松室猛のTMニ水会定例講演・資料

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予算審議が落着したかと思った途端に、今度は小沢一郎氏側近の献金疑惑による逮捕と二階俊博経済産業大臣の疑惑が浮上し、与野党入り乱れて政界はかなり騒々しくなってきた。
相変わらずの不祥事続きと混迷で厭になるが、これからの日本がどうなるのかという心配より、巷では諦めムードが蔓延し政治離れが極限に達している。
数々の疑問点や課題を抱えて、やがて総選挙に突入することになるが、難産の末に成立した定額給付金とは直接関係ないが、国家予算をはじめ地方自治体予算の基本的な仕組みや、「お金」そのものについて考えてみたい。
経済問題は奥が深いし、金融システムなどは極めて専門的で分かりにくいが、「経済」などと構えずに、お金に関する気楽で面白い話から入ることにしたい。

まず最初は・・・・

・紙幣と貨幣の違いは        
・日銀券と政府紙幣の違いは     
・無利子国債とは
・貯金と預金の違いは        
・世界最大の銀行は     
・都市銀行で一番大きな銀行は    
・日本銀行の資本金は        
・1兆円の重さはどれくらいか 
・1兆円を毎日100万円使うと何日でなくなるか       

これらの話しは、おもしろデータの類でしかないが、この問題から派生する話題には時流に沿ったものがある。

現在の経済状況をどう捉えるか

麻生総理は100年に一度の経済危機だといい、この回復には恐らく3年はかかるだろうと発言していた。しかし、今回の金融危機は市場原理至上主義を根本から懐疑的なものにしてしまい、その意味では世界経済史上未曾有のものだといえるだろう。特に最近になってオバマ大統領はかなり思い切った経済救済策を打ち出しているが、これ程のドルを市中にばら撒けば金本位制度の時代と違ってドルが下落するだろう。ドルが下落すればどうなるかも問題だが、考えてみると最近の経済の動きは紙幣だけではなく、いろんな「モノ」が金融派生商品(デリバティブ)化され市中に出回り、更にそれらがレバレッジによって天文学的な金額に増幅されていることを考えれば、マネーサプライ(通貨供給量)だけで経済をコントロールしようとする従来の経済政策では対応できない状態だといえるだろ。
我々がかつて学んだ経済原論の教科書には「経済客体の効用は主観によって決まる」と説かれていたが、現在は客体の範囲そのものが広がり、その効用を考える場合、商品以外の物は、政府と金融機関の信用だけが頼りだということになりそうだ。
しかし、「銀行は潰れない」との神話はとっくに崩れ去ったし、国が破綻し兼ねないと感じるのは妄想が過ぎるといえるだろうか。
もっとも最近のグローバル化の良いところは、国際的な連携によって支え合う仕組みも出来ているが、その反面、国際的な危機に飲み込まれる危険性も増大してきている。
こんな状態の中で我々はどう対処すれば良いのだろうか。結論はおろか一寸先すら見えないが、大多数の国民は「何がどうなっているのか判らないうちにどんどん悪くなってきている」と感じているのではないだろうか。
こんな話が「自己責任」、なんてことで済まされてよい筈がない。

こんな時代だからこそ「政府紙幣の発行」だとか、「無利子国債の発行」などと、あまり聞きなれない言葉が飛び交っているが、この機会に国や自治体では「お金」がどのような仕組みで流通しているのかを見てみたい。

国家予算ではどのような「お金」の流れとなっているのか

日本のGDPが世界第2位で、世界的な経済不況の中でも円高に推移しており、一人勝ちではないかと言われているが国内経済は大変厳しい状況にある。
この不可解さは国家予算をはじめ地方自治体などの予算の仕組みが独特であることに由来する点が少なくない。

国家予算を詳しく見れば(特別会計との関係)

今年度の一般会計予算額は88兆5千億余円であるが、特別会計を合算し重複分を除いた金額は214兆円となり、これが本当の国家の年間支出になる。
しかし、一般会計から特別会計へ繰り入れられる金額は48兆円なので、国会で審議され使途が明確な金額は一般会計のうち40,5兆円(88、5兆円−48兆円)であり、国民がわかる部分は、日本の総経費である214兆円のわずか5分の1強という仕組みになっている。特別会計制度が持つ独特の制度がこのようになっているのだが、最近話題になっている無駄なダム、無駄な公共事業、無駄な道路工事などは利害のある「族議員」と呼ばれる議員の暗躍を招く元凶と言えなくもない。国会で問題になったB/C(BENEFIT/COST−費用対効果)は近視眼的に見るのではなく事業全体としてみる必要があるだろうが、それでも建設前段での予測が甘すぎるとの批判は交わせそうにないようだ。
これらの仕組みも根本的に見直さねばならないだろう。
民主党は予算の仕組みを根本的に改革しなければならないというのが、この点にまで配慮されているとすれば正しい対応だというべきだろう。

