松室猛のTMニ水会定例講演・資料

 平成20年11 戻る




大統領選挙が示すもの

九月の二水会定例講演会で時代を読み解くキーワードとしてwater shed moment(歴史の分岐点)の言葉を紹介したが、この1ヶ月ほどの間に極端な経済変動が勃発し、ますます混迷の度合いを深めるに至った。まさしく歴史の分岐点を迎えた感がある。

11月4日に投票が行われたアメリカ大統領選挙は「CHANGE」のキャッチフレーズを掲げて戦ったオバマ氏の地すべり的な大勝利で幕を閉じた。
事前の世論調査ではオバマ氏のリードが伝えられていたが、それでもブラッドリー効果(※)が懸念され、どんなハプニングが起きるかも知れない一抹の不安が取り沙汰されていたが、アメリカは確かに変ったといえるだろう。建国以来初めてのアフリカ系黒人大統領の誕生は人種問題を乗り越えただけでなく閉塞感に満ちているアメリカそのものの変革を求める世論によって大いに盛り上がり1年間に及ぶ選挙戦の幕が閉じられた。来年1月20日が新大統領の就任式で、この日から正式に第44代大統領に就任することになるが、アメリカ発の経済危機や、アフガン、イラクからの撤退、イランの核問題への対処、パレスチナ問題を含む中東情勢にどう対処するのか、また、対日本との関係やアジア情勢、特に北朝鮮問題にどう取組むのかなど興味津々たるものがある。
(※)世論調査で黒人候補に投票すると答えながら実際には白人に投票する傾向をいう。カリフォルニア州知事選で、事前調査で圧勝と予想されていたブラッドリー候補が敗北したことからこのように言われるようになった。アメリカの人種問題に関する微妙さを象徴するものである。
大統領選挙をかなり注意深く眺めていたが、オバマ氏の政策について選挙民の関心は、不得手とされている外交問題よりも圧倒的に経済政策に関心が集中していた。オバマ氏は選挙中に500億ドル程度の景気対策の実施を掲げ、崩落が続く橋の修復や学校の修繕など公共事業を拡大し景気浮揚と雇用拡大を主張していたが、「最優先の課題」と位置づける金融危機対策はブッシュ政権の銀行への公的資金注入を支持し、これに加えて金融機関の経営責任追及や住宅ローン債務者救済などを追加的に行う考えを示していた。公共事業の拡大や中低所得者優遇などが特徴であるが、勤労者に減税を実施する一方で富裕層に実施していた減税措置の撤廃を表明し、具体的には来年には800億ドル(約8兆円)の所得減税と300億ドルの公共投資などを掲げていた。
このようなことからオバマ氏は、いわゆる「ニューディール政策」を打ちだすのではないかとする予見と期待がある。

ニューディール政策とは
ニューディル政策とは1930年代の初頭に、ルーズベルト大統領が世界的な経済恐慌を克服するために打ちだした経済再建策であるが、政府はそれまで市場への介入を極力抑制していたが、それが行き過ぎ、自由放任に近い形になっていたのを政府がある程度コントロールする政策へと転換したものである。
今回の金融危機や景気後退などの原因は金融資本主義の暴走にあると考えられ、言い換えればファンド資本主義への道を開き、レバレッジ利用(※)の制限なき収益拡大の追求がその原因であるとされている。ブッシュ政権はそれをコントロールできないまま役割を終えただけに、新政権に求められるのは、まずはコントロール機能の回復ではないだろうか。(※)レバレッジについては後述
そこでで求められるのは、彼は47歳の弁護士で、僅かに1期だけ上院議員を務めただけであることから彼を補佐する人材がどうなるのかを世界中が注目しており、特に経済に精通した補佐役である財務長官に誰を据えるかが目下の最大注目点ではないだろうか。
しかし、2008年9月までの財政赤字は4,550億ドルに達しており、政策の選択肢を狭めているためにこれらの政策実現は容易ではない。

また、日本にとっての懸念事項は貿易政策だろう。保護主義的な通商政策を求める労働組合が民主党の有力支持基盤であるだけにこの傾向は加速するだろう。
大統領選と同時に実施された上下両院選でも同党が大きく躍進しただけに保護主義的な貿易政策は避けられないのではないだろうか。
11月5日のオバマ氏のシカゴにおける勝利宣言でも、工業生産に関して名指しで「日本、韓国でつくるのではなく、アメリカでつくる」と明言していたことからも窺い知ることができそうだ。

