松室猛のTMニ水会定例講演・資料

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食料自給率とは、私たちに必要な食料のうち、どのくらいが日本で作られているかという割合のことである。
食料自給率には幾つかの計算方法がある。

・カロリーで計算する方法 

重さが異なる全ての食料に含まれるカロリーを用いて計算した自給率の数値を「カロリーベース食料自給率」という。この場合は、牛乳、牛肉、豚肉、鶏肉、卵には、それぞれの飼料自給率がかけられて計算される。
日本のカロリーベース総合自給率は平成18年度で39%となったが、一般的にこの数値が利用されている。

・生産額で計算する方法 

カロリーの代わりに、価格を用いて計算した自給率の値を「生産額ベース自給率」という。比較的低カロリーであるものの、健康を維持、増進する上で重要な役割を果たす野菜や果物などの生産がより的確に反映されるという特徴がある。生産額自給率は平成18年度で68%である。

その他に、食品の重さを用いて計算した「重量ベース自給率」というのもあるが、この数値には自給率よりも飼料や廃棄される食品などを計算する時に有効である。(平成18年度で27%)


主要各国の食料自給率(カロリーベース)

国 名

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2002 2003

オーストラリア

199 206 230 212 242 233 261 280 230 237

カナダ

152 109 143 156 176 187 163 161 120 145

フランス

109 104 117 131 135 142 131 132 130 122

ドイツ

66 68 73 76 85 93 88 96 91 84

イタリア

88 79 83 80 77 72 77 73 71 62

オランダ

69 65 72 72 73 78 72 70 67 58

スペイン

96 93 98 102 95 96 73 96 90 89

スウェーデン

90 81 99 94 98 113 79 89 87 84

スイス

48 46 53 55 60 62 59 61 54 49

英 国

45 46 48 65 72 75 76 74 74 70

アメリカ

117 112 146 151 142 129 129 125 119 128

日 本

73 60 54 53 53 48 43 40 40 40

(出展: Wikipedia)

わが国の食料自給率はグラフが示すように先進諸国のなかで最低となっており、食糧安全保障に関して自給率のアップが喫緊の課題であるされている。

なぜ食料自給率が下がったのか
1. 長期的な低下の原因
長期的には日本人の食生活の大きな変化が原因と考えられている。
1人1年当たりの消費量を見ると昭和の40年間に、米の消費量がほぼ半分になったのに対し、肉類は5倍、油脂類は3倍と大幅に増加している。
米の消費量の減少は極端で、戦後のピーク時の1/2となっている。
2.短期的な原因
需要や用途の変化に国内生産が対応できなくなっていること

近年、食の外部化・サービス化が進む中で、均一、大量かつ安価な輸入食品への需要が高まり、相対的に国産の農産物への需要が減少する傾向にある。

さらに国内では農地の減少や耕作放棄などの増加、生産者の高齢化など、農業生産の基盤機能が低下している。

穀物の作り方と食べ方の問題点
この原因の大半はわが国の農政に根本問題があるといわれている。
コメは以前、食管会計方式で政府買上米として高く買い入れ、安く供給するなどの方法で生産者を保護をしてきた。また消費の低迷から減反政策をとり、休耕田に補償した経緯があり日本の農政は福祉施策かと比喩されたことがあった。
国産と外国産のコメの価額には10倍ほどの開きがあり輸入を解禁すれば日本の農業は壊滅するので保護政策をとり続けた。貿易に関する国際的な流れは、GATT(貿易と関税に関する一般協定)からWTO(世界貿易機関)に移行したが、関税障壁が問題視され最終的には自由貿易体制を目指す動きが出てきた。この機関による協議の中でミニマムアクセス〈最低限輸入量〉と呼ばれる制度により日本はコメを76,7万トン輸入しなければならなくなっている。
こんな動きのなかで裏作(二毛作)がほとんど影を潜め、大麦小麦などの生産が壊滅的に減り続けているのに食生活は米食からパン食へと移行していることなどから穀物類の需給バランスが大きく崩れるに至ったのである。

