松室猛のTMニ水会定例講演・資料

 平成22年7 戻る


「どうなる、参院選後の国会運営と日本」




はじめに

第22回参議院選挙は22年7月11日に終わった。選挙結果は、民主党は改選前に比べ10減の44議席で、連立与党の国民新党は1議席も獲得できなかった。その結果、与党全体でも過半数に12議席不足する事態となった。
 今回の選挙の争点は、消費税のアップと財政再建が最大のテーマであり、その対策として各党は景気回復、雇用の増大を掲げていた。この種の問題は簡単に成果を期待することは難しいが、それにしても具体性に乏しいものでしかなかった。
 民主党は野党時代に日銀総裁人事などで政府与党と徹底的に抗戦する姿勢で政局至上主義をとり、政権獲得後は衆院の数の力で国会審議の慣習を再三無視し、かつての自民党以上の強引な国会運営を行い野党との亀裂を深めていた。特に小沢幹事長は自治体をはじめ各種団体からの陳情を各省庁に直接することを許さず、党府県連を経て、すべて幹事長が掌握するといった異常な権力集中策をとっていた。さすがにこの対応は問題視され是正されたが、今回選挙ではこれら一連の独善的な暴走ともいえるやり方に対し国民は明確に拒否した結果となった。でたらめな金銭感覚も当然批判の対象であった。
 一方政策面で民主党は4年間は消費税のアップは行わないと断言していたが、マニフェストに掲げた数々の政策のほとんどが財源不足で実施できないことが歴然となった。さらには国家財政が破綻しかねない状態であることから、財政健全化策を打ち出さざるを得なくなったのである。
 昨年の衆議院選挙では、財源は自分たちが政権を掌握したら、すべての予算を根本的に組み直すことによって財源の捻出は可能だと言っていたが、そんな単純なことでないことは直ぐに露見し財源不足がハッキリしてきた。

子ども手当に関しても来年度以降は満額の実施すらも危ない状態に至っている。こんな状態を受けて選挙戦の初盤で自民党は、まずマニフェストが履行できないことを謝罪し、訂正するように強く訴えていた。マニフェストに関して、消費税の値上げはしないと明確に言っていたのを「議論を始めないとは言っていない」に変わり、次には「税率アップのためには民意を問うべきだ」になり、税率については自民党が発表した10%を目途に協議したいと、人任せでしかない。それでも選挙前に税制改正を云々するのはタブーであった従来の慣例からすれば若干様変わりが感じられる選挙であった。

 しかし、今回選挙の敗因は消費税問題ではない。何よりも選挙期間中の彼の発言のブレが原因であり、消費税導入の前段で徹底した歳出削減を言いながらバラ撒き政策を顧みなかった無責任さである。

選挙の前哨戦で感じたこと

 参院選挙に際してもマニフェストを示すことが妥当なのだろうか。
 本来、二院制における参議院の使命は衆議院の独走を牽制し、良識の府としての見識を示すのがその役割である。ところが時代とともに参議院においても政党色が鮮明になり、衆議院のコピー化傾向が顕著となって来た。政党化の最大の理由は比例区における政党への投票にある。政党が前面に出てくる参院選であるが、それでも参議院本来の使命からすれば、公約の実現についてタイムリミットを明確化するマニフェストを掲げることに妥当性があるとは思えない。
 参議院にも立法府としての機能はあり、少数とはいえ閣僚も送り込んではいるが、本来政権選択とは次元の異なるシステムである筈だから、参院選におけるマニフェストの提示は本来馴染まないものである。
 ましてや、先の衆議院議員選挙に際してのマニフェストのいい加減さが暴露され、選挙前の甘言でしかないことがはっきりしたから、なお、その感が強いのである。
 それともう一点、比例区で知名度だけが売りの候補者が毎回話題になることも気にかかる。峠を過ぎたスポーツ選手が、「国会でも金」「オリンピックでも金」とうそぶく姿に違和感があった。「オリンピックも、国会もナメたらいかんぜよ」と感じていた人がいたのは事実である。当選したのは民主比例区の谷亮子と自民の三原じゅんこ、民主党秋田選挙区の元プロ野球選の石井浩郎の三人だけである。しかし、いわゆるタレント候補が軒並み落選したことは良い傾向だと言えるのではないだろうか。
 それと比例区の候補者の中に、衆議院選挙で敗れた人を救済しているとしか思えない顔ぶれがあることにも違和感があった。ともかく議員でありたいとの魂胆が見え見えなのも選挙民を白けさせている原因であるようだ。