オバマ氏とブッシュ現政権の政策面での違いの概略を見てみれば

政 策 種 別 ブッシュ政権 オバマ新政権
外交姿勢 1国主義 協 調
対イラン 強行姿勢 対 話

経済政策 競争力向上 格差是正
ともあれアメリカ大統領選挙は一先ず終った。
このことと直接関係がないとはいうものの、解散が最大の課題だといわれた麻生内閣の対応は経済環境の激変に振り回され選挙日程どころではない様相を呈している。総理の専権事項とはいえ衆議院の解散がいつ行なわれ、その結果がどう出るのかも無関心ではおれないが、経済危機に対処することが最優先であるとの政治判断は正しいというべきだろう。
昭和4年の世界大恐慌に匹敵する経済変動に対して、どう対処すべきなのかは容易にその手立てを見出せないが、それでも精一杯これからの動きを見極める努力を怠ることは出来ないだろう。結論が出難い問題だが、まず問題点の整理から取組むことにしたい。

まず、世界経済の動きを眺めてみよう
今日の状況を、昭和4年10月24日に起きたニューヨーク市場における株価の大暴落に端を発した昭和の大恐慌と比較する議論がある。しかし、アメリカの株価下落率や世界的な企業の倒産などは大恐慌並みだといわれ多くの共通点もあるが、根本的に違う点は危機の大きさと世界に波及するスピードが圧倒的に速い点である。危機の大きさの原因を一言でいえば、昭和恐慌時代にはなかった「デリバティブ」と称される金融工学によって生み出されたに金融商品によるマネーゲームによるものといえるだろう。
また、各国ともに当時と比べインフラ整備が進んでいること、即ち社会資本の蓄積が当時とは比較にならないほど進んでいることや、金融資本主義の時代なるが故に金融システムがグローバル化していることが世界的な協調関係を生んでいるのも当時とは大きく違っている点である。
信用不安は実体経済にも多大の影響を及ぼすだけに、この金融危機に対して政府がどう介入するかが問われており、まさしく各国ともに政治の果たすべき役割が大きく重要となっている。

わが国では、小泉改革以来あらゆる分野で格差の広がりが懸念されており、個人資産が極端に目減りしているが、それでもまだ相対的には余力をもっている点が当時と違うといえそうである。
しかし、中小企業の倒産が相次ぎ、若年勤労世代の失職が拡大すれば容易ならざる事態を招くことは必至であり、この事態にどう対処するかは政治の喫緊の課題である。

日本は、もうこれ以上金利を引き下げることができないと思っていたが、依然として円高で推移してきたこともあって10月31日に日銀は0,2%引き下げると発表したが、これらの対策で円高を防ぐことが出来るだろうか。優良企業といわれ、稼ぎ頭といわれていた先端技術を駆使した分野や自動車などの輸出企業が大きな打撃を受けているが、ウオン安によって輸出攻勢を続けている韓国企業との価額競争が激化し苦戦を強いられており、先行きとして大変厳しいものがあるようだ。
その半面、ウオンの暴落は韓国の輸入に多大の影響を与え国内経済が破綻しかねない様相を呈しているようだ。
為替変動がこれ程の影響を持つに至ったことを改めて知らされたのが今回の経済変動であった。

こんな時代の政治の役割とは何か、そのことを検証する前に、先ず何故こんな状態に陥ったのかを考えてみる必要がありそうだ。

経済危機を生み出した原因とは何か
株価の変動幅がどれ位で収まるのかは判断がつかないが、10月28日の午前の最安値は瞬間的ながら6,994円まで落ち込んだが、僅か7営業日で9、000円台を回復しその後一進一退を繰り広げているが、これ程の激変は決して正常ではない。株価はようやくにして底を打ち、今が買い時なのだろうが、こんなことに確信が持てたら誰しも損をする人はいないだろうが、悲しいかな何の根拠も見出せず確信が持てないのが経済の動きであり株価そのものである。

ここで気になることは、サブプライムに端を発し金融危機を引起したアメリカと比べ日本の株価下落率が大き過ぎることである。これはは外人投資家の動きによって大きく日本の株価が変動するからであろうが、このような状態が正しいのだろうか。

