昨日の今日でひどく傷ついた義手を見せられた源外は、う〜むと唸った。

「どうですか。直りますか」

「直らねえことはねーが、いってえどうしたんだ?この傷ぁ刀だろうが」

 外した義手の傷を確かめる源外の手元を見ていた秋は、困ったように苦笑いした。

「昨夜、強盗にあったんですよ。刀で切りかかられて・・・この腕がなければ斬られて死んでましたね」

 源外は驚いた顔で若い絵師の顔を見た。

「そうかい。強盗・・な。そいつぁ災難だったな。そういや、最近刀ぁ持った浪人共が金目当てに人襲ってるってぇ聞いたな」

「攘夷浪士ということらしいですよ。昨日、真選組の知り合いに注意されたのに、夜出歩いてしまったので怖い目にあってしまいました。これから夜はおとなしく家にいることにしますよ」

「あ〜まぁ、その方がいいだろうな。けど、攘夷浪士といってもピンキリだ。本気で侍の尊厳ってーのを取り戻そうってのがいりゃあ、侍の誇りを捨ててやけっぱちになる奴らもいる」

「かつて本気で攘夷のために戦った侍は、もうどこにもいないんじゃないですか」

 お、という顔で源外は若い絵師を見た。

「おまえさんも、戦争に行ってたのか?もしかして、その腕を失ったのはその時の」

 いえ、と秋は苦笑しながら首を振った。

「私のような臆病者が戦争に行ってたら、終戦までもってはいませんよ」

 とうに命をなくしてた。

「そうかね」

「この腕を失ったのは、裏切りの代償です」

 だから一生背負っていかなくてはならない。

「おまえさんも、いろいろ大変な人生を送ったようだな。まあ、ワシも勝手をしたことで息子という代償を奪われたがな」

「息子さん?亡くなられたんですか」

「攘夷戦争でな。息子は鬼兵隊に入っておったんだが、幕府の粛清にあって殺されたんじゃよ」

「鬼兵隊・・・・」

「息子を奪った幕府を恨んだ時期もあったが、今はこうして生き恥をさらしながら生きとる。そいつがこの先ワシが払っていかなきゃならん代償だ」

「・・・・そうですか」

「戦争でいろんなもんを失った奴はたくさんおる。それでもちゃんと前を見て生きてる奴も大勢いるもんだ」

 全部が全部、犯罪に走るわけじゃない。

「ええ。そうですね」

「とにかく、おまえさんが無事で良かった。明日の朝までには直しておくから、都合のいい時間に取りにきてくれ。もし、忙しいんだったら、万事屋にでも頼んで持っていかせるが」

「万事屋、ですか?」

「頼んだら、なんでもやってくれる奴よ。配達から大工の仕事、迷子のペット探しや用心棒までなんだってやる。おまえさんも、何か仕事があったら頼んでやってくれや。仕事がなくていつもピーピー言ってやがるからよ」

 秋は頷くと、では・・と背を向けた。

「その万事屋だけどよお」

 源外は帰ろうとする秋に向けてさらに言い添えた。

「そいつも、昔戦争に行ってたってらしくてなあ。あんまし、そん時のことは話さねえようだが。仲間を大勢失ったと言ってやがった」

「・・・・・」

「今ではもう珍しくなった侍の魂ってもんを持った男だ。気が向いたら、ちょいと会って話しでもしてやってくれや」

 秋はふっと笑った。

「源外さん。あなたは本当にいい人だ」

 

    

 

 万事屋・・・か。

 かぶき町に事務所があると源外に聞いた秋は、まだ時間も早いので行ってみる気になった。

 源外の言う侍の魂を持った男だというのに興味が湧いたし、何より、あの攘夷戦争に参加し生き延びた男に会ってみたいとも思った。

 会って、話をしてもどうなるわけでもないが、ずっと避けてきた過去だ。

 しかし、江戸に来る決心をした時から、もう避ける必要のなくなった過去でもある。

 あえて誰かに話すことでもないが、思い出として語るのも悪くはないかもしれない。

 もしかしたら、秋が戦列を離れた後のことを何か聞けるかもしれなかった。

 万事屋の主人が、いったいどんな男かはわからないが、あの源外が親しみを感じる男なら悪い人間ではないだろう。

 ただ、今日は仕事を頼むだけで帰ってもいい。

 そう思いながらたどり着いた万事屋の看板を見た秋は、瞳を見開いた。

 一階がスナックで、万事屋の事務所は二階にあるらしかった。

(万事屋銀ちゃん?)

