<Bee−3 Analysis>

 

1. はじめに

Bee-3解説1 

 

 筆者の所有するMGBトゥアラーV8コンバージョン・モデル<Bee-3>は、単にMGBのボディにローヴァV8エンジンを搭載しただけではない。エンジンの搭載自体、MGB/GT V8という母体があるとは言えそれなりの工夫は必要であるし、倍増する馬力とトルクに対応して駆動系やサスペンションへの対応も必要であるし、外観や内装にもモディファイの手は及ぶ。

 ここではBee-3に施された改造について語ると共に、ドライヴ・フィールについても語ることでMGBトゥアラーV8コンバージョン・モデルの仮想試乗をしていただこう。

 

2. Bee-3そのスペック

 a.エンジン/吸気系

キャブ(縮小)Bee−3に用いられているエンジンは、ローヴァ3500サルーン(SD1)に搭載されていたと目される圧縮比9.35仕様である。

本来2基のSUキャブレターによって155馬力を発生するこのエンジンだが、ホーリィ・4バレル・ダウンドラフト・キャブレターとMGB/GT V8用エキゾースト・マニーフォールドの組み合わせによって、シャーシィ・ダイナモによる実測で、165psの最高出力と26.3kgmの最大トルクを発生する。

実はこのキャブレターはMGBのV8コンバージョンとしては標準的なものなのだが、当初はBee−3の排気量に対して大きすぎるサイズの物が装着されていたため、スロットルを閉じているのにエンジン回転が異常に上昇するというトラブルが発生した。

そのため現在ではホーリィの4バレル・キャブとしては最も小型のものに交換し、その後症状は解消したという経緯がある。

これにはホーリィ・キャブレターの作動原理を説明する必要があるだろう。

ホーリィの4バレル・キャブレターは、低速側で作動する「プライマリィ・ベンチュリィ」と、高速側で作動する「セカンダリィ・ベンチュリィ」の、2ステージ構成となっている。その各々が二つの流路から成り立っており、2×2=4バレルとなっている訳である。

同じ2ステージ構成のウェーバー・キャブレターと大きく異なっているのは、流量制御の点である。ウェーバーの場合は同じ流路の中でジェットがプライマリィとセカンダリィに分かれているが、ホーリィの場合4つのバレル各々にバタフライ・バルブが備わっている。

 

ホーリィ構造(着色)

 

しかしスロットル・ワイヤが接続されているのはプライマリィ側だけで、セカンダリィ側はプライマリィ・ベンチュリー内に開口しているバキューム路と組み合わされている。これによりエンジン回転の上昇と共にプライマリィ・ベンチュリィ内部で高まる負圧がセカンダリィ・ベンチュリーのバタフライの作動を促し、高速域でのガソリン供給量を増す仕掛けである。

因みにプライマリィ側には加速ポンプも備えられており、急加速の際には実に盛大にガソリンをベンチュリィ内に流し込む。その光景を見れば、アメリカ車の燃費の悪さも納得できようというものだ。レーシング用のキャブレターではセカンダリィ側にも加速ポンプを備えた仕様があり、それは「デュアル(または『ダブル』)・ポンパー」と称される。

 

さてこうした原理で作動するホーリィ・キャブレターにおいて、エンジン排気量に対して大きすぎるサイズを装着したらどうなるだろうか?以下は原因を究明するために、英国のコンバージョンの手引書である「How to give your MGB V8 power」とホーリィ・キャブレターのテクニカル・マニュアルから筆者が組み立てた推論である。

発進からの低速域では本来よりも大きいサイズのプライマリィのおかげで潤沢なガソリン供給量が確保されるが、問題となるのは潤沢すぎてカブるおそれがあることだろう。元々ホーリィ・キャブレターは加速ポンプが利きすぎるきらいがあり、スロットルの踏み込みには若干の注意が必要である。

最大の問題は高速域である。さすがのプライマリィ・ベンチュリィも120Km/hを超えるような負荷の下ではそれ以上働くのは辛い状況を迎える。本来ならこのあたりでセカンダリィに役目を譲りたいところなのだが、セカンダリィ・ベンチュリィのバタフライはもっと大きな排気量すなわちもっと強い負圧で作動するようにセッティングされているから、作動してはくれない。そのためここでキャブレターの能力はいっぱいとなり、これ以上のエンジン回転の上昇は停止することになる。

これだけならまだマシである。ここでシフトのためにクラッチを切ってスロットルを全閉すると何が起こるか?それまでプライマリィにかかっていた吸気圧(負圧)は、プライマリィ・バタフライの閉鎖で一瞬行き場を失う。普通ならそのまま負圧は下がって行くのだが、そこにセカンダリィ・ベンチュリィへの負圧通路が開いている。当然逃げ場を求めて負圧はそこに集中する。その力はセカンダリィ・バタフライを作動させるのに十分以上の力なのである!

