今週は講義、来週木曜日が演習となりますので注意してください。今回は デジタルフィルタの設計を実施するための準備事項について説明します。 フィルタの意味は教科書5章の冒頭でも述べられていますが、信号を変換 する仕組みのことです。この変換器への信号の出し入れを入力および出力 といい、この変換全体を離散時間システムと呼びます。講義でも実演しま したが、デジタルフィルタはソフトウエアで信号変換が実現できる大変便利なものです。 今回の講義ではでデジタルフィルタを離散時間システムとして取り扱い、 このシステムを解析する技法について学ぶことにします。今回は教科書 4章のなかから5章で必要なものだけ取り出して説明します。内容が 盛りだくさんですので、あとで各自教科書の内容を繰り返し吟味しておいて ください。
離散時間信号x[n]の複素関数X(z)への変換としてz変換を新たに導入しましょう。
離散時間信号系列x[n]はこの変換により複素数zに関する連続関数となります。 複素変数zは
のように表示できるので、この変換においてr=1とおくと、 これは離散時間フーリエ変換(DTFT)の定義に相当することがわかります。 つまりz変換はDTFTの一般化ととらえることもできます。 また逆離散時間フーリエ変換の定義と同様に、逆z変換は
で定義されます。 ではなぜ このような関数の導入が必要なのでしょうか。デジタルフィルタの設計 にあたっては、このz変換の考え方を利用します。その説明の前に z変換の性質を簡単にみていきましょう。変換の線形性は明らかです。 ここで特に重要なのは時間シフトの性質(教科書125ページ参照)です。
つまり時間信号をmステップ遅らせるということは、z変換では z-mを乗ずることに相当します。したがって、 このような観点から離散時間システムの変換の性質がzの多項式 で特徴づけられ、そこから非常にエレガントなフィルタの設計が 可能となります。みなさんは制御工学を履修中、もしくはこれから 学ぶとおもいます。そのときは連続時間信号x(t)から ラプラス変換による複素関数X(s)による解析を進めます。このとき、 システムの状態を記述する常微分方程式がsの多項式に変換 されます。一方信号処理でいま考えている離散時間システムでは 差分方程式がz変換により多項式となります。詳細は次節で説明 していきます。 このほかz変換には複素共役、積、スケール変換など の性質がありますがここでは取り上げません。 詳細は教科書4.1.3節(124-129)ページを確認 してください。
離散時間システムの変換要素には次の3つがあります。
離散時間システムはこれらの3要素を組み合わせることにより 記述することができます。
では離散時間システムへの入力をx[n]、出力をy[n]で表すことにします。このときの 変換をいくつかのカテゴリに分けて考えましょう。
このシステムでは、現在時刻nでの出力が、q次の過去の入力信号までに依存して決定 されます。このようなシステムをFinite Impulse Response(略称 FIR)システムと 呼びます。このシステムの伝達特性はさきほどの伝達要素により下図のような回路 で表示できます。
ではさらに一般的なシステムに対象をひろげましょう。 次に考察するシステムは現在時刻における出力y[n]がさらに Pステップ過去の出力信号にも依存して決まるシステムです。
このようなシステムをInfinite Impulse Response(略称 IIR)システムと 呼びます。このシステムが最も一般的な離散時間システムの記述です。 対応する回路図は教科書138ページ図4.9に掲載されています。
以上のシステムに共通しているのは、システムの性質が線形で時不変であることです。 時不変なシステムとは何かについて教科書で確認しましょう。線形時不変な離散時間 システムは、その性質を系統的に解析することができます。デジタルフィルタ はこの解析法にもとづき設計されます。具体的な方法については、次週以降の 講義で説明していきます。