考えてみると今回の経済変動の発端となったサブプライム問題は、そのものだけだとおよそ1兆円前後の損失である筈なのに、その影響が世界的に波及したのは住宅がらみの債権を証券化しリートと称する金融商品(REAL ESTATE INVESTMENT TRUST)を世界中に売り出したことによるものだ。またその他にもCDS(CREDIT DEFAULT SWAP) と呼ばれる債務保証を売り物にする商品などが拍車をかけたことも話題になっている。
それでも従来の証券取引の範疇なら大した影響がなかったものが、レバレッジと称する取引によって、何倍にも増幅されたために、その影響が天文学的な数字に膨れ上がったのである。

レバレッジ(LEVERAGE)とは、
経済活動において他人資本を使うことで自己資本に対する利益率を高めることであるが、簡単に説明すれば少ない自己資本をテコの応用で多額の取引が出来るシステムのことである。
レバレッジを簡単に理解するためには、フォレックスと呼ばれる為替証拠金取引を例にとれば一番早いようだ。即ち少ない証拠金で20倍くらいの取引ができるが、損益も倍率に比例して大きくなるリスクがある。
今回の経済危機はアメリカにおける不動産バブルの崩壊がサブプライム問題を引起したが、それがレバレッジにより拡大されたものだ。

9月12日に起きた株価下落は、アメリカにおけるリーマンブラザーズの破綻が端緒となり、AIGの破綻が続いたが、リーマンは証券会社だから流石にアメリカは公的資金の投入はしなかった。しかしAIGは保険会社なるが故に被害の波及効果が大き過ぎるので公的資金を投入し被害の拡大を防いだ。
しかし、アメリカの下院ではブッシュが提案した75兆円の公的資金を投入するための金融安定化法案を否決する事態が起きた。その理由は、経済界のトップはマネーゲームで天文学的な年俸を得ていたが、経営破綻の危機に瀕したからといって公的資金で救済するのは筋が通らないというものであった。庶民感情としては当然のことであり理解できるが、しかし、これほどの金融不安を早く収束させないと更に問題が拡大することを理由に説得を続け、遂に下院での可決にこぎ着けたが、その間に金融不安がさらに世界中に拡大する結果となったのである。
極めて普通の庶民感覚が、危機に対処しようとする政治のプロであるべき議員の判断を狂わせ、決断を遅れさせたこたが被害を拡大させてともいえそうだ。下院では選挙が近いので議員が選挙民におもねる対応をしたのであるが、このあたりが代議制民主主義の難しさなのかもしれない。

わが国の政治情勢
こんな世界経済の情勢を受けて9月24日に麻生政権が発足したのである。
前政権が2代続きで衆参の捩れによる議会運営の難しさに音を上げ途中で政権を投げ出していたため、次期政権は選挙管理内閣だといわれていた。従って総選挙は就任直後に行われるであろうと予測する人が多かった。事実、麻生氏自身も就任後直ちに解散することを考えていたようであるが、総裁選が盛り上がらず、さらに金融危機が追い討ちをかけたので180度方針を変更せざるを得なかったのだろう。
麻生氏自身よりもマスコミが勝手なことを言っていたが、その発端となった根拠の一つに自民党の古賀誠選挙対策委員長なども総裁選の勢いを駆って選挙に突入すべきだといっていたことなどがあった。ところが総裁選などは所詮コップの中の嵐でしかなく、その勢いを駆ってなどと考えることが政治と世論の流れを読めない、当世風にいうならば「KY−空気が読めない」政治家だったから混乱が広まったのである。こんなのが選対委員長で次期選挙が戦えるのだろうかと心配になる。

新総理は前任者の無責任さを償い、低迷が続く経済対策を打ち出さねば選挙にならないと考えるが故に、そんな早い時期に選挙などやるべきではないし、できるわけがないと予測していた。麻生総裁の誕生は9月24日であるが、総裁が決まる前の9月17日に発信した小生のブログで選挙時期の予測をしたことがあるが、その時点で選挙は早くて11月下旬から12月にしかできないだろうと予測をしていた。ところが、その後経済変動が世界的な規模に広がりそれどころではなくなったが、それ以前でも10月中の選挙などできる訳がないとの予測は正しかったといえるだろう。

麻生総理誕生後、直ちに補正予算を可決したが、その後の経済危機が予想を上回る規模で世界中を席捲していることから補正予算のみならず追加の経済対策の策定が必要となり解散の時期はさらに先送りされる傾向が顕著となってきた。