また、日本人の生活のパターンが様変わりし夜型の生活が学童にまでおよび、塾から帰った後にスナック菓子などを食することから朝食抜きが蔓延している。
この傾向は学童だけでなく20歳代の若者にまで広がっていることに加え、食生活の内容が大きく様変わりした。最近「食育」という言葉が使われだしたが、健康維持の観点だけでなく、コメの消費拡大を意図している面もある。

このような状況の中で食料自給率のアップが叫ばれているが、果たして可能なのであろうか。

日本の農政はどうなっているか
自民党はやる気のある農業を支援し、競争力をつけることを目指し大規模農業を優先して育てる方針を打ち出した。具体的には休耕地対策として農地をまとめる方式を前提に「担い手支援対策」を打ち出している。また支援策としてはコメ、ジャガイモ、大豆などの重要品目5種を対象に4ヘクタール以上の田畑を持つ農家に限って過去の平均収入から減収額の9割を補填する制度を打ち出している。

民主党は小規模を含む農家全般への保護を打ち出している。「農業者戸別所得補償制度」がそれで、農業所得保障として1兆円を支出する「再生プラン」を打ち出しているが、ばら撒きとの批判にとどまらず、このような個別補償が自給率達成の決め手だというのはどうにも理解できない。

自民党の大規模農業優遇措置は、先の参院選で農業者から評価されず、それまでは農村地域は自民党の地盤であったが、民主党に大敗する結果を招いた1因となったようだ。

しかし、日本のコメの自給率はほぼ100%であるが、以前は一人当たりコメを130キロ消費していた日本人が今や半分以下の60キロ弱しか消費しないで小麦製品(粉モノ)を多くとるようになったことが減反政策を生み、農地の荒廃を招いている現実や、農業後継者不足の原因でもあることを考え合わせれば、生産者ばかりではなく消費者が国とともに責任を共有する必要があるのではないだろうか。

199年に制定された食糧、農業、農村基本法では明確にこのことを謳っているいるが、自給率100%達成のためには現在の耕地面積を2倍以上にしなければならないが、中山間地が多い日本では不可能であり、1兆円の所得保障だけで問題が解決するものではない筈だ。
日本の農業政策が、今日の衆参の捩れ現象そのままに、どちらも実現可能性が希薄になってしまっているのは由々しき問題である。

参考までに日本の農家数を調べてみると

農業就業人口 

3,891,000人(2000年)

総農家数   

4,376,000戸(1985年・現在はもっと減っている)

専業農家   

所得の50%以上が農業所得の農家  21,3%

準専業農家  

農外所得が主で、65歳未満の農事従事60日以上の農家

副業的農家  

65歳未満の農事従事者で60日以上の者がいない農家
双方合わせて78,7%
農業者の年齢構成 65歳以上 52,9%       (出展:農水省WEB)

驚くべき食糧の廃棄量
自給率アップが叫ばれる反面、コンビニや料飲店などで食べ残しや消費、賞味期限切れを捨てている量が異常なほど多いことも問題である。
重量別の自給率が示すように日本の食品の約7割は輸入に依存しているが、年間 5800万トンの食糧を輸入しながら、その3分の1(1940万トン)を捨てているとのデータがある。(環境と平和のNPO市民ネットワークのWEB)
日本の食品廃棄の実に半分以上にあたる1000万トンが家庭から捨てられ、これを金額にすると年間11兆円、さらにその処理費用で2兆円が使われているといわれている。
食育の大切さもさることながら、食糧の廃棄についても考えねばならないだろう。

自給率アップに関して否定的な見解もある。

食料自給率アップ不要論
池田信夫氏(上武大学教授)は、氏のブログで次のように語っている。(要約)