選挙結果の分析
 選挙戦序盤では、例によってマスメディアは連日候補者の街頭演説をもれなく紹介していた。それぞれの話を聞いていたら、みんな当選させたいような気になった。しかし、党首の演説も聴いたが、一向にその気になれないのは、何故か不思議な感じであった。
 菅政権発足当時は前任者の鳩山総理があまりにも酷過ぎたために、支持率はV字型に跳ね上がったが、何の実績もないのだから無理もないが急降下で選挙戦の中盤では40%の中ほどまで落ち込んでいた。しかし、問題なのはそれなのに自民党の支持率が一向に上向かないことだろう。自民党の凋落ぶりがこんなに酷いことを自民党の関係者はどう感じているのだろうか。
 自民党政権が、昨年の衆院選で、もろくも崩壊してから自民党の分裂騒ぎが相次いだ。選挙で手厳しい審判を受けた途端にガラガラと音を立てるがごとき崩壊ぶりであった。
 この機会に今回の参院選にどれだけの政党が候補者を擁立し、どれだけの議席を確保したかを検証してみたい。
 今回の選挙での候補者総数は定数120名に対し、438名であった。

比例区と選挙区の候補者数と当選者

比例改選定数48、候補者数12党・187。選挙区は75・候補者数251。

政 党  立候補者数 当選者数 得票率%・・・ 候補者数 当選者数

【比例区】 【選挙区】
民主党 45人 16 31,56 61 28
自民党 35人 12 24,07 49 39
公明党 17人 13,07
共産党 18人 6,10 46
国民新党 7人 1,71
社民党 6人 3,84
みんなの党 23人 13,59 21
(渡辺善美)
立ち上がれ日本 10人 2,11
(平沼・与謝野)
女性党 10人


(福井智代・アイスター販売員、「和豊帯の会」西山栄一)

日本創新党 6人

(山田宏・東京都 元杉並区長)

新党改革 5人 2,01
(舛添要一) 
幸福実現党 5人 0,39 19
(大川隆法総裁、石川悦男党首)

1人区(29府県)での党派別当選数・・自民21・民主8

タレント当選者・・民主・谷亮子・自民・三原じゅんこ・秋田選挙区、石井浩郎

政党名での得票

民主 14,443,171 改革 1,050,977
自民 10,657,166 たち日本 757,030
みんな 7,229,391 国民 481,892
公明 3,555,970 女性 341,625
共産 3,259,068 創新 321,123
社民 1,614,821 幸福 161,018

今回選挙の特異性 ―総理がブレたら国民は迷うだけだ−
 選挙の前に増税論議を明確に打ち出したのは異例なことである。但し、明確に打ち出したといえるかどうかは多少問題である。
 自民党は消費税率を10%に引き上げること明言した。これを受けて民主党は10%を参考にすると言った。いわゆる「抱きつき戦法」であるが菅総理の発言は揺れ動いていた。
 まず「2010年度内に税率や逆進性対策を含む改革案を取りまとめていきたい」と語り、自民党の10%提案を参考にすると言いながら、先のカナダサミットでは「各党に議論を呼びかけるところまでが私の提案だ」と述べトーンダウンさせた。さらに、街頭演説で低所得者層には負担軽減を発言していたが、これに対し与党内からも異論が相次いだ。決まってもいないことの軽減率を云々することに対する違和感や、その軽減に関しても年収200万から400万円をあげているが、その数字の幅の曖昧さも批判の的になっていた。
 日本の平均所得は547万円で、10年前の数字から80万円円下がっているのである。年収400万円未満の世帯数は全世帯の半数近くになる。そうなると税収そのものが確保できなくなる問題がある。こんなことを菅総理は知っているのだろうか。いかに経済音痴とはいえ酷過ぎる話である

 カナダサミットからの帰国後、菅総理は低所得者対策として「かかる税金を全額還付する」と表明した。それなら、その前に言った食料品などに軽減税率を導入することと整合性が取れないではないか。仮に課税最低限を基準に還付する場合、線引きされた少し上の所得層との間で税負担の差が大きくなる問題がある。こんな問題を多く含んでいるのが消費税論議なのである。
 さらに、消費税のアップ分をどう使うのかが明確に示されていないのが問題である。経済の成長分野に使う意向を示す一方で、社会保障財源不足分にも充当するとしているのが、これでは国民が迷うだけだ。
 いずれにしろ「早期に結論を得るべく税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始する」というのなら、政権政党が具体案を示さねば野党も協議のしようがない。「引き上げる際は国民の信を問う」とまで言うのなら、使途などについても明確に示すべきであり、改革案がまとまり次第解散することを明言すべきである。

