Fトラキュイ小屋とロック・ド・ラ・ヴァーシュ 
    (Cab. de Tracuit & Roc de la Vache)


トラキュイ小屋(Cab. de Tracuit 3256m)はヴァイスホルン(Weisshorn 4506m)やビスホルン(Bishorn 4153m)などに登るアルピニストが主に利用する小屋ですが、この小屋は稜線上にあるので、小屋の足元から氷河が広がり、登るまで見えなかった裏側の景色が一気に目に飛び込んで来るなど、高度感と景色の変化を存分に味わうことができるので、小屋までのハイキングとしても素晴らしい場所といえます。
ツィナール(Zinal 1680m)の村から標高差・1600m近くを登らねばならないのが難点ですが、小屋前のコルに短いクサリ場があるだけで、他は比較的歩きやすく急登や危険な所も無いので、予想したほどの疲労感もなく日帰りで歩くことができました。また、少し時間が有ったので、展望地のロック・ド・ラ・ヴァーシュ(Roc de la Vasche 2591m)とアルピテッタ湖(Lac d'Alpitetta 2230m)にも立ち寄ってみました。

参考地図:1327 Evolene 1/25000,
       1328 Randa 1/25000
トラキュイ小屋(3256m)、
山は左からビスホルン(4153m)、
ヴァイスホルン(4506m)、テート・ド・ミロン(3676m)


 歩いた日;2010年7月15日
 コース;Zinalー(55min)Le Chiesso(5min休み)ー(1h20min)分岐2477m(10min休み)ー(35min)途中(5min休み)ー(55min)途中(10min休み)ー(50min)Cab. de Tracuit(35min昼食)ー(40min)途中(5min休み)ー(35min) 途中(10min休み)−(20min)川を渡る−(25min)Lac de la Vasche(5min休み)−(45min)Lac d'Arpitetta(10min休み)ー(35min)分岐1910mー(45min)Zinal
合計時間:8h40min (総合計時間:10h15min)  標高差: 登り合計 1,656m 下り合計1,656m  最高標高:,3,256m 


ツィナールの村から見上げる滝とロック・ド・ラ・ヴァーシュ(右)

ツィナール(Zinal 1680m)の村から谷奥の左手を見上げると滝が見えます。トラキュイ小屋(Cab de Tracuit 3256m)へ行くには先ずこの滝の左上に出なければならない。滝の右の岩の上はロック・ド・ヴァーシュ(Roc de la Vache 2591m)で絶好の展望台なので時間があれば帰りに寄ることにして宿を7時45分に出る。

村の南端近くの古い民家がある細い車道を山に向かって奥まで進むと標識があり登山口に出る。標識にはトラキューイ小屋まで4〜5時間とある。
雲が山にかかってはいるが青空が見える。


樹林帯をジグザグに登りると地図にレ・シェーソ(Le Chiesso 2061m)とある所だと思うが十字架が立っていた。ここで小休止して更に登るとサン・リュック(St Luc)に向かう分岐(2256m9)に出る。これを右に入り樹林帯を抜けた開けた斜面をトラバース気味に登る。水の音が聞こえ滝の横に出て石がゴロゴロした急な道を登ると滝の上に出た。ツィナール谷(Val de Zinal)が眼下に広がりツィナールの村の全景が見える。

滝を見下ろす ツィナールの村を見下ろす



滝の上の小川にそって少し登ると穏やかな草地になりロック・ド・ラ・ヴァーシュへの分岐の標識(2477m)に出る。出発して2時間半、この辺りで標高差で半分程度登ったことになる。分岐を左にとって登る。見上げると広々とした草地が広がり、その上も穏やかな斜面が続いているように見える。左にレ・ディアブロン(Les Diablons 3609m)の山が見え、その山の右肩の下あたりが目指すトラキュイのコル(Col de Tracuit 3250m)のようだ。こんなに広々とした所を登るとは思わなかった。

