平成22年7月 戻る
はじめに 第22回参議院選挙は22年7月11日に終わった。選挙結果は、民主党は改選前に比べ10減の44議席で、連立与党の国民新党は1議席も獲得できなかった。その結果、与党全体でも過半数に12議席不足する事態となった。 子ども手当に関しても来年度以降は満額の実施すらも危ない状態に至っている。こんな状態を受けて選挙戦の初盤で自民党は、まずマニフェストが履行できないことを謝罪し、訂正するように強く訴えていた。マニフェストに関して、消費税の値上げはしないと明確に言っていたのを「議論を始めないとは言っていない」に変わり、次には「税率アップのためには民意を問うべきだ」になり、税率については自民党が発表した10%を目途に協議したいと、人任せでしかない。それでも選挙前に税制改正を云々するのはタブーであった従来の慣例からすれば若干様変わりが感じられる選挙であった。 参院選挙に際してもマニフェストを示すことが妥当なのだろうか。 比例改選定数48、候補者数12党・187。選挙区は75・候補者数251。 政 党 立候補者数 当選者数 得票率%・・・ 候補者数 当選者数
1人区(29府県)での党派別当選数・・自民21・民主8 タレント当選者・・民主・谷亮子・自民・三原じゅんこ・秋田選挙区、石井浩郎 政党名での得票
今回選挙の特異性 ―総理がブレたら国民は迷うだけだ− 「第一の道」は、公共事業中心の経済政策であり、巨額の赤字を積み上げた。 ※参考 アメリカは69.7・イギリス51.3・ドイツ36.7%である。 2010年6月30日産経新聞より転載 財政赤字に関して6月にカナダで開かれたG20サミットで、先進国が2013年までに財政赤字を半減させる目標を定めた。しかし財政悪化が深刻な日本はとてもこの目標達成は不可能であるとして事実上例外扱いとなった。 民主党政権はこの点に関し、2015年までに半減させるといい、20年度末までに黒字化を達成するとしている。この状態が国際社会における日本の経済的な位置であり、財政危機の実態である。 自民党も同じように5年以内にGDP比半減を示し、10年以内に基礎的財政収支の黒字化達成を公約している。与野党ともに国家財政が危機的である認識だけは一致している。 プライマリーバランスとは何か ここで、「基礎的財政収支−プライマリーバランス」とは何かを見てみたい。簡単に言えば「政策に使う経費を借金に頼らず、税収などの本来の収入で、どれくらい賄えているかを示す基礎的な指標であり、収支が均衡すれば健全化の状態といえる」と説明されている。 プライマリーバランスが均衡すれば健全だといわれているが、あくまで基礎的な収支のバランスであり、この状態でも過去の債務は残っており、債務返済分(元利償還金)だけを起債することにすれば借金による財政運営から解放されるとはいえ、正確には過去の債務の利払い分は借金が増えることになる。 しかし、国・地方を問わず起債は単なる借金ではなく、行政投資は単年度完結型だけではなく、後世にも負担させるという基本的なシステムであることを理解する必要がある。 プライマリーバランスを図示すれば
2010年6月30日読売新聞より転載 このために、どうするのかが問題である いろんな主張があるが、その代表的なものは景気浮揚策であり、民主党は第三の道で実現するという。景気浮揚策は喫緊の課題であるが、同時に無駄の排除と増税による歳入増を考慮しなければならいだろう。 各党ともに無駄の削減を主張しているが、無駄の削減は当然であり徹底的に行わねばならない。しかし、問題は何が無駄なのかである。蓮舫が言ったように、スーパーコンピューターの技術開発が何故1位でなければならないのか、といった程度の知識で切りまくっても6,900億円しか捻出できなかった事実をどう理解するのか。そこで出てきたのが公務員の天下り禁止や公務員削減論であるが、これをいうなら「まず隗より始めよ」である。国会議員の定数削減をやるべきであり、公務員定数と給与の削減をやるべきである。 議会改革に関する各党の見解 民主党は、参院議員定数を40程度削減、衆院比例定数を80削減 自民党は、衆・参合せて722人を3年後に650人、6年後の500に削減 公明党は、新しい中選挙区制度の導入。それぞれ定数削減(数字は発表なし) 共産党・社民党は削減に反対。 国民新党、記載なし 新党改革は、衆・参ともに半減。小選挙区制度廃止。 立ち上がれ日本、衆院80削減、参院42削減。衆院比例代表は廃止、中選挙区制に変更。 みんなの党は、衆院300、参院100に削減。 本当にやるのか、今後の対応を見極めたいものである。 税制改革・消費税アップについて 消費税1%アップで、およそ2兆4千億円の増収となる。 共産党・社民党・国民新党は反対、 立ちあがれ日本は、12年度に3%アップ、その後は段階的に4〜7%アップ、公明党は、目的税化、複数税率など。アップ率については明示なし。 みんなの党は、3年間は増税しない。 新党改革は、20年頃には10%以上にしなければならないとし、その場合は複数税率の導入、地方財源とした上で福祉目的税化 などとバラバラである。 税制には直接税と間接税がある。一般に直間比率の見直しといわれているが、所得に関して掛かるのが直接税で、消費に掛かるのが間接税である。 果たして日本の消費税率はそんなに低いのだろうか。 付加価値税の国際比較