結果としてスロットルを閉じているにもかかわらず、エンジン内部にセカンダリィ・ベンチュリィからガソリンが供給されてしまうために、クラッチを切って負荷が軽くなったことと合わせてエンジンはフル・スロットル状態になってしまうのである。

 

 旧EGルーム  <入手前のエンジン・ルーム>

確かに当初Bee−3に装着されていたキャブレターは空気流量毎分600立方フィート(cfm)のモデルで、これはホーリィの4バレル・キャブレターの中でも最も一般的なものとされている。しかし「How to give・・・」によるとローヴァV8用としてはもっと小さい390cfmのモデルを使うように指示がなされている。このキャブレターはホーリィの4バレル・モデルの中でも最も小さいサイズにあたり、小排気量の8気筒および高性能6気筒用とされている。

他に思い当たる原因もなく、とりあえずこちらのキャブレターへの換装を実施したところ、見事症状は解消したのである。

 

 

 

 

b.排気系

Bee3innerpanelEXマニーフォールド2Bee−3に用いられている排気系は、MGB/GT V8用の鋳鉄製のエキゾースト・マニーフォールドと特注のエキゾースト・パイプの組み合わせである。

このEXマニーフォールドはUB2のボディにそれに合わせた凹みが付いているために、MGBのボディへのフィッティングに苦労はない。しかし鋳鉄製ということと、ボディとの干渉を少しでも避けるべくかなり急激にエンジン側に戻される形状をしている。この排気系の効率が悪いことは別項の「The ultimate MGB」に記した通りである。

 また厳密にはエンジンの搭載位置はMGB/GT V8とは異なっているためか、MGB/GT V8のEXパイプは使用できなかったということで、右バンクのEXマニーフォールド直後のセンターマフラーは一旦オイル・パンの前を通ってボディの左側へ回され、そこで左バンクからのセンターマフラーと結合される。

 そこからテール・パイプまでも特注品で、テール・エンドはノーマルよりは太いものの、最近の国産車に見られるような「拳が入る」ほどは太くはない。しかしそこから吐き出される音は、初めて耳にした時は思わず膝から力が抜けるほどノーマルからはかけ離れた野太い排気音である。

 このローヴァV8エンジンは元々アメリカGM(ビュイック)生まれのため、特に高速域ではまさに「V8」サウンドを発する。これを「好き」と取るか「嫌い」と取るかで、このクルマの評価は180度変わるだろう。

 

c.冷却/潤滑系

オイルクーラーBee-3のフロント・バンパー下に開口している二つのエア・インテイクは、まさにMGB/GT V8の市場投入と機を一にして採用されたものであり、これは74年式のBMから4気筒版MGBにも導入されている。

Bee-3においてはこの背後にオイル・クーラーが装着されているが、これはベースとなったMGBウレタンバンパー・モデルと同じ位置である。メッキバンパーのMGB/GT V8においては、オイル・クーラーの位置は4気筒版と同じくラジエーターの前だった。

 これ以外の冷却系では基本的に4気筒版と違いはないのだが、UB2のウィーク・ポイントの一つである電動ファンのサーモ・スイッチに不安があるため、バイパス・スイッチを別途設けてある。

 また納車直後に水温計がレッドゾーン間際まで上がるというトラブルがあり、ラジエーターのコア増し/ウォーター・ホースのチェックなど様々な対策を施した。結局このトラブルの原因は水温計自体にあったため、Bee-3は排気量が(つまり発熱量が)倍になったにもかかわらず、特に冬場ではオーヴァ・クール気味でヒーターの効きが悪くなってしまった(夏場の助手席は、やはり暑いのだが)。