 看板には大きくそう書かれていた。

 前に立って、じっとその看板を眺めていた秋に、丁度買い物に出ようとしたお登世が気づき声をかけた。

「なんだい、あんた?万事屋に用かい?」

「え?まあ・・・そうです」

 頷く秋を、お登世は客商売のプロらしく、ザッと見てどういう人物かを判断する。

「仕事を頼みに来たのかい。そりゃ残念だねえ。今日は無理だよ」

「え?留守なんですか」

「いや。従業員は仕事に出てるが、万事屋の主人はいるはずだよ。だが、ちょいと体調を悪くして、今日一日は出られないのさ」

「・・・そうですか。じゃあ、出直してきます」

 軽く頭を下げて帰ろうとした秋を、お登世がちょいと待ちなと呼び止めた。

「今日とかの急ぎじゃないなら、寄っておいき。話くらいなら聞けるさね」

「いえ、体調が悪いのでしたら、日を改めて伺いますので。本当に急ぐことではありませんから」

「そうかい。だったら、銀時にはそう伝えておくよ」

 立ち去りかけた秋は、ハッとしたように足を止めた。

 銀時?

 秋はお登世を振り返る。

「銀時って・・・もしかして坂田銀時?」

「あ?そうだけど。何?あんた、あいつと知り合いかい?知らずに来たってかい」

「・・・・・」

「そいつは偶然だねえ。だったら、余計に寄ってってやんな。今日は一歩も外に出られないから、部屋で腐りきってるだろうからさ」

 秋はお登世の声を背中に聞きながら万事屋への階段をのぼっていった。

 まさかという思いを抱きながら、秋は僅かに開いた扉から中へ入る。

 シンと静まり返った廊下を進んだ秋は、部屋の中を覗いた。

 その部屋は、客との応接に使っているのだろう。

 正面に大きな机があり、手前には椅子が置かれていた。

 その長椅子に誰か寝ているのか、かすかな寝息が聞こえてくる。

 端から僅かにはみ出して見えるのは、窓から差し込む陽の光にきらめく銀色の髪。

 息を飲んで立ちすくむ秋に、長椅子の向こうから暢気な声がかかる。

「どちらさんですか〜?気配殺して来られると、こえーんですけど」

 むくりと起き上がった万事屋の主人が、俯いたまま小さく唸ると、背後に立っている秋の方に顔を向けてきた。

 そして、寝起きのぼんやりした赤い瞳が秋を捉えた途端、大きく見開かれる。

「坂田さん・・・・」

「えっ・・・うそ!おまえ、綾か!?」

 マジで!?

 驚いた声を上げた途端、半身が見えていた銀時突然消えて、ドスンという大きな音が部屋に響き渡った。

「坂田さん!」

 秋が慌てて駆け寄ると、長椅子の下に転げ落ちた銀時が打った腰をおさえつつ低く呻いていた。

「大丈夫ですか、坂田さん?」

「平気・・・ってか、ホントに綾か?おまえ生きてたのか?」

 床に座り込んだまま、銀時は心配そうに屈みこんで自分を見下ろしている秋の顔をマジマジと見つめた。

 まだ信じられないという顔だ。

「それは、こっちの言う台詞ですよ。戦が終わった後、坂田さんの姿は忽然と消えて。噂では、天人の大軍の中に一人飛び込んでそのまま帰ってこなかったと」

 だから、てっきり死んだとばかり。

「あんなぁ・・・そりゃ噂だろ。俺はおめえが腕斬りおとされて谷へ落ちてくのを見てんだよ!生きてるとは思わねえだろが!」

 そう言った銀時は、秋の左の袖が揺れているのを見て言葉を飲み込んだ。

「でも、天人の大軍に突っ込んでいったのは、本当なんでしょ?」

「んなの忘れた」

 銀時は綾が差し伸ばした右手に瞳を瞬かせたが、すぐにその手を掴んで立ち上がる。

「てえ〜〜なまった身体に打撲はキツイぜ・・・・」

「体調が悪いと聞いたんですけど、大丈夫なんですか。横になってた方が」

「あぁ〜?誰がんなこと言ったんだ?」

「下のスナックの人が」

「くそババァか・・・!ま、確かに悪かったんだけどよ、もうなんともねえんだ。おとなしくしてたのは、ガキ共が煩くてよぉ」

 ガキ?

