アイシテル




「どうしたんです?難しい顔をして」
窓が全て覆われ、陽の光が入ってこない部屋。
その部屋の主である男の表情は、他の者から見ればいつもと変わらないと感じる物なのだが、今部屋の主以外にこの部屋にいる男は違うようであった。
「……」
「何か俺に言えない事でも?」
何も言わない主に男は少しからかう様にそう告げる。
その表情が楽しそうなのは、そうでは決して無い事を知っているからだ。
「…嫌な予感がするのだ」
そうぽつりと呟いた主に、男は眉を顰める。
「嫌な予感?」
「……」
再び口を閉ざしてしまった主に、男もしばらく何も言わず見つめていたが、突然くすりと笑い主の座っている椅子に近づいていった。
「そんなに心配しなくても、どんな事があろうと、俺があなたを守って差し上げますよ」
その言葉に主も口の端を上げて告げる。
「フッ…どちらかと言えば、私がお前を守ってやりたいのだがな」
そして、自分の傍に立つ男の腰を引き寄せ、頭の後ろにも手をまわし、頭を近づけさせる。
「オスカー…」
名前を囁かれて、男は嬉しげに微笑み返し自らも主の首に腕をまわした。
「クラヴィス様…んっ」



「嫌な予感っていうのは、こういう事だったのかもな」
そんなに前の事ではない出来事を思い出し、オスカーはそう呟く。
今彼は仲間達と共に、この宇宙の女王を助け出す為の旅をしている。
オスカーは、昨日戦闘中に怪我を負ってしまい、今は主要な戦闘をするパーティには入っていない。それほど大きな怪我ではなかった上に、回復魔法や薬によってだいぶ回復はしていたのだが、今までずっと戦闘時の主戦力として戦ってきた彼に、休息を与えるという理由で彼は今回戦闘には加わっていなかった。
しかし、いくら休息と言われようと、じっとしているのは好きではない彼は、宿から出てそこら辺りを散策する事にしたのだった。
大きな木を見つけて背を預け、空を見上げる。
「クラヴィス様…」
オスカーは小さく想い人の名前を呼ぶ。
顔が見たくても、想い人は自分の代わりとして戦闘メンバーに入っていて、ここにはいない。
顔が見れない事が不安でならない。
自分でも何故こんなに不安なのかが分からない。
しばらく目を閉じてその場にじっとしていたが、突然目を開いて、慌てた様に振り向いた。
振り向いた視線の先には、見知った人物がいて、オスカーは小さく安堵の息を吐いた。
「よぉ、オスカー。お前こんな所で何してんだ?休みじゃなかったか?」
「お前こそ、何でここにいるんだ。お嬢ちゃん達と出掛けたんだろう?」
オスカーの前に現れたのはアリオス。
アリオスも、オスカーと同じ様にずっと戦闘メンバーとして戦っている。オスカーと違い、特に怪我などしてはいないので、今日も戦闘メンバーとして出掛けていったのだ。
もしかしたら今回は、周りの探索が目的なのでもう帰ってきたのかもしれない。
しかし、そんなオスカーの考えを否定する様にアリオスは告げた。
「ああ、今日は目的を果たすのに都合がいいからな。先に帰ってきた」
「なっ、先にって…目的?」
アリオスが何を言っているのかが全く分からないのだが、少し前まで感じていた不安が再び襲ってきた。そして、それが表情に出ていたのだろうか、アリオスは笑いながら告げる。
「ククッ、なんだよお前、何か怯えてねぇか?」
「なっ、誰が怯えてなんて!?」
アリオスの言葉にきっ、と視線をきつくして睨み付けるが、全く相手には通じていない。それどころか一段と笑みを深くする。
「そうか?じゃあその顔は何だよ。その目、俺に対して怯えきってんじゃねぇか」
オスカー自身も分からないが、アリオスの言う通り目の前のこの男が恐ろしいと感じる。
初めに不気味な視線を感じ振り向いたらそこにいたのはアリオスだった。
その時は自分の勘違いだったのかと思ったが、今はそうではなかったのだと理解出来る。出来るのだが、何故なのかは全く分からない。
「…っ、寄るな!」
気が付くと、アリオスは足音を立てずに近づいてきている。
今になって思うのだが、何故こんなに陽が高いというのに人の気配が全くしないのだろう。それが、アリオスを恐ろしいと感じさせるひとつにもなった。
「クククッ、何でだよ。そんなに俺が怖いのか?」
笑いながらオスカーの傍まで来たアリオスは、オスカーの腰に手を回し引き寄せる。
「なっ…アリオス!?」
突然抱き寄せられた事に驚いて、一瞬動きを止めたオスカーだったが、離れようと抵抗する。そんなオスカーの額に手を当てアリオスは静かに告げた。
「眠れ、オスカー」
途端、オスカーの身体からがくりと力が抜け、アリオスはそのままオスカーを抱き上げた。
その口元には暗い笑みが浮かんでいる。
「これでやっと目的が果たせるな」
満足げな表情で抱き上げたオスカーを見下ろす。
「全部お前が悪いんだぜ。お前の中の炎は闇を引き寄せる、闇に愛される。なのにお前の瞳にはあいつしか映っていない。俺の事など全く映しはしない。なら俺だけしか見れない様にするだけだ。ククッ、あいつはどんな顔をするだろうなあ」
そう言ってアリオスはオスカーの額に口付ける。
「アイシテル、オスカー」
そして、アリオスの姿はその場から消え去った。





天乃 贈さまが運営されているサイトInflexible」の20000ヒット記念企画で頂いた小説です。
「サイトに載せられている中のどれか一つ」ということでしたので、どれにするかかなり悩みましたが、アリオス×オスカーにクラヴィス様が絡んでいるのが、“オスカーは基本総受け”のわたしの萌え心をくすぐりました♪ (^_^)b
素敵な小説をありがとうございます。天乃さま。そして20000ヒットおめでとうございました。これからも素敵な作品をバンバン書いて下さいね。応援しています!
ちなみに壁紙をチューリップにしたのは、花言葉が「告白」だったからv