財施再建こそ喫緊の課題である
 中途半端この上ない消費税論議であったが、経済政策に関して菅総理が言う「第三の道」とは何かを検証してみたい。

「第一の道」は、公共事業中心の経済政策であり、巨額の赤字を積み上げた。
「第二の道」は、偏った市場原理主義に基づく経済政策であり、デフレを長期化させ国民生活は極端に不安になった。
 これらの過去の失敗に学び新政権は「第三の道」に取り組むという。その中身は、わが国が抱える環境問題や少子高齢化などの喫緊の課題への解決策。急速に成長するアジア、国内に資源を生かせる観光分野などへの積極策。これらが生み出す大きな需要に応えることで雇用を拡大する。そこから経済の拡大、財政の再建、社会保障の充実の好環境をつくり出す。改革の目標は『最少不幸社会の実現』だとするのである。

 菅総理は6月22日の閣議で「財政運営戦略案」決定している。その内容を読めば、菅総理が言う景気対策は増税による成長論そのものだ。しかし消費税に関しては税率も施行時期も2〜3年後かその先と述べ極めて中途半端であり、法人税の減税を言っていることと整合性が取れない。
 また、中期財政フレームでは、国債費を除く一般会計予算の歳出規模は71兆円を上回らないものにするとして、大幅増税を前提とし財政健全化目標を表明している。また、その中で新規施策や減税の場合は恒久財源確保を前提とする「ペイ・アズ・ユー・ゴーの原則」と称する財政規律まで明示している。
 ※ペイアズユーゴー(PAYGO:Pay-as-you-go)とは、義務的経費の歳出を伴う法案や修正案を提案する場合には、議員はその財源を別の歳出削減か、増税でみつけなければならないというもの。提出される政策案が財政面で中立になるようにするルールである。

 菅総理は医療や介護部門での投資が雇用を拡大し新たな需要を喚起するというが、本来需要サイドへの財政出動は波及効果が小さいもので、貯蓄に回れば効果は減殺され成長政策にはなり得ないのである。一般的にこのような施策は社会政策と呼ばれ、成長政策とは区別されるべきものである。

 財政再建の道をさぐる前段で、国家財政の現況について考えてみる必要がある。

わが国財政の現況
 わが国財政が危機的な状態に陥ったのは少子高齢化に伴う社会保障費の増加に加え、バブル崩壊以降、公共事業や減税をはじめとする景気対策の財源に充てるために国債発行を繰り返したためである。
 簡単に数字だけを列挙しても大変危険な状態であることが判る。

 国債発行残高 862兆円(国696兆円・地方199兆円《重複分33兆》)
 GDP比181%   (平成2年度政府見通し)

 ※参考  アメリカは69.7・イギリス51.3・ドイツ36.7%である。
 この数字は会計年度の違いやデータの発表時点のずれがあり、データによって数字が異なるケースがある。破綻したギリシャは115%である。(この数字に関しても複数のデータがあり197,1%だとするのもある)
 与野党ともに認めるわが国の財政状況はまさに危機的であり、健全化への取り組みは猶予のないところまで来ている。
 日本が大きな問題を抱えていながら何とか頑張れているのは国民の所得と貯蓄が諸外国を上回っているからであり、国債の消化が国内で95%前後であることが唯一の救いなのである。

税収と国債発行額の推移

2010年6月30日産経新聞より転載


 財政赤字に関して6月にカナダで開かれたG20サミットで、先進国が2013年までに財政赤字を半減させる目標を定めた。しかし財政悪化が深刻な日本はとてもこの目標達成は不可能であるとして事実上例外扱いとなった。
 民主党政権はこの点に関し、2015年までに半減させるといい、20年度末までに黒字化を達成するとしている。この状態が国際社会における日本の経済的な位置であり、財政危機の実態である。
 自民党も同じように5年以内にGDP比半減を示し、10年以内に基礎的財政収支の黒字化達成を公約している。与野党ともに国家財政が危機的である認識だけは一致している。