『食料自給率をめぐって論争が続いている。この問題についての経済学者の合意は「食料自給率なんてナンセンス」である。リカード以来の国際分業の原理から考えれば、比較優位のない農産物を日本で生産するのは不合理である。そもそも「食料自給率」とか「食料安全保障」などという言葉を使うのも日本政府だけで、WTOでは相手にもされない。食料の輸入がゼロになるというのは、日本がすべての国と全面戦争に突入した場合ぐらいしか考えられないが、そういう事態は、あの第2次大戦でも発生しなかった。その経験でもわかるように、戦争の際に決定的な資源は食料ではなく石油である。その99,7%を輸入に頼っている日本が、食料だけ自給したって何の足しにもならない。それより1993年の「コメ不足」騒動でも明らかになったように、普段から輸入ルートを確保しておくほうが供給不足には有効だ。』

食の安全について
最近、食品の安全をめぐり話題になった事件を追ってみると、1986年イギリスで初めて確認された異常プリオンというタンパク質が原因で脳がスポンジ状になるBSE(狂牛病)が発生した。日本では発症事例がないといわれていたが、1996年にはBSEをめぐり飼料の肉骨粉が原因とも言われていたことから牛の餌にすることを禁止していた。ところが法規制ではなく行政指導であったため96年以降も約8万トン輸入していた事実が発覚した。
そして遂に日本でも2001年9月に千葉県で発症が確認され大騒ぎになった。
2000年6月に雪印乳業の製品による13,000人の被害者を出した集団中毒事件、鳥インフルエンザ、サーズウイルス騒動、ノロウイルス騒動などが相次いだ。
「コンニャクゼリー」をめぐる議論も不可解である。発売以来13年間で、のどに詰まらせて死亡した人が14人出たが、厚生労働省は衛生面や有機物質含有などの問題がなければ規制できないというものであった。
結局「のどに詰まる可能性がある」との注意書きを作成するにとどまった。
理屈は分るが食の安全対策がこれでよいのだろうか。

中国製品の安全性問題
食の安全に関して最大の懸念事項は中国産の餃子から、製品とはまったく関係のない農薬が検出されたことであり、食品テロではないかと騒がれているが未だにその原因と責任が明確にされていない状態である。
この事件の責任は、真相解明を曖昧にしたまま放置している中国側にあることは間違いない。生ものを食する場合も、加工品を食する場合も総てのリスクを排除することは難しいが、もし問題があった場合は原因究明に向けた迅速かつ有効な取り組みをし、二度と同じ問題が起こらないように対策をとることが肝要である筈だ。あらゆる食品についてそうした危機管理体制を構築することが必要であるのに、中国側の対応は許しがたいし、日本側もこの問題に関して国家としてもっと明確な物言いをすべきである。ことは国民の命の関わることなのに、どうしてこんなに頼りないのだろうか。ここにも日本の弱腰外交が垣間見える感じがしてならない。

中国産食品が問題視されだしたのは、アメリカ、カナダ向けのドッグフーズから違法な添加物(化学物質メラミンを添加した小麦グルテン)が検出され多くの犬猫が死ぬ事件があったり、パナマではシロップ状の風邪薬で100人以上の子どもが死亡し、その他玩具、菓子、練り歯磨、健康食品などに有毒添加物が検出される事案が相次ぎ中国製品の危険性が急激にクローズアップされた。
中国からの輸入品には一次産品だけでなく加工品にも禁止されている添加物や残留農薬、製品の汚染など多くの問題が発生しているのは由々しき問題だ。
中国産の食品は多岐にわたり、加工品だけでなく生鮮野菜、魚介類、穀物類など数え切れない程輸入されているが、日本側でチェックされた昨年度の月間違反件数は平均35件もある。

最大の問題は残存農薬、肥料と食品添加物である
日本では使用が許可されている農薬及び肥料は厳重に管理されているが、文盲率の高い中国の中山間部では、文字が読めないことから、たとえ許可されている農薬や肥料であっても使用量の統制が徹底されていない問題がある。さらに収穫後の鮮度を保つために添加物が多用されているようであり、それらの残留量が問題を引き起こしているのである。
添加物は食品の加工段階だけでなく、養殖や家畜の飼育段階における各種の薬物の人体への影響が指摘されている。