ロック・ド・ラ・ヴァーシュの分岐標識、
後ろはロック・ド・ラ・ヴァーシュ
上を見上げる
左の山はレ・ディアブロン( 3609m)、
その右下がトラキューイのコル(3250m)



草地からガレ石に変わる辺りで振り返る、
真ん中の岩がロック・ド・ラ・ヴァーシュ 

コンボタンナ(Combautanna)という草原のような中を進むと放牧の管理棟だろうか一軒の小屋(2577m)があり、その横を通る。この辺り一面気持ちの良い牧草地だ。
上り続けて草地が次第にガレ石に変わるあたりで振り返ると、ロック・ド・ラ・ヴァーシュの岩が小さくなって下に見え大分登ってきたのが分かる。雲の切れ目にポワント・ド・ムルティ(Pointe de Mourti 3564m)だろう、少しピークが見え始める。雲が少なくなってきたようだ。ありがたい。




ミロンのコルへの分岐手前辺りから見る
ダン・ブランシュ(4357m、 中央)

ガレ石の中の登りになるが道はしっかりついている。振り返るとダン・ブランシュ(Dent Blanche 4357m)が完全に顔を出し、その右横にグラン・コルニエ(Grand Cornier 3962m)の姿が綺麗に見えている。ダン・ブランシュの左にはポワント・ド・ジナル(Pointe de Zinal 3789m)が雲間に見え、その左にはツィナールの村からも良く見えるベッソ(Besso 3668m)が聳える。




更に登ると標識が現れた。ミロンのコル(Col de Milon 2992m)への分岐でアルピテッタ小屋(Cab d'Arpitetta 2786m)に行けるらしい。このあたりで標高は3000m、雲が大分取れて右手の高峰がほぼ見える。近くに見えるヴァイスホルン(Weisshorn 4506m)は以外にも平凡な山に見える。それに比べるとツィナールロートホルン(Zinalrothorn 4221m)は左にモマン南峰(Pointe Sud de Moming 3963m)とモマン北峰(Pointe Nord de Moming 3863m)を従え、大きく盛り上がった氷河がアレート・デュ・ブラン(Arete du Blanc 白の稜線)と呼ばれる吊尾根となって右のブラン・ド・モマン(Blanc de Moming 3657m)へ繋がっている。迫力があり美しい。

ミロンのコル分岐付近から見るヴァイスホルン(4506m)
右はシャリホルン(3974m)
ミロンのコル分岐付近から見る
ツィナールロートホルン(4221m)

手前の右の山はポワント・ダルピテッタ(3133m),
その左の凹みの一番低い所がミロンのコル(2992m)

ツィナールロートホルンの拡大
左:・モマン南峰、右:アレート・デュ・ブラン(白の稜線)、
手前:ミロンのコル



ガレ石の登りが少し急になり、氷河も近くに見え出したので小屋はまだかと見上げると、旗が見えた。良く見るとその左に小屋の屋根が見える。長かった登りも、もう少し。突然岩と岩の間の割れ目のようなクサリ場に出る。丁度下りてきたパーティーと出合ったので小休止。

このクサリ場を登って岩の隙間から顔を出すと、オー、もう登りはない。目線の下に氷河が見える。稜線に出た。ここがトラキュイのコルだった。
トラキュイ小屋(3256m 印)が見えた、 
右の山はビスホルン(4153m)
トラキュイのコル(3250m)のクサリ場



コルの前の氷河はトゥルトマン氷河(Turtmann-gletscher)、右に曲がるとトラキュイ小屋が見える。氷河の右端の稜線上にあり目と鼻の先だ。ヴァイスホルンが氷河の中に埋もれているように見え、左に見えるビスホルンなどは直ぐにでも登れそうに思えるほど近くて低く感じる。

トラキュイの小屋の手前から見る
山は左からビスホルン(4153m)、ヴァイスホルン(4506m)、テート・ド・ミロン(3676m)、右端はツィナールロートホルン(4221m)