麻生総理の経済対策
1次補正は10月16日に可決された。しかし、その後、経済危機の大きさに対処するため10月30日の夕刻に麻生総理自身が記者会見をし追加の経済対策を発表した。
第2次補正予算のあらましは総額27兆円にのぼる財政出動が主で、財源としては財政投融資特別会計の金利変動準備金が予定されているが、関連法の成立が必要であり成立の可能性は流動的である。

また、消費税率の改定について、3年後に検討すると前置きがあるが初めて明言し話題になっている。

第2次補正の主な項目
定額給付  2兆円 現金給付で4人家族の標準所帯で約6万円の支給
雇用保険料の引き下げ
住宅ローン減税の延長と拡充
都道府県に子ども安全基金設置
子育て応援特別手当支給
介護現場の処遇改善と10万人の人材確保
高速道路利用料減額 休日1000円 平日の昼間3割引
道路財源から地方へ1兆円
地域活性化・生活対策臨時給付金の交付
金融機能強化特別法の活用・改善
証券優遇税制の3年延長
中小企業向け融資 保証枠を6兆円から20兆円に増額
中小企業向け減税
非正規労働者の雇用安定化対策強化
省エネ・新エネルギーの投資促進
海外子会社利益の国内還流
世界最先端の研究開発

財政運営を中心とした政治手法の主なもの
現在自民党の中には財政健全化のための政治手法について3つの流れがある。麻生氏のことを「オールド ケイジアン」、即ち旧いタイプのケインズ論者という人がいるが、経済運営に関しては「積極財政派」である。小さな政府よりも積極的な公共投資などで景気回復を図ろうとする施策を優先するのだが、今回の補正では直接的な公共投資は入ってない。
それに対して中川秀直氏などは「上げ潮派」といわれており、規制緩和などにより景気を好転させ、より高い経済成長率を達成したあと好景気を背景にした税収増により財政再建を行なうとする派である。
もう一つ「財政再建派」は、文字通り財政再建を優先する派である。

久し振りの長期政権であった小泉政権の基本路線は構造改革であり、規制緩和、小さな政府を前提に、従来のしがらみを断ち切り、あらゆる分野で競争原理を取り入れる改革路線であった。小泉純一郎氏は福田赳夫直伝の「緊縮財政派」であり、先ず財政健全化のためには公共事業などを容赦なく削減した。その結果、かつての自民党の支持団体であった建設業界などの各種業界団体の利益誘導型政治を根本的に打ち壊した。また、今日の地方自治体が軒並み財政破綻の危機を迎えているのも小泉改革の柱となった「三位一体の改革」に起因するところが大きいというのは定説となっている。

積極財政派の公共投資は、経済のグローバル化が進んでいる現在、公共事業への投資が国内経済全体に波及して景気が良くなるという、『乗数効果』が皆無ではないとしても低下しているため、景気浮揚効果はほとんど期待できず、次世代に残る借金が多くなるという説がある。今回の定額給付は4人所帯で約6万円の金券を配るというものだが、かつて最大の愚策といわれた地域振興券同様のものだが、(1999年実施)その規模はおよそ3倍となっており、地域振興よりも物価高に苦しむ家計ヘの緊急支援だとされている。この施策をどう評価するかも議論の分かれるところだ。

定額給付金の交付手続きに関し議論が百出し今尚議論を読んでいるが11月14日に一律12000円、18歳以下と65歳以上には8千円加算することを内定した。所得制限をするかどうかについて地方自治体に委ねる旨の決定をした−実におかしな話である。【この稿は15日に加筆】

上げ潮派がいうように景気を浮揚させるためにどんな施策をとるのかが問題であるが、規制緩和だけで簡単に景気浮揚が出来るほど単純ではないようだ。
財政再建派の主張は、このまま推移すれば財政破綻をきたすので、まず何よりも財政健全化策を優先するものであるが、医療、年金などの社会福祉関連支出の削減や増税は避けられないだろう。現時点では、長引く不況の影響などで所得そのもが低下傾向にあり、かなり消費が冷え込んでおり生活不安を感じている人が多い中で支出の削減と増税などは、そう簡単にできそうにない。

