作文:めののん
楽々ジャンプ!新しいところへひとっとび!
っていうか「目次」
1「起きなさい。もう8時よ」
2「電車はまだ来ないのか?」
3「遊園地行かない?」
4「あなた学校は僕と一緒ですよね?」
5「ねえ、・・・・・・・・・なんだけど」
6「もっと早く歩いてよ」
7「ホントに大丈夫なのかなぁ」
「起きなさい。もう8時よ」
母は、毎朝手をかけさせないでよ、と布団を引っぺがして台所へと消えていった。
僕は目をこすりながら時計へと目をやった。
8時だった。
自分の目を疑った。
8時だ。ああ、完璧に遅刻だ。
もちろん学校に。
いや、正確に言うと駅に。
一緒に学校に通うために駅で待っている僕の彼女との待ち合わせに遅刻なのだ。
顔を洗いながら、ぼくは母を恨んだ。
どうしてもっと早く起こしてくれなかったのかと。
しかし母は、何回も起こしたのに起きない方が悪い、と言って取り合わず、パン、と一言ぶっきらぼうに言った。
パンをそこに置いてあるから食べて行きなさいよ、とかいう意味だったのだろうけど、朝飯なんか食べる余裕なんてなかった。
急いで容姿を軽く整えて玄関を飛び出した。
とたんに雨が降りだした。
最悪だ。
人間ってついてないときは本当についてないものなんだと誰かが言っていたが、まさにその通りだと思った。
泣きっ面に蜂。七転八倒。二度あることは三度ある。
あわてて傘を取り、それをさして駅に走った。
途中何度も滑ってこけそうになったが、なんとか緊急回避できた。
雨の中を走っていると、彼女と初めて出会った日もこんな日だった、と思い出された。
さあ駅はもう見えてきた。
「電車はまだ来ないのか?」
遅刻寸前だ。
階段を駆け上がったので息切れしている。
夏の暑さも手伝って、苛々しながら時計と電光掲示板を交互に見る。
あと2分23秒は来ない。
朝飯抜きだわ、雨は降るわ、とどめは電車の遅延。
延着証明をもらえば遅刻にはならない。
しかし塾に行っていない僕にとって授業はそりゃもう大切な物で、最初の10分聞けないだけで大損するのだ。
しかも今日の一時間目は数学。
中学からの苦手教科。
あまりに数学の成績が悪かったので周りからはこの高校に合格は無理だと言われていた。
さすがに危険と感じて3学期から数学だけ塾に通った。
その努力が実って無事合格。
しかし所詮は付け焼き刃な知識だ。
高校の授業が始まる頃にはさっぱり忘却。
というわけで苦手数学を今でも引きずっているのだ。
授業に出ていてもさっぱり理解不可能なのに遅刻なんかしたら欠点を覚悟しなければならない。
しかしどうあがいても電車が早く来る訳でもないし、元はといえば僕が寝坊したのが悪いのだから諦めるしかない。
やっと電車が来た。
乗り込んで、周りを見渡し、席を探す。
ない。ない。ない。
電車が動き出す前に諦めて吊り革をつかんだ。
一駅目。3人降りて席が3つ空いた。その3つともサラリーマンに取られた。
二駅目。5人降りて、すぐにそのまま、やはり席の横にいたサラリーマンに座られた。
五駅目。1人降りた。僕の目の前の席に座っていた人が降りたのだ。
これは座れるチャンスである。
さあ座るとするか、と方向転換しようとしたその瞬間、隣からスッと割り込まれた。
えっ、と思いながら見ると、そのスッと割り込んだ人は女性で、年齢は16歳位に見えた。
服装は制服で、そこから察するに僕と同じ高校のようだ。
顔をよく見ると、世に言う美人というやつだった。
しかしそれは目の下のクマさえなければの話だ。
今の彼女はやつれているし顔色は悪く、息は荒い。
仮に僕が先に座れていたとしても、そんな状態の人に前に立たれたら席を譲らずにはいられなかっただろう。
僕は、彼女は熱があるのをおして夜遅くまで勉強していたら寝坊してしまって走って来た、と推測した。
そんなこんなの間に降りる駅に到着。
僕は降りようとした。
しかし彼女は何故か降りようとしなかった。
僕はあの人は大丈夫なのだろうかと思いながら、横目で彼女を見つつ降りた。
僕の乗っていたその電車はちょうど特急の通過待ちをしていたのでしばらく停まっていた。
僕は階段を半分まで降りていた。
「遊園地行かない?」
改札への階段を降りている最中にそう聞かれて僕は内心驚き、少々面食らった。
それは僕が絶叫マシンが苦手だということもあったが、それより何より普段外に出たがらない彼女がそんな提案をするわけがないと思っていたからだ。
しかも映画館や図書館への誘いでさえも断っていた彼女が遊園地に行きたがるだなんてますますありえない話だ。
今から?と聞き返すと、彼女は嬉しそうに頷いた。
あのー、出席日数ぎりぎりなんですけど、と言うと、すこし考えて、私は大丈夫よ?と返してきた。
何故出席日数ぎりぎりなのかは追って説明することにして、この時初めて後悔と確認をした。
なんでこんな人を彼女にしてしまったのかと。
女とはなんと無慈悲な生き物なのかと。
彼女は一度言いだしたら止まらない性格らしく、行かないなら絶交!とまで言ってくる始末。
頭の中で上皿天秤を用意し、薬包紙を乗せ、慎重に授業と彼女を量った。
僅差で彼女の方が重かった。
重いといってももちろん体重の話ではない。