※我が国の消費税率は、主要国の中では最低の水準である。諸外国では、消費税は基幹税として主要な位置を占めており、EU加盟国では、標準税率を15%以上とすることが義務づけられている。
G20で財政再建の数値目標を他国と合わせられなかったことから、外国投資家の信頼を得るのは難しくなり、外国投資家の投機売りの危険がある。しばらくは国民の貯蓄で国債の消化は可能なようである。しかし政府は来年度から3年間一般歳出と地方交付税を合わせて71兆円の大枠を上回らないことを決めたが、社会保障費が毎年1兆円のペースで増え続けるから、バラ撒きのマニフェストなど早々に撤回すべきである。こうなると選挙前だけ甘い夢を見せられた国民は黙っていない筈だ。しかし、本当にそんな反応を示すだろうかと思っていたところ今回の選挙結果は、民主党にお灸をすえ、自民党に民主党の暴走を抑制させるために、少しの力を与えた辺りは国民の抜群の平衡感覚といえそうだ。しかし、お灸のすえ方も、抑止力としての自民党の支持拡大も中途半端である。 歳出抑制ができなければ増税以外に方法はない。菅首相は「第三の道」とやらで、介護や環境などの分野で景気浮揚を図るというが、介護や環境分野は有望な分野ではあるが、財政支出を伴わなければ雇用は生まれないし、支出をすれば、それ以上の価値を生み出す確証はない。それ以前にその財源をどう確保するのか、使い道はどうするのかを明確に示す必要がある。 日本経済の課題は財政再建と成長をどう達成するかである。増税がばらまきに使われたのでは両方とも達成できない。各政党に望まれることは大衆迎合政治からの脱却である。 これからの政局の展望 この論点には2つの視点がある。 一つは今後の国会運営であり、もう一つは民主党の内部事情である。 まず、今後の国会運営についてであるが、衆・参の捻じれが顕在化したので連立の必要性が高まってきた。民主は「みんなの政党」に接近を図っているが、現時点では渡辺党首は明確に拒否している。しかし政策的に個別の案件に対して筋が通るのなら協議に応じると発言している点は注目すべきであろう。もう一方では参議院の勢力からみれば公明党がどう出るかが注目される点である。 公明も現時点では明確に連立を拒否している。この原因の最たるものは金権体質である。しかし、みんなの党と同じように施策単位の協議は拒否しないだろう。 従来からの公明党の対応をみれば、協力に対する反対給付として連立に移行する可能性は一番大きいのではないだろうか。党政の現況からして単独では絶対に政権を確保できないから、自らの主張を具現化するために政権政党に接近する傾向が一番強い政党が公明党である。 小沢党首の時代に福田総理との間で大連立の話が持ち上がり民主党に持ち帰った途端に党内から拒否され、小沢が辞任を表明する騒ぎがあった。菅代表は自民党との距離が一番遠い人物であり、菅が総理である限り自民党との大連立はないだろう。しかし、連立とは別次元で政策協議を拒否し続けると国民から反感を買うので税制論議に関して超党派的対応は必要であろう。その大前提は民主党のマニフェストのでたらめさを是正することと、ブレない政治的対応であろう。さらには菅首相が「国歌を歌ったことがない」などという容認しがたい国家観について全く不問にして協調ができるかという点である。菅総理がどこまで国政の安定のために妥協できるかが問われるだろう。 現在までの菅の姿勢では自民党との協調関係の構築は難しいだろう。 民主党内に小沢の存在があることを忘れてはならない。党内野党に回った小沢はマニフェストの実行を迫り消費税論議にも異論を唱えている。菅の小沢外しに対して9月の民主党代表選挙にどんな対応をするかが見ものである。 ところが検察審査会が起訴すべきであると決した場合はどうなるのかも微妙である。上申書を提出しているからこの問題の結論は8月の末にずれ込むのではないか。あるいは9月かもしれないとなれば、彼自身が出てくることはないだろうと思うが、彼がどんな策を弄するかは容易に推察することができない。 今は亡き梶山静六や引退した野中広務辺りの、いわゆる仕事師と並び称される無類のわざ師だけに、9月までの間にどんな動きをするのかも注目されるところである。参議院の敗北で、既に党内にかなりの不協和音があり総理続投は既成の事実としても、党役員人事まで無傷のままでは済まないだろう。案外、政界再編の端緒になるかもしれないのではないか。 政治家のプロがなぜ育たないのだろうか 選挙中はワールドサッカーのゲームで日本中が沸きかえっていた。サッカーに関してはまったくの門外漢ながら、決勝戦に駒を進めたオランダに惜敗したものの、予選リーグで2勝して決勝トーナメントに進んだのは立派だった。決勝トーナメントの初戦で善戦しながらPK選で敗れたのは残念だったが、本当によくやったと称賛したい奮闘ぶりだった。 