いずれにしろ一長一短はあるが、共通していわれていることは2011年にプライマリーバランスを黒字化させる必要があるということである。

プライマリーバランス(PRIMARY BALANCE)とは何か
直訳すれば「初歩的な均衡」であるが、財政指標として債権と債務の均衡化の指標である。税収と税外収入の合計と、過去に発行した国債などの元利払いに充てる費用を除いた歳出の収支をいい、「基礎的財政収支」と訳されている。
国債発行以外の税収などの歳入で、政策的経費である一般歳出や地方交付税など、過去の借金の元利払いを除く歳出を賄える状態をプライマリーバランスが均衡しているという。税収が足りず、借金返済以外の経費を賄うために国債を発行する状態はプライマリーバランス赤字、逆に税収などで借金を返済する状態が黒字で、国債残高は減少する。
例えば負債総額が1000億円あり、毎年の利払いが17億円ある場合に、その元利分だけを新に起債し返済に充てると債務総額は変わらず債務は増えないというものだが、正確には17億円の債務が増えるが、一般歳出を債券発行によらずに賄える状態をプライマリーバランス黒字という。

小泉首相は、平成13年5月の所信表明演説で、14年度予算で国債発行を30兆円以下に抑えることと、「持続可能な財政バランスを実現するため、例えば、過去の借金の元利払い以外の歳出は新たな借金に頼らない」と公約し、具体的には「プライマリーバランスを2010年代初頭に黒字化する」との目標を掲げた。それから6年の歳月が経過したが厳しい財政状況に変わりはない。

昭和40年に赤字国債発行が開始され、平成20年8月時点での国債発行残高は685兆2千億円となっている。これに短期借入金や政府短期証券を加えると、848兆4千億円となっている。(財務省WEB)
因みに国債発行の限界をどの辺りに止めるかも議論のあるところだが、現時点では国民総生産額GNP(561兆円)の151%になっているが経済成長が大きければ比率は下がるので一概に何パーセントとは言いがたいのではないか。

解散総選挙を目前に控えて、今回の経済対策についていろんな議論があるが、特に気にかかるのは、タレントまがいのコメンテーターが出演するテレビ番組で、トンでもない見当違いな意見を堂々と述べているのを聞くとイライラする。
テレビの番組のすべてがおかしいという積りはないが、マスコミのミスリードが世の中をおかしくしている事実は否定できないのではないか。

次期衆議院選挙の時期はどうなる
総理自らが発表した2次補正であったが、そのなかで3年後に消費税率アップの検討を明言したが、3年後といったのは金融危機が正常化するためには3年かかるからという意味だろう。
当面の課題であるこの危機を乗り切るために、第2次補正予算の審議状況を国民に公表し、その状況如何によって国民に信を問うとなぜ明言しなかったのだろうか。野党はこの経済対策の是非も国民に問えというだろうが、危機に対する対策は可及的速やかに断行すべきであり、こんな時期に政策論を詰めずに政局のみを云々する日本の国会審議に疑問を感じずにはおれない。

ところが、麻生総理自身が記者会見で発表した第2次経済対策が日を追うに従い細部で問題を露呈し、またぞろ議論を呼んでいるのはどうしたことだろう。
総理は定額給付を全所帯に給付すると明言したが、直ぐそのあとで所得制限をするとか、道路財源が一般財源化されたことから、このなかから地方自治体に1兆円の交付金を支給すると言ったものの、既に支出が決まっている7千億円に3千億円上乗せして1兆円なのか、別枠で1兆円なのかをめぐり議論がおこり、最終的には別枠で1兆円に落ち着きそうであるが、総理の発言に閣内から異論が続発する無様さは麻生総理の詰めの甘さを露呈しており先行き大変不安である。この補正予算案が今国会にいつ上程されるのか重要であるが、この辺が解散の時期とも絡んでくることになるだろう。

最大の焦点は今国会の会期は11月30日であるが、いつ上程するかが問題だが会期内に挙げるとすれば直ぐに提案しなければならない。しかし第2次補正が通っても2兆円の定額給付金の財源を財政投融資特別会計の金利変動準備金で賄うと明言しているが、そのためには法律改正が必要であり補正と法律改正の両方を年内に挙げないと年内支給は不可能である。野党の引き延ばしにあって参院で否決されれば再可決の要件である60日ルールの関係で1月の末にずれ込むことになるがそこまで会期延長が可能であろうか。

まず年内支給は不可能であることから年度内支給ならどうかを考えてみると、1月中に開かねばならない通常国会を前倒しで開会し審議する方法があるが、そこまで解散を引き延ばせられるだろうか。
そんなことをしているうちに審議がはじけて進退が窮まり、突然解散となる可能性もなくはない。解散権は麻生総理の専権事項だが、自民党内でも審議が長引けば民意が離れるので早期解散を主張する声もあり大変微妙である。2次補正をめぐる審議はまだ始まっていないが、与党内にもその内容に関して不協和音があることから、通常国会がすんなり乗り切れるかどうかが剣が峰であろう。

