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平成15年3月3日



銀行税判決に関するわが党の見解
読売新聞の見識を問う
地方自治体の執行体制のあり方について

 
時代認識について
あっという間に4年間が過ぎ去り改選の時期を迎えました。
ドッグイヤーなどの言葉を持ちだすまでもなく、慌しさだけが感じられる昨今ですが、この速さは地方自治体にとって自滅に向かう速度の速さのような気がしてなりません。しかし、何が起こるか分からないとよく言われますが、つい最近まで、我が国に存在する総ての政党がこれ
ほど軽んじられた時代は無かったと思っていましたが地殻変動が起きました。
平成13年の4月のことでした。自民党の総裁選挙という、言ってみれば政党内の出来事に過ぎない選挙で自民党に対する風向きが大きく変わりました。その少し前までの自民党は我が国最大の政党でありながら、とてもじゃないが市民権を得ているとはいえないような状態でしたが、小泉政権の誕生によって急激に圧倒的な支持率を取り戻しました。
あの変化の原動力は何だったのかの答えは簡単明瞭でありまして、政党をぶっ潰してでも改革を断行しなければ日本が滅びると自分の言葉で語りかけた改革論議でありました。あれほど単純な論理に基づく主張がこれほどの支持率をもたらしたのは、現代と言う時代が、あらゆる分野が閉塞感に覆われており何とか改革をしなければならないとの思いが充満していたからに他なりません。
地方自治体である大阪府も決してその埒外にあるわけではありません。
時代の急激な変化に対応し切れなかったのは産業構造だけではなく行政のあらゆるシステムも制度疲労をきたし抜本的な改革の必要性があることは誰もが承知をしているのでありますが、何故かこの分野での抜本改革論議が具体性をおびてこないのが不思議であります。

東京都の銀行新税に提案と大阪府の対応
こんな政治情勢の中から自治体の課税自主権を巡る問題で大きな流れが出現いたしました。
長引く不況の中で財源不足に悩む自治体が独自に税源を確保する道を探っておりましたときに東京都が突然銀行新税を提案したのでありました。

地方行政に限らず政治にかかわりを持つ者総てが衝撃を受けた新しい発想にもとずく財源について、我われも早速資料を取り寄せ検討をした結果、大都市圏特有の行政需要の増嵩に悩む東京都と歩調を合わせ大阪府も条例制定に踏み切るべきだと本府の理事者に迫りました。知事をはじめ理事者の皆さん方は他の財源を翌年の9月までに示すことを約し銀行税に賛同されませんでした。
我われは時期を逸してはならないと考え、本府始まって以来と申し上げても過言でない本格的な議員提案で銀行税論議に入ったのでありました。
この条例制定に関し当初から議会内に賛否がありましたので、あなた方理事者側はかなり冷ややかに推移を眺めておられましたが、自民党の単独提案条例が共産党の賛成を得て可決成立したのでありました。
これが本府における銀行税成立前段の経緯でありますが、東京都は知事提案で諸派の一人を除く議員全員の賛成で可決したことと比較をしても大きな違いがありました。
同じ政党でありながら東京と大阪とで違う対応をされることがあることを知ったのも面白い経験でありました。

