三条辛羅沙の少子化対策

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[場所 三条学園高等部生徒会長室]
お姉さま、相談したいことがあります。
いらっしゃい、イソメ!あなたからの相談なんてめずらしいわね。
実は、「三條なでしこ女子大」のことなんですが
ああ、五十六おじい様の肝いりでつくった女子大ね。
端的に言いますと、つぶれかかっています。
あら、まあ、うちの高校からもたくさん進学するんでしょう。
だから、困っているんです。
この高校の落ちこぼれ生徒の受け皿なんですから。
でも、あなたは行かないんでしょう?
当たり前です!あんなレベルの低いお嬢様大学なんて、
お姉さまも行く気がないでしょう?
まあね。私は東京の美術大学を目指しているから。
だったらいいじゃない、つぶしてしまえば。
五十六おじい様の、お願いなんですよ。それに将来、あの大学は、
私に譲ってもらえることになってまして。
はは〜ん、不良資産を抱えたくないわけね。
そうですよ。天王山の山の上にある大学なんて資産価値ないですよ!
取り壊すだけでも、何億かかるか。
ほんと、もっと京都の町に近ければね!
それにしても、何で私に相談なの?大学の立て直しなんて、私の専門外よ!
私もそう思うのですが、なぜか、五十六おじい様は、お姉さまのことを信頼してらして、
「シラサに相談すれば何とかなる」とおっしゃるんです。
「女子大の応募者が、なぜ激減しているのか、」「どうしたら受験者が増えるのか?」
「今の若い娘の感性でないと分からない」とのことです。
なるほど!たしかに、女子大の応募者が減るのは想像つくわね。
あんな、街から離れた山の上の修道院みたいな女子大、誰もいきたがらないわよ。
あの年頃だったら、彼氏と鴨川でデートもしたいだろうし、四条通りをショッピングとか
祇園の御茶屋で遊ぶとか、・・・・・・そりゃあ無理だわ!
いったい、何を思ってあんな山の上に女子大を作ったの?
その件については、完全に五十六おじい様の見込み違いです。
西暦2000年から第三次ベビーブームが起こると予想したのです。
それに、女子の大学進学率も高まっていました。
だから、その子たちが18歳になる2018年から女子大学が不足するはず。
予想はものの見事にはずれ、第三次ベビーブームは起きませんでした。
それどころか、少子化が加速、このままでは私立大学の半数が倒産です。
半数が倒産?
いったい、大学っていくつあるの?
そうですね。国公立の大学が180校ほどで、私立が600校、合計780校ほどですか。
私立の内400校ほどが最近出来た大学で、みんなうちと同じで、あてが外れた口です。
一番あわてているのが文科省で、私立大学の統廃合を勧めています。
私立大学の半数が倒産というと、300校ほどか?
大変だわ、それで、うちの女子大はどこと合併するの?
どこもしてくれませんよ。あんな山の上の修道院みたいなとこ。
修道院って!イソメもやっぱりそう思っていたのね。
とにかく、お姉さまの天才的なプログラムの技術を使って、女子大の立て直しをしてほしいんです。
それと、日本の少子化も何とかしてください。
あんた無茶苦茶いうわね。
女子大の立て直しはともかく、日本の少子化対策なんて、国家レベルの話でしょう。
それにどっちもプログラムの技術と関係ないし!
でも、日本の少子化を何とかしないと、大学経営をなんとかしても、いずれジリ貧になります。
五十六おじい様も三条コンツェルンも全力で頑張りますから。
チャーチル首相が言ってたわね。政治家に必要な資質は、未来を予想し、予言する能力があることだ。
はい?何ですかそれ!
そして、その予言が外れたとき、なぜ外れたか分かりやすく説明する能力もあることだ。
イソメ、おじい様の予想はなぜ外れたの?
それと、少子化の原因をわかる範囲で教えて。
それでは、第三次ベビーブームが起きなかったことの説明をしますね。
そもそも、第一次ベビーブームは太平洋戦争終戦の翌年1946年から1950年にかけて起こりました。
南方やアジア大陸から帰ってきた復員兵たちが、軒並み結婚して子供をつくったんです。
当時は食糧難で、みんな貧乏でしたが、たくさん子供が生まれました。
親は自分の食い扶持を減らして子供に与えていました。なのにすぐ次の子を妊娠してたんです。
不思議ですね!
俗にいう「貧乏人の子だくさん」というやつね!
お姉さま、それ差別用語ですから!
