戻る

九月定例府議会[l0月21日閉会]報告
セクハラ事件で大揺れの議会審議の中身は?



九月定例府議会は10月の21日に閉会したが、上程議案に対する質疑と同じくらいの時間を費
やしてセクハラ問題の質疑が繰り返された。連日マスコミに大きく取り上げられたが、報じられ
ない点や報道についての見解を表明したい。
今春四月の改選後初めての府議会は五月に開かれたが、役選が主たるもので、実質審議は九月定
例府議会で行われた。九月定例府議会の主要議案は540億8千万余円の補正予算であった。
予算関連議案の主なものは
●最悪の雇用状況の改善のため
「緊急地域雇用対策特別交付金」 54事業 

17億4千万円

            市町村補助分 114事業

13億8千8百万円

●新産業創出の支援事業として

繊維産地活性化事業   

13億1千7百万円

●少子化対策臨時特例交付金 市町村分    

158億1千4百28万円

                  府事業分

7千万円

●介護保険の実施にむけて  施設整備促進費    

78億6千7百万円

●広域防災拠点整備

37億5千9百万円

●土木・農業施設災害復旧費

44憶1千9百万円

●関西国際空港地域振興支援

50億円

●市町村振興助成金

25億円

これらの予算案はすべて原案どおり可決成立した。
予算以外の議案として府営水道の料金値上げのための条例改正案が提案されたが、水道事
業は企業会計であり、遊休地の処分やさらなる経営改善努力を進めるように議会から注文
が付き、施行時期を半年先送りする修正をし可決した。
今議会の特色はセクハラ事件をめぐる知事とのやり取りであった。
10月1日から始まった各党代表質問では提出案件に関する質疑もさることながら、セク
ハラ事件に関する知事の態度について各党からの議論が相次いだ。
この事件は既報のとおり選挙戦の終盤に、宣伝カーに随行していた車両の中で21歳の女
子運動員に知事が、防寒のために毛布を掛けた後にわいせつ行為をしたとされる事件であ
る。
この種の事案は親告罪であり被害者が訴え出ることが事件の発端となるが、披害を受けた
女性は翌日に記者会見をし、強制わいせつ罪で刑事告発をした。これに対して知事は、事
実無根であるとし虚偽告訴の罪で逆提訴したのである。
今日に至る事件の推移を簡単にたどると被害者の記者会見の結果、朝日新聞だけが記事と
して報道をしたが報道が投票日の3日前であるだけに選挙に対する影響が興味深かった。
選挙結果はノック知事が235万票を獲得し知事選としては史上最高の得票を記録した。
刑事告訴については現在取調べ中だと聞くが、起訴されるのか、あるいは不起訴になるの
かは定かではない。告訴は刑事事件としてだけでなく、原告(女性側)からセクハラ事件
に対する損害賠償を求める民事訴訟が提起された。請求額は慰謝料1千万円訴訟費用2百
万円の計1千2百万円であった(この金額は、後日2百万円増額された)。民事訴訟の第1
回公判が10月4日に行われたが、ノック知事は本会議中であることや公務を優先するた
めと称して民事裁判の公判に出廷しない作戦をとった。
民事裁判に出廷せず原告の訴えに対して答弁書を提出しないのは告訴事実を争わないこと
を意味し「擬制自白」となり事実を認めたことに擬制されるのである。従って告訴事実
を前提に結審され、後日判決が言い渡されることになる。
ノック知事は公判が行われた十月四日の夜に市内のホテルで記者会見をし告訴内容は事実
無根だが、身の潔白は刑事裁判でハッキリさせることが出来るので「悔しい思いはあるが
民事裁判を回避し公務に専念することが大事であると判断した」と記者団に語ったのであ
る。
本会議や各種常任委員会でのこの間題に対する知事の答弁を要約すると今回の事件に原告
側は81名の弁護士が名を連ねており、これに対抗するためにはかなりの訴訟費用と長期
化が予想されるので、混乱をさけるために損害賠償の判決金額はまだ未定だが、この際民
事訴訟には応じず判決に従うことにした・・」というのが知事の対応であった。
ところが10月4日の公判で知事側から一切答弁をしないから結審を求めることを主張し
たところ原告側が騒ぎだし、3度にわたる休憩の結果、11月1日に再度公判を開くこと
で第1回目の公判は終わったのである。
今回の裁判について我々が容易に理解できない点が2つある。
一つは民事裁判を訴訟戦略とはいえ回避することの妥当性についてである。回避戦術に違
法性は無いが、ノック知事が主張するように事実無根であるとするならば正々堂々と民事
法廷に出て身の潔自を主張すべきであり、多くの府民はそれを当然の対応だと考えてい
る。それをしないのは疑惑を拡大させ、行政に対する信頼性を損ねる結果となっているの
は事実である。特に相手側の刑事告発に対して直ちに虚偽告訴(誣告罪)の訴えを提起し
ていることを考え合わせると訴訟費用が如何に高額であっても、公人として堂々と民事法
廷で自らの潔白を明らかにすべきであり、ノック知事の選択は容易に理解しがたい点であ
る。
もう一つの判らない点は、損害賠償請求(慰謝料請求)の民事裁判で被告側が事実関係を
争わないから結審して欲しいと主張したことに対して原告側が騒ぎだし、裁判の継続を主
張した点である。 解説の必要はないと思うが、この事は原告側の全面勝訴を意味するこ
となのに、それがおかしいと言うのは奇妙な話で理解できない。
この点についてノック知事は民事訴訟以外の政治目的を達しようとする裁判だと発言して
いたが、そのように取られても仕方がないだろう。この点も民事裁判回避の理由であると
すれば、ノック知事がとった訴訟戦術としての裁判回避だけをもって怪しからんといえる
かどうか、実に悩ましい間題点である。
誤解のないように明確にしておくが、事実関係がどうであれ、およそ知事たる者が疑惑を
招くような行動を取ること自体が軽率であり、不見識極まりないと言わざるをえない。
一日も早く疑惑の解明と府政に対する信頼回復を図るべきは言うまでもない。
11月1日の第2回公判は短時問で結審され、12月13日に判決が言い渡されることに
なったが、ここで府議会の最終日に議決した決議案について述べておきたい。
決議案の内容をめぐって自民党、公明党、共産党の3党はそれぞれ文案を提示したが、
調整がつかず3案が上程された。提案後はさほどの混乱もなく議決された。
各党の決議案の要旨を紹介し、この問題に対する議会の見解を理解していただきたい。
●共産党の問責決議案の要旨
『知事は自らのわいせつ疑惑に関する民事裁判で「いっさい答弁しない」と「事実上敗訴
となってもやむを得ない」と言う態度を明らかにした。この知事の対応は厳しい府民の批
判を招くとともに府政に大きな混乱をつくりだし、府民の府政に対する期待と信頼を著し
く損ねて、重大である。よって本府議会は、今日の事態を招いた知事の政的・道義的治責
任を厳しく問うものである』