 このうちヒーターに関してはユニットに温水を導くバルブの取り回しが変わったせいもあり、現在は別のバルブを取り付けてある。

 

d.エンジン出力データ

この状態で、Bee-3はシャーシィ・ダイナモによるエンジン出力の測定を行った。この場合エンジン出力のピックアップは駆動輪で行われるが、通常カタログ等に記載されるエンジン出力は、補器系を含むエンジン単体によるものである。このためシャーシィ・ダイナモ計測値は駆動系のロス等を含むこととなり、カタログ・データーよりも低い値となる。

ともあれ1998年4月の計測により記録したエンジン出力は以下のとおりである。

最高出力(ps/rpm

165.6/5190

最大トルク(kgmrpm

26.3/1910

 

グラフからも見て取れるように、Bee-3のエンジンはまさに驚異的と言って良いほどのフラット・トルク型である。

計測開始からシフト・アップするために1500rpm以下ではグラフが乱れるものの、ほぼ500〜5800rpmの範囲に渡って20kgm以上のトルクを発生しているのである。

また3300rpm近辺で馬力/トルク共に若干の伸びの低下が見られるが、これはプライマリィ・ベンチュリィからセカンダリィ・ベンチュリィへの橋渡しのためではないかと推測される。

 

.駆動系

このエンジンに組み合わされる駆動系も、その全てがMGBとは異なるものに交換されている。

まずトランスミッションはエンジンと一緒にSD1から持ってきたもので、<LT77型>と称される5速マニュアル式である。因みにこれは1992年から2年間2000台のみ限定生産されたRV8の初期型に使用されていたものと同じである。

これによりトランスミッションからディファレンシャル・ギアまでの距離が変化している訳だから、その間を繋ぐプロペラ・シャフトも特製である。そして最後に後輪に動力を伝達するディファレンシャル・ギア本体も、RV8から移植したトルセン方式のLSDに換装してある。

これは元々装着されていたMGB用ではV8エンジンのトルクに対する強度に不安があり、しかも向上したエンジン出力に対してギア比が相対的に低くなりすぎるために筆者の手元に来てから交換したものである。

 

Bee−3旧ホイール ホイール交換前 

 

駆動系の最後となるタイヤ/ホイールは、当初ショップ特注の3ピース・アルミホイールに前205/後215サイズで55%プロファイルの15インチ・ピレッリP7タイヤを装着していたが、これはエンジン・パワーからすればオーヴァ・サイズとは言えないもののボディに与える負担が大きすぎるとの判断から、MGB/GT V8用スチール/アルミのコンポジット・ホイールに175/70サイズのラジアル・タイヤを履かせた。

ホイール25%縮小

 

f.懸架系

<フロント・サスペンション>        <リア・サスペンション>

FrサスRrサス

一方の懸架系はと言うと、これは比較的標準的な改造の範疇にある。

まず前後スプリングはBMC・C(コンペティション)パーツに交換し、ショック・アブソーバーはSPAXのテレスコピックにコンバージョンされている。無論MGBの弱点であるフロント・ロアAアームのブッシュはMGB/GT V8用のスリーブ付に交換されている。

 ただしRV8用デフへの交換に伴い、取り回し方法の違いからリア・スタビライザーだけは撤去されているが、これは固められたCパーツ・スプリングのおかげで悪影響は出ていない。

 

 g.制動系

 実はこの項目は、Bee-3で唯一語るもののない項目である。

 MGB/GT V8は4気筒版MGBに比べて厚いディスク・ローターを持ったフロント・ディスク・ブレーキとヴァキューム・サーボ・ブースターを標準装備しており、RV8に至ってはフロントのディスク・ローターは放熱口の付いたベンチレーティッド・タイプで、しかもブレーキ・キャリパーは4ポッド・タイプである。

 しかしBee-3は4気筒版MGBと同じであるばかりか、原因不明の不具合によってサーボ・ブースターがスティックしており、色々と手を尽くして機能回復を図ったが結局ノン・サーボ状態が続いている。

 まあ英国仕様MGBにおいてブレーキ・サーボはエンジン・ルーム左側に位置しており、同じ位置にあったBee-2での経験では非常にその効果は弱いものであるから、なければないで「ブレーキ・ペダルを強く踏むだけ」とは言うものの、Bee-3における最大の不安要因であることは間違いない。

 因みに左ハンドルMGBの欠点の一つである「左足の置き場のなさ」は、右ハンドル車の場合はMk.1でヘッド・ライトのディップ・スイッチがあったところが丁度良いフットレストとなっている。