特別会計とは何か

特別会計の制度は大変複雑で、この問題だけで一個の論文になりそうだが、簡潔に説明すれば以下のようになる。
国は毎会計年度における国の施策を網羅して単一の会計、つまり「一般会計」として明確化し財政の健全性を確保する必要がある。しかしながら国の行政活動が広範かつ複雑化してくると、受益と負担の関係が不明確になるなど単一の会計では適切な計算、整理ができない結果ともなりかねない。そこで特別の会計を設け一般会計と区分して経理することが必要となり生まれたものである。

現在わが国の特別会計には大きく分けて3種類、合計31の特別会計がある。

事業特別会計(25特別会計)
保険事業、公共事業などの経理を行なうもの。厚生保険特別会計、道路整備特別会計などがある。

資金特別会計 (2特別会計)
特定の資金をもち、その運営にあたるもの。
財政融資資金の運用をする財政融資資金特別会計、外国為替資金特別会計などがある。

区分経理特別会計 (4特別会計)

その他特定の歳入をもって特定の支出に充て、一般歳入・歳出と区別して行うもの。
交付税及び譲与税配付金特別会計、電源開発促進特別会計などがある。

この特別会計を事業別に列記すると下記のようになる。

公共事業関係の特別会計
道路整備特別会計
治水特別会計
港湾整備特別会計
空港整備特別会計
都市開発特別会計
社会保険事業関係の特別会計

厚生保険特別会計
国民年金特別会計
船員保険特別会計
労働保険特別会計

その他の保険事業の特別会計

農業共済保険特別会計
漁船再保険及び漁業共済保険特別会計
地震再保険特別会計
森林保険特別会計
貿易再保険特別会計

農林水産関係の特別会計

国有林野事業特別会計
国営土地改良事業特別会計
食糧管理特別会計
農業経営基盤強化措置特別会計

行政的事業関係の特別会計

自動車損害保険事業特別会計
自動車検査登録特別会計
特許特別会計
国立高度専門医療センター特別会計
登記特別会計
特定国有財産整備特別会計

エネルギー関係の特別会計

電源開発促進対策特別会計
石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計

融資事業、資金運用、整理区分関係の特別会計

産業投資特別会計
財政融資資金特別会計
国債整理基金特別会計
外国為替資金特別会計
交付税及び譲与税配付金特別会計

       
特別会計における決算剰余金の処理

特別会計では、純剰余金の処理はそれぞれの特別会計の性格に応じて次の方法により行われる。

1) 翌年度歳入への繰入れ制度

純剰余金を翌年度の歳入へ繰り入れる一般的な処理方法もあるが、特別会計の純剰余金は、一般会計のように2分の1以上を国債償還財源に充てることはない。

2)積立金としての積み立てる制度

保険事業のように将来における歳入歳出の決算上の不足を補てんしたり、必要な歳出財源に充当するために必要がある場合は積立金としてそれぞれ特別会計の性質に応じて積み立て、必要な場合に積立金を取り崩して歳入に繰り入が可能。

後述するが、このあたりのことを「埋蔵金」と呼んでいるようだ。

特別会計の不可解さ

今年度の国家予算規模は88兆5、480億余円であるが、実は各省庁には特別会計と称するさまざまな収入がある。各省庁の特別会計の総額は377兆円となっている。国家予算の4倍以上の金額となっているが、すべて国民が支払った税金や掛金である。31種類ある特別会計は、各省庁間や国家予算との間で金のやりとりがあり非常に複雑な流れになっている。金額の把握が難しく国会でも審議されないため、かつて塩爺が「母屋はお粥をすすり、離れで子どもがすき焼きを食っている」といった不明朗さがある。
密室政治、官僚政治、天下りの温床、談合、無駄な公共事業、巨大公共事業などの温床になっているとの指摘もある。