「坂田さん。子供が?」

「はあぁぁぁ?んなわけあるか!うちの従業員だよ」

 溜め息をつく銀時は、確かにそんなに顔色は悪くなかった。

 少しだるそうだが、それはさっきまで寝ていたせいだろう。

「坂田さん?」

 突然深く息を吐いた銀時は、目の前にいる、今は秋と名乗る綾之介の肩にトン・・と頭をもたせかけた。

 視線を落とすと、昔と変わらない、ふわふわの銀色の髪が煌いているのが見え、秋は目を細める。

「・・・・生きてんだな、綾」

「生きてます。坂田さんも」

「俺ぁな、戦とともに世界から消えちまうつもりだったんだけどなあ。でも、結局生きることを選んじまったよ・・・」

「俺も・・死ぬつもりでした。ていうか、殆ど死んだようなものだったんですけど。ようやく生きてる自分を認めた時にはもう、まわりに誰もいなかった」

「・・・・・・」

 綾が銀時の背を右手で軽く叩くと、銀時は肩をすくめて離れた。

「茶でも入れるわ。適当に座っててくれ」

 銀時は秋にそう言ってから台所へ入っていった。

 一人になった綾は椅子に腰掛けると、改めて部屋の中を見回した。

 銀時が几帳面なのか、それとも従業員の方なのか、部屋はきちんと片付いていて、掃除も行き届いていた。

 机の上の壁にかかった額に"糖分"と書かれているのを見て、綾は思わず苦笑した。

 そういえば、白夜叉と恐れられていた男の好物は甘みだったなと思い出す。

 快援隊の坂本辰馬が、甘い菓子を手に入れてきては、銀時にやっていたのを何度か目にしたことがあった。

 ありゃあ、餌付けしてやがんだよ、と笑っていたのは、高杉晋助だった。

「おめえ、高杉に会ったか?」

 丁度鬼兵隊のかつての総督のことを思い出していた綾は、戻ってきた銀時の口からその名前が出て驚いた。

 見透かされたような気がした。

「会ったかって・・・高杉さんに?」

「・・・・・・・」

 湯呑みをテーブルの上に置きながら、銀時は戸惑う綾の顔を見つめた。

「まさか・・・高杉の野郎も死んだとか思ってたのか」

「生きて・・・るんですか?」

 銀時は眉をひそめ、額を指で押さえる。

「おまえぇぇ、どんだけ田舎に住んでたんだ。いや、山奥とかだったらしょーがねえが、けど今江戸にいるならチラとくれえ耳に入んだろうが」

「それ、どういうことです」

 江戸では高杉晋助の名前はよく知られているということなのか?

「奴ァ、また鬼兵隊を作って攘夷活動を続けてやがるんだよ。まだ終わらねえとか抜かしやがってな」

 しつけーたら。

「そう・・・ですか」

「会ってねえならいいや。それより、綾。今何やってんだ?」

 身なりからして、生活に苦労している風ではないからちゃんと仕事をしているのだろうが。

「絵師に」

「絵師?おまえ、絵なんか描いてんのぉ?」

 綾が頷くと銀時は知らなかった・・・と小さく呟く。

「俺ァ、絵なんか描いてるの、見たことなかったけど」

 よく描いてたのか?

「子供の頃にらくがきしてた程度ですよ」

 実際、自分に絵の才能があるなど今も思っていないのだが、いつのまにかまわりからの評価が上がって一流の絵師と認められるようになった。

 これも全て、女絵師の夏に出会ったおかげだ。

 夏と出会っていなければ、こうして今、坂田銀時と再会することもなかったろう。

 夏が・・・会わせてくれたのかもしれない。

(坂田さんは、夏さんのことを覚えているだろうか?)

 描かれていたのは、十歳かそこらの、まだ本当に幼い頃の三人だった。

 坂田銀時と高杉晋助。そして桂小太郎。

 戦の影もなく、自然豊かな村で、彼らはのびのびと楽しそうに暮らしていた。

 いつも一緒だった三人は、いったいどういう経緯で別れ、村を出て行ったのか。

(そういえば、俺が故郷を出たのは十八になるかならない頃だったな)

 綾は思い出す。

 乳兄弟である竜鬼と攘夷軍に加わるために、彼は京に向ったのだ。

 そこで出会ったのが、鬼兵隊を結成しようとしていた高杉晋助だった。

 一目で綾は高杉に魅かれた。あんな凄い人に会ったのは生まれて初めてだった。

「坂田さん」

「ん?」

 こちらに向いた銀時の手には、何故かイチゴ牛乳のパックがあった。

 甘いもの好きは今も健在らしい。

「幸せなんですか?」

「幸せ・・・ねえ」

 銀時は小さく首を傾けただけで、答えは口にしなかった。

「そっちはどうなのよ?」

「俺は、今の穏やかな生活は幸せというものだと思ってます。絵を描くのは好きだし、それに今日やらなくても明日やればいいと思えるようになりましたから」

「・・・・・」

 銀時は、そっか・・・と赤い瞳を細めた。

「時々は、ここに来てもいいですか、坂田さん。頼みたい仕事もありますし」

「いつでも来いや。仕事の依頼も一緒なら大歓迎だぜ」

 

  

 

 

 