 

 h.外観/内装

直接性能にかかわる改造は以上でほぼ全てであり、それ以外の改造は主にコスメティックな部位である。

当初はMk.1/2仕様の外観だったのだが、納車時に筆者のイメージに合わせてグリルとテールランプをMk.3ブラックメッシュ・グリル仕様に変更した。これに「V8」のエンブレムをフロント・グリルと左フェンダー、そしてトランク・リッドに装着し、さらにBLMCのエンブレムを左フェンダーに装着した。

最後に元々はウレタンバンパー・ボディだったことを示す証である、テール・エンドとインテリア・オープニングにあるボディパネルの接合線を埋めて、Bee−3の外観は完成した。

これは元々の筆者のコンセプトが「MGB/GT V8のトゥアラー仕様」というものであるためである。

ただし外観からは判別不能なのだが、実はBee-3のエンジン・フードはMk.2まで用いられていたアルミ製を装着している。これは無論軽量化のためであり、若干ではあるが発生していると思われるローヴァV8とBタイプ・エンジンの全備重量差を埋める一助となっている。

 

内装では,まずシート表皮はUB2英国仕様では虹色のストライプが縦に入ったファブリックなのだが、本革に張り替えられている。それ以外には、Bee−1以来のナルディ<クラシック>レザーステアリングホイールを装着し、シフトレバーをSD1そのままの長さからオリジナルのMGBに合わせて短縮した程度である。

なお、シートベルトは標準の3点ELR式から4点ベルトに変更してあり、これに伴って幌の折りたたみ時に干渉するのを避けるため、幌はMk.1用のストゥ・アウェイ式を装着している。

これはBee−2での経験から実施した内容だったが、結果的にはベルトの取り回し方法が変わったため、通常のフォールド・ダウン式でも良かった。またその方が圧倒的に幌の上げ下ろしが楽であることを身を持って経験することとなった(注:2013年8月よりMk.3用リア・ウィンドゥ部開閉型折り畳み式に変更)。

 

3. ロード・インプレッション

まずはMk.1用のストゥ・アウェイ幌を外そう。フロント・ウィンドゥ上部の2箇所のバックルを解除し、室内側の左右合わせて6箇所のストラップのフックを外し、外に出て裾のフックとドット・ファスナーを外すまでは折り畳み式の幌と同じ手順だが、そこからがストゥ・アウェイ式独特である。

筆者は基本的にフォールド・ダウン式幌と同様の畳み方で幌を丸め、「よいしょ」と全体を外してトランクに仕舞い込む。

後には幌骨が残っている。これをボディのソケットから引き抜き、前後のレールを折り畳んで左右に分け、こちらもトランクに入れる。この時点でトランクは一杯になってしまう。

またこの幌はリア・ウィンドゥが固定式であり、この点は発熱量が大きいV8エンジンを搭載しているBee−3ではきついポイントである。

代わりにトノゥ・バーを出し、トノゥ・カバーを張ったら、いよいよドライバーズ・シートに座ろう。これには特別な手順は必要ない。ただドアを開けたところに光る、ステンレスのスカッフ(スレッショルド)・プレートが目に付く程度の事だ。

シートに座って気が付くのは、見慣れぬデザインのダッシュボードである。

 

Bee−3インパネ1これはBee−3がUB2の英国仕様という、日本ではそれ自体非常に数が少ないモデルをベースとしているからである。

基本的にはUB1までの英国仕様のスチール製ダッシュボードを元に、メーターの端からダッシュボード中央部まで覆う樹脂製のパネルが付けられ、そこにシーソー・タイプの各種スイッチが並んでいる。

このためデザインはUB2日本仕様と同じものの、直径が遥かに小さいスピード&タコメーターが逆に目に付くことになる。メーター類は右から水温/タコ/燃料/スピード/油圧と並び、計器盤下のコンソールボックスはUB2日本仕様と同一のものが付けられている。

 

さて4点式のシートベルトを体に巻き付けて緩みがちなベルトを締め上げ、いよいよイグニッション・キイに手を伸ばそう。

Bee−3のエンジンに火を入れるには、少々コツが必要である。と言うのはBee−3のエンジンに装着されているホーリィの4バレル・ダウンドラフト・キャブレターには、元々オート・チョーク機構が装備されていた。