ええと、第二次ベビーブームは、その子たちが、出産適齢期に達した1975年から1980年にかけて起こりました。
ですので、次は2000年から2005年にかけて起こると予想されたのですが、結局、起こりませんでした。
原因は、1990年代のバブル崩壊後の就職氷河期・長引く不景気といわれていますが、よく分かりません。
おじい様たちは、不景気で貧乏になれば、よけいに子供が生まれると思っていたみたいですし、
ろくに仕事も食糧もなかった終戦直後は、たくさん子供が生まれたわけですから!
なるほど、おじい様は景気・不景気と出生率は関係ないと思っていたのね。
むしろ「貧乏人の子だくさん」で子供は増えると!
それじゃあ、予想がはずれるわ、納得だわ。
だからお姉さま、それ差別用語ですから!
じゃあ少子化の原因を説明しますね。
少子化は、最近始まったわけではなく1980年代から危惧されていました。
女の人が、一生で産む子供の数が2を下回るようになってきたのです。こうなると人口は減少します。
現在は1.4ぐらいでして、こうなると人口は激減します。
国は少子化対策として、出産補助や育児支援に力を入れますが、まったく効果がありません。
結婚している女性では、出生率が1.8から2.0の間を推移しています。
つまり、結婚している女性は、まあまあ人口を維持できる子供を生んでいるのです。
そして2.0以上にならないのは、お金の問題よりも晩婚による母体の年齢の問題です。
もう一人子供がほしいけれど、高齢出産のリスクを考えてあきらめてるのです。
そして、結婚しない女性がふえ、母親の絶対数が減少しています。
ふむふむ、つまり、結婚している女性は、まあまあ子供を生んでいるが、晩婚が多く、年齢が
40近くなるとそれ以上は無理というわけね。
あと、結婚しない女性も増えているわけね。
そうなんですよ。さすがお姉さま理解が早い。
それから、他の国の人と違って、日本人は結婚しないと子供はつくりませんから。
未婚の母なんて、誤差の範囲ですよ。
なるほどねー。そりゃあ国や政府もどうしようもないわ。
「おまえら、出来るだけ若いときに結婚しろ」と命令できないものね。
じゃあ次は晩婚の原因と結婚しない原因ね。
どちらも、女性の高学歴化と社会進出で説明できます。
高校時代のカップルは、同じ大学に進学しない限り、だいたい別れます。遠距離恋愛は無理ですから。
別れないのは、高校卒業と同時に地元で就職するカップルで、早くに結婚し子だくさんになります。
現在の日本の出生率を支えてるのはこの人たちです。
いわゆる田舎のヤンキー夫婦ね、勉強できなくても生活力のあるタイプ。
何があっても生き残って、子孫をたくさん残しそう。
そうですね。上品ではないですが、たくましさを感じる人たちです。
で、大学に進学した人たちですが、その多くが高校時代の彼氏・彼女と別れ、
同じ大学内や近辺の大学生とカップルになります。
ふんふん、いいんじゃないの。
遠距離恋愛は無理なのよね。
ところが、そのカップルも就職を機に別れることが多いんです。
なんで?
職場が近くにならない場合が多いですから。東京と大阪とか名古屋とか
彼氏が田舎で実家の仕事を継いで、彼女は東京でデザイナーとか。
この時、自分の就職を蹴って、彼氏に付いて行った女の人は、だいたい幸せになってますね。
23か24で結婚して、子供を2・3人生んで、30歳くらいまでに子育ても一段落。
パートかアルバイトで家計を助けて、趣味にも力を入れる生活をおくる。
問題なのは、仕事を取って彼氏と別れた方の女です。
社会人になって、職場で彼氏を見つけようにも、うまくいきません。
職場恋愛や取引先との恋愛は、ご法度の企業が増えてきてますから。
へえ〜、何でなの?
セクハラやパワハラがうるさいからですよ。
昔は、大企業の女性の一般職事務は、男性社員のお嫁さん要員でした。
ですから、容姿と良妻賢母むきの性格などが重視されて、採用されました。
そして上司は、新入社員たちが仲良くなるようお膳立てをしてカップルを作ります。
場合によっては仲人になったりして結婚させていたんです。
そして、女性の方は、数年で寿退社でさようならです。
すぐ交代で、若くて容姿端麗な新入社員が入ってきます。
これの繰り返しです。
ですから、セクハラなどもあまり問題になりませんでした。
女性社員にとって、男性社員は大切な将来のお婿さん候補ですから。
上手にあしらったり、いちゃついたりしながら性格を見極めて、結婚相手を決めていたんです。
当時は、女性の方からのボディタッチも当たり前で、宴会の座席も男女を隣り合わせていました。
これとは別に、少数ですが、バリキャリと呼ばれる総合職採用の女性もいました。
こちらは、幹部候補の女性エリート社員ですから、能力重視で採用されていました。
服装も私服で、残業も男性社員並みにあります。
男勝りの性格で仕事に生きて、生涯独身の人も多かったようです。
一般職なのに結婚もせずに、いつまでも会社に勤めている女の人は、
お局様と呼ばれて気の毒がられる存在でした。
今はそうじゃないの?
