オスカーといる時間は好きだ。
ゼフェルはそう思う。
強くて、優しくて、暖かい。
気を使わなくてもいい相手。ゼフェルのことを分かってくれる最高の恋人。
しかし、そんなゼフェルにも唯一、オスカーとすごす時間の中で苦手な時があった。
(まだかよ…)
オスカーの私室のベッドの上でゼフェルは枕を抱えてむすりとした顔をしていた。
原因は、今目の前でオスカーが没頭している作業。
それは、愛用の剣の手入れ。
(折角、一緒にすごせるってーのに…なんであいつは剣の手入れなんてやってんだよっ!そんなの後でやれよっ!)
夜中に暇だったゼフェルがオスカーの私邸を訪れたのは今から半時ほど前。
丁度、オスカーは部屋で剣の手入れをしていた。
遊びにきたゼフェルを、部屋に招きいれたところまでは、良かった。
少し待っていてくれと、ゼフェルを待たせオスカーは今までしていた作業に取り掛かったのだ。
それから、ゼフェルはほっとかれている。
(しかもなんだよ、その顔は!…楽しそうにしやがって。俺といるより、それの手入れしてるほうが楽しいんじゃねぇの?)
そう考えると、嫌な感情はゼフェルの中からどんどんあふれてくる。
(そりゃあ、あれがすっげぇ大事なもので、オスカーにとっちゃ命にも代えられないような代物だろうけどよ。…親父さんにもらったものだって…言ってたけど… さっ。俺の事だって大事って思ってんのかよっ!どんだけ俺がオスカーを大事に思ってるのか分かってるのかよっ。なにほっといてんだよ。バカ)
実は、ゼフェルはここ何回かこの場面に遭遇している。
そのたびにほっとかれゼフェルはやきもちしたこの気持ちを持て余している。
最初は、いつもと違うオスカーを見ているようで、なんとなく得をした気分になった。
でも、一度作業を始めてしまえば、何を話しかけてもオスカーは、合間な返事しかしてくれない。
(…………なんか…すげぇやな感じ…)
「…う゛…〜」
ぐりぐりと枕に顔を押し付けていると、ぽんっと頭にオスカーの手を置かれたのが分かった。
とたんに頭の中や心の中を閉めていた嫌なものがなくなるのをゼフェルは感じた。
「ゼフェル、どうしたんだ?」
優しく掛けられる言葉。
ゼフェルは、顔を押し付けていた枕から顔を上げ、上目遣いでオスカーを見上げた。
「別に…なんでもねぇ」
「なんでもないって顔じゃないぞ」
「俺が何でもないって言ってんだから、何もねぇんだよっ!」
思わずゼフェルは叫んでしまった。
「大体、俺のことほったらかしにして、剣なんかいじってる奴に心配されるいわれはねぇっの!なんかってぇと俺のことほったらかしにしやがって人がどれだけ待ってやってんのか分かってんのか!」
ココまで行ってしまうとゼフェルの気は治まらない。オスカーを睨みつけると、当の睨まれたオスカーはただゼフェルを見下ろしていた。
「おめぇは俺とその剣とどっちがたいせ…っ!」
そこまで言いかけてゼフェルは固まる。
(あれ…?俺何言ってんだぁぁぁぁっっ!!これじゃ、まるで俺が…っ)
自分で言うつもりもなかった言葉を発してしまったことに気が付いたゼフェルは思わず立ち上がり、動揺を隠せずわたわたとあわてていた。
ゼフェルが自分の中でどっぷりあわててる状態の中、オスカーはというとゼフェルの様子を楽しそうに見つめていた。
そして、あわてていたゼフェルの身体をいきなり抱きしめた。
「うなっっ」
「ゼフェル」
「んなんだっ!離せばかっ」
オスカーはゼフェルの身体を離しはしたものの両腕をつかんだまま、ベッドに座らせ、自分はゼフェルの前に座り込んだ。
「腕も離しやがれ」
「ゼフェル、もしかして嫉妬してくれたのか?」
「はぁ!俺が何に…」
「俺の剣に」
「…嫉妬なんか…してねぇよっ」
「でも、イヤだったんだろう?俺がお前に構おうとしなかったから」
図星だった。
イヤだった。
オスカーが自分じゃない何かを構うのが。
それが人であれ、ものであれゼフェルはイヤだった。ずっと前から。
オスカーと視線を合わせていたゼフェルの視線がだんだんと下へと俯いていく。
「そんな…ことねぇ…もん」
「本当に?」
やっとのことで搾り出した否定の言葉も意味のないことで。
「だからっ…」
最後まで言葉は続くことなくオスカーの唇に吸い込まれる。
「…ふ」
ずいぶんと長くキスされた。
ゼフェルは自分の中のいやものがだんだんとなくなってくるのが分かった。
不思議なくらいにすっとそれはなくなっていく。
唇が離れてオスカーを見ると、心底嬉しそうな顔をしていた。
「ゼフェル、嫉妬してくれてありがとう」
「何言ってんだよ。ばーか」
「俺の剣にやきもちやいてくれたんだよな?」
「やいてねぇ。断じてそんな…ことはねぇ」
いまさら恥ずかしくなってゼフェルはオスカーの顔見れない。
「素直じゃないな。俺の背中にあんな熱い視線を送ってくれていたのにな」
「うるせー…」
言い当てられて、ゼフェルはさっきよりも弱弱しく答える。
そして、どこか嬉しそうなオスカーの頭をぽふりと自分の腕で抱きしめたのだった。好きで好きでしょうがないから、普段自分の気持ちに正直じゃない分その反対の状況になった時、戸惑って分からなくなるものだとゼフェルは初めて知った気がした。
おまけ。
「実はな、ゼフェルがいつも俺に構わずにメカにばっかり構うから、仕返ししてみたんだ」
「はぁ!」
「見事に期待通りだった」
「ざけんなよ、オスカー!」
「俺だって、ゼフェルに構ってもらいたいんだ」
「うっ、………ガキクセー…」
「その餓鬼くさい手に引っかかったのはゼフェルだがな」
「むっ」。
かしわぎほのかさまが運営されているサイト「視界ゼロ領域」の3000ヒットのキリ番を踏んで頂いたオスゼ小説です。
リクエストは「嫉妬するゼフェル様」で、かしわぎさまがオスカーの何を嫉妬の対象にされるのか、とっても興味津々だったのですが……まさか「家宝の剣」とは!?
良い意味で予想を裏切られましたよー。「そうきたかっ!」っという感じですv
ゼフェルが嫉妬でモヤモヤしながらも、オスカーの手がぽんと頭に置かれただけで、それらがなくなってしまうところにゼフェルの可愛さが凝縮されているような気がします。(〃▽〃)
普段は素直じゃなくても、ゼフェルの心の中はオスカーへの愛でいっぱいなんだな〜と、PCの前で顔がニヤけっぱなしでしたv
こんなにゼフェルに想われているオスカーに、嫉妬してしまいそうです♪
萌えどころ満載の素敵な小説を本当にありがとうございました。