埋蔵金とは何か

特別会計の中には、様々な目的のために積み立てられてそのままになっているお金が210兆円(平成17年度末)ある。これが「霞ヶ関埋蔵金」と言われものである。(但し、この金額は資料によってかなりの差があり、年度によっても大きく変わっている)

国債発行残高は

現在わが国の債権発行残高は、平成20年8月時点で685兆2千億円となっている。これに短期借入金や政府短期証券を加えると、848兆4千億円となっている。(平成20年度・財務省WEB)
因みに国債発行の限界をどの辺りに止めるべきかの議論があるが、現時点では国民総生産額GNP(561兆円)の151%になっているが、経済成長が大きければ比率は下がるので、一概に何パーセントとが適正であるとは言いがたい。

日本の経済力は如何ほどなのか

そこで、日本の経済力は如何ほどのもので、どうようなシステムにになっているのかのあらましを検証してみたい。
GDP(国内総生産)は、一定期間内に国内で産み出された付加価値の総額であり、工業、住宅、家計といった経済事象の一側面だけを捉えるのではなく、経済活動を総合的に把握する統計である。GDPの伸び率が経済成長率になる。
名目GDPと実質GDPの二つの数値を表記することが多く、実質とは名目から物価変動分を加味して修正した数値をいう。日本のGDPは2007年度ベースでアメリカに次いで世界第二位だが、国民一人あたりのGDPに換算すると世界全体では21位にまで下がる。(人口との関係)
ちなみに類似語としてGNP(国民総生産)という指標もあり、80年代まではGDPよりもこちらがよく使われていた。しかしGNPには、海外に住む国民の財・サービス生産額も含まれるため、その国の現状を表す経済指標としては若干不都合が生じるので近年ではほとんど使われなくなった。

GDPの国際比較表(上位10ヶ国)

国  名
人 口(万人)
名目GDP(億ドル)
一人当たり(ドル)
アメリカ合衆国 28780 138413 48093 8
日  本 12693 43797 34504 21
ドイツ 8254 33235 40265 19
中  国 128453 32417 2523
イギリス 5885 27715 47094 12
フランス 6123 25566 41754 16
イタリア 5792 21014 36281 20
スペイン 4319 14368 33266 
カナダ 3126 14257 45607 13
10 ブラジル 17030 13141 7716 

(出展・2007年・(財)国際貿易研究所・国際比較統計・【@の数字が合わないので修正した】)
国内総生産の額が多いことが直ちに生活が豊かだとは限らない。しかし、一人あたりのGDPではルクセンブルグがダントツで、2位がノルウェーやスイスなどがアメリカや日本を上回っており、人口との対比とはいえ豊かな国といえそうだ。

その反面、中国の低さは人口が多いためであるが、中国における貧富の差の拡大は国家の破綻に繋がりかねない深刻な問題となっている。

アメリカ国債の保有高世界第二位

しかし経済活動がグローバル化する中で、依然としてドルが基軸通貨であることから外貨準備としてのアメリカ国債を保有している国が多い。
現在アメリカ国債の保有高世界1位は中国で66兆円、日本は第2位で54兆円保有している。2年ほど前までは日本がダントツであったが中国の経済成長が著しく、現在は上記のような状態となっている。しかし、アメリカの金利が下がり、ドルの価値が下落すると保有国は大変な損失を被ることになる。
中国が66兆円ものアメリカ国債を保有していることから、ヒラリー国務長官が2月に訪中した際に、アメリカ国債の安全性にわざわざ言及し友好関係を緊密にといっていたのは見え見えの牽制球であり、放出しないようにとのアピールであったようだ。日本に対してはその様な発言は無かったがどう理解すべきだろうか。日本を同盟国だと思っているからだととるべきか、それとも呑んでかかっていると見るべきか若干複雑な思いがする。
中国や日本がアメリカ国債を放出すればドルは暴落しアメリカは確実に破綻するだろう。
財政破綻の危機に瀕しているアメリカがオバマを中心に出直し的改革に取組もうとしていることを大いに期待したいが、国家財政の赤字が173兆円になっていることからも容易ではないだろう。

