエール氷河が目の前を流れ、その氷河の先にグラン・コンバンの全体が見える。分厚い氷河の帯が幾重にも重なった独特の形をしている。右には黒い三角錐のコンバン・ド・コルバシエール の山がフォラ氷河(Glacier des Follats)を右肩に乗せてそそり立つ。

この先の山小屋でゆっくり休みたかったが、時間に余裕があるのかどうか分からないので、近くの草地で休憩し雄大な景色を眺めながら昼食とした。



モレーンの上に建つパノシエール小屋(左)、
白い山はトゥーネロン・ブラン(右)

ここからはモレーンの上の歩きになる。雄大な景色を眺めながら進むと、山小屋の旗が見え、次いで小屋の建物が見えてきた。

この小屋の名前は地図にはCab FXB-Panossiere(2641m)となっているが、FXBは略称で正式名はフランソワ・グザヴィエ・バニュー/パノシエール小屋(Cabane Francois Xavier Bagnoud-Panossiere)と言うようです。1988年に今の小屋より500mほど上にあったパノシエール小屋(Cab Panossiere)が雪崩で壊れ、仮小屋の後にFXBの支援で1997年に今の小屋が建てられ新しい名が付けられたとのことです。FXBとは、若くして事故で無くなったスイス人のヘリコプター救助隊員の名を冠したエイズ支援組織のはずですが、なぜ山小屋の再建に関わったのか、何か理由がありそうです。

小屋はモレーンの一段高い所に建っているが下を通る道があり小屋に寄らずに通過した。小屋はコルバシエール氷河とグラン・コンバンを向いて建てられていて素晴らしい立地条件にあり、立ち寄ってくるべきだったと今は後悔している。




モレーン上の道からパノシエール小屋を振り返る、
下りてきて小屋に向かうクライマー達



小屋を過ぎてモレーンの上の道を進むと、ますます氷河の流れが近くなり、その素晴らしさに立ち止まりながらの歩きになる。登ってきた帰りのクライマー達とすれ違う。振り返るとモレーンの上の山小屋の右に遠くローヌ谷の北側の山並みが見渡せる。





暫くモレーンの上を歩くと、オタヌ峠への分岐に出て左に入る。この辺りがグラン・コンバンに一番近づく所なのだが、地図を見ると、ここからグラン・コンバンまで直線距離で4km以上もある。トレッキングの領域ではこれ以上近づけないのが残念だ。
それでも凄い。階段状に重なった複雑な氷河を頂くグランコンバン、そこから流れ出て広い巾となって目の前を通過する真っ白なコルバシエール氷河、威勢よくドーンと突き出た黒いコンバン・ド・コルバシエール、溢れ出てくるような氷河の後ろに控えめに聳えるプチ・コンバン、どれ1つとっても無駄が無く、どれ1つ欠けても損なうような、自然の美しさに引き込まれて感動する。

オタヌ峠の登り口からの展望  
山は左白い山がグラン・コンバン(4314m)、中央黒い山がコンバン・ド・コルバシエール(3716m)、右がプチ・コンバン(3663m)
手前に流れるのがコルバシエール氷河、ハンギングしているのはフォラ氷河


モレーンからオタヌ峠までの標高差は僅か200m程度だが、急なガレ場で見上げると何処に登山道があるのか分からない。しかし取り付いてみるとジグザグに整備された道がちゃんと着いている。
背後に素晴らしい景色が広がっているので、なかなか登りに専念できない。振り返り、振り返りを繰り返しながら登ったが、途中でたまらず腰を下して休憩した。この景色はやはり美しい。

オタヌ峠への登り オタヌ峠への登り




オタヌ峠(Col des Otanes 2880m)に着く。丁度小学生高学年くらいの子供達が峠での休憩を終え下って行った。タフなコースをごく当り前のように子供達が歩く姿を時々見るが、何時も感心する。
峠は鞍部状態だが、東から南東方向を除いて他の方角は見晴らしが利く。今までずっと見えてきたグラン・コンバンやコンバン・ド・コルバシエールの山が一層高さを増し、氷河の見える範囲も広がって、迫力が加わった。
りっぱな標識の中央に小さな地図が掲げてある。良く見るとグラン・コンバンを中心にして一周するツール・ド・グラン・コンバンが示されていた。行程表も書かれていてイタリア・スイスを1週間程度で歩くようです。

オタヌ峠より見るコンバン・ド・コルバシエール(左)とプチ・コンバン(右) オタヌ峠を越える子供達


オタヌ峠より見る南西方向の全景


オタヌ峠より見るグラン・コンバン(拡大)



北東方向を見ると、手前のベッカ・ド・セリ(Becca de Sery 2823m)の山の上にピークが寄せ集まった台形の山が見える。マルティニの北西に聳えるダン・ドュ・ミディ山群(Dents du Midi 3257m)でその左はトゥール・サリエール(Tour Selliere 3220m)が望める。
北方向には目の前にバニュの谷が横たわり、右端に明日ゴンドラで上る予定のモン・フォール(Mont Fort 3328m)のピークが見え、遠くに ローヌ谷を越えた北側の山の連なりが見える。