食の安全に関する諸法規
これらを防ぐために食の安全に関する法律が各種制定されている。
食品安全基本法
製造物責任法(PL法)
消費者基本法
農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)
農薬取締法
肥料取締法
飼料安全法
トレーサビリティ法
家畜伝性病予防法
水産基本法
主要食糧価額安定法
牛海綿状脳症対策特別措置法
食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法(HACCP手法支援法)
食品衛生法
健康増進法
と畜場法
食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律

しかし、これらの法律は生産者、加工業者の法令遵守義務(コンプライアンス)を信頼するしかなく、如何に規制を強化しても結局は業者の倫理意識にまつほかない。偽装表示などはこの事を如実に示している。

国内でも偽装問題が続発したが、その主なものを列挙すれば、赤福餅、船場吉兆、ミートホープ、比内鶏など枚挙に暇がない。先日、事もあろうに船場吉兆が食べ残しを再配膳していたことが発覚したが、こうなれば老舗といえども信用できないし、消費者は何を信用すれば良いのか戸惑うばかりである。
しかし、最近特殊な分野であるが品目を限って可能な限り完璧を期す取り組みが始まった。以下はその法律と手法である。

トレーサビリティ法
英語のTRACE(追跡)と、ABILITY(できること)を組み合わせた言葉で、「追跡可能性」「生産履歴追跡」などと訳される。食中毒などの問題が発生した場合に即座に回収や原因究明を行なうために食品の移動を把握する方法。日本でトレーサビリティが義務付けられているのは牛肉だけである。
本来はここまでしなければ完璧ではないが、毎日の生活で飲食する品数は膨大なものであり、とてもここまでをすべてに行なうことはできない。

HACCP手法
(hazard Analysis Critical Control Points)重要管理点のそれぞれの頭文字をとった略称。呼び方はハサップ、ハシップ等がある。
このシステムは、アメリカ宇宙計画向けの食品製造のために作られた衛生管理手法である。食品汚染を防止するには、最終製品検査だけに依存する従来の衛生管理技術では不十分であるという考え方から、「原材料の生産」⇒「製造・加工」⇒「保存」⇒「流通」⇒「出荷」⇒「消費」までの安全性を確保する方法を求めた結果この手法が見いだされた。

安全な食品を見分ける方法はあるのか
食の安全を確保するには消費者が知識や情報を得ようとする姿勢、即ち消費者の食に関する安全意識の涵養が大切である。
福岡伸一青山学院教授はエンゲル係数との関係で面白い指摘をしている。(要旨)
「終戦直後の日本のエンゲル係数は60%程に達していたが、最近のデータでは平均値ながら23%位だといわれている。総所得が増え、それだけ豊かになった証拠といえるが、その反面、安さという基準と手軽さを最重視し食べるものを選んできた消費動向がる。
食べるという行為は生命に直接関わるのに、そこにお金をかけずに携帯電話やブランド物には出費を厭わないのはやはり異常といわねばならないだろう。」
こんな消費傾向のなかで食の安全を考えることはかなり不思議な傾向である。いずれにせよ、もう少し食品に関する関心を高める必要が不可欠であろう。

例えば卵の黄身の場合、赤みが勝っているものを好む傾向があるが、これなどは飼料に含まれる添加物で自由にコントロールされているのである。卵の黄身の色に関して15段階の色見本があり、消費者の要望に応えて、どの様にでも調整が出来ることを知っている人は少ないだろう。
肉に関しては赤身に脂身を注入して霜降り状にしたり、くず肉を集めて集製材のように合成しステーキ肉を作ったりする手法は業界では知られた手法で、違法ではないがその事の表示を徹底させるべきである。
人工キャビア「キャビアンヌ」などはイカ墨や魚貝類のエキスから合成されるそうだが、かなりの食通でも見分けがつかないそうで、人工イクラも同じである。蟹蒲鉾などは可愛い部類であるが、それぞれの来歴を表示されることが大事である。すなわち、それぞれの表示が問題なのである。

食品の表示について
表示については2通りある。一つは「農林物資の規格及び品質表示の適正化に関する法律」一般にはJAS法と呼ばれているものと、「食品衛生法」である。前者は農水省の所管で食品選択の支援が主たるもので、後者は厚労省の所管で危害の防止が目的とされている。
食品衛生法関係は表示義務があるが、規格要件はかなりいい加減である。
食の安全の第一段階は、まず表示の有無だろう。