小屋の前のテラスに腰を下ろす。12時50分、出発してから5時間弱、ビールで乾杯。ソーセージ入りスープとパンで昼食。
雲が多いが何とか見える。左にオーバー・ガーベルホルン(Ober Gabelhorn 4063m)、その右はブラン・ド・モマン、その右の黒いのがベッソ、その右肩にポワント・ド・ジナル、そして一際大きいダン・ブランシュと右にグラン・コルニエの名峰が見える。更に右は残念ながら雲で覆われているが、晴れていればモンブラン(Mont Blanc 4808m)あたりまでも見えるそうだ。ベランダの柵から下を見ると延々と登ってきた斜面が全部見渡せる。

トラキュイ小屋のテラスから
奥の山は左からオーバーガーベルホルン(4063m)、尖った黒い山はベッソ(3668m)、一際高い山はダン・ブラッシュ(4357m)、そのすぐ右はグラン・ココ二エ(3962m)
手前の山はポワンド・ダルピテッタ(3133m)、その左の凹みはミロンのコル(2992m)、右下の岩の塊がロック・ド・ラ・ヴァーシュ(2591m)


テラスで休憩の後、小屋の背後の小高い所に十字架が立っているので更に景色が良いだろうと行ってみた。十字架と小屋が入るように写真を撮った時、西の雲間の遠くに白い山が顔を出しているのに気がついた。方角からすると、もしやグラン・コンバン(Grand Combin 4314m)ではないかと念のため拡大の写真を撮っておいた。帰ってから見たら間違いない。グラン・コンバンの手前に三角形の特長のあるモンブラン・ド・シェイロン(Mont Blanc de Cheilon 3870m)までもが写っている。トラキュイ小屋からの展望は凄い。

・・・
右奥の白い山: グラン・コンバン(4314m)
中央の黒い尖った山: モンブラン・ド・シェイロン(3870m)
左の山: ポワント・ド・ムルティ(3564m)と懸垂氷河
高台から小屋を見る、
十字架の直ぐ横の白い山は何処の山か気になった
白い山の拡大、何処の山か分かった



南の方角は、もちろん名峰のオン・パレードだ。一部雲の中に隠れて見えない山もあるが左のビスホルンから右のダン・ブランシュまで4000m峰が並び、目の前のトゥルトマン氷河や中央に見えるモマン氷河(glacier de Moming)や右端に見えるモワリ氷河(Glacier de Moiry)などがこれ等の山に覆いかぶさるように広がる様はいくら見ていても飽きない。

                         十字架のある高台から南の方角を見る 
山は左からビスホルン(4153m)、ヴァイスホルン(4506m)、テート・ド・ミロン(3676m)、中央尖ったピークはツィナールロートホル(4221m)ン、その左にマモン南方(3963m)、更にその左にマモン北方(3863m)、
右に行って
中央右手の黒い円錐状の山はベッソ(3668m)、その左にオーバーガーベルホルン(4063m)、その右は一際高いのはダン・ブラッシュ(4357m)



北の方角を見るとトゥルトマン氷河の下に谷が見える。2日前に泊まったグリューベン(Gruben 1818)の村があるトゥルトマンの谷(Turtmanntal)だ、谷を上から見下ろすことができて感激。もっと谷が見えないかとトラキュイのコル近くまで戻って下がってみた。谷は見えたが霞んでいて谷のどの辺りが見えているのか良く分からない。遠くに見える白い山もレッチェン谷(Lotschental)辺りの山と思うが、雲が多くて良く分からなかった。

十字架の高台から見る北方角、
トゥルトマン氷河(手前)、トゥルトマン谷(奥)
トラキュイのコル近くから見る
トゥルトマン氷河(手前)とトゥルトマン谷(奥)



一軒小屋から少し下ったあたりから見る
右:ロック・ド・ラ・ヴァーシュ(2591m)
左上の山:ダン・ブランシュ(4357m)

