平成17年5月 戻る

松室猛のTMニ水会定例講演

希望のない国・日本を考える



政権交代に見る経済政策の変化
橋本龍太郎内閣から小泉純一郎内閣までのあらまし

1996年1月 橋本龍太郎内閣誕生
規制緩和の導入−新規参入の容易化−業際破壊の進展 
金融ビッグバーン−グローバルスタンダード―自己責任原則の導入
消費税3→5%  医療費負担10→20%  特別減税廃止 
財政カット 聖域なき一律削減 公共事業を前年対比5,7%カット
金融引き締め マネーサプライのダウン

1998年7月 

減税政策に関する発言のブレと参院選惨敗で辞任

1998年4月

小渕恵三内閣誕生 
経済活性化策(100兆円の国債発行) − 財政出動 (拡大策)  急逝
2001年4月 森喜朗内閣誕生
沖縄サミットに800億もかけたのと能登空港をつくり、失言続きで失脚
2002年4月 小泉純一郎内閣誕生 「構造改革なくして成長なし」
金融再生プログラム 道路公団民営化 三位一体改革 平成の大合併
郵政民営化(?)

○小泉内閣の税財政運営

減 税 研究開発減税 研究費総額の10〜12パーセント 法人税額から差し引く
贈与税・相続税の一体化 最大2,500万円 住宅取得の場合 3,500万円
相続税率 70パーセント→50パーセント
控除額5,000万円+相続人一人当り1,000万円基礎控除
(相続税を払う人は1/20)
株式投資、不動産投資減税
負担増 配偶者特別控除を廃止
国立大学授業料496,800円→52万円
国保負担増 総報酬制(ボーナスを含む)へ移行 0,7%アップ
医療費 自己負担20%→30% 家族の入院負担 20%、外来30%→一律30%
タバコ値上げ 発泡酒税率アップ

「改革には痛みを伴う」として長引く不況の中で国民に我慢を求めてきたが、小泉改革を「強者のための改革」と称する声の根拠の一端がここにあるのではないか。
  

○近年の社会経済状況

信用不安払拭のため不良債権処理の加速化 金利ゼロ時代 デフレの進行
需給バランス調整面からの企業統合の促進
失業者増加 (フリーター217万 ニート52万 失業者297万 失業率4,5%)
(フイリップカーブ 失業率と物価は反比例する)
資産デフレが外資の導入を加速。外資系持ち株比率20パーセントに接近
長引く不況で資金需要がなく余剰資金がマネーゲームを生んだ
シンボルエコノミーが広がった結果、M&Aが加速 (Merger & Acquisition)
ペイオフの実施
終身雇用、年功序列賃金体系から評価主義に移行する傾向が顕著となった
市場原理の一層の浸透 − 勝ち組と負け組の顕在化
国・地方を問わず財政破綻の深刻化が加速
年金・国保会計の破綻傾向が深刻化

1989年(平成元年)12月の大納会で38,915円の史上最高値をつけたが翌年から下げに転じ2003年4月には7,600円(最盛期の5分の1にまで)下げた。しかし2004年末には11,000円まで回復したのはリストラが一巡、企業は若干安定し設備投資も徐々に回復したからで、消費部門ではデジカメやDVDなどの家電製品が伸び、夏のオリンピックではメダルラッシュで景気上昇感があった。
しかし、最近ではパソコン、デジカメの出荷高が減少し値下がり傾向が続いている。
バブルの崩壊から15年の歳月が経過したが、いまだにデフレ不況は根強い。

しかし、小泉政権は就任後およそ4年になるが政策的には景気刺激のための大型補正予算を組まず、民間の自助努力や外資主導による景気浮揚が実現しつつあることは事実のようだ。
このような功績面もなくはないが、今年度末で774兆円に上る長期債務残高は深刻で、加えて年金および国保会計が破綻の危機に瀕しており、企業でも「勝ち組」「負け組」が鮮明になり、失業者、フリーター、ニートなどが増加し、家計では所得格差が拡大し二極化現象を生むに至った。