 
オタヌ峠より北西方向を見る
遠くの山の左はトゥール・サリエール、中央はダン・ドュ・ミディ
オタヌ峠より北方向を見る
右端はモンフォール(3328m)、その左はベック・デ・ロス(3223m)



         オタヌ峠↑(2880m)  オタヌ峠を振り返る

何時までも眺めていたい峠の景色だったが、時計は午後2時を過ぎている。振り返りながら峠を離れる。
グラン・コンバンは直ぐに視野から消え、コンバン・ド・コルバシエールの黒いピークも次第に峠の背後に隠れ見えなくなった。




              オタヌ峠を過ぎて東方向が見え出す
山は左ちょっとピークが見えているラ・リュエット(3548m)、中央はモンブランド・シェィロン(3870m)、右端はラ・リュイネット(3875m)
氷河はジィエトー氷河



所々雪が残る急なガレ道を最初は北に向かってどんどん下ると、右手の東方向が開けて来て、氷河を被った山が見え出した。流れる氷河の奥の山はと地図を見るとモンブラン・ド・シェイロン(Mont Blanc Cheilon 3870m)だ。
3日後に歩く予定のディス湖(Lac des Dix)側から見えるは知っていたが、ここから見えるとは思わなかった。






モーヴワザン・ダムが見えた モーヴワザンのホテルがダムの下に見えた

急な下りが終わる頃にモーヴワザン・ダムが見え始め。東に向きを変えてトラバース気味に下るとダム下のモーヴワザンのホテルの建物が見え出す。
長いトラバースはボナチュス(Bonatchiesse 1577m)やフィオネに下る分岐を過ぎて、シャンリオン小屋(Cab. de Chanrion 2462m)の分岐まで続く。




バニュの谷に近づく、北を遮るル・パラン(3259m 右)を見上げる

ここまで来るとバニュの谷が直ぐ下に近づき、谷の向かい側は3,000mの山が連なり視界が狭まる。シャンリオンの分岐を過ぎて少し進むと最後のジグ・ザグの急な下りになる。慎重にここを過ぎるとようやく平坦になり、ダムに向かう道路を横切り、モーヴワザンの広場に着く。
ホテル着は午後4時半、思っていたよりも早かった。登山道の様子が良く分からなかったので何時も急いでしまったが、想像以上に良く整備され危険な所も無いので、もっと余裕をもって歩けたコースだった。

下る途中、登ってくるハイカーやクライマーと何度か出会った。確かにモーヴワザンから登った方がフィオネから登るより360mも標高差が少なくて済むので楽なように思えるが、殆どが草木の無いガレ場を登る事になるので、逆に厳しく感じるかもしれない。








 歩いた日;2010年7月20日
 コース;Mauvoisinー(20min)Dam(30min散策)ー(15min)Mauvoisin
        合計時間:35min (総合計時間:1h05min)  標高差: 135m  最高標高:1,976m 


トンネル内の分岐、左ダム・右岸の登山道、右は左岸の道路

今日はモーヴワザンからル・シャブル(Le Chable)にバスで移動し、そこからゴンドラを乗り継いでモン・フォール(Mont Fort 3328m)の山に行き、展望を楽しんだ後に中間駅のラ・ショー(La Chaux 2266m)に戻り、そこから歩いてモン・フォール小屋(Cab. du Mont Fort 2457m)に行き、そこで泊まる予定なのだが、始発のバスが10時45分まで無い。時間つぶしにモーヴワザンのダムまで行ってみることにした。

ホテルの正面からダムに向かう小道があり、それを歩く。車道に出てトンネルに入って進むとトンネル内の分岐に出る。そこには左右ともシャンリオン小屋(Cab. de Chanrion 2462m)と書かれた標識が立っている。ダムは矢印でバラージュ(Barrage)と表示された左に進む。



ダムの上に出て一番奥まで行ってみる。左右とも切り立った岩の間のダム湖で岩の中にトンネルの道がつけられている。その岩から滝となって水が落ちていてちょっとした迫力。この両岸のどちらからでも湖の先のチャンリオン小屋に3〜4時間ほどで行く事ができるそうだ。

ダムの右岸、トンネルが見える ダムの左岸、滝の裏にトンネルの窓がある



ダムの下を見る。左岸の山腹は昨日オタヌ峠から下りてきた所で、逆S字を描いて下りたルートがだいたい分かる。やはりこれを登るのはきつそうだ。
谷にはモーヴワザンの建物が2、3見え、視界を遮るように正面にル・パラン(Le Parrain 3259m)が聳え、その尾根が谷に落込んでいる。この山を越えた右下にディス湖があり、この尾根の先にモン・フォールの山がある。

バスの時間に遅れないように同じ道を下りた。
日オタヌ峠から下りてきた山腹 ダムからバニュの谷を見下ろす。手前はマーヴワザン