幻夜  
 

1995年冬、阪神淡路地方を襲った未曾有の大震災。その混乱の中で
叔父を手にかけた水原雅也は一人の女性・新海美冬と出会い、運命に
導かれるように東京へ向かう。美冬がビジネスで次々に成功をおさめる一方、
美冬に魅入られた雅也は彼女の影として動く存在となる。
そこに、美冬の過去に疑念を抱く刑事・加藤が現れ…。
『白夜行』の世界を凌ぐ、長編傑作!


「男にとっての“究極の女”を創造してみたい、という気持ちがありました。
女性には強く、したたかであってほしい。黙って耐える、芯の強いしっかり者、
みたいな女性像はタイプじゃないんです。ドラマや映画で男の偉業を描く、
たとえば『忠臣蔵』みたいなお話があると、必ずその影でじっと亭主を支えた
『女たちの忠臣蔵』みたいな話もあるでしょう? そういう強さには、正直、
うんざりするんです(笑)。もうエンタテインメントとしては飽き飽きしたなと。
それよりとことん自分のために生きる、自分さえよければいい、くらいに
がんばってくれたほうが『つえーなぁ』と思う。爽快ですよね。
自分の愛する 女性がそのくらい強ければいいな、と思うんです。
何も心配いらないじゃないですか」 ―東野圭吾


関連サイト:
集英社:東野圭吾スペシャルインタビュー


★★★☆☆
本書は、「白夜行」の続編と言われている作品。
「白夜行」の亮司と雪穂のような関係が、 「幻夜」では水原雅也と 新海美冬である。
「白夜行」では、初恋という形から、お互いに確かに繋がりのある関係だったが、
「幻夜」では、大きく異なる。

私は「白夜行」の亮司と雪穂の、お互いに愛し支えあい夜の道を
生きていくという関係に感動した。結末だけとればどちらも悲しい結末だが、
「白夜行」はまだ救いがあった。
でも、「幻夜」は違う。
男はただひたすらに2人の幸せのためと信じて女を支え続ける。
あまりにも無情な女・・・どうすればこんなに冷徹になれるのか?
東野氏は、スカーレットオハラのような女が書きたかったということだが、
私には新海美冬がサイボーグのように感じられた。

しかし、随所に渡って散りばめられた伏線の数々。ミステリーとしては圧巻である。


また、本作は「白夜行」の第二部だが、そのつながりは巧妙に隠されている。
よって全くの別作品といっても差し支えないが、読者に対してはいくつかのヒントを
提示している。 そういった謎解きの面白さもこの作品にはある。

東野圭吾氏のミステリーの特徴として、「謎は謎のままにしておいて次に移る」
という点がある。
この謎は伏線ともいえるが、伏線を幾重にも張っておいて、そこでふっと章を変えたり、
視点を変えたりする。伏線という弓を引き絞れるだけ絞ってサスペンスを盛り上げ、
それが折れる寸前に一気に放つからインパクトはものすごく強い。巻末に至って
すべての 伏線と謎とエピソードが見事に収斂(しゅうれん)し、
パズルが組み上げられて全体像を結ぶカタルシス。ミステリーの醍醐味ここにあり、
と読者は快哉を叫ぶのである。−「幻夜」解説・黒川博行氏より抜粋。



「自分たちには昼なんてないとおまえは言った。いつだって夜だといった。
夜を生きていこうといった。本物の夜なら良かった。俺に与えられたのは、全て幻だった。」


幻夜というタイトルは、ここからきていると思われる。

最後に言い放つ雅也の言葉が胸にぐっとくる。

「俺と彼女だけの世界に入ってくるな。」

続編でありながらも「白夜行」とは全く違う読後感を味わえる一冊。