 よお、と後ろから声をかけられ、手酌で酒をチビチビやっていた銀時が振り返る。

 確かめるまでもなく、そいつが店の扉を開けて入って来た時から誰なのか銀時にはわかっていた。

「仕事、終わったのかよ」

 ああ、と真選組の鬼副長は、カウンターに座る銀時の隣に腰掛けた。

 隊服を脱いで、いつもの黒い着流し姿だ。

 そのうち礼をすると言われたが、今夜は別に約束したわけではなかった。

「てめえが、たまにこの店で飲んでるってぇ総悟の奴に聞いてな。ちょいと寄ってみた」

 いなければ、いないで一人飲んで帰るつもりだったと土方が言うと、銀時はなんだそれ、と眉をひそめた。

「だったら連絡入れてくれたら良かったじゃん」

「俺も忙しいんだよ。予定なんざ、そうそうたたねえ」

 だいたい、てめえも毎日フラフラしてて捕まらねえだろが。

「いやいや。昨日は一日家にいたぜ?ガキ共が煩くてよ」

「で、今夜は飲みに出てきたってか。てめえんとこのガキも心配がつきねえな」

「ほっとけ。一応、セーブはしてんだよ。にしても、おめえんとこが忙しいってのは、あんまし有難くねえな」

 武装警察"真選組"は、対テロリストの組織だ。

 活動は江戸に限定されるが、攘夷志士たちによる破壊活動に対処する真選組は、はっきり言って保険屋が眉をひそめる職業だった。

 役人の中で殉職の数も、圧倒的に多い。

 それだけテロが激しくなっているということだが。

「もっとも厄介な奴が江戸に入ったってえ情報があってな。当分厳戒態勢だ。てめえとゆっくりメシ食ってる暇がねえ」

「ふ〜ん。そいつはァ大変だなぁ。んじゃ、今夜は久々の休息ってか」

「携帯が鳴らなきゃ、な」

 土方は酒と刺身を頼むと、煙草を一本抜いて火をつけた。

「桂がなんか言ってなかったか」

「なによ。まだ言ってんのかよ、大串くん」

 しつこいねえ〜

「大串じゃねえ。奴と関係ねえってんなら関わんなよ」

 死にたくなきゃ、な。

「危ねえのは、おまえの方じゃねえの?おでん食ってて毒飲まされちゃうくらいだし」

「二度はねえよ」

 土方は、フゥと細く煙を吐いた。

「そう願いてえな。でねえと、もうあんたと酒飲めねえし」

 銀時はニッと笑うと、土方の前に置かれた猪口を渡し酒を注いだ。

「万事屋。おめえの幼馴染みってぇのは、死んだのか」

「・・・・死んでねえよ」

 土方は、そうか・・・と言っただけでそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

「昨夜は旦那に会えやしたかぃ、土方さん」

 沖田が、屯所の中庭で濡れ縁に腰掛けて煙草を吸っている土方を見つけ声をかける。

 昨夜、帰りがけに土方から万事屋の主が寄りそうな店のことを聞かれ、この時間帯なら飲み屋だろうと店の場所を教えた沖田だったが。

「ああ、いたぜ。一人で飲んでやがった」

 へえ〜と沖田はニヤニヤしながら目を見開いた。

「ラッキーでしたねぇ。俺ぁその店しか知らなかったんですけどね」

「おいぃぃ!てめえ、曜日でいやあその店に違いねえとか抜かしただろうが!」

 そこしか知らねえって、どういうこった!?

「たまたま、旦那が出てくるのを見ただけでさあ。一度だけですがね」

「ああ?おめえは、どんだけいい加減だよ!」

「いいじゃありやせんか。会えたんでしょ?」

 土方はムスッとした。

 今更沖田の性格に文句を言ってもしょーがない。

「で、聞いたんですかぃ、幼馴染みのこと」

「死んでねえとさ。つまり、今も生きてやがるってこった」

「やっぱり、桂のことですかねぇ」

 さあな、と土方は新しい煙草をくわえライターで火をつけた。

「なんでぇ、そこんとこは聞けず仕舞いですかぃ」

「聞いたって、答えやしねえよ」

「そりゃ、そうでしょうがねぇ」

 しかし、旦那の子供の頃ってどんなんでしょうかね。

 ほんとに桂の野郎が幼馴染みってんなら、その頃のこと聞いてみたいや。

 旦那に聞いたって、ぜってぇ言わねえでしょうし。

「あほう。桂だって、言いやしねえよ」

 ってか、あんだけ表だって動いてやがるのに、ただの一度も捕まったことがねえ野郎だ。

 簡単に聞けるわけもないが。

「そういや、もう一人の大物テロリストは顔もわかんねえときてますからねぇ」

 苦労しやすぜ。

 攘夷志士の中で、最も過激で危険な男と言われている"高杉晋助"