次元の違う話しだが、解散の時期に関して公明党は以前から東京都議会選挙と接近することを避けたい意向が強く、麻生政権誕生後は、経済情勢の急変対策もあり、やむなく11月選挙は容認したようであったが、既に支援団体の創価学会がフル稼働しており、そんなに先送りされると組織が持たないとまでいわれているようだ。
しかし考えてみると地方選挙との関連だけで国政選挙が左右されることが正しいのだろうか。報道によれば先送りされると自民党との選挙協力ができないとまで言っているそうだが、こんな次元で選挙日程が動かされて良いものだろうか。
安倍総理は健康上の理由が辞任の大きな原因であったが、福田政権が投げ出したのは衆参捩れによる国会運営の難しさだけでなく、公明党の減税策やその他諸々の連立間の齟齬がその原因だと思われる。
読売新聞の「混乱・政局」と題した特集記事のなかでも「洞爺湖サミットが過ぎた頃からは『福田さんの手で衆院選をやれば与党の敗北必至』とみて露骨に福田政権に距離を置き始めた。」とあるが、このあたりが政権投げ出しの原因であることは間違いないようだ。

自公連立の実態と問題点
いく度か、自公連立の功罪について見解を述べてきたが、現行の小選挙区制度では残念ながら公明党の選挙協力が得られなければ自民党が苦戦することは事実であるが、その反面比例区に関して自民党の協力がなければ公明党が議席を減らすのも事実ではないのか。
因みに公明党の衆議院における議席数を見てみると、総数31議席で、そのうち比例区が24議席、選挙区は7議席でしかない。
7議席の内訳は、大阪が4議席、兵庫が2議席、東京は1議席だけである。これを見ても公明党は関西が強いことが判るが、比例区の24議席は公明党の支持者だけで当選したものではない筈だ。

なぜ自民党単独で小選挙区で勝てないのかが問題であるが、この点に関して大いなる勘違いもある。それは最初に小選挙区制で選挙が行われた時の敗北が大きかったのは事実だが、それ以来自民党が公明党と連立を条件に選挙協力をしているが、あの時の自民党は、公明党はもとより共産党を除くすべての政党を向こうにまわして選挙をしたのであった。即ち、当時の新進党は、社会党・民社党・公明党・日本新党など大小8政党の連合体であり、それを相手に選挙をしたから負けたのであり、新進党から新生党になり公明党が抜け民主党になった現時点での勢力とは根本的に違っているのである。あの時の後遺症が根強く残っているために公明党の支援をなりふり構わず求める体たらくなのである。

そもそも、選挙に際して「選挙区は自民党に、比例区は公明党に」などと平気でいうセンスが理解できない。政党の組織を末端で支えてきた地方議員からすれば、時には自分の選挙で公明党と戦っている地方議員もいるのだから、政党とは、何なのだと大きな疑問と矛盾を感じるのは当然である。
私の知る限り自民党の衆議院議員は党員集めに積極的に取組んでいないし苦労もしていないのが現状である。このあたりに自民党所属国会議員の日常活動の希薄さがあり、自民党が勝てない最大の原因となっているのである。

選挙協力の要件
連立のあり方は、政策連携だけでなく選挙協力も重要であるが、最大限の選挙協力は相手政党に自党の候補者をぶつけないことであり、現に大阪では3区で田端正広氏、5区で谷口隆義氏、6区は福島豊氏、16区は北側一雄氏と4選挙区では自民党候補を擁立せず完璧な選挙協力をしているではないか。比例区の選挙に際して自党の候補者が数多く立候補しているのに、それを推さずに他党候補を推すなどは断じてすべきではない。

自民党の問題点と民主党の動きについて
先の参議院選挙で自民党が大敗した原因は複数あるが、まず自民党から民意が離れた最大の原因は年金記録問題のデタラメさが挙げられるだろう。この問題を摘発したのは民主党であり、事実、官僚の腐敗には目に余るものがある。
「天下りによる甘い汁」は再就職だけでなく、民間に任せても何の問題もない特殊法人への補助金や、癒着としか思えない発注形態など、国民の感情を逆撫でする事態が余りにも多過ぎることが問題なのである。小沢氏が度々語っている「自民党は官僚内閣制である」との主張は残念ながら国民の共感を呼んでおり、予算編成などに関して党の主導がかなり進み以前とは変わったとはいえ、まだまだこの点に対する自民党の対応はお粗末に過ぎると感じる人は多いのではないだろうか。
麻生氏は官僚には優秀な人材が多く、それらをコントロールするのが政治家の務めであるとはいうが、防衛省、厚労省、農水省などのお粗末過ぎる諸対応に国民の怒りは頂点に達していることを自民党の代議士はどのように感じているのだろうか。役所を監督すらできていないと感じている国民は圧倒的に多いのである。