ここで気になるのは中国であるが、世界一の外貨準備高を誇り、アメリカ国債を66兆円も持っていながら日本から経済援助を受けている不可解さがある。
このからくりは、GDPの数値によるのである。急速な経済成長を謳歌しているがGDPは決して高くなく、一人当たりの額は2,532ドルでしかない。
世界銀行(いわゆる銀行ではなく、世界中の救貧対策などに資金援助を行なう国連機関の一つ)の被援助国の基準に当てはまるから、核兵器を持ち軍事費を増額し続け、宇宙衛星を打ち上げる国でありながら臆面もなく日本にまで援助を求めているのである。
世界中の話題になった北京オリンッピクのインフラ整備は、その大半が日本の経済援助によって賄われたものだとの指摘もある。(日中再考・小森義久著)
最近は日本のODA援助額は減少しているが、国民は主要閣僚が外遊するたびに多額の援助をすることに疑問を抱いている。何処にそんなカネがあるのだとの疑問もあるが、これも特別会計という隠れ蓑のなせる業である。

成長率の二桁落ち込みの意味するもはなにか

先日発表された日本の21年度経済成長率は前年比−12、7%と発表されたが、先進諸国の中で際立って落ち込みが激しい理由は日本経済の構造上にその原因がある。落ち込みの最たる理由は経済変動による消費の落ち込みと為替変動が大きく輸出に影響しているからであるが、貿易収支を見てみると、日本が2008年に行った海外との貿易や金融取引などの国際収支(速報)は、経常黒字が16兆2803億円となり、前年に比べ34.3%減少している。
財務省が2月9日にまとめたものによると、3年ぶりの減少で、データを比較できる1985年以降では最大の減少幅となった。 
輸出額から輸入額を差し引いた貿易黒字は4兆338億円と前年に比べ67.3%減少し過去最大の減少率だった。
輸入額は原油や、液化天然ガスなどを中心にふくらみ、同8.8%増の73兆3184億円と6年続けて前年を上回って、過去最大額を更新した。
サービス収支は2兆2365億円の赤字となっているが、旅行や輸送サービスで海外に支払った金額が減り、赤字額は前年より10%少なくなった。

2008年の国際収支状況を月別にみると、経常黒字額は3月以降、10カ月連続で前年割れした。特に12月は前年同月比92.1%減となっており過去最大の減少率を記録している。貿易収支が赤字に転じた影響が大きい。原油などを中心に輸入額が減っても、自動車や半導体など、輸出額がそれを上回る勢いで落ち込んでいるからである。

因みに本年2月25日に財務省が発表した貿易統計速報によれば
1月度の輸出入の状況は

輸出
3兆4,826億円
昨年比
45,7%減
輸入
4兆4,352億円
31,7%減
 単位月当たり9,609億円の赤字となっている。

貿易相手国の国別の状況

日本の最大の貿易相手国は、アメリカで、17.8%、(2005年実績)であるが、
最近では日系企業の現地生産の拡大や地場企業の輸出促進等に伴い、アジア諸国との貿易が活発となってきている。
アジア諸国のシェアは、輸出が90年に31%であったものが、2005年には48.4%と17% 以上も拡大した。また、輸入も同29%が44.4%と15%以上も拡大している。特に、最近では、中国から、繊維製品、電気機器及びコンピューター関連機器等の輸入が増えており、ここ10年間で中国の世界に占めるシェアは、5.1%(1990年)から21.0%(2005年)と15%以上も拡大している。この結果、相対的に米国、EU等のシェアは低下傾向が続いている。

日本の経済構造について

経済構造を分析する視点は複数あるが、輸出入から見れば日本は完全な資源輸入国であり、自動車や弱電産業などが輸出を伸ばし外貨を稼いでいるが、だからといって貿易立国だというのは統計上早計である。
何故なら、確かに日本の貿易高は世界有数であるが、輸出総額がGDPに占める割合は15%に過ぎないからである。因みに中国は35%、EU諸国は50%となっており、日本は必ずしも輸出だけに依存しているとはいえないのである。

しかし、最近のように自動車産業や弱電関係の輸出不振が嵩じると、裾野の広い下請け業者を抱えているだけに生産調整によりその影響は大きなものになる。

派遣切りや人員カット、ワークシァーリングによる所得の低下は購買意欲を削ぎ、企業城下町には人がいなくなり内需が落ち込むなどの悪循環がおこり最近のような悲惨な状態になるのである。この辺りに内需振興の必要性の論拠があるのである。