プライマリーバランスとは何か
 ここで、「基礎的財政収支−プライマリーバランス」とは何かを見てみたい。簡単に言えば「政策に使う経費を借金に頼らず、税収などの本来の収入で、どれくらい賄えているかを示す基礎的な指標であり、収支が均衡すれば健全化の状態といえる」と説明されている。
 プライマリーバランスが均衡すれば健全だといわれているが、あくまで基礎的な収支のバランスであり、この状態でも過去の債務は残っており、債務返済分(元利償還金)だけを起債することにすれば借金による財政運営から解放されるとはいえ、正確には過去の債務の利払い分は借金が増えることになる。   
 しかし、国・地方を問わず起債は単なる借金ではなく、行政投資は単年度完結型だけではなく、後世にも負担させるという基本的なシステムであることを理解する必要がある。

プライマリーバランスを図示すれば


2010年6月30日読売新聞より転載



このために、どうするのかが問題である
 いろんな主張があるが、その代表的なものは景気浮揚策であり、民主党は第三の道で実現するという。景気浮揚策は喫緊の課題であるが、同時に無駄の排除と増税による歳入増を考慮しなければならいだろう。
 各党ともに無駄の削減を主張しているが、無駄の削減は当然であり徹底的に行わねばならない。しかし、問題は何が無駄なのかである。蓮舫が言ったように、スーパーコンピューターの技術開発が何故1位でなければならないのか、といった程度の知識で切りまくっても6,900億円しか捻出できなかった事実をどう理解するのか。そこで出てきたのが公務員の天下り禁止や公務員削減論であるが、これをいうなら「まず隗より始めよ」である。国会議員の定数削減をやるべきであり、公務員定数と給与の削減をやるべきである。

議会改革に関する各党の見解
 民主党は、参院議員定数を40程度削減、衆院比例定数を80削減
 自民党は、衆・参合せて722人を3年後に650人、6年後の500に削減
 公明党は、新しい中選挙区制度の導入。それぞれ定数削減(数字は発表なし)
 共産党・社民党は削減に反対。
 国民新党、記載なし
 新党改革は、衆・参ともに半減。小選挙区制度廃止。
 立ち上がれ日本、衆院80削減、参院42削減。衆院比例代表は廃止、中選挙区制に変更。
 みんなの党は、衆院300、参院100に削減。
 本当にやるのか、今後の対応を見極めたいものである。

税制改革・消費税アップについて
 消費税1%アップで、およそ2兆4千億円の増収となる。
共産党・社民党・国民新党は反対、
立ちあがれ日本は、12年度に3%アップ、その後は段階的に4〜7%アップ、公明党は、目的税化、複数税率など。アップ率については明示なし。
みんなの党は、3年間は増税しない。
新党改革は、20年頃には10%以上にしなければならないとし、その場合は複数税率の導入、地方財源とした上で福祉目的税化
などとバラバラである。
税制には直接税と間接税がある。一般に直間比率の見直しといわれているが、所得に関して掛かるのが直接税で、消費に掛かるのが間接税である。
果たして日本の消費税率はそんなに低いのだろうか。

付加価値税の国際比較


※我が国の消費税率は、主要国の中では最低の水準である。諸外国では、消費税は基幹税として主要な位置を占めており、EU加盟国では、標準税率を15%以上とすることが義務づけられている。

法人税減税について
 自民党は、20%台に減税。
 民主党は、軽減率を示さず中小企業向け法人税を18%から11%に引き下げ新党改革は、25パーセントに減税。

 法人税減税の根拠は国際競争力を維持するためである。また、税制の理論として歳入中立(レベニュー・ニュートラル)の原則がある。この主旨に沿って考えると、消費税増税が目的税であるとすれば法人税減税分と相殺されることはないかも知れないが、結果的に歳入欠陥が生じるのではないか。
国民の税負担と社会保障負担の状況はどうなっているのだろうか。

国民負担率の国際比較


財務省ホームページより転載

国家財政に関する今後の取り組み
 G20で財政再建の数値目標を他国と合わせられなかったことから、外国投資家の信頼を得るのは難しくなり、外国投資家の投機売りの危険がある。しばらくは国民の貯蓄で国債の消化は可能なようである。しかし政府は来年度から3年間一般歳出と地方交付税を合わせて71兆円の大枠を上回らないことを決めたが、社会保障費が毎年1兆円のペースで増え続けるから、バラ撒きのマニフェストなど早々に撤回すべきである。こうなると選挙前だけ甘い夢を見せられた国民は黙っていない筈だ。しかし、本当にそんな反応を示すだろうかと思っていたところ今回の選挙結果は、民主党にお灸をすえ、自民党に民主党の暴走を抑制させるために、少しの力を与えた辺りは国民の抜群の平衡感覚といえそうだ。しかし、お灸のすえ方も、抑止力としての自民党の支持拡大も中途半端である。