これは内蔵されているバイメタルをイグニッションと連動している電熱で加熱することにより作動する、という一風変わった仕掛けになっている。ところがその「作動」は、「チョーク解除」なのである。つまりエンジンを一度止めると、バイメタルが冷える方が遥かに早いため水温に関わらずオート・チョークが作動してしまう、つまり何もしない状態だと自動的にチョークはかかったままなのだ。

なぜこんな面倒な事になったかと言うと、Bee−3に装着したのが後付け用のキャブレターだったため、水温作動式ではなく電気作動式という珍しい形式になったのである。

しかしわずか1分駐車するだけでチョークが作動するのに閉口し、その後オート・チョークへの配線を切ってチョーク・バルブを固定してしまった。これで再スタートは楽になったものの今度はコールド・スタートがしにくくなるという、まあ当然とも言える結果を招いた。特に1週間程も駐車したままだと、夏場でもエンジンに火を入れるのには苦労をさせられる。

アメリカ製らしく豪快にガソリンを噴出する加速ポンプが装着されていることもあり、始動させ損なうとまともにカブらせるかバッテリィを使い切る事になるためだ。

色々な手順を試したあげくに辿り付いた手順は以下の通りである。

 

1. イグニッションをONにし、ミツバ製電磁式強化燃料ポンプがたてるクリック音が緩やかになってフロート・チャンバーにガソリンが満たされるのを確認する。

2. それから右足をスロットルの上に乗せる。この時決してスロットルを踏み込んではいけない。加速ポンプからガソリンが盛大に噴出されてしまい、それだけでプラグをカブらせてしまうからだ。

3. 次に右手を捻ってセル・モーターを回すと同時に、わずかなストロークだけ何度もばたつかせるようにスロットルを踏む。それはスロットル・ペダルの遊び分だけで十分である。

これで少し長めにセルを回してやるだけで、ローヴァV8エンジンは豪快な雄叫びを上げて目を覚ます。すかさず右足の力を調整して、エンジン回転を1500rpm〜2000rpm程度に維持して暖気運転に入る。

ここまでくればもう安心である。

 

エンジンが暖まれば、ノーマルよりも若干重いクラッチを踏み込んで、シフト・ノブをローに入れる。

Bee−3に用いているLT77型5速マニュアル・トランスミッションのシフト・パターンは、通常のH型パターンの左奥がリバースになっている。

ノーマルとちょうど前後逆の位置がリバースであるため、ノーマルのMGBのように走行中のシフト・ダウン時でのミス・シフトの危険性は少ないものの、走り出しのシフト時は留意が必要である。

まあノーマルと同じくリバースに入れるためにはストッパーを超えてシフト・ノブを左に持って行く必要があるから、よほど慌てでもしない限りミス・シフトの危険性は少ないが。

 

走り出しに特段の注意は不要である。むしろ有り余るトルクのおかげで、始めのうちはノーマルより簡単とすら言えるほどである。

Bee−3の駆動系は前述の通りRV8と同じ物となっている。当然オーバーオールのギア比は、RV8とまったく同じである。しかしBee−3とRV8の車重差が200kgほどもあることと、Bee−3のエンジンの最大トルクがわずか1910rpmで発生することとあいまって、普通に走っているつもりでも容易に交通の流れをリードできる。

またノーマルよりも遥かに高められたギア比のおかげもあって、通常の走りで使うのは1−3−5の3段だけで十分である。しかも極端な低速型フラット・トルク・エンジンのため、街中でも40Km/h程度から5速を使うことができる。

この結果、3.5リットルの排気量にもかかわらず、Bee−3の燃費は8Km/l前後という想像以上に良好な値を示すことすら可能である。

 

こうして大人しく走っている分には、Bee−3は実に従順で御しやすいクルマである。ただエンジンが十分に温まると逆に発進時に半クラッチを長めに取らないと、エンジンがストールしかけるという悪癖を持ってはいるが。また2速にシフト・アップする際に、1速からのシフトレバーの動きは直線的ではなく、ニュートラルで若干外へ動かす気持ちで操作しないと引っかかりがある。

コンペティション・スプリングを組み込んでいる割には、乗り心地もノーマルとさほど変わりはない。

 

しかし、このままではBee−3の実力の1割も使ってはいない。だいたい街中の交通の流れに乗っている程度であれば、4速でも1500rpm、5速に入れれば1000rpm程度しか回っていないだろうから。

