戻る

大阪府議会の9月定例府議会は10月20日に閉会した。
審議された議案の主なものは補正予算案であるが、議論が集中したのは「産業再生プログラム」、「関西国際空港をめぐる諸問題」と知事が示した「自主財源確保のための税制改革素案」が中心であった。ここでは税制改革の問題を中心に取り上げることにしたい。

税政改革は、現時点では議案としてではなく素案として示されたものであったが2月議会で条例制定にまでもっていきたいとの意向は明白で、今議会では議会各派の反応を探るための「前ぶれ」とでも言うべきものであった。
この機会に、議会での議論のあらましと問題点を検証してみたい。

税政改革で取り上げられた主な点は、自主税源確保のために、法人府民税の均等割り
額をそれぞれ2倍に引き上げる超過課税案であった。

地方税としての法人税には、法人事業税と法人府民税の2税がある。
法人事業税は所得課税で、国税である法人税の申告額に地方税としての税率をかけて徴税するシステムである。
税政は非常に複雑であるが、法人事業税についても、国は所得金額に応じて普通法人
では3段階、特別法人は2段階に分けて標準税率を示しているが、それぞれに府県の裁量の余地を残すべく上限を決めて超過課税を課すことを認めている。大阪府では一定の法人の税負担に配慮した上で、国が示している標準税率に0.5%の超過課税を課している。この超過課税分の増収額は約154億円に達している。

税収実績を眺めてみると大企業でかなりの利益をあげながら、所得課税であるために累積欠損金や不良債権を償却するなどで申告所得としては赤字になる企業が多く、資本金50億円以上の企業でも法人事業税をまったく納税していない企業が多いのである。

一方、法人府民税は「均等割り」と「所得税割り」の2通りの課税となっており、法人税割りは事業税と同じく赤字の場合は納付額は0円となる。
したがって、赤字の企業は法人府民税の均等割り額のみを納付しているのである。
これが地方税の法人2税のあらましであるが、所得課税であることから景気変動の影響をまともに受け、法人2税に軸足をおいた税収構造となっている大阪府の税収は増減が激しく大変なのである。
地方税は地方自治体の行政行為から受けている便益に対して収める応益課税であるのに、大阪府域で大々的な事業活動を展開しておりながら大企業が府民税の均等割りの最高金額である年間80万円しか納付していないのは、税の主旨からしても不公平であるとするのが銀行新税とも言うべき外形標準課税の導入の論拠であった。
法人府民税の均等割りについて、市町村には制限税率があるが、府県には制限税率はない。今回の「税政改革素案」では法人府民税の均等割り額を2倍にし、大阪府財政の一般税源として府政運営に資するとするのがその中身である。

現行の法人府民税の均等割りの税額は下記の通りである。

資本金の額に応じて5段階の税率となっている

法人などの区分
税率
資本金が50億円を超える法人
年額80万円
〃10億円を超え50億以下の法人
年額54万円
〃1億円を超え10億以下の法人
年額13万円
〃1千万円を超え1億円以下の法人
年額5万円
〃上記以外の法人
年額2万円
知事が示した「税政改革素案」では上記の税額表のうち1千万円未満の企業は、経営基盤が脆弱であり、中小企業に対する配慮として超過課税を免除するというものである。

税金に限らず、誰しも負担が高いよりも低い方が良いと考えるのは当然である。
ましてや、企業の収支が赤字であっても納付しなければならない税金であれば尚更である。
しかし、大阪府の財政状況は来年度予算編成時点で約5,000億円の歳入不足が予測され、懸命の内部努力、すなわち行政改革や事業の見直しに取り組んでいるが、とてもじゃないが5,000億円の歳入不足を補うことは不可能である。
そこで、素案では増収案と並行して国に対して税制改正を強く要望することにしているが、府独自の増収案である均等割りの超過課税の問題点と、国に対する要望のあり方について意見を述べることにする。

まず、均等割りの超過課税についてであるが、理事者は今日まで、あるべき税政とは、公平で、中立性があり、簡素でなければならないと主張してきた。この論理は府の理事者だけが言うのではなく、税政の基本的な理念である。
銀行新税に問題があるとする理事者の論拠はこの辺にあったのだが、今回の素案では大阪府域にある法人総数約23万社のうち74%を占める資本金1千万円未満の企業からは超過課税を微収せず、それ以外の法人からのみ徴税することになっている。その理由は先にも述べたとおり、中小企業には赤字法人が多く、経営基盤が脆弱であるからとのことである。
仮に、1千万円未満の企業に超過課税分が課されれば年額にして2万円の税負担が増えることになるが、2万円は年額であり月額にすれば1,666円の負担増になる。
誰しも負担が増えることを喜ばないが、如何に経営基盤が脆弱とはいえ、月額1,666円の負担を免除することが中小企業に対する配慮だとするのは如何なものであろうか。
次元が少し異なるが、今年4月から府立高校の新一年生45,849名に対して教育環境の整備などに必要不可欠だということで月額3000円の授業料の値上げをお願いした経緯がある。自民党議員団としても値上げをお願いすることは、不況のさなかであるだけに忍びないが「痛みを分かち合っていただく」ことを何とかご理解いただきたいとの思いで値上げ案に賛成した。その直後に法人に対する応益課税である法人府民税の値上げをお願いするのに、赤字法人が多いから、あるいは経営基盤が脆弱だからとの理由で課税を免除すると言う知事の方針が府民に理解されるであろうか。
如何に中小企業の多い大阪とはいえ、如何に産業の活性化が至上命令とはいえ、このような対応は企業と個人の負担に対する差別的対応であり、極論すれば「まやかし」であり、迎合姿勢といわざるを得ない。
この程度のことを「苦しみつつ配慮した」とする中途半端さが、与党の議員からも「切実さが感じられない」などと、的外れな見解を呼ぶ原因なのである。