 歳出抑制ができなければ増税以外に方法はない。菅首相は「第三の道」とやらで、介護や環境などの分野で景気浮揚を図るというが、介護や環境分野は有望な分野ではあるが、財政支出を伴わなければ雇用は生まれないし、支出をすれば、それ以上の価値を生み出す確証はない。それ以前にその財源をどう確保するのか、使い道はどうするのかを明確に示す必要がある。
 日本経済の課題は財政再建と成長をどう達成するかである。増税がばらまきに使われたのでは両方とも達成できない。各政党に望まれることは大衆迎合政治からの脱却である。

これからの政局の展望
 この論点には2つの視点がある。
 一つは今後の国会運営であり、もう一つは民主党の内部事情である。
 まず、今後の国会運営についてであるが、衆・参の捻じれが顕在化したので連立の必要性が高まってきた。民主は「みんなの政党」に接近を図っているが、現時点では渡辺党首は明確に拒否している。しかし政策的に個別の案件に対して筋が通るのなら協議に応じると発言している点は注目すべきであろう。もう一方では参議院の勢力からみれば公明党がどう出るかが注目される点である。
 公明も現時点では明確に連立を拒否している。この原因の最たるものは金権体質である。しかし、みんなの党と同じように施策単位の協議は拒否しないだろう。
 従来からの公明党の対応をみれば、協力に対する反対給付として連立に移行する可能性は一番大きいのではないだろうか。党政の現況からして単独では絶対に政権を確保できないから、自らの主張を具現化するために政権政党に接近する傾向が一番強い政党が公明党である。

 小沢党首の時代に福田総理との間で大連立の話が持ち上がり民主党に持ち帰った途端に党内から拒否され、小沢が辞任を表明する騒ぎがあった。菅代表は自民党との距離が一番遠い人物であり、菅が総理である限り自民党との大連立はないだろう。しかし、連立とは別次元で政策協議を拒否し続けると国民から反感を買うので税制論議に関して超党派的対応は必要であろう。その大前提は民主党のマニフェストのでたらめさを是正することと、ブレない政治的対応であろう。さらには菅首相が「国歌を歌ったことがない」などという容認しがたい国家観について全く不問にして協調ができるかという点である。菅総理がどこまで国政の安定のために妥協できるかが問われるだろう。
 現在までの菅の姿勢では自民党との協調関係の構築は難しいだろう。

 民主党内に小沢の存在があることを忘れてはならない。党内野党に回った小沢はマニフェストの実行を迫り消費税論議にも異論を唱えている。菅の小沢外しに対して9月の民主党代表選挙にどんな対応をするかが見ものである。
 ところが検察審査会が起訴すべきであると決した場合はどうなるのかも微妙である。上申書を提出しているからこの問題の結論は8月の末にずれ込むのではないか。あるいは9月かもしれないとなれば、彼自身が出てくることはないだろうと思うが、彼がどんな策を弄するかは容易に推察することができない。
 今は亡き梶山静六や引退した野中広務辺りの、いわゆる仕事師と並び称される無類のわざ師だけに、9月までの間にどんな動きをするのかも注目されるところである。参議院の敗北で、既に党内にかなりの不協和音があり総理続投は既成の事実としても、党役員人事まで無傷のままでは済まないだろう。案外、政界再編の端緒になるかもしれないのではないか。

政治家のプロがなぜ育たないのだろうか
 選挙中はワールドサッカーのゲームで日本中が沸きかえっていた。サッカーに関してはまったくの門外漢ながら、決勝戦に駒を進めたオランダに惜敗したものの、予選リーグで2勝して決勝トーナメントに進んだのは立派だった。決勝トーナメントの初戦で善戦しながらPK選で敗れたのは残念だったが、本当によくやったと称賛したい奮闘ぶりだった。