はい、違います。
企業はお嫁さん要員をかかえるほど余裕がありません。
女性社員も全員戦闘要員です。
その結果、社員は男女関係なく同僚でライバルということになります。
ですから、お茶を入れるのは女性の役割などと言えばパワハラになります。
むろん、容姿のことを言ったり私生活のことをたずねたり、食事に誘ったりしたらセクハラになります。
社内恋愛禁止とはっきり言っている企業は少ないですが、男女の間はギスギスしてて禁止と同じ状態です。
また、企業にとって戦闘要員の女性社員の寿退社などもってのほかですし、
これまでどうり勤められても困ります。
新婚夫婦が会社の中でいちゃいちゃしたら困るわね。
なるほど、だから社内恋愛禁止か!できれば、よその社員と結婚して欲しいわけね。
取引先との恋愛を禁止するのは?
想像つくでしょう。
「君が僕の言うことを聞いてくれたら、この契約を結んでもいいんだよ。げへへへ!」とか
「今晩、僕と食事しない。そこで融資の件を相談しよう。ひひひ!」とか、
だから、取引先との恋愛も禁止なんです。
まあ、そうならないように男性社員も一緒についていくわけですが
とにかく、昔の会社をイメージして、「大企業のエリート社員をゲットして専業主婦で優雅な生活」
と思っていた女は、あてがはずれるわけです。
学生時代の元彼と、よりを戻そうとしても、うまくいかず、
気がついたら30前のアラサーになっていた。
あわてて、婚活を始めるもろくな男がいない。みんな元彼より数段落ちる。
ここで妥協に妥協を重ねて結婚した場合は、晩婚になります。
妥協しなくて、元彼並みの男を探し続けた場合は、生涯未婚になります。
ふう〜ん!だいたい分かったけど、男はどうなるの?
男はですね、高校卒業と同時に地元で就職し結婚するタイプについては説明しました。
それから、卒業後、大学時代の彼女が就職先までついてきた場合も説明しました。
就職を機に大学時代の彼女と別れた男ですが、大企業社員でイケメンで高身長の場合はモテモテですね。
結婚なんかあほらしくてできるか!と思っている人が多いです。
「結婚しない男」の背の高い主人公みたいな男です。40ぐらいで、20代と結婚しようとします。
問題なのは、優秀な女性との競争に負けて、大学は出たけれど、フリーターやニート派遣社員になった男性です。
この人たちで年収の少ない人は、最初から結婚をあきらめていて、生涯未婚になりそうです。
ネトウヨと呼ばれる人もだいたいこのタイプね!
そうですね!女嫌いな人が多く、「女は馬鹿だ!」とか「ビッチ・淫売だ」とか罵詈雑言を吐いています。
女の方もこんな男は御免こうむりたいのですが、年々数が増えてきてます。
ここらは、もう救いようがなさそうね。
ところでイソメ、三條なでしこ女子大の在籍女子大生は何人なの?ざっとでいいから教えて。
定員は、内の高校と同じ各学年300人なんですが、
年々志願者が減ってきて、今のところ、
4回生が250人
3回生が200人
2回生が100人
1回生が50人
ざっと600人ほどですね。充足率は、定員の半分ほどです。
危機的状況なのが、分かるでしょう。
ほんと、いつ倒産してもおかしくないわね。
よしイソメ、五十六おじい様に連絡して、三条コンツェルンの新入社員の中で、
独身でイケメンなのを100人ほど、用意するように伝えなさい。
ああ、出来るだけ会社は、ばらばらの方がよいわね。
ところで、おじい様は何をしているの?
こんな、大切なことをあんたに頼んで。
おじい様は、持病の痛風の発作が出て入院中です。
ああ、いつもの痛風ね。何で入院してるの?痛風でしょう?
若い看護師さんにいろいろ世話を焼いて貰いたいからじゃないですか?
三條病院は、美人ぞろいですから。
まあいいわ、今晩中に考えをまとめておくから、
イソメ!明日、三條病院に行きましょう。




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