JAS規格では
生鮮食品のうち加工していないものに原産地表示を義務づけているが、加工品には原産地表示の必要はない。
JASでいう加工品とは、「あるものを材料としその本質を保持しつつ新しい属性を付加したもの」を加工品としている。
従って次のような面白い結果を招くことになる。
「焼肉セット」−肉をパックしたものは生鮮食品であり、原産地の表示が必要。
「焼肉用セット」−各種の肉などにタレなどの調味料を添加したものは加工品となるため産地表示は不要。添加物の組成表示だけで良い。従って加工品の肉の産地はわからないのである。
「うなぎ」は加工品として輸入されることが多いので、加工品でも2000年から産地表示が義務付けられた。
消費期限、賞味期限の表示より製造年月日が必要なのに、表示義務がないのはやはり不都合である。

次の意味と違いがわかりますか。
和牛と国産牛 
地鶏とブロイラー
消費期限と賞味期限
有機栽培と無農薬栽培と減農薬栽培
無農薬水耕栽培
国産椎茸と輸入椎茸
砂糖無添加と無糖
産地直送

遺伝子組替え食品をめぐる問題
遺伝子組み換え操作は新たな遺伝形質を直接ターゲットの動植物に導入するので短期間かつ正確に種の違いを超えた改良を行なうことができる。
従来の交配による品種改良でも自然に遺伝子組み換えは起きているが、遺伝子組み換え技術は種の壁を越えた改良が出来ることであり、この点が育種改良と決定的に違う点である。
遺伝子組み換え(略称GM・Genetically modified organism)が世界で初めて商品化された農作物は1994年アメリカのカルジーン社が開発した収穫後長期保存が可能なトマトである。普通のトマトは果実を柔らかくする酵素を持っているがこの酵素を抑制する遺伝子を組み込み、収穫後遠隔地への輸送を可能にした。アメリカの食品医療品局(FDA)が安全を確認し販売を許可した。

その後、除草剤の影響を受けない大豆や菜種、害虫に強いトウモロコシや綿などが商品化され、米、カナダ、アルゼンチンなどで栽培されている。その特性として除草剤や害虫による被害を受けないことからコストの大幅削減が可能となり飛躍的に作付面積が増えている。

米農務省によると2002年の大豆の作付面積の75%、トウモロコシ34%がGM農作物となっている。しかし、日本では商業的栽培は行なわれていない。

安全性に問題はないか
アメリカとEU諸国とではこの問題に関する受け止め方が違っている。
EUが問題にしているのは、アレルギーなどの人体への影響が未確認であることや、GM栽培植物の動物による花粉の拡散などによる隣接農地や環境汚染が未解決だとするのが主な論点のようだ。懸念される環境への影響は、GM作物の花粉が隣接植物に影響を与え除草剤が効かない雑草がはびこる危険性や、花粉を媒介する蝶類が奇形化する危険性などに対する検証がどの程度されているのかなども問題である。
アメリカはEUのGM作物の輸入拒否は科学的根拠が希薄だとしているが、牛肉の輸入に関してBSE検査をめぐる日本とのトラブルを見ても、関係業者の圧力が強烈なこともあり、かなり大雑把なところがあるようだ。
このような観点からEUは当初輸入を全面禁止していたが、WTOの輸入障壁問題としてアメリカとの間で論争が起き、順次開放に向かっている。

日本では大豆やコーンなどは表示することを前提に加工品としての使用を認めているのと、飼料用や薬品、化粧品などに利用を認めている。

一方アメリカにおけるGM農業は完全に企業化されており、種子の販売に関する特許権を取得し、GM作物からの採種を認めておらず、毎年高価な種子を買わねばならないことにより、企業独占の問題が取りざたされており難しさを露呈している。