 先日大学の先輩で、メルボルン・オリンピックの際にゴールキーパーとして参加された古川好男氏にお会いする機会があり、プロの厳しさに関するお話を伺った。古川氏はサッカー選手として、その後も活躍され釜本選手などを率いて海外遠征に何度も参加されていた。その後古川氏は勤務先の住友ゴム系列のダンロップ社でゴルフトーナメントのプロデュースを担当され、サッカーのみならず、プロゴルファーの生活ぶりを身近に見てこられたので、氏のお話は大変興味深いものがあった。
 古川氏によるとプロゴルファーの生活は本当に厳しく、競技に参加するためには旅費および宿泊経費は自分持ちだから、オフシーズンのトレーニングやコーチ料などに年間1千万円くらいは掛かるそうで年間1〜2勝するくらいの実力のある選手でなければプロらしい生活ができないようである。
 サッカーに至っては選手としての寿命そのものが極端に短いから、言葉を選ばずに言えば、活きのいい時はチヤホヤされても、怪我や体調を崩すとすぐに戦力外通告され、言ってみれば「使い捨てられる」ケースが多く、その後の生活保障などまったくないのが実態のようである。
 億を超す契約金をもらえる選手は文字通り氷山の一角でしかなく、プロの生活は極端に厳しいものだと語っておられたのが印象的であった。

 なぜ、プロの世界のことを書いたのかは、最近プロと称されるような人物がどの分野にも少なくなっていると感じるからだ。破廉恥罪でしばらく干されていたお笑いタレントが、参議院議員などに選ばれてたまるかと思うのだが、この程度の者を公認する政党のそのものに違和感がある。タレント議員を一概にダメだとは言わない。確かに、一芸に秀でた人間は何をさせても素晴らしい才能を発揮する場合が多い。しかし、「稀」であるのは確かである。

 音楽家などもプロと称される人の努力は大変なものである。ピアニストは、あれだけの譜面を暗譜して、それを鍵盤の上で過ちなく表現するためには大変な努力を重ねているのである。オーケストラの指揮者も同様で、あれだけの楽譜を暗譜し、各パートごとのスコアを頭に叩き込んでおかねば指揮などできる筈がない。それを見事にこなしているのがプロなのである。プロとはそういうものであり、厳しいものなのである。果たして現役の政治家の中にプロの政治家と呼ぶにふさわしい人材がどれくらいいるだろうか。人に評価される以前に、自分がプロを目指してどれだけ頑張っているのかについて、胸を張れる人がいるかが問題なのである。
 若干逆説的になるが、選挙は立候補する人の中から選ぶものだから、その中にプロと呼ぶにふさわしい人材がいないことが多く、選択のしようがないために選挙民を白けさせるのである。
 自民党もそうであったし、民主党の前政権などもそうであったが、資質のない人間が政治の表舞台で政権運営の真似ごとをして失敗した例を嫌というほど見せつけられたではないか。こんな状態は国民にとっては悲劇としか言いようがない。プロの政治家の出現が待たれるし、プロの政治家を選ぶ選択眼をもった選挙民の必要性が今日ほど求められている時代はないのではないか。
 ところが最近の選挙風土は、「若ければよい」といった雰囲気が蔓延していることは、やはり正しくないだろう。

むすび
 国家財政の現況はわずかな図表を見ただけでも危機的であることが分かる。この状態から抜け出すためにどうするのか。これが問題なのである。
 誰しも、消費税に限らず税金や負担が増えることを歓迎しない。無駄を排すべきであるとの声は大きい。これは当然であるとしても、何が無駄なのか国民負担の適正値とはどの辺にあるのか、国民の生活の現況をどう見ているのかなどを複合的に勘案した施策展開が必要である。
 「言うは易し、行うは難し」の典型的なケースである。辛くとも、痛みを分かち合いながら施策を進める必要がある。選挙向けの対応しかしない政治家や政党を「仕分け」するのは選挙民以外には無いのである。

 医療費の増嵩に根をあげて医療費の抑制をした途端に何が起こったのか。極端な医師不足で病院が破綻したではないか。各党ともに診療報酬の値上げを訴えているが、それでも開業医は優遇され過ぎている。この辺りのことに切り込まないのは迎合である。今回の選挙でも消費税アップに関して明確な意思表明をしない政党は代替策を示すべきである。こんな政党が存在することは選挙民に対する愚弄であり、それを心地よく感じている選挙民であってはいけない。

 ともあれ選挙は終わった。今回の選挙から感じることは、いかに耳触りのよいことを並べてもそれが実現しそうにないことが分かるとしっぺ返しを喰うことである。それと、一度信用を失うと容易にそれを回復させられないことを自民党は学んだのではないだろうか。
 ミニ政党の乱立も新しい流れを感じさせた。
 大阪では橋下新党が元気である。あれは政党ではないが、それでも地域では政党以上の機能を発揮しつつある。これからの政党の在り方を考えさせられる出来事であるが、一体政党とは何なのだろうか。今回の参院選でも政党の在り方について数々のことを感じさせられる選挙であった。

平成22年7月
松室  猛


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