A Happy New Year



「行くのか?」
「ああ」
「もう少しいたって、罰は当たらねぇんじゃないか?」
「馬鹿を言うな、もう日が変わってしまう」
「だから、だよ」

 どうしたって帰りたがっているつれない恋人の腰を引き寄せて、口付けを一つ与える。
 満更ではない表情。
 ほら、結局お前はこうして、引き止めて欲しかっただけなんじゃないか。

 ニヤリと口の端で笑うと、途端にムッと表情を変える。

「言っておくが、お前が俺と一緒にいる事を望んだから」
「へいへい、分かってますって」
「……全く」
「いいじゃねぇか」

 肩に羽織ったマントを外して、ぼふりとベッドに押し倒すと、男の眉間に深い縦皺が一本刻まれる。
 クスクスと笑ってその皺を指でなぞる。

「安心しろよ、今年はもう狼さんになる予定はねぇからな」
「それは良かった。年の終わりに殺人を犯す必要もなくなったと言うわけだ」
「いきなり殺されちまうのかよ、俺は」

 ベッドから離れて、テーブルの上に置き去りにされていたシャンパングラスを取り相手に差し出す。
 ベッドの上で体を起こすと、未だに不機嫌な表情である事は変わらぬのだが、静かにグラスを受け取ってこちらに向ける。
 その様子にまたクスリと笑って、片手でシャンパンボトルを持ち、相手のグラスに金色のソレを並々と満たす。
 パチパチと快い音を立てて泡が幾つも生まれては消えていく。

「ま、俺からのクリスマスプレゼントだと思ってくれや」
「遅れた上に安物だな…」
「文句言うなって」

 ボトルをテーブルの上に戻すと煙草を咥える。
 相手が目で制するのも気にせずに、ぷかりと紫煙を吐き出すとそれは暫く空中で漂った後、ゆっくりと姿を消した。

 今年が終わるまで、後30分。

「アリオス」
「ん?」
「……」

 口を開きかけて止めた相手。
 首を傾げる。
 言いよどむ等とこの男らしくない。
 表情を伺うと、シャンパングラスの気泡をじっと見つめていた。
 
「どうしたよ、オスカー」
「…いや」
「アンタらしくもねぇ」
「何でもない」

 テーブルの上に置かれた小さな灰皿に、煙草を置く。
 火は消さないままで。
 良く、この男に怒られるんだったな。

「オスカー」
「何でもないと言っているだろう」

 相手の手に持っていたグラスを奪い、触れるだけの口付けを与える。
 少しだけ目を見開いて、苦笑を浮かべる。
 
 俺を見上げて、ニヤリ、と笑う。
 やっといつもの様子に戻ったかと、相手の持っていたシャンパングラスを軽く傾けて流し込む。
 俺が呑むにしては上等な酒だぞ。

 ブツブツと口の中で文句を言っていると、クイクイと人差し指で招かれる。
 相変わらず人を舐めたような真似をしやがって、と思うが大して腹も立たずに、招かれるまま近寄る。

「ん?」
「アリオス」
「おう」
「好きだぞ」
「………ッ!!」

 シャンパンを飲み込んでいて良かったと思う。
 口の中にあったのならば、相手の顔にぶちまけていた筈だ。
 まさか、この男からこんな言葉が聞けるとは思っても見なかった訳で。
 目を丸くしたまま、二の句が次げずにいると、小さく吹き出す気配。
 ああ、やっぱり笑われると思ったんだ。

「笑うなよ」
「いや、だがお前の表情が間抜けすぎるぞ」
「誰のせいだと思ってんだ……」
「お前が悪い」
「あ?」
「折角俺が告白してやったと言うのに…軽く無視か?」

 何処となく拗ねたような、しかし試すような視線が俺を見上げてくる。
 俺はあまりに悔しくなって、小さく舌打をすると相手の唇を再び奪う。

「お前はすぐそれだな」
「うるせぇよ」
「まあ、そんな不器用なお前がいいんだが」
「ノおまえなぁ」
「どうした?」

 少しだけ恨みがましい目で睨みつけてやると俺に何か非があるのか?と言いたげに首を傾げる。
 勿論、満面の笑みで。
 …解って言ってやがるなこいつ

「今年は狼さんは休業だって言っただろ?」
「そうか…残念だな」

 クスリと笑って、ベッドにごろりと横たわる。
 俺に、背中を向けて。

 その背中がクスクスと笑っている。
 畜生、完全に今年もこいつのペースである。
 来年もまた、こいつのペースであろう。

 奪い取ったシャンパングラスを空にするとチラ、と。
 横目だけでベッドの上に置かれている電子時計を見た。

 後10分。

 来年になったら、覚えてろよ。


 ベッドに寝転ぶ相手の背中を横目で見ながら、心の中で呟いた。

 きっと、この優劣関係は来年も変わらない。
 それでもいいかと、思えている自分が滑稽で仕方が無いとおもいながら。



 先ほど置き去りにした煙草を一口吹かして火を消した。





広瀬 渚さまから、<このままオスカーが眠ってしまって結局お預けになるはらたいらさん(アリオス)に3000点>という言葉と共に頂きました。New Year 2007のアリ×オス小説です♪
この小説がメールで送られたきた時は、確か新年の10分前ぐらいでしたか?
小説の「後10分」にひっかけて、オシャレにプレゼントして下さったことを覚えています。いや〜〜やられちゃいました☆
広瀬さまのアリオスカー小説の大ファンなんですよ。わたし!
今は違うジャンルで活動されていますが、こうして銀髪さんと赤毛さんを忘れずに愛して下さってホント嬉しいです。ぜひぜひまた新作をよろしくプリーズです。
わたしも、このままお預けになるに5000点。(^^)v