 年齢は桂小太郎と同じくらいと言われているが、桂と違って殆ど自ら表に出て動くことのない高杉の姿格好はわかっていない。

 生き残った攘夷志士たちも、高杉に関しては何故か言うことがバラバラで、ただやたら強く恐ろしい存在だったというだけだ。

 かつて、攘夷戦争末期に、鬼兵隊という義勇軍を作り、最強を誇る力でもって天人軍を翻弄した男。

 末期は侍にとって残酷で悲惨だったという。 

 武州の田舎で、戦を知らず芋道場と呼ばれる場所で竹刀を振るっていた土方には、残された資料や話に聞いた以上のことはわからない。

 だが、戦争が終わった今も、敵と戦う意思を失わないあの連中の怒りと憎しみの深さはわからないでもなかった。

 それは、侍として生きていくことを選んだ自分たちだからだが。

 それでも、理解できるのは万分の一に過ぎないだろう。

 それが、自分たちの立ち位置の違いということかもしれない。

「高杉が江戸に来ているという情報は確かなんだろうな」

「まあ、山崎が得た情報ですし間違いはねえでしょうが。とはいえ、桂一派も目立った動きはしてねえようですがね。江戸は静かなもんでさあ」

「何もなくて、奴が江戸に来るわけはねえ。ぜってえ、なんか企んでいる」

 祭りの中での将軍暗殺や、真選組内紛も、奴高杉晋助がかかわったのは間違いない。

 紅桜の件は、結局出遅れて何もわからないまま終結してしまったが。

 あれも間違いなく高杉が関係していた。

「紅桜ん時は、桂一派のおかげで難を免れたようですがねえ」

「共倒れしちまえば良かったんだよ」

 くそう。真選組が何も出来ないままだったってのが、マジで気に入らねえ。

 あの件に、万事屋の主が関わっていたのは間違いないが、今のところ証拠は何も出てこないので問題にする気はなかった。

「鬼兵隊と名乗って、人襲ってた奴らぁどうした」

「それがですねえ、一昨夜五人の浪人が殺られてて。で、強盗の被害者に確認してもらったら、やっぱり犯人でしたぜ」

「そうか」

「そいつらが、本当に鬼兵隊かどうかはまだ確認できてやしませんが、問題は殺った奴でさあ。切り口見たら全て一刀で殺られてる。同じ切り口からして、五人を殺ったのぁ一人。スゲエ腕でさあね」

「総悟。もしそいつとやったら、勝てるか」

「わかりやせんが、本気でやらねえとヤベエかも。土方さんが、万事屋の旦那にあっさり負けた時のような戦慄を覚えやしたからねぇ」

「・・・・・・・・」

「そいつら殺ったのが本物の鬼兵隊だとしたら、真選組はハッキリ言って勝てはしやせんぜ」

 正攻法でやりゃあね。

「もっとも、テロリストが正攻法で挑んでくるわきゃないですけどね」

 となると、また人手不足になりやすかねえ。

「縁起でもねえこと言うな!」

「旦那が俺らについてくれりゃ、状況は変わりやすが」

 そんなことは、無理かと沖田は肩をすくめた。

 

 

 

 銀時と再会した翌日の朝、源外から直った義手を受け取った綾はそのまままっすぐ自宅に戻った。

 昼過ぎに、妙がくる予定なので、それまでに戻っておかなければならなかった。

 今週一杯は予定がつまっているが、週明けには時間ができる。

 和菓子でも土産に持って、銀時に会いにいこうかと綾は思った。

 自宅に戻った綾は、見慣れない草履が揃えて置かれてあるのを見て眉をひそめた。

 来客の予定はない。

 しかし、泥棒ならわざわざ草履を揃えて脱いで上がりこむようなことはしないだろう。

 誰だ?

 女物なら、早めに来た妙かと思うが、明らかに大きさは男物だ。

 綾は静まり返った家の中に入り、部屋の中を確かめた。

 廊下を抜け、一番外れにある仕事場まで来た綾は、そこに見慣れない男の姿を認めた。

 男は背を向けて立ち、積み上げられた絵を眺めていた。

 緑色の表紙が見える。

「よお、帰ったか」

 男は開いた障子の前に立つ綾を振り返った。

 その声。そして、その顔に綾は息を飲んだ。

「た・・高杉さん!?」

 ど・・どうして?

 別れたのは終戦間近。

 己の命を引き換えても守らねばならない存在だった高杉晋助。

 だが、自分は最後までその大切な存在を守ることはできなかった。

 あれから、もう何十年も過ぎ去ったような気がするが、再会したかつての鬼兵隊総督は、殆ど変わらない印象のまま綾の目の前に立っていた。

 変わったといえば、かつて洋装の戦装束に変わり、最近流行りのカブキ者がよく着る派手な衣装になっていることだ。

 そして、整った綺麗な顔の半分を覆う白い包帯。

「高杉さん・・・目を・・・・」

 湧き上がる罪悪感に綾は眉間を寄せ唇を噛む。

「おめえも、左手なくしちまってんだろが」

 言い返されて綾は、左手の義手を掴んだ。

「戦争で・・・ですか」

「おめえがいなくなってすぐだな。ま、こいつはいぃんだよ。俺の切り札になってっからな」

「切り札?」

 高杉はふっと口角を上げる。

「それより、面白ぇもん持ってやがんな」

 高杉の手にあるのは、夏が遺した古い画集。

 綾の知る三人の子供時代を描いたものだ。

「それは、俺の師が残したもので・・・・」

「この夏って女ぁ、覚えてるぜ。銀時の野郎が、見つけて連れてきた女だ」

「坂田さんが?」

「崖から滑り落ちて足の骨折っちまったからってえ、半年くれぇ村にいた。その間、ずっと絵ばかり描いてやがったな」

「・・・・・・」

「その女が、おめえの師たあ、えれぇ面白ぇ偶然じゃねえか」

 だいたい、おめえに絵が描けるなんて俺ぁ知らなかったぜ。

「俺自身も知りませんでしたよ」

「そうかぃ」

 高杉は笑うと、絵をもとの場所に戻し部屋の入り口に立つ綾の横を通り過ぎた。

「高杉さん?」

「邪魔したな」

 は?