この共産党案は賛成少数で否決された。(賛成12名)

●公明党・連合さつき会の問責決議案の要旨
『今次定例会は知事のセクハラ訴訟の問題が表面化し、その疑惑究明に議会の質疑の時間
が費やされ、山積する諸課題審議の進展に大きな混乱を引き起こしたことは誠に遺憾であ
る。府民の代表である知事は民事法廷に出廷せず公務に専念することを理由に「民事につ
いては争わず、金銭の支払いに応ずる」といい、府民の間に戸惑いや不信感を与えた。
しかも知事は本会議・委員会においても、あらゆる手法と機会を通して身の潔白を証明す
るという誠意ある姿勢に立たず「刑事手続きで明確になる」「知事の職務を犠牲にしな
い」等の答弁を繰り返すばかりであり、容認しがたい。
民事訴訟にも積極的に出廷し、自らの潔白を証明してこそ、府民の信頼回復への一番の近
道であると考える。よって山田知事に対して道義的責任を問い決議するものである。』

この案も賛成少数で否決された。(賛成28名)

●自民党・躍進・新政会・府民の会・改革大阪の決議案は「府政への信頼回復を求める決
議」で「問責」の文言は使われてないものであった。その要旨は以下のとおりである。
『強制わいせつをを受けたとして損害賠償を求められた民事債に対する知事の対応や、そ
の後の一部週刊誌における新たな疑惑の報道により、府民の間には戸惑いや不信感が広が
っている。今議会は府民生活に直接かかわる重要な案件が山積しているにもかかわらず、
府民の府政に対する信頼感を大きく損なうこととなったことは誠に遣憾極まりないことであ
る。「李下に冠を正さず」の言葉通り、疑惑を招く恐れがある態度や行動はそもそも知事
として現に慎まねばならない。事の真偽は司法の場での結論を待つことになるが、一連の
疑惑に対して、もっと毅然とした態度で臨むなど、府民の府政への信頼回復をにむけて最
大限の努力をすべきである。以上決議する。』

この決議案は前述の会派の賛成多数で可決された。(賛成70名)