世界的な食糧不足と価額高騰について
穀物高騰の原因を列挙すれば下記のような点が上げられる。
・ 新興国の人口増加
・ 食生活の変化(肉食化で飼料重要が急増)
・ バイオ燃料向けの需要拡大
・ サブプライム問題などによりファンドマネーの穀物先物市場への流入
・ 異常気象による生産量の減少
以上が高騰の原因と考えられるが、中国やアルゼンチンは輸出の際の税金を課したり、インド、ベトナムでは穀物の輸出を禁止している。その結果タイ米は08年1月からの4ヶ月間で2,3倍になり、ミャンマーのサイクロン被害などからも先行きは悲観的である。

異常気象が恒常化(?)する傾向にあるが、もし日本が凶作になれば当然コメの高騰が起きるであろう。
自給率アップには、まず増産が必要であるが、わが国農業の諸状況(後継者問題・農地の狭小性)などに加え、食べ方や食品廃棄物の現況、輸入と国内業者保護のあり方、穀物の政府備蓄のあり方などを真剣に議論する必要があるのではないだろうか。           

【 言葉の解説 】

和牛と国産牛

和牛とは牛の種類のことを指し、カリフォルニヤ産和牛なども存在する。

生体輸入された牛を3ヶ月以上日本国内で飼育すると国産牛と呼ばれる。

異常プリオンは生後30ヶ月以上の牛に発生が多いのでアメリカなどからの輸入肉は生後20ヶ月以下としているが、日本の乳牛が肉用にされるのは5年以上8年位のものまである。

松坂牛などの国産ブランド品は30ヶ月ほどかけて飼育するものが多い。

地鶏とは 
両親又は一方が在来種で孵化日の証明が出来るものを80日以上飼育。28日以降は平飼い、密度は1平米当たり10羽以下。この基準をクリヤーすれば「特定JASマーク」がつけられる。この表示のない地鶏は飼育条件を満たしていないもので、その他の銘柄種はブロイラーと交配種がほとんどである。

生鮮品と加工品の表示
解凍、養殖などは表示が必要。
魚介類の産地表示は水揚げされた場所が産地であるが、加工品は最後に加工したところが産地になる。表示で面白いのはカツオのたたき等だが、加工品なので外国産の冷凍物を解凍して高知で加工すれば高知産となる。加工品には原産地などの表示は必要ないし、解凍物、養殖物の表示も不要である。
従ってスーパーなどで良く見かける複数の魚を盛り合わせた刺身などは加工品になり産地などの表示は不用になる。
加工品には産地表示は必要ないが、大手のメーカーはギョーザ事件以来、主な材料の原産地表示を始めている。味の素の冷凍ギョーザのたまねぎの欄は「中国又はアメリカまたは国産またはオーストラリア」となっている。こんなものに意味があるとは思えないが、業者が原材料の調達ルートを把握し、しっかり管理していることを判断する資料にはなる。

大阪湾や江戸前で獲れる筈がない魚類でも大阪・東京の漁港に水揚げされると大阪、東京産となる。また、どこで獲れたか判らない場合は水揚げされた場所、即ちその港のある府県名が産地となる。
魚介類には冷凍、解凍の表示が必要である。最近では生のマグロを見ることは少ないが、冷凍を店舗に陳列した時点で解凍が始まるから「解凍物」の表示が必要な筈だが、なかなかそこまで守られていないようだ。

有機栽培    
種まき又は植え付け前2年以上、多年性植物の場合は3年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない田畑で栽培したもの。栽培期間中も禁止された農薬、化学肥料は使用しない。遺伝子組換え技術を使用しない。
但し、許可されている農薬や肥料の使用は許容される。

無農薬栽培   
栽培期間中に農薬を使っていない栽培。無化学肥料栽培も同じ。

減農薬栽培   
化学合成肥料や薬品の使用回数が従来の使用回数の5割以下で生産された農産物。どの位使用されているかなどはわからなず、安全基準ではなく栽培基準である。(農水省のガイドライン)

無農薬水耕栽培 
清潔なハウスで水耕栽培されるのがはやっているが、肥料を水に溶かすので有機栽培ではない。有機栽培は土で育てるのが前提。
(ほうれん草は通常60日くらいかかるが水耕栽培では年15回くらい収穫できる)