「高杉さん!」

 本当にこのまま帰るつもりなのか。

 そして、もう二度と会ってはくれないつもりなのか・・!

 綾は慌てて高杉の背中を追った。

 待って・・!

 ふと、高杉が足を止め、振り向きもせずに口を開いた。

「ああ、おめえに礼を言わなきゃな。あのクソ野郎共を片付けてくれたってなぁ」

「鬼兵隊と名乗ってたごろつき共のことですか」

「ありゃあな、餌よ。俺を釣るためのな。舐められたもんだぜ」

 高杉は、くく・・と喉で笑った。

「だが、結局やつらぁ釣り上げる餌になる」

 面白ぇぜえ、と高杉は肩を震わせて笑った。

「・・・・・」

 変わらない。俺が知る高杉さんだ。

「鬼兵隊を再結成したというのは本当なのですね、高杉さん」

 高杉は目を細めた顔を振り返らせる。

 綾は、ガバッとその場に片膝をついて、頭を下げた。

「俺を!もう一度、高杉さんのそばに置いてください!」

 お願いします!

 

 

 

 

 

 

 

 風呂から上がって、冷蔵庫からイチゴ牛乳を取り出した銀時は、鳴り出した事務所の黒電話に頭をかきながらペタペタと歩いていった。

「は〜い、万事屋銀ちゃんでえす」

 受話器を取った銀時は、時々頷きながら話を聞き、最後に"んじゃ明日伺いますぅ"と答えて電話を切った。

 う〜ん、と銀時は小さく唸り、そしてずっと手に持っていたイチゴ牛乳の350ミリリットルの紙パックを開けた。

「なんネ、銀ちゃん?さっきの電話、依頼アルか?」

「なんだ、神楽。まだ起きてたのかよ」

「喉渇いて目が覚めたアル」

 言って、神楽は冷蔵庫からウーロン茶のペットボトルを出してグビグビ飲んだ。

「で、仕事アルか?」

「ああ、こいつは俺だけでやれっから、おめえと新八は子犬探し続けてろ」

「大丈夫ね?銀ちゃん」

「おまえらなあ、どんだけ心配すんの?」

「心配するの、当たり前ネ。銀ちゃん、ついこの間大怪我したばっかなのに、毒飲まされて」

「それ、いつまで言われるわけぇ。落ち込んじゃうよ、銀さん」

 真選組の土方にはどんだけ言ってもいいが、自分が言われるのはやはり面白くない。

 第一、体調不良は毒のせいというより、寝不足が原因の方が大きい。

「まあ、明日は依頼人の話聞くだけだし。手がいるようだったら、おまえらにちゃんと言うから」

「わかってたらいいネ。明日は子犬、絶対見つけるから」

「おお。頑張れよ」

 ヒラヒラと銀時が手を振ると、神楽は「おやすみ、銀ちゃん!」と言って自分の部屋(押入れ)に戻っていった。

 銀時は机にもたれ小さく息を吐くと、開けた紙パックをそのまま口につけた。

 

  

 

 

「やはり、おまえがそうだったか」

 日が暮れかけた神社の石段をのぼり、鳥居をくぐったところで待っていた綾は、現れた男を見て薄く笑った。

 つい先日、鬼兵隊を名乗っていたゴロツキを殺った時に見た男だ。

 ただの音楽プロデューサーだと言っていたが、それでごまかされるとは思ってなかったろうし、又、自分も同様だ。

「改めて自己紹介しもうそう。河上万斉でござる」

「人斬り万斉、か。最近名を聞かないと思っていたら、鬼兵隊にいたとはな」

「こちらも驚いたでござるよ。まさか、かつて鬼兵隊の四鬼と恐れられた幹部の一人が生きていて、こうして同じ男のもとで働くことになるとは」

「知っていたのか」

「当然でござる。拙者は攘夷戦争に参加はしておらなかったが、鬼兵隊のことはよく聞いて知ってたでござる」

 高杉晋助を護る四人の鬼たち。

 その戦闘能力は総督高杉に次ぐ伝説となっていた。

「貴殿のことはなんと呼べばいいかな」

 本名は知らないが、表の顔の名は、秋という筈だった。

 かつて名乗っていた二つ名も、字は違うが音は同じ。

「亜鬼でいい」

「わかりもうした。では、亜鬼。晋助から預かってきたご希望のものでござる」

 言って万斉は、綾に一本の仕込み杖を渡した。

 綾は、半分ほど刃を抜いて確かめると、パチンと刃をおさめる。

「では、行くでござるか」

「ああ・・・」

 二人の新旧の鬼兵隊幹部は頷き合うと、ゆっくりとした足取りで神社の石段を下りていった。

 