東京都の第一審判決に対する見解
こんな経過を経て成立した条例ですが、一足先に施行しました東京都の条例に対して銀行側から訴訟が提起され平成14年3月26日に東京地裁の第一審判決が下されました。訴訟の継続中から東京地裁の担当裁判官である藤山雅行氏が担当された行政訴訟に関する数々のユニークな判決、一例をあげれば小田急高架事業取り消し訴訟、国立市の建築物制限条例無効確認訴訟、国税庁課税処分取り消し訴訟等など、行政サイドに厳しい判決を下しておられる事実を知っている我われは、一審判決は厳しいものとなることは予測をしていたところでありました。
その予測通り判決は東京都側の全面敗訴で、都の職員には説明責任を果たしていないことは重過失に近いとまで決め付け、石原知事には損害賠償責任まで課したのでありました。
東京地裁の一審判決の余りの過激さに、大阪府はこの判決になんら拘束されないものではありませんが、敢えて法律解釈として著しく妥当性を欠くと考えられる点を明確に指摘した声明文を公表したのでありました。
藤山判決ですら条例そのものが無効であるかどうかについては、さすがに訴訟適確性を欠くと退けておりましたが、課することができない所得以外の課税標準に課税することを定めた部分は違法であり無効と断定しておりました。
本件の最大の争点は、地方税法第72条の19をめぐる法解釈でありますが、電気・ガス・生・損保の4業種に限って、その事業の特殊性から応能原則、担税能力を中心に外形標準課税を容認していると断定したものとなっていましたが、そもそも法人事業税を含む地方税はその企業が存在する自治体から受ける受益に対する応益的な側面は否定できず、この点に関する法解釈は明確に間違いであると我われは信じていたのであります。

条文でも4事業以外の法人または個人の行う事業に対する課税標準については事業の情況に応じ、所得および清算所得とこれらを課税標準とあわせ用いることができると規定されており、我われは銀行の現状を「事業の情況」と判断したものであり、この部分の判決は容認することはできないと声明を発したのでありました。その時点で我われは控訴審判決では必ず「事業の状況」により所得以外の課税標準による課税が地方自治体の課税自主権の裁量の範疇として容認されるものと確信しておりました。したがって本府の条例の施行時期についてもその法的妥当性をもってすれば延期の必要性はないとの思いはありましたが、万一、司法判断が一審同様偏ったものであった場合のリスク管理として、この件に関しては執行権者である知事の裁量に委ねることにして1年間の施行延期に同意したのでありました。

東京都の第二審判決に対する見解
本年1月30日に東京都の銀行税に関する控訴審判決がありました。判決内容のあらましは一審判決と異なり最大の争点とされた72条の19については我われが一審判決のときに声明文で発表した見解と全く同じものであり、事業税の原則的な課税標準は所得であるとしながらも「事業の状況」に応じて所得以外の外形基準による課税を地方公共団体の裁量によって行うことを認めたのであります。
立法裁量権の行使結果は納税義務者に直接的かつ重大な影響を及ぼすものであるから、まったくの自由裁量ではないが72条の19の解釈論に地方公共団体の裁量に対する制約原理を求めることには限界があるとし、5兆円規模の銀行に限定し業務粗利益を課税標準とすることをも明確に許容した判決でありました。
この判決を見る限り法理論的には全面勝訴というべき内容であります。
ところが、今回は72条22第9項が定める均衡要件を満たしていない点を指摘し違法であると判断をしているのであります。

判決のなかで「均衡要件を満たすことについては地方公共団体側に客観的な資料に基づき積極的に証明すべき責任があり、本条例による税負担が著しく均衡を失するものでないと認めるに足りる証拠がないから均衡要件を満たしているとは認められない」としているのであります。

以上は判決の要旨をほぼ原文のまま引用したものでありますが、若干禅問答のような感じがする部分もありますが、要するに均衡の要件を満たすためには過去と将来にわたる推計による数値も必要であるとするものでありましたが、東京都の場合、計算上は12年度が7、7倍、13年度は3、652倍となること、但し13年度の1行比較をしますと増加割合は約4、9倍となるのでありますが、何倍までが均衡要件を満たすと言う具体の数値は示されておらず実に釈然としない論点が中心となって違法と判断されているのであります。
センセーショナルな取り上げ方をされた課税倍率でありますが3、652倍とあるのは17行中16行がゼロで、1行だけが2千4百万円課税されており、外形標準課税では17行で900億円となることからこの数字となるのでありますが、所得課税では課税額がゼロの銀行が多いからこうなるのであって、この事態そのものが地方税のあるべき姿、即ち受益に対する税負担は当然の義務であるとする法理からすれば不公平であり、おかしいと言わざるを得ないと考えているのであります。
何れにせよ1審判決とは比較にならない内容の2審判決でありましたが、法解釈としては新税が認められたと解すべきであり、均衡要件を云々するのならその範囲を示すべきではないだろうかと考えるものであります。以上がわが党の控訴審判決に対する見解でありますが、知事におかれては条例の正当性を信じて堂々と訴訟に対応されんことを望むものであります。条例の執行期日をどうするかに就きまして、わが党は昨年同様に万一のリスク対策として行政の執行権者である知事の裁量に委ねることと致しました。