大阪府の財政運営について

大阪府が交付税不交付団体であった時代は長かったが、近年は交付税交付団体である。この原因の最たるものは大阪府の税収構造が法人府民税と法人事業税に偏在しており景気変動の影響をまともに受けるからである。
現在、府県での不交付団体は東京都と愛知県の2団体だけで、府内市町村では吹田市、茨木市、箕面市、摂津市、田尻町の4市1町だけである。
このことが示すように、国の財政調整機能が正しく機能していないことは明らかであり、財源と税の徴収構造に問題があることは歴然である。
その大阪府が今年度赤字予算から脱し黒字予算を組んだことが大きく報じられていた。厳しい財政状況の中で、何故大阪府が黒字で予算を組めたのかについて解説すれば、ここにも自治体会計の独自性と若干のからくりが垣間見える。

自治体会計の不可解さ

多年にわたり次年度会計から前借する形から抜け出せず、近年は毎年赤字予算であったが今年度は11年ぶりに黒字となっている。
これは橋下改革によって人件費を含む大幅な歳出削減があったことが最大の理由で、毎年繰り返してきた府債償還のための積立金である減債基金から繰り入れをしなかったのは評価できる。今までの府政が歳出削減の取り組みが甘かったのに比べれば立派であるが、前任者が財政調整資金をほとんど使い果たし、苦肉の策として減債基金から繰り入れしていたのだが、仮にこの基金からの繰り入れを増額していれば会計上は黒字にすることは可能であった筈だ。それをしなかったのは禁じ手だからとの理由もあるが、赤字を公表することにより経費削減を督励する手段としていたのではないかと思われる点や、国の財政運営に対する抗議の意味を含んだ部分がなくはなかったのではないか。
従って、黒字で予算を組んだことは緊縮財政を徹底したからであり、その点は評価できるが、府職員の人件費や私学助成等を大きく削減し府民に痛みを分かち合うことを強く求めた結果であり、その意味では帳尻あわせであり、それほど特筆すべきことでもない。
何故なら、減債基金は府債償還のための準備金だが償還時期が来れば借り換えなどの便法もあり、取り崩しに関して特段の定めはなく、苦しい時はこの基金から融通することは、あながち禁じ手だと断定すべきではないと思うからだ。

一般家庭や企業会計では収入より支出が上回れば赤字、収入が上回れば黒字と呼ぶが、自治体会計では歳出が歳入を上回っても起債(府は府債、市は市債を発行)が可能である限り赤字とはいわない制度になっている。
即ち、起債は借金とは捉えないからである。何故なら、自治体の事業や施策は単年度のためだけでなく、後年度の地域住民が便宜供与を受けるので後年度にも負担をさせる制度となっており、従って起債発行残高を直ちに累積借金と呼ぶのは正しくない。また、起債には建設等の事業債の他に、減収補填債や財源対策債などの起債があり、経済変動が激しいことにより税収が減少すれば政府がそれを補填する制度などもある。この債務は別途交付税で調整されるので、すべてが実質的な債務とはならない制度となっている
また、自治体の財政力を比較するために「経常収支比率」というのがあり、これは経常的な経費を経常一般財源の総額で除したものをいうが、この数値が小さいほど財政に弾力性があるといえるものである。大阪府は19年度決算見込みでは102,7となっており、東京都は80,2で愛知県は92,0となっている。 何故このようになるのかが問題なのである。

橋下知事がいう大阪の活性化策とは

国の経済運営として内需拡大が叫ばれているが、大阪府でも地域振興により活性化策を模索しているが、その一つとして橋下知事は大阪府庁をWTCに移転させ、その周辺を整備することにより活性化を図ろうと考えているようだ。
この案に対して議会の中にも賛否両論がある。何故なら歴史のある立地と建造物の府庁舎に耐震構造上問題があり改修に膨大な費用をかけるより、破綻しかかっているWTCを買い取り、そこに府庁を移転しようというのだが、何故あのような不便な場所に移転するのかについての反対論が多いようだ。
彼は、大手前のような一等地に役所を置く必要はなく、このような意見は不動産屋的発想であると言い切り一蹴しているが、それでも不便であるとの意見は払拭し切れていない。そこで彼は、「不便だからこそ役所がそこへ出向いてインフラ整備のための投資をして活性化させる」というが、この不便だからこそ、そこに出向いて、という彼の主張には地方自治法上大きな問題がある。
地方自治法の第2条には「事務所の位置を定め又はこれを変更するに当つては、住民の利用に最も便利であるように、交通の事情、他の官公署との関係等について適当な考慮を払わなければならない」との明文規定があるからである。

