
2017年1月より肛門小窩炎の手術は行っていません
1,肛門小窩炎と切れ痔(裂肛)、肛門ポリープ
肛門痛を来す方の中に裂肛による痛みと肛門小窩炎による痛みとを来す方がいます。裂 肛の痛みは固い便が出たときにみられ、肛門小窩炎の痛みは軟らかい便又は下痢便の時に みられます。又固い便の後に便が軟らかくなったり下痢便になったりするときには裂肛と肛 門小窩炎の両方が存在することもしばしばみられます。図1
まず、裂肛は堅い便が出た時に物理的に肛門の皮膚側に傷が付いて裂けた状態のことを いいます。キリッとした痛みが主で出血を伴うことが多く普通は2,3日で治ります。又、堅 い便が続くと長く続くことがあります。
肛門小窩炎は軟便が続くと肛門小窩に炎症を来して痛みが出ます。肛門小窩は肛門の皮 膚側と粘膜側の境にある小さな窪みのことをさしますが、この部には肛門腺が開口していま す。肛門腺は分泌腺で粘液を肛門に分泌します。この肛門腺に便が入り込むと炎症が起こ ります。特に軟便の方にその傾向が見られます。このときの痛みは炎症の痛みなのでなか なか楽にはなりません。1週間以上かかることもよくみられます。キリッとした痛みではなく重 だるい痛みを伴います。
そして、堅い便と軟らかい便を交互に来す方の中には裂肛と肛門小窩炎を併発している方 もみられます。この場合はキリッとした痛みの後に重だるい痛みが来ます。切れ痔だと思っ ていても肛門小窩炎で痛む場合があり、鑑別が難しいことがあります。
いずれにせよ、治療法は排便管理にあります。堅い便の時は排便後にグリセリン浣腸をし てみられると又便がたくさん出ることがあります。この場合は残便があって、その便がうまく 排出されないと大腸の中で便の水分が取られて便が堅くなります。又、軟便の場合はお湯 浣腸をして軟便を洗い流しておくと肛門小窩炎は落ち着くことがあります。1日の間で何度も 排便にいく方は特にお湯の浣腸をお勧めします。
2,肛門小窩炎と肛門周囲膿瘍,痔瘻
肛門小窩には肛門腺(分泌腺)が開口していてこの部が汚染されると肛門小窩炎が生じ ると思われます。しかし、肛門腺の本体は肛門括約筋の筋間に存在しますので、体力が落 ち組織の抵抗性が低下しないと肛門腺自体の感染はおこりにくく、肛門小窩炎は括約筋の 手前までの炎症と思われます。只、程度に差があって深い肛門小窩を持っている方ほど炎 症の程度は強く、又良く再発してきます。このような時はむしろ肛門小窩の切開を考えて方 が良い場合があります。肛門周囲膿瘍を来すと痔瘻になる可能性が高いからです。肛門小 窩の切開は術後に痛みを伴いやすく、肛門括約筋切開術(LSIS)を併用することもあります。
3,肛門小窩炎とかゆ痔(肛門掻痒症)
肛門掻痒症(かゆ痔)の方の中にも肛門小窩炎を併発されている方があります。軟便で 排便回数が多い方は特に肛門小窩炎の合併が多い感じがします。理由は便が肛門管の中 にあるときに肛門小窩に入りやすく成ります。そういう時はお湯浣腸をお勧めします。軟便や 下痢便を洗い流しておけばそれほど悪くはならないようです。
4,肛門小窩炎といぼ痔脱肛(内外痔核)
いぼ痔脱肛(外内痔核)の方に中にも肛門小窩炎の合併をよく見ます。以外にこの合併 が多いようです。痔核があると排便した後も残便があり、又便秘のために下剤を強めに効 かして下痢になったりしますので、肛門小窩炎を併発してきます。治療で気を付けることは 痔核の治療よりも肛門小窩炎の治療を優先させないと痛みが出ます。
基本的には保存的治療が主体です。軟便による場合が多く、お湯浣腸等で排便管理をし てや坐薬治療で経過を観察します。1〜2週間で軽快する方がほとんどですが、中には痛み を長く有する方もおられます。その場合ニトログリセリン軟膏を使用すると良くなる場合があ ります。欠点は頭痛です。ニトログリセリン軟膏の副作用としに頭痛がありその場合は使用 できません。深い肛門小窩があり、慢性の疼痛が見られる場合に外科的に肛門小窩を切開 することがあります。この場合は術後痛みを伴いますので、痛みを緩和する目的で肛門括約 筋切開術が必要になることもあります(図2)
只、2017年1月より肛門小窩炎の手術は行っていませんのでご了承下さ い
2010年11月27日(土) 日本大腸肛門病学会発表演題
肛門小窩炎について(慢性裂肛を伴う場合の治療)