読売新聞社説に対する見解
銀行税に関しまして2月14日の日刊紙の社説に極めて突出した主張が報じられておりました。
本会議における質問の中で、記事として公表されたマスコミの論調に対し発言することの是非について党内でも議論を致しましたが、その内容にはわが党を名指しで中傷するが如き具体の発言がありましたので、我われとしては唯一の公式発言の場である本会議場において明確な意見開陳をすることをご理解いただきたいのであります。記事内容では「大阪府の銀行税は理念というものが全くうかがえない。早期に廃止して混乱を収拾すべきだ」と断定をしていますが、その根拠らしきものとして「大阪の場合は初めから政治的な思惑が先行していた・・・府議会野党になった自民党は知事への当てつけとして銀行税を導入したことは明らかだった。」また「東京都の条例を引き写したに過ぎない、独自の理念があったわけではない。」と極めて感情的な文脈を連ねておられるが、おっしゃる通り銀行税は大阪のオリジナルでないのは事実であります。
しかし、この論法は、新しい税制がそれほど簡単に見つかるものではないという実態をご存じない、素人の議論の域を出ないものであることに気づかれるべきでしょう。同じ悩みを持つ自治体が研究を重ねた末に考え出した税制を、他の自治体がそれを範として条例制定をして破綻の危機に瀕している財政に少しでも貢献しようとする取組みを、なぜこんな形でしか見ることができないのか、全く理解の出来ない論調であります。
お互いにどんな主張をすることも自由ではありますが、前段において「大阪の場合は初めから政治的な思惑が先行していた・・・府議会野党になった自民党は知事への当てつけとして銀行税を導入したことは明らかだった。」とあるくだりについて明確に申し上げておきますが、こんなきめ付けをする報道姿勢を偏向というのであって、知事選の結果に対する当てつけだなんて言葉はどこを衝いたら出てくるのか驚くばかりであります。
「野党になった自民党云々」の件もそうですが、我われも便宜上与野党の言葉を使うことはありますが、本来与野党の言葉は議員内閣制の中で使われる言葉であり、知事と議員がそれぞれ別々の選挙で選ばれる二元代表制を採る地方自治体で与野党の仕分けをすること自体が正しくないのであります。
選挙協力をした、しないの差はあってもそれを引きずって与党、野党の仕分けをする程単純な論理で府議会は動いてはおりません。このことは議会サイドがとやかく言うよりも知事自身が一番良く理解しておられる筈であります。
我われは理事者に対して、是々非々を貫く姿勢で対処してきたことを、この際明確に申し上げておきたいのであります。
東京、大阪の銀行税制定にかかる経緯の中には、シャープ勧告の昔から遅々として進まなかった地方自治体の税制改革に関して国の税調を督励し外形標準課税導入に弾みをつけた効果があったことは周知の通りであり、地方自治体の動きとして評価されるべきものであります。
ともあれ地方自治体の課税自主権に関して一歩前進した司法判断がなされたことは大きな収穫でありました。