 

 

 

「蔵の掃除アルか?」

 無事に頼まれていた子犬を見つけ依頼人に渡してきた神楽と新八は、丁度新しい仕事の依頼主に会ってきた銀時から仕事の内容を聞いていた。

「っつーか、掃除はついでで、依頼はリストにあるもんを蔵から探し出すことだとさ。なんか先々代が後継いでから一度も片付けたことねえっつー蔵らしいから、気合入れねえと見つかんねえぞ」

「先々代からですか。そいつは大変そうかも」

「蔵って大きいアルか?」

「百年続いた大店の蔵だかんなあ。大きいと思って間違いねえ」

「うわ・・・やりがいありそう」

「埃も凄そうアルね」

「良かった〜〜今回の仕事終わってて。銀さん一人じゃ絶対無理でしたよ」

「ああ、まあ・・・そうね」

 銀時はポリポリと首の後ろをかく。

「ちなみに、金は先払いでくれたんだけどよお・・・丁度ババァの集金が来たもんで渡しちまった」

 え〜〜っと二人の子供が悲痛な声で叫ぶ。

「じゃ、只働きですかあ?」

「そんなの嫌アル!」

「んなわけねえだろ。まあ、残りは少ねえけどな」

「あ、残ってるんだ」

 新八は、ホッとした。

 さすがに重労働が予想される今回の依頼で、無報酬となれば一気に働く気が失せるというものだ。

「朝昼晩の飯は出してくれるそうだから。あ、神楽の分は、一応四人分って言っといたが、足りなくても文句言うなよ」

「はいは〜い。飯食えるならいいアル」

「ちょ・・ちょっと銀さん。三食付きってなんですか?もしかして、泊りがけで仕事するとか」

「二日以内に仕事終えろっつんだから、その方がいいだろ」

 え?え?蔵で寝泊り?マジ〜〜?

「そういうことだから、今夜は早く寝ろよ。夜明け前に出かけっから」

 ええ〜〜!

 再び子供たちのブーイングが高らかに上がる。

 と、玄関から声がした。

 はーい、と新八が答えると銀時が長椅子から立ち上がった。

「俺が行くから、それ片付けといて」

 銀時は、テーブルの上に散らばってるカップ麺の器や菓子の袋を指差して出て行った。

 玄関の戸を開けると、既に予想していた腐れ縁の一人が立っていた。

「おまえ、何しょっちゅう来てんの?そんなに暇なの?」

 呆れたように言うと、桂はムッツリと「暇であるものか」と言い返した。

「今出られるか?」

「何?ガキ共に聞かれちゃマズイ話?」

 銀時は奥にいる新八と神楽に、ちょっと出てくると声をかけ、桂と一緒に万事屋を出た。

 外はもうとっぷりと暮れて星が瞬いている。

「高杉が何企んでるのかわかったのか」

「いや・・それはまだわからん。それより、鬼兵隊とは別の組織がなにやら不穏な動きをみせているようだ」

「別の組織?なんだ、それ」

「幕府側とも攘夷派とも違う、得体の知れん連中だ。どうも、そいつらが、高杉にちょっかいを出してるらしい」

「はあ?何それ。高杉にちょっかい?どんな命知らずだよ」

「既に反撃をくらってるようだがな」

 当然だろう。

 何が目的かは知らないが、あの高杉にちょっかいを出してただですむ筈がないのだ。

「まさかと思うけど、高杉が江戸に来たのはそれが理由?」

「理由の一つかもしれんが、奴の目的はもっと別にあるだろうな」

 おいおい・・・

「頼むから、巻き込んでくれるなよなぁ」

「おまえが真選組と関わらなければ、巻き込まれる確率は減る」

 なにそれ、と銀時は意味ありげな口調で言う桂を見た。

「真選組の副長なんぞと、楽しげに酒など酌み交わすなということだ」

 銀時は眉をひそめた。

「何?見てたの。相変わらずのストーカー振りだな、おい」

「ストーカーではない!」

 桂は銀時の胸倉を掴んだ。

「銀時!おまえは今は攘夷志士ではないかもしれん。だったら、真選組に関わるような真似はするな!巻き添えで毒を飲まされるだけではすまんぞ!」

 銀時は赤い瞳をパチパチと瞬かせた。

「なんだ・・・バレてんだ」

 はぁ・・と銀時は短く息を吐く。

「気をつけろ、銀時。高杉のことも問題だが、おまえは目立つ。皆が白夜叉のことを忘れたわけではないぞ」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「この情報は確認が取れてんだろうな?」