景色を楽しんで1時25分に下山開始、同じ道を下る。登ってきた時に見た景色を再確認しながら快調に下る。小屋泊まりのクライマー達のパーティーと次々と会う。途中2度ほど休んで1軒小屋まで下りてきた。下を見るとロック・ド・ヴァーシュへの小川を渡る橋が見える。分岐まで下りると橋まで登り返さねばならないようだ。時間は3時少し過ぎ、充分行ける。橋へ直接向かうショートカットの踏み跡があったのでこれを通る。橋を過ぎるとガレ石の登り、登り切ると平らになり右に直角に曲がり草地のゆるい登りを進む、左にフェンスが現れこれに沿って少し登ると行き止まりのロック・ド・ラ・ヴァーシュに着く。




真下にツィナールの村が広がり、アニヴィエの谷へと繋がる様子が良く分かる。360度の展望だがトラキュイ小屋から下りながら眺めてきた景色とほぼ同じようなので平凡に感じてしまう。時計は3時45分、この分ならアルピテッタ湖(Lac d'Alpitetta 2230m)を回って帰れる。
少し戻りフェンスに設けられた鉄ハシゴを越えるとアルピテッタ湖へのトレイルに入る。何時の間にか雲が大分少なくなり頭上にツィナールロートホルンのピークとアレート・デュ・ブラン(白の稜線)が美しい。

ツィナールの谷とその先のアニヴィエの谷 ツィナールロートホルンと白の稜線



ツィナール谷の奥はツィナール氷河

草地の中を下りると廃屋の横に出る。この辺りからツィナール谷の最奥まで綺麗に見通せるようになる。川の流れの上部は黒い土砂のように見えるが土を被ったツィナール氷河(Glacier de Zinal)で、その上には幾重にも重なった真っ白な氷河を伴って左にポワント・ド・ジナル(3789m)、中央にダン・ブランシュ(4357m)、右にグラン・コルニエ(3962m)が美しい姿を見せる。右の斜面の手前にはプチ・ムンテ小屋(Cab du Petit Mountet 2142m)が小さく見え、左斜面にはグラン・モンテ小屋(Cab du Grand Mountet 2886m)へのトラバース道が所々遠望できる。





更に草地をどんどん下ると目指すアルピテッタ湖に着いた。標高は大分下がったが、トラキュイ小屋から見た山を違った角度で見ることができる。何時の間にか雲が殆ど無くなった。ヴァイスホルンが大きく見えツィナールロートホルンが小さく見えるが、ここからの眺めも素晴らしい。今まであまり目立たなかったベッソの山が存在感を増している。
池の左手の草地のトレイルを奥に行けばアルピテッタ小屋に行けるようだ。
夕方に近いせいでこの辺りにはもう誰もいない。

アルピテッタ湖(2230m)からの眺め
山は左からヴァイスホルン(4506m)、中央シャリホルン(3974m)、その右手にマモン北方(3863m)、マモン南方(3963m)、ツィナールロートホルン(4221m)と続き、右端の手間に聳えるのがベッソ(3668m)


      

ツィナール氷河から流れる川 奥の山はグラン・コルニエ(3962m)

アルピテッタ湖からの下りは真っ直ぐ南に下りる道があるようだが急な斜面に思えたので、一旦西に向かうゆるい下りの方を選んだ。もう帰るだけ、転ばぬ程度に急ぐ。樹林帯に入り、更に下る。平らになってようやくモマン氷河から流れる川の橋を渡り、次にツィナール氷河から流れる川の橋を渡る。この橋は前にグラン・モンテ小屋に行った時に渡った橋で懐かしい。
ここから直ぐプチ・モンテ小屋からの広い道に合流し、ツィナールの村への一直線の道路をひたすら歩く。宿には丁度6時に着いた。長い一日だったが気持ちの良い一日だった。



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