卒業  

7人の大学4年生が秋を迎え、就職、恋愛に忙しい季節。
ある日、祥子が自室で死んだ。部屋は密室、自殺か、他殺か?
心やさしき大学生名探偵・加賀恭一郎は、祥子が残した日記を手掛りに死の謎を追求する。
しかし、第2の事件はさらに異常なものだった。
茶道の作法の中に秘められた殺人ゲームの真相は!?


★★★★☆

加賀恭一郎シリーズ

27歳の若さで乱歩賞を受賞した作品『放課後』で鮮烈なデビューを果たした著者による第2弾作品。

刑事になる前の大学生時代の加賀恭一郎が初登場した作品でもあり、加賀恭一郎ファン必見。
現役大学四回生の加賀恭一郎は、容姿端麗、剣道6段の腕前で全国大会でも見事優勝。

『君が好きだ。結婚して欲しいと思っている。』
という台詞から始まるこの物語は、
加賀恭一郎という人物の過去を知る意味では興味深いが、
推理小説としては、個人的にはあまり面白くはなかった。

謎解きの核となる『雪月花之式』という茶道のくじ引きゲーム。
このゲームにトリックが含まれているのだが、トリックを推理するためには、
まず『雪月花之式』というゲームそのもののルールを理解しなければならない。
茶道を少しでも経験したことがある人間ならば、容易いかもしれないが、
全く無縁の人間には、ゲームの解説が少々退屈であり、面倒でもある。

しかしながら、本書をミステリとしてだけではなく、
友情や信頼関係という観点では読み応えのある内容だ。

卒業を間近に控えた仲間たちのうち一人が殺害される。
しかしそれがどうやら仲間の中に犯人がいるらしい。事件をきっかけに仲間たちの絆が壊れてゆく。
それぞれの悲しみが痛く胸に迫る。犯人が殺害という手段を選ぶまでのやむを得ない心情、それを取り巻く周囲の人間たちの苦悩、悲しみも丁寧に描かれている。

本書を読むと、加賀刑事の事件解明に対する姿勢が分かるかもしれない。
単に謎を解明するだけではなく、犯人がなぜ犯行に及ばなければならなかったのか、
その経緯も大切にする、心やさしい彼の姿勢。

加賀恭一郎の原点を知る上で外せない作品。