府議会のこの対応に対してマスコミ各社は、ほぼ同じトーンで議会の追求が不十分である
と報じた。その理由として知事に選挙の際に応援してもらったからだ・・・との報道があ
ったが、そんな次元ではなく、府議会として、あくまで是々非々を貫く対応をしたと確信
している。
ここに紹介した各党の決議文案を見比べて判断を仰ぎたい。
他党の文案についての見解は後に述べるとして、自民党は幹事会、政調会の合同会議を複
数回開催し、最終的には議員団総会で、かなりの議論を経て決したのであるが、その議論
のあらましを紹介すると、
事実関係がどうであるかは当事者以外には判らないことであり、現時点では知事が全面
 否定していること。
相手女性の主張に関して議会は一切知ることができないこと。
裁判回避は望ましいとは思わないが、第一回公判の原告側の対応を見ても、他の目的を
 もったものとの疑惑もあり、民訴法上明確に認められた違法性のない訴訟戦術をとら
 えて直ちに問責に該当するとは言えないこと。
 他の事案に関する週刊誌の報道に対しても何らの対応をしないことは府民の疑惑を拡
 大させ、府政に対する信頼を大きく損なうことになったことは遺憾であること。
現時点では事件の真偽は判らないとは言え疑惑を招く態度や行動は厳に慎むべきであ
 り、毅然とした態度をとるべきであること。
以上のような論点から、知事に対して問責ではなく「山田知事に対し府政への信頼回復
を求める決議が」妥当であると自民党議員団は判断したのである。
自民党の決議案が決定された経過は以上の通りだが、他党の問責決議の内容について私見
を述べることする。
まず、セクハラ問題に対して現時点では女性側はセクハラを受けたと主張しているが、知
事は全面否定している点についてである。
この問題の真相は当事者しか判らないことであるが、事件が発生した宣伝車に随行してい
る当該車両には両当事者と車両の運転手と知事の身辺警護のための警察官(SP)が前部
座席に乗車しており、彼らの証言がどのようになっているかは検察当局が捜査していると
ころだろうが、現時点では我々には一切判らないのである。
刑事訴訟が提起されており、やがて起訴あるいは不起訴のいずれかの決定(日時は不詳)
が下されるだろうが、当事者のうちの一人である知事に対して、このことを問い詰めてみ
ても事実無根だと主張しているのだから、何度聞いても同じ回答しか返ってこないのは当
然であり、このことを「容認しがたい」というのは妥当ではない。
また、公明党の問責決議案にはセクハラ問題のために『その疑惑究明に議会の質疑の時問
が費やされ、山積する諸課題審議の進展に大きな混乱を引き起こした』とあるが、かなり
の時間が費やされたことは事実だが、補正予算の諸課題は会期延長することもなくすべて
会期内に原案どおり可決されたのは紛れもない事実であり、審議の進展に大きな混乱を引き
起こしたと言うのは正しくない。
しかし、『民事訴訟にも積極的に出廷し、自らの潔白を証明してこそ府民の信頼回復への
一番の近道であると考える。』とあるのは同感であるが、『よって山田知事に対して道義
的責任を問い決議する』とあるのは何に対する道義的責任を言うのか理解に苦しむところ
である。民事訴訟を回避したことに道義的責任があると言うのだろうか。
そうではなく、府民の府政に対する不信感を募らせたことに対する道義的責任を言うのだ
ろうと思うが、この点については自民党が提案した『府民の間には戸惑いや不信感が広
がっている。今議会は府民生活に直接かかわる重要な案件が山積しているにもかかわらず
府民の府政に対する信頼感を大きく損なうこととなったことは誠に遣憾極まりないことで
ある。
「李下に冠を正さず」の言葉通り、疑惑を招く恐れがある態度や行動はそもそも知事とし
て現に慎まねばならない。事の真偽は司法の場での結論を待つことになるが、一連の疑惑
に対して、もっと毅然とした態度で臨むなど、府民の府政への信頼回復をにむけて最大限
の努力をすべきである』とする「府政への信頼回復を求める決議」がより妥当であると確
信する。
問責決議は法的に拘束力を持つものではないが、問責に該当するかどうかを厳格に検討す
べきは議会としての見識を示すためにも当然の責務である。
また、今回の府議会での質疑を「迫力欠く追求」だとか、決議を辞職勧告決議などと比較
して「トーンダウン」だとする報道があったが、現時点で辞職勧告決議などできる筈はな
く、府議会は報道や短絡的な結論を求める一部の世論におもねることなく、正しい判断を
くだしたと自負しているのだが如何なものだろうか。
ただし、この事件に関し証拠があるなど嫌疑が固まり、刑事事件として起訴されたら判決
を待つまでもなく我々は即刻知事の辞職を求める決意である。
いずれにぜよ、公人たる者が「李下に冠を正さず」の言葉どおり、疑惑を招く言動は厳に
慎むべきであり、不信感を増幅させたことに対し猛省を促したい・・・というのが我々の
率直な思いである。
ご意見・ご感想がございましたらこちらまで