大阪府の橋下知事は問題発言も多いし、役所内では不協和音が渦巻いているという人もいるが、それでも役人に厳しく接し、それによって府民にも痛みを分かち合って欲しいとの主張は府民に理解されているではないか。彼はまた、地方分権に関して民主党のマニフェスト以上のことを示されないと自らの選挙母体である自・公を推薦できないとはっきりいっているが、自らの立場と成すべきことをハッキリと示しているのは立派である。このあたりのことを国会議員は真摯に学ぶべきである。

民主党の主張は、的を得ている点はあるが、それでも政権交代だけ強く求めるあまり政策論より政局論が目立ち過ぎるのは責任ある野党の対応としては妥当ではないだろう。日銀総裁の選任についての民主党の対応は国民から顰蹙を買う結果になったことを知るべきである。
また民主党に対して政策に対する財源が示されていないとの批判があるが、自民党も大差ないのではないか。民主党は財源として国家予算の抜本組替えによって捻出できると言っているが、埋蔵金を含む特別会計からの繰り入れなどが財源であるという自民党の案もそんなに変わらないようだ。
麻生氏がいう定額給付の財源は示しているが、法律改正の目途がたたねば同じようなものであり、道路特定財源の一般財源化や、高速道路の大幅値下げなども民主の主張とそんなに大きく変わらないし、景気対策としての補正予算に賛成した民主党の対応は金融危機の深刻化を防ぐためとはいえ、国民の目には自民党との違いが見えなくなりつつある。抜本的な税制改革のなかで消費税値上げは両党ともいっているし、ますますその差がなくなりつつあるようだ。
本来、成熟した二大政党制の場合の政策はカレーライスかライスカレーくらいの違いしかないものだから当然と言えば当然なのかもしれないが、もう少し政策的な議論が双方の間でなされて然るべきなのに、いきなり政局論に終始していることが問題ではないのか。

最近自民党の国会議員の国政報告というべきか選挙の事前運動か釈然としない会合に複数回参加し話を聞いたが、現在国民が政治に何を期待しているのかすら判っていないような話に終始しており幻滅を感じた。国民が政治に期待していることは何よりも先ず日常生活の安定が最優先なのである。相次ぐ食品偽装がなぜ防げないのか、懸命にやっているが結果が出ないのだというのは弁解であり、政治とは結果責任なのである。国民が期待するのは、そのために議員も官僚も死にもの狂いで頑張っている姿であるのに、国会議員でありながら官僚の腐敗に言及もせず、政策より政局に終始している民主党などと批判ができるのだろうか。
もし、財政再建のための税制改革や福祉、医療問題などの政策が不得手なら、せめて食の安全に関してだけでも良いから、フザケタ官僚の対応を糾弾する勇気を与えて欲しいくらいのことが何故言えないのか。残念ながら国の政策決定に関して大きな影響力をもている代議士が大阪には少ないこともあるが、これほど自民と民主とが接近した政策を言いだせば選挙に際して国民の選択はますます狭まるのではないだろうか。

国民の期待はどの政党に向けられているのか
世論調査の結果にも首を傾げたくなるものが多々あるが、日刊各紙が行なった「どちらが首相にふさわしいか」のアンケートを見てみると
毎日新聞 麻生 23%  小沢   7%(9月10日)
朝日新聞 麻生 54%  小沢  26%(9月26日)
読売新聞 麻生 56%  小沢  23%(10月30日)
すべての調査で麻生が上回っており人気が高い。
ところが、今後自民党を中心とした政権が良いか、民主党が良いかを聞いた朝日新聞の10月7日の調査によれば
自民党  34%  民主党  40%
となっているが、この調査を朝日らしい調査だとする意見もあるが、詰まるところ党首の人気と政党支持とは違うようである。
しかし、11月10日に発表されたNHKの調査結果では政党の支持率は依然として自民が少し上回ってはいるが、無党派層の数が相変わらず多く、それだけに選挙になればどう転ぶか判らない。