そんなことを口にしたらやはり絶交になってしまう。
僕から見れば、いや、誰から見ても彼女は全く太ってはいない。
むしろ痩せ細っている。
とにかく、僕は遊園地に行く旨を彼女に伝え、絶交の危機を脱することに成功した。
お金は一応バイトでためたのがあったので心配いらなかったが、このことを見抜いていたのだろうか彼女はこんなことを言い放った。
もちろんあなたのおごりね、と。
そして僕と彼女は階段をホームの方へと進んで行った。
お互いの手を握りながら。
「あなた学校は僕と一緒ですよね?」
やはり心配になって階段を逆戻りして、再び電車に乗り込んで彼女の前に立ち、聞いてみた。
そして、降りないんですか?と付け加えた。
すると彼女は口を微かに動かしたが、その時ちょうど隣の線路を特急が通過して行ったせいで聞き取れなかった。
今度は耳を彼女の顔に近づけた。
また微かに口が動いた。
僕の耳には、立てないの、と聞こえた。
どうしてですか?と聞くと、しんどいし気分が悪い、とのこと。
僕の予想は的中していそうだ。
しかし、それが分かったところで僕にはどうしようもできない。
いや、彼女を病院に連れていくことくらいはできるかもしれない。
そういえば幸いなことに学校の近くに割と大きい病院があった。
僕は彼女に背を向けしゃがんだ。
おんぶをしていくつもりだ。彼女はまるでキョンシーのように手を前に突き出し、無意識に僕の背中に乗って来た。
軽い。
立ち上がり、彼女の鞄を持って電車を降りた。
鞄の方が重く感じた。
同じ学校とはいえ見ず知らずの人に体を預けるだなんて、よっぽど酷いことになっているのだろうと思いながら、エレベータのボタンを押した。
1年前から工事を始めて先月できたばかりのエレベータだ。
なんでもバリアフリーの一貫らしい。
エレベータが上がって来てドアが開いた。
中からサラリーマンが数人でてきた。
割と太めの人たちだった。
歩かないともっと太りますよと、思いつつその箱に乗り込んだ。
改札を出ようとした時、駅係員に呼び止められた。
しかしそれは当然のことだろう。
ぐったりしている人を背負っているのを見たら、誰でも声をかけずにはいられない。
どうしたんだい?と聞かれ、彼女の体調が悪いことを知らせた。
医務室を案内されたが、近くの大きい病院に連れていく旨を伝え、改札をでた。
「ねえ、・・・・・・・・・なんだけど」
改札を出て彼女が言った。
しかしその時僕は英単語帳に見入っていてそれを聞き逃してしまった。
何?と聞き返したけど、やっぱりいい、と言われてしまった。
やはり、試験前だとはいえ彼女といるのに電車内で一言も言葉を交わさなかったのはまずかったかと後悔した。
後悔先に立たずか。
しかしその後は彼女はいつもと変わらずだった。
たいした用件ではなかったのだろう。
駅から学校まではほぼ一本道だから迷うなんて普通は有り得ないのだが彼女は何度かあるらしい。
方向音痴なのかと思いきや、食べ物屋や服屋の場所は一度行った所はもちろん、まだ訪れたことのない店までどんなに入り組んだ路地でも迷わずに行けるのだ。
不思議である。
ともかく彼女の機嫌を損ねないようにするために、英単語帳をかばんの外ポケット(二つあるうちの大きい方。小さい方には財布が入れてある)にほうり込み談話に専念することにした。
しかし時すでに遅し、その後の彼女の機嫌はすこぶる悪かった。
これから1週間の交際費を僕が全て持つということで、やっと彼女の機嫌が元通りになったのはその日の昼休みの事だった。
「もっと早く歩いてよ」
僕は出席日数を気にしながらだったので歩幅が狭くなっていた。
あと5分も歩けば彼女の行きたがっている遊園地に着く。
その道は平日でも人通りは多く、両側の商店街も活気づいている。
その遊園地は入場料は無料だがアトラクションを楽しむ時に先立つものが必要なタイプだ。
大体の乗り物が300円前後なのだが例外もある。
観覧車乗ろうよ。
彼女はそう言った。
いきなりそれに乗るのかよと思った。
普通は最後に夕日を浴びながらロマンチックに乗るものだし、そのためかどうかは定かではないが観覧車は遊園地の奥に設置されている。
さらに言えば観覧車はジェットコースターと並んで600円もするのだ。
しかし彼女に文句を言ったところで彼女が目標を変えるでなし、値段も安くなるわけでもないので言うとおりにする。
やはり観覧車周辺に人影は少なく、並んでいる様子もない。
すんなりゴンドラに乗り込んだ。
「ホントに大丈夫なのかなぁ」
病院の中にはたくさんの人がいた。
受付に行き彼女は診察券と何故か持っていた保険証を係の人に提示し、待ち合い室の空席を見つけてそこに素早く座り込んだ。
僕はさっき電車にいたときの事を思い出した。
そんな事を考えているうちに思ったより早く順番が廻って来た。
どうしましたー、と聞かれて彼女は細かな声で言ったとたん、お薬出しておきますから様子見てもらえますかー。
どおりで早いはずだ。
それにその医者は最初にちらっと彼女の顔を見ただけであとは机に向かったままだった。
しかし僕らは診察室から出るとき背後からの視線に気付かなかった。
あー。7は書き直すかもー。
〜次回更新につづく〜