世相の変化

デフレによる物価下降傾向の中にありながら、高級ブランド品の販売の伸びとユニクロや廉価商品(100円ショップ)が健在で消費の二極化が進行している。
企業倒産の増加 → 所得格差の拡大 → 二極化社会の出現
女性の社会参加 → 少子化、共働き夫婦の所得格差拡大
コミュニティの崩壊 → 会社、地域、団体、家庭などへの帰属意識の希薄化、擬似家族の出現
失業、フリーター、ニート(Not in Education, Employment or Training)
職業教育の問題点 →  高度専門能力開発に追いつけない教育界の問題点の顕在化
教育の目的とは何か。「教育は手段であって目的ではない」
教育とは人格の完成、学ぶことの楽しさ、文化の継承などであるべきだと一面的にとらえられてきた。即ち投資とか経済的リターン、経済的利益、社会的効率の視点で教育を考えることがタブー視されてきた。
この感覚は教育を受ける側の欲求や社会全体の要請との間に乖離が顕著になってきた。
機会の平等・結果の平等に対する教育界における混乱。
努力しても報われない感覚を若者が感じ出した。
努力しても仕方がないと感じ、希望を失った若者は何をするか

格差が拡大すると「やる気」を阻害する → 犯罪多発 ニートの増加
希望なき人の絶望と逃避を宗教が救えるか
将来に絶望した者が陥るのが自暴自棄的犯罪か、いかがわしい宗教である
最近の犯罪は必要に迫られての犯罪ではなく、無抵抗な少女に対する犯罪や行きがかり犯などが多いのはその影響と見るべき

何でもある日本にないものは『希望』である

日本では年間34,427名の自殺者があるが、餓死する人はいない(2004年度)
日本の財政状況は地方債務や財投の焦げ付き分を含めると1,100兆円位になり、破綻は避けられない状態だが一般国民には危機意識がない。
このままでは駄目で、世の中を変えねば・・・という志がないのは何故か。

中国の動きが険悪だが、中国人はもともと国家を信用していない。だから彼らは海外に出稼ぎに行くが(華僑)、独自の地縁、血縁などを頼りに民族として自立はしており、国家に拠らない経済圏を確立させている。(ユダヤ人にも同じ傾向がある)
この傾向は国境紛争のあるなしによって醸し出される文化的な違いではないか。
すなわち彼らにとって国家は未来永劫のものではないし、絶対的なものではない。

どうなるこれからの日本

・日本は間違いなく小さくなっていく  − 人口規模・経済規模・財政規模 −
・国の生産力、信用力以上の国債発行残高を抱えると国家そのものが崩壊する危険がある
・デフレはやがてインフレに転換する。 その時期はいつか
17年末頃までは消費物価の極端な上昇はないのでは・・。このあたりを見極めた上で、日銀が金融緩和策をとるとの見方が拡がっており、それまではデフレが続くのではないだろうか・・。
(5/3 FRBはFF金利を0,25%アップし3%とし、公定歩合も同率アップで4%とした)
=注= 短期金利は国の政策で動くが、長期金利は市場の実勢で動く
・個人資産を生かすことができるのかが真剣に検討される時代が近いのでは・・・。
(金融自由化から金融統制へ向かう可能性は・・・預金封鎖や財産税の実施はないだろうか)
・マネーゲーム(シンボルエコノミー)が幅を利かせる時代
・弱者救済施策とは何か − セーフティネットの構築は可能か
・消費税の値上げは避けられないのではないか
・国民負担率はどれくらいまで許容されるのか (日本35,5・米35,2・英50,2・仏63,9%)
・希望を持たせる教育、あるいは環境の創造は可能か
・発想の転換が必要 (昨日は帰ってこない − やがて花咲く春が来る・・・の幻想を棄てること)

最も強いものが生き残るのではなく
最も賢いものが生き残るのでもない
唯一生き残るのは変化できるものである   ダーウイン


参考文献 山田昌弘著 「希望格差社会」
森永卓郎著 「300万円時代を生き抜く経済学」
浅井 隆著 「次にくる波」
副島隆彦著 「預金封鎖」



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