先日大学の先輩で、メルボルン・オリンピックの際にゴールキーパーとして参加された古川好男氏にお会いする機会があり、プロの厳しさに関するお話を伺った。古川氏はサッカー選手として、その後も活躍され釜本選手などを率いて海外遠征に何度も参加されていた。その後古川氏は勤務先の住友ゴム系列のダンロップ社でゴルフトーナメントのプロデュースを担当され、サッカーのみならず、プロゴルファーの生活ぶりを身近に見てこられたので、氏のお話は大変興味深いものがあった。 古川氏によるとプロゴルファーの生活は本当に厳しく、競技に参加するためには旅費および宿泊経費は自分持ちだから、オフシーズンのトレーニングやコーチ料などに年間1千万円くらいは掛かるそうで年間1〜2勝するくらいの実力のある選手でなければプロらしい生活ができないようである。 サッカーに至っては選手としての寿命そのものが極端に短いから、言葉を選ばずに言えば、活きのいい時はチヤホヤされても、怪我や体調を崩すとすぐに戦力外通告され、言ってみれば「使い捨てられる」ケースが多く、その後の生活保障などまったくないのが実態のようである。 億を超す契約金をもらえる選手は文字通り氷山の一角でしかなく、プロの生活は極端に厳しいものだと語っておられたのが印象的であった。 なぜ、プロの世界のことを書いたのかは、最近プロと称されるような人物がどの分野にも少なくなっていると感じるからだ。破廉恥罪でしばらく干されていたお笑いタレントが、参議院議員などに選ばれてたまるかと思うのだが、この程度の者を公認する政党のそのものに違和感がある。タレント議員を一概にダメだとは言わない。確かに、一芸に秀でた人間は何をさせても素晴らしい才能を発揮する場合が多い。しかし、「稀」であるのは確かである。 音楽家などもプロと称される人の努力は大変なものである。ピアニストは、あれだけの譜面を暗譜して、それを鍵盤の上で過ちなく表現するためには大変な努力を重ねているのである。オーケストラの指揮者も同様で、あれだけの楽譜を暗譜し、各パートごとのスコアを頭に叩き込んでおかねば指揮などできる筈がない。それを見事にこなしているのがプロなのである。プロとはそういうものであり、厳しいものなのである。果たして現役の政治家の中にプロの政治家と呼ぶにふさわしい人材がどれくらいいるだろうか。人に評価される以前に、自分がプロを目指してどれだけ頑張っているのかについて、胸を張れる人がいるかが問題なのである。 若干逆説的になるが、選挙は立候補する人の中から選ぶものだから、その中にプロと呼ぶにふさわしい人材がいないことが多く、選択のしようがないために選挙民を白けさせるのである。 自民党もそうであったし、民主党の前政権などもそうであったが、資質のない人間が政治の表舞台で政権運営の真似ごとをして失敗した例を嫌というほど見せつけられたではないか。こんな状態は国民にとっては悲劇としか言いようがない。プロの政治家の出現が待たれるし、プロの政治家を選ぶ選択眼をもった選挙民の必要性が今日ほど求められている時代はないのではないか。 ところが最近の選挙風土は、「若ければよい」といった雰囲気が蔓延していることは、やはり正しくないだろう。 むすび 国家財政の現況はわずかな図表を見ただけでも危機的であることが分かる。この状態から抜け出すためにどうするのか。これが問題なのである。 誰しも、消費税に限らず税金や負担が増えることを歓迎しない。無駄を排すべきであるとの声は大きい。これは当然であるとしても、何が無駄なのか国民負担の適正値とはどの辺にあるのか、国民の生活の現況をどう見ているのかなどを複合的に勘案した施策展開が必要である。 「言うは易し、行うは難し」の典型的なケースである。辛くとも、痛みを分かち合いながら施策を進める必要がある。選挙向けの対応しかしない政治家や政党を「仕分け」するのは選挙民以外には無いのである。 医療費の増嵩に根をあげて医療費の抑制をした途端に何が起こったのか。極端な医師不足で病院が破綻したではないか。各党ともに診療報酬の値上げを訴えているが、それでも開業医は優遇され過ぎている。この辺りのことに切り込まないのは迎合である。今回の選挙でも消費税アップに関して明確な意思表明をしない政党は代替策を示すべきである。こんな政党が存在することは選挙民に対する愚弄であり、それを心地よく感じている選挙民であってはいけない。 ともあれ選挙は終わった。今回の選挙から感じることは、いかに耳触りのよいことを並べてもそれが実現しそうにないことが分かるとしっぺ返しを喰うことである。それと、一度信用を失うと容易にそれを回復させられないことを自民党は学んだのではないだろうか。 ミニ政党の乱立も新しい流れを感じさせた。 大阪では橋下新党が元気である。あれは政党ではないが、それでも地域では政党以上の機能を発揮しつつある。これからの政党の在り方を考えさせられる出来事であるが、一体政党とは何なのだろうか。今回の参院選でも政党の在り方について数々のことを感じさせられる選挙であった。
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