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地方分権を考える

三位一体改革の行方は?

自民党大阪府連幹事長 松 室  猛



地方分権推進改革会議が6月3日に幕を閉じた。
2000年4月に地方分権一括法が施行され、それまで地方自治体事務のかなりの部分を占めていた国の事務、即ち機関委任事務は一応整理されたが、まだまだ国と地方の関係や行政執行のあり方について検討と改善をしなければならないことがたくさんある。
それらを進めるための地方分権改革推進会議が最終段階に来てまとまりのある結論が出ないまま閉幕した。
一応「意見書」は提出されたが『三位一体改革』といわれた税源移譲・補助金の削減・地方交付税見直しの三課題のうち最大の課題であった税源移譲が実質先送りされる形であったのは残念である。

この会議の結論は小泉総理が議長を務める経済財政諮問会議で、いわゆる「骨太の方針第三弾」としてまとめられるようであるが、各省庁の既得権益をめぐる熾烈な争いと族議員の攻防が盛んであるだけに、果たしてどんなまとめ方でどんな「工程表」ができるのか、大変関心を呼んでいる。

この際、地方分権推進改革会議の構成メンバーと審議および最終意見のあらましを眺めてみたい。

地方分権改革推進会議のメンバー
議  長  西室泰三(東芝会長)
議長代理 水口弘一(中小企業金融公庫総裁)
委  員    赤崎義則(鹿児島市長)
岩崎美紀子(筑波大教授)
谷本政憲(石川県知事)
神野直彦(東大教授)
竹内佐和子(東洋大教授)
寺島実郎(三井物産戦略研究所長)
森田朗(東大教授)
吉田和男(京大教授)
吉永みち子(作家)
以 上 11名

多彩な顔ぶれであるが、6月3日にまとめられた意見書の要旨を眺めてみると三位一体改革の具体的な内容は国の財政建て直しのための施策としか思えない内容である。

分権改革推進会議・最終意見書の要旨

1.国庫補助負担金の削減

・義務教育費国庫負担制度など11項目の重点事項に関連する国庫補助負担金は中長期的には廃止、縮減が望ましい。
・廃止される国庫補助負担金の対象事業の中で引き続き地方公共団体が主体となって実施する必要のあるものは、移譲の所要額を精査の上地方に税源移譲することが必要。
・ 残る国庫補助負担金については国の関与を縮小し地方の裁量を拡大する観点からその交付金化、統合補助金化を推進すべきである。
・ 地方公共団体向けの国庫補助負担金の一般会計ベースで6割を占める社会保障関係費は近年増加の一途をたどっている。国と地方の公的負担の増加を抑制することが必要。

2.地方交付税

・まず徹底的な地方財政の見直しを行い、地方財政計画の規模の縮減を図り地方交付税総額の抑制を行うべき。
・中長期的な地方交付税改革では地方公共団体の財政力格差を調整する機能を強く前面に押し出す方向で検討すべき。
・ 現行交付税制度のように、さまざまな上乗せを加えて地方財政の財源を確保することは国民にわかりにくい。法定率分とそれ以外を明確に区分するなどわかりやすい形で議論すべき。
・ 法定分を地方税に位置づけ地方公共団体間の総意に基づいて水平的調整を行う『地方共同税』(仮称)は一つの選択肢。

3.税源移譲を含む税源配分の見直し

・ 国庫補助負担金の廃止、縮減と具体的な税源配分の見直しのタイミングがずれる場合には経過的な財源措置が行われることが必要。
・ 恒久的な減税は地方財政に大きな負担をもたらしており、特に定率減税については経済情勢を見極めつつ廃止していくことが必要。
・ 国税、地方税とも、増税を伴う税制改革が必要である。この税制改革においては、国と地方の税源配分についても見直しが行われるべきである。

以上が改革推進会議の意見書のうち、いわゆる三位一体改革の部分の要旨である。

税源移譲については5月の初旬に水口弘一議長代理が、将来の増税時に先送りする試案を示した時から混乱が始まった。
メンバーである谷本石川県知事などは「これまでの議論は何だったのか、この試案は唐突である」と反発があり、各地方自治体も、地方より国の財政再建を優先する財務省よりの案だと一斉に反対する声があがった。
当時新聞紙上でもかなり取り上げられたが、片山総務大臣は水口氏の更迭を公然と主張する事態にまで至った。

この間、財務省は税源移譲に対して消極的と見られていたが、塩川財務大臣がタバコ税、酒税、揮発油税の一部を地方税に移す考えを示したので改革分権推進会議の消極姿勢だけが際立つ結果となった。

先にも記したように、改革推進会議の意見書は地方の歳出削減、自助努力を前面に打ちだし、交付税の大幅にカットする方向となっている。
会議の運営方法についても、税源移譲に関して対立している総務省と財務省の影響を受けない形で議論すると西室議長は宣言していたが、同会議メンバーの谷本氏、赤崎氏、神野氏、岩崎氏の4氏は最終的に記者会見を開き『地方分権に対して理解も愛情もない』と強く抗議する声明を発表する事態となった。この結果4氏の強い求めで反対委員の氏名を明記する異例の文書になった。

このような経緯をたどった分権推進会議と同じ総理の諮問機関である地方制度調査会とはかなり違った結果を出していることが注目される。
「地方制度調査会」では三位一体改革の目標を国と地方との税収配分を1対1にすることを明確に位置づけ税源移譲を中心とし、税源移譲は個人住民税と地方消費税拡充により行うべきと明記している。
交付税について『財政調整・保障機能を一体として果たす制度の役割は重要』と捉え、抜本的な交付税制度の改革には消極的な結論となっている。

これに対し地方分権改革推進会議では『国と地方の財政が悪化している時に税源移譲は無理』との考え方に立っており『歳出カットだけでは地方経済は疲弊し、結局は国の税収減に跳ね返る』と考える地方制度調査会とはかなりトーンが異なる結論を出していると言えるだろう。

「地方でできることは地方に任せるべきである」であるとする、極めてわかりやすい言葉で語る小泉総理はかなりトーンの異なる二つの意見書をもとに『骨太の方針』づくりに取り掛かることになり現在作業が進められているが、この時こそ地方の痛みを理解し、真の地方分権の確立のために勇気ある三位一体改革を実現してもらいたいものである。

財務省の中には税源移譲に対して消極的な意見が根強いが、塩川財務大臣は地方の実情と世論の流れに抗し難く、先日タバコ税と酒税、揮発油税の一部などを地方に移すことを示しているが、こんな中途半端なものでは駄目だ。所得税や消費税に踏み込んだ議論をしなければ地方自治体の国に対する離反は益々加速されるであろう。

いよいよ小泉総理は財政経済諮問会議でこの問題の結論をださねばならない時を迎えた。改革の成否は国の将来を左右する問題を含んでいる。
総裁選を控えて全国の自治体の熱望にどう応えるのか、省益擁護の官僚の抵抗を排して地方自治確立に向かって総理の英断が期待されるところである。

平成15年6月




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