ところが現在開会中の府議会では、府庁移転に関して肝心の点が議論されておらず、現在市が使っているWTC部分の引越経費をどちらが支出するのかなどの末梢の議論で紛糾し審議が中断したりしているが、報道を通じてみる限りでは本末転倒の議論だとしか思えない。庁舎移転の必然性がどの辺にあるのか、移転によって府民が受ける利便性はさらに良くなるのかといった本来の視点での議論を何故府議会議員がしないのか、不思議でならない。

地方自治体は小泉改革の一環である三位一体の改革以来、財政的には未曾有の危機に見舞われており放置できない状態にある。何とか、人と物を動かすことによってお金の流れをつくり出そうとしているのだが、この程度の開発で大阪が活性化するとは思えないが、橋下知事はパフォーマンスによる抜群の支持率に昂ぶって、極めて強引な府政運営をしようとしている感じがしてならない。もし議員が知事の人気にあやかろうとして反論することを躊躇っているとすれば、府議会は府民から今以上に見放されることになるだろう。それでなくても府議会の審議が見えないとの不協和音が大きいことを真摯に受け止めてこの問題を議論するべきである。

小泉改革が残したものは補助金をカットし、税源を移譲するといいながら、その対策が不十分極まりなく結果的に地方財源を疲弊させている事実がある。
これらの問題解決は、府県独自の努力だけではどうすることも出来ない制度上の問題があり、本来の機能を果たしていない交付金制度や、国の直轄事業に対する負担金などで財政が圧迫され自主性が発揮できない自治体の悩みは大きい。この意味からも制度疲労を起こしている国の税財政運営の基本的な仕組みを根本的に見直さねばならない時期に至っているのである。

自治体のみならず、お金に関する悩みや恨みは数々あるが、このことをボヤイているだけでは問題は解決しない。
公的な部分では、前述したとおり税配分をはじめ特別会計の統合や予算の仕組みを根本的に変えるような大改革が必要な時期に来ているのである。

そのために我々に何が出来るかを自問する時、虚しさを感じるが、せめて総選挙の時に、これらの問題を熱く語ってくれる人材の出現を心から願わずにはおれない。
こんな時代に政界のこれからを予測するのは難しいが、それでも暑くなる頃には選挙が行なわれるだろうと思うが、次の選挙は政権選択が焦点となるだろう。
次は誰が総理になるのかより、どんな政策で日本をリードしようとするのかを明確に示して欲しいものである。

『明日』という字は『明るい日』と書くが、明るい兆しだけでも感じさせて欲しいと、しみじみ感じる昨今である。

平成21年3月11日 松 室  猛

お金の問題に関する「蛇足」

国会審議の最中に小沢一郎氏の第一秘書が政治資金規正法違反で逮捕される事態が発生した。簡単に説明すると、現行法では企業献金は癒着の原因とされ、政治家個人と政治団体への献金が禁じられている。
但し、企業から政党への献金は規制されておらず、(額は資本金との関係で規制がある)また政治団体間の寄付には5000万円の枠内なら制限がない。
今回のケースは、企業である西松建設は、政治家及び政治団体に献金できないから、企業が有志と図って政治団体をつくり、そこへも直接企業からは献金できないので、社員に個人として会費(献金)を払わせ、その分を賞与に上積みして支給していたと社長がテレビに語っていた。
この経路(会社の関与)が立証されれば企業の迂回献金となり違法性は免れない。それが個人の財布から個人の意思で支出されておれば違反にはならない。
西松側の政治団体が何の目的でつくられたのか、そこを経て政治家に献金する目的は何なのかは一目瞭然であり、この事実は隠せないだろう。
また、西松から政治団体にいくら振り込ませ、小沢氏の団体にいくら振り込ませるかを指示していたとすれば、企業献金そのものであり違法行為である。
しかし、西松建設からの献金が政党に対して行なわれ、政党から政治家に配分されていれば現行規正法上何の問題もない。
政治資金規正法では、政党や政治団体から政治家個人が献金を受ける金額に制限はなく、その使途の報告義務がないのはふざけた話しである。
以前に小沢氏の政治団体が多額の不動産を所有していることが話題になったが、当時は政治団体が固定資産を購入することに関して規制がなかったが、平成19年8月以降は禁止となった。
いずれにしろ庶民には馴染めない制度が政治資金規正法にも数多く存在するのである。

以 上

参考文献 (財)国際貿易研究所・国際比較統計

財務省 WEB
経済産業省 WEB
日中再考  古森義久
その他、日刊紙他



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