少し鞭を当てることにしよう。しかし急にスロットルを床まで踏み込むのは禁物。ホーリィ・キャブの加速ポンプがスパーク・プラグをカブらせてエンジンが咳き込んでしまう恐れがあるからだ。それでも充分上半身がシートバックに押し付けられるほどの加速が得られる。

エンジン回転が2500rpmを超えるあたりで、はっきり分かるほど劇的にエキゾースト・ノートが変化する。セカンダリィ・ベンチュリィが作動し始めると、それまではノドの奥で唸り声を上げていたのが、完全に「咆哮」という呼び方に相応しい音に変わるのだ。

その時の加速力は、ヘタをすれば眩暈を起こしかねないほどである(これは決して誇張ではなく、元来少々貧血の気味がある筆者だと、本当に眩暈がすることがよくある)。当然バックミラーに移る他のクルマは、あっという間に点と化す。

これが交差点だと、LSDの効果もあいまって、リア・タイヤはあっさりとスキール音をたてる。無論雨などの低ミュー路でそんなことをするのは、ただの自殺行為だが。

Bee-3の英国からの輸入時の車重は1t丁度。その後のメッキバンパーへのコンバージョンやボンネット・フードのアルミ化などによって、Bee-3の車重はメッキバンパーMGBのそれとほぼ同等の数値であることが期待できる。

BMまでのMGBトゥアラー・メッキバンパー・モデルの車重は、資料によって940kg〜970kgまで差が見られる。仮に最も小さい値である940kgだとすると、Bee-3のパワー・トゥ・ウェイト・レシオは前述のエンジン最高出力から5.7kgps、トルク・トゥ・ウェイト・レシオは35.7kgkgmということになる。

対してRV8は車重1280kgで190ps&32.4kgmであるから、パワー・トゥ・ウェイト・レシオは6.7kgps、トルク・トゥ・ウェイト・レシオは39.5kgkgmということになる。これを見るとBee-3はどちらもRV8を上回っている。

RV8の0-400m加速データは「カーグラフィック」誌94年2月号でのテストで15.2秒を記録している。これらの数値データからすればBee-3の0-400m加速は14秒台も期待したいところだが、これはテストコースでしかるべき技術を持ったテスターの腕に委ねるしかないだろう。どちらにしても筆者の腕ではそんな速さは引き出せないが。

 

最も簡単にBee−3の実力を知るのに適した方法は、高速巡航かも知れない。

Bee−3のギア比はRV8と同じ、ということは4気筒MGBと比べるとそのギア比は遥かに高い。結果としてエンジン回転数と速度の関係は下のグラフのようになる。

 

このグラフは、エンジンから駆動輪までの間にロスがないものとして算出したものである。

Bタイプ・エンジンもローヴァV8もイエロー・ゾーンは5500rpmだが、そこまでエンジン回転が上がったとした時の最高速度は

  

Bee−1(UB2)

194.5Km/h

Bee−2(BM)

195.4Km/h

Bee−3(V8)

239.5Km/h

 

 ということになる(いずれも175/70HR14ラジアル・タイヤ装着)。

 ただしここでクセ物は、「イエロー・ゾーンまで回転が上がった『として』」という点にある。通常はそこまで上がる前に転がり抵抗や空気抵抗に対してエンジン出力が釣り合ってしまい、それ以上の速度上昇が出来なくなるのが普通である。

 因みにUB1英国仕様(Bee-1と同じSUツイン・キャブ)でのテスト・データでは168Km/h、BM英国仕様では170Km/hというのが最高速度である。一方Bee-3と同じギア比(タイヤ・サイズは異なるが)のRV8では、前述の「カーグラフィック」誌のテストで223.3Km/h(5速)を記録している。

 筆者にはBee-3で最高速度を調べるほどの腕も度胸も、免許の残り点もないから試したことはないが、加藤CG編集長(当時)が「巌のごとき直進性」と称したRV8に比べればBee-3のそれは甚だ心もとないものである。それでも死ぬ気でやれば、RV8より25ps少ないものの、Bee-3の方が200kg軽いというアドヴァンテージもあるから、RV8とさほど遜色ない値は記録できるかもしれない。

 ただし歴代3台のBeeシリーズの経験からすると、最も高速直進性が良かったのはUB2だったBee-1である。これは前後に装着された重いウレタンバンパーが一種のマス・ダンパーの役目を果たしていたのではないかと思うが、すでに空気力学時代を迎えていたウレタンバンパーのデザイン自体に意外と空力安定効果があるのかも知れない。