自民党府議団では、未だ具体的に素案に対する見解をまとめるには至っていないが、増税をすべきだという次元ではなく、府民に負担をお願いする場合には、もっと「ひたむきに」、「もっと真剣に」、「もっと切実に」痛みを分かち合っていただきたいことを訴えるべきではないかと考えている。
これでは知事の「ええ恰好しい」と言われても仕方がないのではないか。
議会でも指摘をしておいたが、府民に理解を求める基本的な姿勢に、若干欠落するものが知事だけではなく府の理事者にあると感じられるのは残念なことである。

もう一方で、府の努力だけではどうすることもできない税源不足の解消のために国に制度改革を求めるとあるが、具体的に国に対してどうしろというのかが見えてこない。

確かに税政改革素案の中に国と地方の税源配分を1対1にしろとの提言はある。そのためには法人税の4%と消費税の1%を地方に委譲させること、もしくは3%と2%のいずれかの方法を提言しているが、こんな案が政府に通じると考えているのだろうか。詳しい数字は示せないが、この案でいけば依然として過疎県は財政健全化は進まないであろうし、東京都はトンでもない増収となり、ますますマンモス化することになるのは一目瞭然である。

東京都のことをやっかむつもりはないが、一極集中が加速することは由々しき事態である。
大阪にとって、その方法が望ましいものであっても、47都道府県全体ではこのような問題があることも事実であり、すべての府県に万遍なく行き渡る良い方法があるのか、無いのか、きわめて難しい議論であるが、これほどに税財政制度改革の提言は難しいのである。
だからこそ府が今日まで取り組んできた税政改革プロジェクトチームのレベルではなく、もっと本腰を入れた取組みをすべきことを提言したいのである。

もう一点、、全国一律の外形標準課税の導入を全国知事会などを中心に国に要望しているとのことだが、これにも悩ましい問題がある。
いったいどんな形の外形標準課税なのかが今もって見えてこない。大阪府は国が決めることなら、どんな形でもかまわないとでも思っているのかと問いただした。
税制調査会でも課税標準をめぐって、いろんな議論があることは承知しているが、いずれの案にも問題があることは広く知られているところである。
5月定例府議会で銀行新税の議論をしたときに、外形標準課税の一つのパターンである銀行新税の導入が、全国一律の外形標準課税の導入の引き金にならないかと委員会の場で質問があった。

提案者側である自民党議員団は、課税標準である外形を何に求めるのかによっては直ちに賛成することはできないと発言をしたことがある。ましてや安定した税収を求めるあまり、低値安定でも困るのは事実であり、不況にあえぐ中小企業が多い大阪において赤字法人に過酷な増税となることには直ちに賛成しかねるし、この辺りの調整如何によっては大阪府として受け入れることが良いのか悪いのか具体的な税政が見えない限り賛否を言えないのである。

この辺りのことを大阪府の理事者はどのように考え、どんな提言と要望をしているのか聞いたところ、近々のうちに国から案が示されるであろうと初めて明らかにした。
これが、国に対して要望している大阪府の実態なのである。
国に制度改革を求めることを口で言うのは簡単であるが、どんな形が良いのか、大阪府だけの思いでは47都道府県を擁する国の意思決定は覚束ないだろうし大変な作業であることはわかる。

議会でのやり取りを聞いていて感じることは、残念ながら議員と理事者が同じ思いを持ちながら当事者としての対応が不十分であることがわかっただけである。
大阪府だけのことではなく、本当の意味で地方自治体の苦しみが判り、地方分権の実現を求める国会議員がいかに少ないことかが気になってならない。

長野県の知事選挙も東京都の衆議院補欠選挙も終わった。選挙によって示された「民意」が何であったのか、分析にはいろんな見方があるだろう。
ただ、共通して感じられることは既存の政党や既成の政治家のセンスに国民は全くといってよいほど期待していないことであろう。

新しさだけが尊いものではないが、手慣れた手法だけでは行政システムの抜本的改革が進まないのも事実である。
あと僅かで21世紀を迎えるが、我々は地方議員としての立場ながら、決しておもねることなく、例えそのことが選挙民にとって心地よく響かないことであっても、精一杯筋を通し対応を続けねばならないことを痛感する昨今である。

ご意見・ご感想などがありましたらこちらまで