 土方に念押しされた監察の山崎退は、間違いはないと答えた。

 ささいな噂程度であったが、山崎の耳に入ってきたのはひと月前。それから情報収集にとりかかり、ようやく現場を確認したばかりだ。

「攘夷志士らしき存在は五人まで確認してます。昨夜長崎からの荷が上がって屋敷の蔵に運び込まれるのをこの目で確認しました」

「荷の中身は?」

「中身の確認までは残念ながら。ただ、長崎からの送り主はゲルバという武器を扱う商人でした」

 もし、荷の中身が武器だとすれば大掛かりなテロを行えるだけの量だったと山崎は言った。

「回船問屋の江津屋か・・・・」

「すげえ、大店じゃねえですかぃ。まあ、最近は橋田屋のように攘夷志士相手に商売してる輩も増えてるようですがねえ」

 連中は儲けになるとわかれば、相手が幕府だろうが攘夷志士だろうがおかまいなしだ。

「こいつに大物がかかわってる様子はあるか?」

「はい。桂が率いる攘夷党は目立った活動はしてませんし、おそらく今回の江津屋とは無関係かと」

「高杉は?奴ぁ江戸に来てんだろうが」

「高杉は今だ見つかりません。江戸に来てるという情報は得たものの、はっきりとした確認ができなくて」

「奴は表だって動くことはしやせんからねぇ。おかげで、高杉に関する情報は、噂の範囲ばかりだ」

 攘夷戦争末期、伝説ともなる三つの勢力があった。

 一つは桂小太郎が率いる部隊。もう一つは高杉晋助が率いる鬼兵隊。

 そして、あと一つは土佐の臥竜が率いる快援隊だ。

 他にも末期に戦った隊は多いが、この三隊は飛びぬけていたといっていい。

 彼らは最初の頃は別々に行動していたが、戦いが激戦となってから同盟を結び、一緒に行動することが多かったという。

 だが戦いが終結近くなって再び別れた。

「以前は手を結んで一緒に攘夷戦争を戦った高杉と桂だが、今は意見が合わず敵対している。そして、あの紅桜の事件が奴らの亀裂を決定的なものにした」

「近藤さん。桂が関わってないとすると、やはり高杉が」

「そうとは限らねえんじゃ。もし高杉がテロを計画してやがるんだったら、桂の野郎がおとなしくしてるわけがねぇ」

 うむ・・と近藤は沖田の意見に同意した。

 紅桜の件でも、真選組が動くより早く桂一派が高杉の計画を潰した。

 今回の江津屋がもし高杉に関係してるなら、間違いなく潰しにかかっている筈だ。

「そういやぁ、昔攘夷戦争に参加したことがあるってぇジイさんに会ったんですがね。ほんの下っぱだったってんで、高杉や桂と口きいたこともねえらしかったんですが。でも、何度か戦場で高杉を見たってんで似顔絵描かせてみたんでさあ」

 沖田は言って、上着の内ポケットから折りたたんだ紙を取り出した。

 それを、畳の上で広げて見せる。

「これは・・・・!」

「え?この顔、どっかで見たぞ」

 近藤も土方もじっとその似顔絵を見詰め考えこんだ。

「そりゃそうでしょうや。こりゃあ、奈良の寺にある阿修羅像の顔でさあ」

 ああ!と山崎はポンと手を拳で叩いた。

「おいおい。高杉は、阿修羅像の顔に似てるってか?」

「かもしれねえし、違うかもしれねえ。あのジイさんには、戦場にいる高杉の顔が、こう見えたんでしょうや」

「確かに戦場では顔つきが変わるってえしな」

 とはいえ、かなりのイケメンというのは間違いないのではないかと近藤は思う。

 桂小太郎も、女と見まごう程の超イケメンだ。

 世の中、不公平だと近藤はブチブチとぐちった。

「とにかく、近藤さん。江津屋は放ってはおけねえ。運び込まれたのが武器なのかどうか確認する必要があるぜ」

 それもできるだけ早く。

「どっかに移されたらやっかいですからねぃ」

「そうだな。では、今夜江津屋に乗り込んで」

「いや。乗り込む人数はあまり多くねえ方がいい。気づかれて処分などされたら面倒だ」

 もし火薬も混じってたら、大惨事になる可能性もある。

「もしどころか、確実に火気厳禁ものばかりでしょうや」

「俺と総悟。あと案内に山崎と隊士三人ぐれえで忍び込む。近藤さんは屯所にいてくれ」

「六人で大丈夫か?トシ」

「表だって斬り合いはしねえ。今回は蔵の中のもんを確認するだけだ」

「まあ、見つかったら見つかった時のことでさあ」

 へらっと笑う、見かけを裏切る過激な性格の総悟を、土方はジロリと睨んだ。

「刀以外は、持っていくなよ、総悟」

 ええ〜〜と総悟は不満そうに口を尖らせた。

「ええ〜じゃねえ!てめえも、さっき、火気厳禁っつったろが!」

 勝手に爆破すんな!

 

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