 まあそこまで出さないにせよ、Bee-3は高速巡航を得意科目としている。無論盛大な風切音やロード・ノイズなどは言うまでもないが、少なくともよほどのクルマが相手でなければ「動くシケイン」扱いを受けることはないと言ってよい。

 それどころかこちらを「心情的スポーツカー」と侮って不埒な行為に及ぶマナーの悪いドライバーに、一泡も二泡も吹かせることも造作もない。何しろ5速2500rpmでの速度は約110Km/h。セカンダリィ・ベンチュリィはそこから本領を発揮するのだ。

 いささか「俗物根性」が過ぎるのを承知の上で語らせてもらえば、基本的に同じローヴァV8エンジンを搭載したTVRキメーラ等を追いかけ回して愕然とさせるのも可能なのである。

 

さて、Bee−3のノーズをワインディング・ロードに向けてみよう。

Bee−3のコーナリング・マナーは、実際のところ足を固めた4気筒MGBとは変わりないと言って良い。車高はUB2のまま(V8はこれが標準)だが、ハードなスプリングと減衰力調整式のSPAXのおかげか、リアのスタビライザーを外しているにもかかわらずUB2の悪癖である「膝を折ったような初期ロール」は微塵もない。

ただV8エンジン搭載に伴いEXマニーフォールドとの干渉を避けるため変更されたステアリング・シャフトのせいか、ハンドル操作はノーマルよりも若干重いかも知れない。まあこれは筆者がBee−1/2に乗っていた頃からすると歳も取って、元々なかった体力がさらに減ったせいなのかも知れないが。

またMGCほどではないとは言え、元々MGBのアンダーステアは強めである。Bee−3の場合は4気筒版よりもコーナーへの侵入速度がどうしても速めになるため、アンダーステアも4気筒版よりも強めに感じる。

まあ装着しているトルセンLSDを利してパワー・オーヴァステアに持ち込むことも可能なのかも知れないのだが、一般道だと相当な勇気と度胸が必要だろう。

また2003年春からブレーキ・サーボが復活したとは言っても所詮は40年前の車種のブレーキのこととて、早めの減速は必須である。一般に古い英国車では強いエンジン・ブレーキの多用はミッションに大きな負担を強いることになるのだが、Bee−3の場合は190馬力のRV8に用いられているのと同じユニットを搭載しているから、思い切ってエンジン・ブレーキを使うことができる。

これにはUB2からヒール・アンド・トゥに対応したペダル形状に変更されていることと、ベル・ハウジング部をカバーしている部分に付けられた膨らみがフットレストの代わりになることも大きい。これは元々Mk.1の時代にヘッドランプのディップ・スイッチが付けられていた名残である

とは言うもののギア比が高くトルクが太いために、極低速になるとヘタをするとシフト・ダウンしているにもかかわらず加速する、という事も起こりえるのだが。

 

♪Bee-3発進

 

4. 最後に

 Bee−3とは、要するに「パワフルなMGB」である。

 MGBのオーナーの方々の中には、筆者と同じく「More POWER」という欲求をお持ちの方も少なくないだろう。大方の人のそうした場合の選択肢はと言えば

 

 a.エンジンをチューンする

b.もっとパワフルな車種に買い換える

c.あきらめる

 

のどれかではないだろうか。

 a.はMGBの場合パーツには困らないし、最終的には筑波サーキットはおろか海外でのヒストリックカー・レースでもいい勝負ができるくらいまでのチューンも可能だが、それには耐久性の低下や低速トルクの減少という副作用を覚悟する必要がある。

 b.は抜本的な解決方法ではあるが、無論これはMGBとの惜別を意味する。

 c.は最も手っ取り早くはあるが、これでは何の解決にもなっていない。

 通常はa.で金銭/実用性との妥協点を探すという方法が最も現実的解決法であろう。「排気量アップに勝るチューンなし」という言葉があるという。まあこれは本来ボア・アップ等を指す言葉なのだろうが、僕が選択したのも要するにこの言葉の延長線上にあると言って良い。

 「コーナリング・マナー等の基本的性格をスポイルすることなしに、パワーを得る」。これは実は非常に難しい事柄である。そこに必然的に付きまとう妥協を最小限度に留めた一つの回答が、MGBトゥアラーV8コンバージョン・モデルなのである。

 

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