次期衆議院選挙の結果はどうなるだろうか
次回の衆議院選挙の議席がどうなるのかについて自民党の大敗説が多いが、現在の衆議院における自民党の議席占有率は郵政選挙といった、実におかしな選挙の結果であり、もともと歪な数字なのである。だから郵政改革賛成だけで当選した落下傘議員などは次の選挙で淘汰されされることになるだろう。
いずれにしろ次の選挙で各党の議席占有率が大きく動くと思うが、どの党も単独で政権を担うには至らないのではないだろうか。
自民党が議席を減らすのは既定の事実だと思うが、自・公合わせて政権維持が可能かどうかが最大の焦点だろう。
だからといって民主党が過半数を上回るとも思えない。
そうなれば連立であるが、その形が問題である。
次期選挙で自・公連立政権が過半数割れとなったら、公明党は間違いなく民主党へシフトするだろう。直ちに連立解消まで行かなくとも、政策ごとに協力するだろうし、もし民主党が政権を担当することになれば、さらにこのスピードは速まることは間違いないだろう。
自民党としてもこの事態を傍観するはずはなく、民主に大連立を持ちかけることもあるだろう。但し、その前提は民主が過半数を取れなかった時である。
その時に民主党がどう対応するかである。もともと民主党は寄り合い所帯であり党内は一枚岩でなく結束に問題を抱えているが、何だかんだと言っている小沢氏は一番自民党に近い感じがしてならない。むしろ岡田克也氏や菅直人氏らは別の行動をするのではないかと思うのだが如何なものだろうか。
これと反対のことをいう人も多いが、小沢氏は自らの主張を具体化するためなら、かなりの離れ業をやってのける政治家だからそのような感じがしてならないのである。

麻生太郎氏の政権構想とは
いずれにしろ、選挙後は現在とは違う形の連立に移行することは避けられないのではないかと思うのだが、麻生氏は少し違う形を考えているようだ。
文芸春秋11月号で麻生氏は『強い日本を! 私の国家再建計画』と題する論文を発表しているが、その中に「政党間協議の新しいルールを」の章があり政権構想を述べている。長くなるので要約してみると、「選挙で勝利したら新たな政党間協議のルールをつくり閣僚と民主党の影の内閣が政策、法案調整を行なう。」「選挙結果が僅差であれば大連立か政界再編で多数派工作をする道は選ばない。その理由は有権者の投票と違うところで合従連衡したり離合集散を行なうのはよくない。」といい、「連立政権構想は投票前に国民の目の前に具体の姿として供されるべきあり、二大政党については、一足飛びに政権を同じうする大連立ありきの発想は邪道だろう、まずは政策や法案で合意をめざす、いわば「国会連合」を真摯に追及するのが王道である」といっている。まさしく国会連合は王道であろうが、それができないのが与野党の現状ではないのか。
さらに、連立構想は選挙後の議席の占有率によって連立かどうかが決められるものであって、投票の前に示すべきだというのはおかしな論理である。現在の連立の相手である公明党に配慮しているのだろうが、政策や法案で合意をめざす「国会連合」は大いにやるべきであるが、それをいうなら公明党との協議のあり方について問題があることをまず改革すべきではないのか。
連立は弱小政党がキャスティングボートを握るのが常であるが、母体である主要政党が余りにも引きずられ過ぎている点がないかどうかも真剣に議論すべきである。

変化に対応できねば生き残れない
新しい総理の下で行なわれる次の選挙の結果は大きな意味をもち、経済変動と同じくらいの動きが政治の世界にも現れるのではないだろうか。
政権交代に至らず自公政権がそのまま引継がれるとしても、衆参の捩れはそのままであることから選挙後の政権の構図は従来のままでは円滑化が図られず、大きく変わらねば麻生太郎氏は徳川慶喜になってしまうだろう。
前々回の党首選に際して小沢一郎氏は「変わらずに生き残るためには、変らねばならない−You must change to remain the same」という映画「山猫」の主人公のセリフを引用していたが、自民も民主もそして公明もこの機に大きく変化しなければ生き残ることは難しいのではないだろうか。
次期選挙を経て大きく変わる予感がするが、日本全体が大きく変わらねば生き残れないのではないだろうか。

平成20年11月11日             松 室  猛

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本稿は11日に脱稿し二水会の講演資料として配布したが、その後かなり情勢が変わったこともあり部分的に加筆修正した。



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