中国産と国産椎茸
椎茸は「ほだ木」といわれる楢などの枯れ木に菌を植えつけて栽培する原木栽培と、楢などの広葉樹におがくず、米ぬか、ふすまなどを混ぜて培地をつくり菌を植える菌床栽培の二通りがある。一般的には原木栽培のほうが美味で日持ちもするとされているが、しかし虫がつきやすいので農薬を使うケースが多い。
国産の半数は菌床栽培で、中国産はすべて菌床栽培といわれている。
輸入品は梱包がしっかりしているから日持ちが良いとも言われている。

表示のトリック
産地直送
市場を通さず直送されるものをいう。市場外流通と呼ばれるが実際には農協や商社を通しているものが多い。従って農協や商社が設けた保冷倉庫に保管された後発送されるケースが見受けられる。従って産直だから新鮮だとは限らない。しかし、生産者と直結したインターネット販売は直送が多いようだ。

砂糖無添加と無糖
「砂糖無添加」は砂糖(ショ糖)を入れてないということであって、「果糖ぶどう糖液糖」「ぶどう糖果糖液糖」などが添加されていることもある。
「無糖」の栄養表示基準では、食品100g(飲料100ml)当たりに含まれる糖分が0.5g未満と決まっている。
「低糖」とは、食品100g当たり糖分5g以下(飲料では2.5g以下)という絶対値以下の糖質を含む場合に許可される表示である。

糖分と糖質と炭水化物とはどう違うのか
炭水化物は糖質と繊維の複合体で、糖質とは炭水化物の構成成分。
糖質には
 単糖類・・・ブドウ糖、果糖などがあり蜂蜜や果実に含まれ強い甘みがある。                                    
二糖類・・・麦芽糖、しょ糖、乳糖などで砂糖など。
多糖類・・・でんぷん、グリコーゲンなど。

糖分というのは一般には甘い味の物をいい、単糖類、二糖類のこと。
つまり炭水化物は糖質と繊維からなり、その糖質の中に糖分も含まれるという事である。

肥料と安全性
植物の最も重要な養分は、窒素、りん酸、加里で、これを肥料三要素という。
植物は、主に根を通して水と無機成分を、また葉から二酸化炭素を吸収して養分としているが、肥料は、一般に土壌中で不足しやすい植物の栄養素として施用が必要なものである。このほか、カルシウム、マグネシウム、微量要素等も土壌中で不足することがある。これらを肥料として供給しなければならない。

化学肥料と有機質肥料
肥料を大別すると化学肥料と有機質肥料に分かれる。
化学肥料は化学的方法により製造される肥料をいい、有機質肥料は動植物質資材を原料とした肥料をいう。
有機質肥料は、油粕類、魚粕粉末類、骨粉類等の普通肥料に分類されるもの及び米ぬか、堆肥、汚泥肥料等の特殊肥料に分類されるものとがある。
食料の安全性に対する消費者のニーズに対応して、化学肥料の安全性について心配する声があるが、化学肥料は、一般に不純物が少なく有害な重金属、有機化合物の混入のおそれはないとされている。ただ、速効性の化学肥料を必要以上に多量に施用すると土壌中に硝酸イオンが蓄積して、これを作物が過剰に吸収するとこれを食べた牛などの反すう動物に硝酸塩中毒を起こすことがある。
ただし、人間に対する硝酸塩の毒性は低く、中毒が起こるのは生後3ケ月未満の乳児に限られる。乳児では水中の硝酸塩は問題になるが、農産物に由来する中毒例はない。

平成20年5月 
 松 室  猛
参考文献
食の安全と安心の経済学 中嶋康博
世界は食の安全を守れるか  村上直久
中国の危ない食品      周 勍
食品表示・どちらが安全   垣田達哉
食の安全はどこまで信用できるのか  河岸宏和
読売新聞「揺らぐ安全・食ショック」
中央公論6月号
農水省WEB・Wikipedia・他


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