自治体の二元代表性の持つ問題点
しかし、身近な筈のマスコミにすら、我われ地方議会の動きが正しくご理解いただけてないことは議会側としても大いに反省しなければならないでしょうが、議会と理事者の関係についても考えさせられる大きな事件がありました。
それは昨年の9月の長野県議会における知事不信任決議とその後の出直し選挙についてであります。議会における不信任決議の要件は3分の2の出席で4分の3の賛成と言う厳しい制約がありますがそれらをクリアーして知事を不信任したものの議会側が納得できる知事候補を擁立できず出直し選挙で前知事を圧勝させる結果になったことは何を意味するのでしょうか。
不信任した議会の意思は何だったのか、知事選挙を通じて示された県民の意思との捩れをどう理解すべきなのでしょうか。
ある意味では地方自治体の二元代表制の問題点を一番強烈な形でさらけ出した歴史的な事件でありました。

強力な執行体制構築のための提言
自治体独特の二元代表制の問題点は銀行税の成立過程でも感じられたことであります。
議案の提案権は知事だけに与えられた専権事項ではなく議員にもありますが、その議案に対する意見が両者の間で食い違うときに知事には再議に付す権限はありますが、具体論として議決直後の再議で違う結論がでることは常識的に考えて少ないと言わねばなりません。したがって両者の円滑な関係は大切ですが、自治事務が大幅に増え地方としての独自性が問われる新しい時代の執行権者は直接選挙で選ばれる、プレシビット型の代表にふさわしく、議会に優越する権限を付与されてもよいのではないかと考えるようになりました。
なぜなら、それによって同じ府民に選ばれた者として、お互いの説明責任の観点から、またときには説得の必要性から議会が活性化することがあると思うからであります。
地方自治法の制約もありますが、知事の率直な思いをお聞かせいただきたいと思います。

自治法の範疇でも、二元代表制の趣旨がうまく機能するよう議会と執行権者が、時には競い合ってよりよい大阪とする手だてを講じる必要性があります。

他府県では既に議場の形を変えたり、本府ではほとんど行われていない議員同士の討論の場を設けたり、新しい時代にふさわしい議会のあり方の模索が始まっています。
この種の提案は本来、議会運営委員会で議論することでありまして、本会議の議論になじまないようでありますので、このことは議員各位にご検討いただくことをお願いすることにいたしますが、知事におかれては、新しい時代の議会と理事者のありかたはどうあるべきとお考えでしょうか。
理事者と議員のフランクなディスカッションの場を多く持つことや、議会活動の活性化策や改善すべき点などについて、知事の率直なお考えをお聞かせください。
また、知事がトップとして機能するための改革についても取り組まれるべきだと思いますが、いかがでしょうか。たとえば、880万人口を擁する大規模自治体として、知事を補佐する副知事の適正な人数はいかほどなのか。現在の3人体制でよいのか。
また、地方公務員法でも認められている特別秘書制度を創設し知事の意を受けたスタッフに政務を担当させ、知事はトップにふさわしく企画、政策立案などの公務に専念するシステムを構築するなど、これまでの組織機構の枠組みを超えた自治体の新しい行政システムを構築すべきであると考えますがいかがでしょうか。長年、官僚として国家の中枢行政にかかわってこられた経験を踏まえて、国とは違う二元代表制の中で。直接選挙で選ばれた行政の長としての能力と機能を存分に発揮するための構想をお示しくださるようお願いいたします。

私は今期限りで28年間の議員生活から引退いたしますが、現在の地方自治体のシステムが法律、制度、中央省庁などとの協議など、どの部分をとってもがんじがらめの中にあり、何とか改革したいという思いで今日までがんばってまいりましたが、地方議員としての力の限界を随所で感じさせられました。
その意味では夢半ばでありますが、府議会として改革改善の道が残されている分野も多くございます。来期も引き続きご活躍される議員各位には大変勝手ながら、夢を託したい思いであります。
議員各位の益々のご活躍を心からご祈念申し上げまして発言を終わります。
ご静聴、ありがとうございました。

平成15年3月3日
                                      大阪府議会議員 松 室   猛


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